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胸糞描写あり。注意されたし


 b2の通路を歩き始めてすぐ、b1では一切聴こえなかった戦闘音が遠くから聞こえてくる。その音を聞いて、私達が通ってきたb1の通路が、隔離された場所だったのだと確信した。逆に言えば、先程の様に次のフロアへ進む通路はそう簡単には見つからない。という事になる訳だが……そこは運次第なところもある。


「戦闘音……もしかしたら、先に行ったお兄さんかもね」


「そうだね」


 戦闘音とは言っても、金属同士が擦れ合う金属音では無く、肉が潰れる鈍い音や、硬い物体同士がぶつかり合う衝撃音。現実でも、ゲームでも聞き慣れないその音は、あまり気分が良い物ではない。格闘技を観戦する人であれば、大した音に感じないだろうが、そういった物と無縁の人にとっては、慣れるまで時間が掛かる。


(自分やみさが戦ってる時は何とも思わなかったけど……他の人が見えない所で戦ってる音って、ちょっと嫌かも)


 それに加え、聞き慣れない音という事もあり、若干距離感が掴み辛い。洞窟内という事もあるのだろうが、数メートル先で戦っている様にも、数十メートル離れた場所で戦っている様にも感じる。もしかすると、その2つの音が聞こえている可能性もあるが、それをゆっくりと探らせてくれる程、ダンジョン内は甘くない様で。


「ちぃ、モンスターが湧いたっぽい。いつでも石を燃やせる様にしといて」


 前方の戦闘音と比べ、ハッキリと数メートル先から聞こえてくる岩の崩れる音。その音も聞き慣れない音ではあるのだが、数分前に聞いたばかりの音である為、その音が意味する事はすぐに理解出来た。


「こがまる、頑張ってね」


 “モンスターの出現音”。それを察知した私は、みさの言う事に従い左手を広げ、その上に菌床を乗せる。それを合図に、みさは私の腕から腕を外すと、巾着を後ろに回して戦闘態勢を取った。


 相手の姿は見えない。だが、湧き終わった事は音で察した。

 数は不明、相手の姿も不明。ここからどうするのかと、みさに視線を送ると、みさは灯りを投げる様に手信号を送る。

 私はそれを見て、頷く事無く呪文を唱えると、無事着火した菌床を前方へ転がす様に投げた。その瞬間──


「キキィィィィ──」


 ネズミの様な、猿の様な甲高い鳴き声が通路内に響き渡り、“天井”から大きな影がコチラに向かって飛来した。


「のわぉ!」


「“コウモリ”ね!地上だったら梃子摺ったけど……!」


 突然の強襲に声を上げて驚く私とは裏腹に、みさは飛来してきた1匹の脚を素早く掴み、突進の勢いを流す様に身体を捻らせ、全身を使ってコウモリを縦に回転させると、遅れて飛来してきたもう1匹のコウモリに対し、そのまま手に持ったコウモリで振り上げる様に殴打した。

 殴打されたコウモリは攻撃を回避出来ずに天井に叩き付けられると、相当なダメージを喰らったのか、弱々しい羽搏きをしながら地面に着地する。それを眺めながら、みさは縦回転から横回転へと向きを変え、手に持ったコウモリの頭部を壁面に叩き付ける。

 生々しい衝撃音が通路内に響き渡り、同時に、みさに囚われていたコウモリは一切の抵抗を止める。逆に、つい先程まで響いていた威勢の良い鳴き声は数を減らし、か細い物に変わっていた。


「キィィィ……キィィ……」


「ほんと、襲われたのが狭い通路で助かったよ〜!広い場所だったら、叩き付ける場所が地面しか無いからね!」


 みさはヘラヘラと笑いながら軽口を叩く様にそう言うが、普通のプレイヤーは飛来してきたモンスターを何事も無く掴む事は出来ないだろう。

 ステータスは勿論だが、経験と、それ以上の度胸。そして、掴んだ後の判断力があってこそ成せる技。私には、到底出来そうにない。特に、判断力が圧倒的に足りない事は、悲しい位に自覚している。


「こがまるってカッコいいよね」


「でゅへ!い、いきなり褒めないでよ!」


 私の呟きに、みさは吹き出す様に声を漏らすと、手に持ったコウモリをコチラに翳して上下に振りながら、空いた手で頬を押さえる。


「……そういうキモい所とか、セクハラする癖が無かったら100点だったのに」


 良くも悪くも、みさは“男子”に似たリアクションを取る事が多い。と言うより、思考自体が男子に近いと、最近になって思う事が増えた。これで、リアルの見た目が西洋人形の様に可愛らしいのだから、何とも言えない気持ちだ。


「人間、欠点があった方が親しみ易いって言うでしょ?」


 やれやれと、両手を顔の横に上げるみさに合わせて、コウモリの翼は虚しく揺れる。


「その欠点がデカ過ぎるんですけど?」


「……褒めるか貶すかどっちかにしてよぉ」


「バーカ」


「褒めて!」


 私の言葉に、みさは頬を膨らませて腕を振り下ろす。その手に握られたコウモリは、みさの感情に合わせて激しく揺れた。

 このコウモリに人並みの思考力があれば、今頃何を感じ、何を考えているのだろう。と、どうでも良い事をついつい考えてしまうのは、私の悪い癖かも知れない。


「くぅぅ!褒めてくれないならいいもんね!……おりゃぁ!」


 みさは私に背を向けると、私達から遠ざかろうと地面をヨタヨタと歩く“左翼が不自然に曲がったコウモリ”に向かって、コウモリを振り下ろした。


「キョォォ!」


 仲間の身体を叩き付けられたコウモリは奇妙で情けない鳴き声を発し、その脚を速めた。だが無情にも、再び仲間の身体を叩き付けられ、今度は右翼が音を立てて歪に曲がる。


「ちょっとこがまる、八つ当たりは止めなよ」


「じゃあ褒めてよ!」


「それ見て褒めるのは、頭ヤバい人でしょ……」


 冗談でやっている事は重々承知だが、ネタにしては少々やっている事がえげつない。ゲームで、倒すべき対象であるから大した問題では無いのだが、配信上、絵面的によろしくない行為と言える。


「こがまる、一応配信中だよ?もっとお淑やかにさぁ……」


「狩りにお淑やかも何も無いでしょ?」


「じゃあ魅せプして」


「強めのモンスターが出た時に見せたげるよ!」


 そう言うと、みさはコウモリ同士を叩き付け、2匹同時に消滅させた。


「よし!……お喋りで時間掛け過ぎちゃったね。他の戦闘音はまだ聞こえてるし、そっち行ってみる?」


「行く。って言っても、そっちしか道なくない?」


「まぁ……そうかもね。ほら、石。……うへへ!」


 みさは自分の足元に落ちている菌床拾い上げると、それを私に手渡す……フリをして、私の右腕にしがみついた。


「ちょっとぉ……」


「別に良いじゃん!さ、行こ行こ!」


 半分嫌がる私を無視して、みさは腕を引いて歩き始めた。

 そして、畝った通路を進む事数分。先程より明確に戦闘音が近付く中、漸く戦闘が終わったのか、通路内に静寂が訪れる。


「静かになったね」


「やっとね。この感じだと、道の先にいるのは初心者だね。先に行ったお兄さん確定かな」


 そう話していると、通路の曲がり角が目の前に現れる。念の為だろう。みさは私の手のひらの上にある菌床を手に取ると、左の壁に向かって投擲し、曲がり角の先に石を転がす。そして、


「後ろ警戒ね」


と私に告げると、壁に背を預けながら曲がり角の先を覗き込んだ。一応、私も言われるがまま後方の確認をするが、必要なかった事は言うまでも無い。


「……うん、この先に人が居るね。目視では3人。お兄さんは居ないっぽいけど」


 曲がり角の先の確認を終えたみさは、顔を引っ込めるとコチラに視線を送り、確認した物の報告をする。


「後ろも問題無いよ。……で、どうするの?」


 私もそれに倣い、後方に危険がない事を報告すると、今後の指示を仰ぐ。


「まぁ、このまま合流しても問題無いかな。あるとするなら、光が届かない広場の端に人が隠れてる事位だけど……。それより、あの人達が“持ってる物”が気になるから、話はしたいかなぁ」


「持ってる物?」


 私がそう聞き返すと、みさは短く答える。


「“松明”だよ」


 松明。ベータテストの段階では、洞窟内に設置されていた光源と少し前に聞いたが……。ヘキグラ初心者が手に入れられる物であれば、私達も手に入りそうな物である。


「あぁ、確かに。話して損は無いね」


「でしょ?まぁ……視聴者に聞けば大体は分かるだろうけど。これもMMOの楽しみ方の1つな訳で!行ってみよぉ!」


 そう言うと、みさは投げた菌床を拾い上げてそのまま広場の方へ歩いて行ってしまう。


「ちょちょ、置いてかないでよ」


 先程までの様に腕を引いていかれると思い、何もせずその場に立ち尽くしていた私は、暗闇に消えかけるみさの背を見て、慌てて追いかけた。

 曲がり角を曲がると、みさの言う通り松明を持った人影と、その両隣に佇む2人の人影が姿を現す。その3人以外の姿は見えないが、彼らの背格好から見て、先に進んだドワーフはこの場に居ない様だ。


「どうも!ちょっと聞きたい事があるんですけどぉ」


 みさは彼らの元に一直線に向かうと、敬語を交えながらフランクに話し掛ける。

 だが、彼らの反応は私達……少なくとも、私が想像していた物とは掛け離れており──


「ん?お、竜人じゃん。しかも女形」


「うぇ〜。俺トカゲって苦手なんだよね」


「俺はアリだけどな、竜人。流石に自分のアバターを雌の竜にする気は無いけどな」


彼らはみさの問いを完全に無視し、挙げ句の果てには、みさのアバターを侮辱し始めた。


 ゲーム上での侮辱的発言。公序良俗に反する発言。これは、殆どのゲームにおける規約違反であり、前提として、モラルに反する行いだ。

 ゲーム内だから、ネットだからと、相手に対してそう言った発言を行う輩がいる事は一定数いる。いつかはゲーム内で出会うだろうと覚悟していた存在だが、まさかリリース初日に出会うとは欠片も考えてはおらず、余りの精神的衝撃に、私はその場で固まってしまう。


「いや、おまえ趣味悪いって!マジ引くわ〜!」


「クハハ!お前の女よりマシだろ!」


「それな!B専は口出すなっての!」


「はっ!顔より身体ってのが分かんねーガキが何かいってらぁ」


 ゲラゲラと、理解出来ない話を続ける彼らに混乱しながらも、彼らの目の前で立ち尽くすみさを見て、私はハッと我に帰る。


「……あ。う、お、お前ら!」


 無理矢理出した声は、不自然な程棒読みで、自分で聞いてもおもしろく可笑しい情けない物だった。だが、それに構わず、私はその場から足を動かすと彼らの前に立ちはだかる。


「い、いきなり失礼だろ!」


 威嚇の意味を兼ねて、慣れない暴言を吐きながら彼らを睨み付ける。だが、彼らには一切通用していない様で──。


「ぷっ、ぶぅははは!なんだコイツ!メッチャキョドッてんじゃん!」


「……ふふっ。やめたれよ!彼女の前で格好つけたいんだろ。分かるぜぇ、俺も男だからなぁ?」


「いやいや、コイツ女形だぜ?」


「どうせネカマだろ?ははっ!キメェ!」


 威嚇も話し合いも無駄。こういう輩は、現実であれゲームであれ、無視をしてその場から立ち去るのが一番だ。そう思い、私はみさの右腕を掴んで声を掛けた。


「行こ」


 だが、みさは自分から足を動かそうとせず、その場に立ち尽くしてしまう。

 普段のみさからは考えられないが、相当怯えているのだろう。私の声に反応する事なく、何も無い宙に指を揺らしながら、虚空を見つめて黙り込んでしまっている。


 仕方が無いので、無理矢理腕を引っ張りその場から離れようと、元の通路の方に身体を向けると、彼らの内の1人が回り込んで道を塞いできた。


「おいおい、逃げんなよ。折角だし遊ぼうぜ?」


 その問い掛けに私は一切反応しない。その代わり、その場に足を止めて視線だけを動かし周囲を探る。

 3対1。コチラが圧倒的に不利な状況で、みさは恐怖で動けない。そして、相手は恐らく初心者ではあるものの、私も初心者には変わり無い。


(みさなら余裕で3人を倒せるだろうけど……。ううん。私がなんとかしなきゃ)


 ゲーム内アバターだからか、みさの手には恐怖や緊張といった震えや硬直は一切感じない。逆に、怯え過ぎて力が入れられないのかも知れない。そう考えると、無理に腕を引っ張っては、その場に倒れ込む可能性もある。


(……倒すしか無い。か)


 自信は無いが、隙さえ見つけて先手で1人倒す事が出来れば勝機はある。


 覚悟を決めて、いつでも短剣が引き抜ける様に右手を自然な位置に下すと、すぐにその隙が現れた。


「おい、無視すんなよ」


 退路を塞いでいた男は痺れを切らしたのか、私の左腕を掴もうと右腕を伸ばしてきた。

 対人戦は得意では無い。だが、みさと何度か手合わせしているのである程度の動きは出来る。今は、それを思い出して行動するだけだ。


(頑張れ私!)


 心の中で自分に鼓舞すると、私は相手に左腕を掴まれるより速く、左手で相手の右腕を掴む。そして、相手が反射的に動くよりも早く、その掴んだ腕を、膝を折って腰を下ろし、体重を掛けながら下へ引く。その結果──


「のぉ!?」


相手は首と肩をガクンと揺らしながら、前屈みになってコチラに体勢を崩す。

 その瞬間。私は右手で短剣を引き抜く。

 突然の事に混乱して体勢を崩した今が好機。右手での防御や攻撃は不可、足を奪った事で回避も不可能。であれば、狙うは一択──。

 私は逆手に持った短剣の鋒を相手の顔に向ける。そして、その短剣の鋒に釘付けになっている瞳孔目掛け、瞬きの暇を与えない一閃を繰り出した。

 想像通り、私の短剣は彼の眼孔に深く突き刺さる。だが、それに対する悲鳴を彼が上げる前に、私は素早く眼孔から短剣を引き抜き、もう片方の眼球目掛けて鋒を突き刺した。


「なに引っ張られてんだよザッコ!」


 後方で、コチラの状況を理解出来ていない男が、自分の仲間に罵声を浴びせる。その時、漸く自分の状況を理解して、目の前の男は声を上げようと口を開くが……もう遅い。


「お前ら助け──」


 言い切る前に、私の短剣が相手の口内に叩き込まれ、左手の中の感触と共に目の前の男は赤いクリスタルを残して消滅した。


 1人目。だが、これで終わりではなく、寧ろ始まりと言っていい。


「──は?」


 男の惚けた声を聞くと同時に振り返り、私は後方へ投げ飛ばす様にみさの腕を引く。そして、位置を入れ替える様に前に踏み出すと、松明を持った男に左手を向けた。


「[風弾]!」


 完全に油断していた男は、短い呻き声を上げながら後方へ弾き飛ばされる。私はそれを横目に、同じく油断しているもう1人の男に向かって鋒を向けながら突進する。

 男は慌てて腰に差した剣の柄に手を添えるが、やはりフルダイブゲームに慣れていない初心者の様で。結局、上手い事抜剣する事が出来ず私の短剣を左手で受ける。だが、それ位は想定内であるので、私は冷静に左腕を相手の懐に忍び込ませると、相手の胸当てに手のひらを当てて呪文を唱えた。


「[火生成]!」


 瞬間、相手の胴体は燃え上がり、この空間で一番明るい光源へと成り変わった。


「[風弾]!」


 そして、そのまま風弾で炎上男を左側へ弾き飛ばすと、漸く起き上がった松明の男に向かって駆け出した。


(炎上は10秒ってみさが言ってた。だから、その間にこっちを倒せば……!)


 私が向かってくるのを確認すると、男は地面に松明を投げ捨て、腰に差した剣を引き抜く。だが、動きは完全に素人のソレ。私の動きを確認してからでは、まともな対応が出来る筈も無く。


「ふざけやがっ──」


「[風弾]!」


 剣を振るより先に口を開いた男に対し、私は呪文を唱えて後方の壁に叩き付ける。

 男の呻き声と、硬く反響した不思議な音が周囲に響く中。私は怯んで動けない男性の顔面に短剣を叩き込む。

 目にも止まらぬ2連撃。それを喰らった男は意識を失ったのか、膝を崩して前に倒れる。が、地面に顔が付く前に、私の短剣が相手のこめかみに突き刺さり、消滅した。


「よしっ!あと1人!」


 いける。この流れでもう1人、今の私なら余裕で倒せる。そう、思った。


 ──そう、“慢心”した。


 ゆっくりと振り返る私の頭には、先程周囲に響いた異音に対する疑問は一切無かった。そして、残りの相手の装備や“魔法”の事も、頭から抜けていた。


 完全に“油断”していたのだ。自分がやられる筈が無い。相手は初心者。残り1人。


「──え?」


 次の瞬間、私の腹に衝撃が走り、視界が急激に“伸びる”。

 何が起こったのか。それを理解しようとした頃には、背中に何かが“叩き付けられ”、衝撃で全身が硬直し、同時に思考も停止してしまう。


「くふっ──」


 再び響く異音。だが、先程の異音とは少し違い、何かが崩れる音が混じる。


 動かなければ。そう思い、磔にされた身体を地面に下ろそうと足を動かした瞬間──


「──え?」


岩が崩れ去る音と共に私の視界はひっくり返り、“穴”から覗く輝きが遠のいていった。


薄々気付いている方もいらっしゃるかと存じますが、物語のペースは死ぬ程遅いです。流し読みでも問題無いくらいには、無駄な文が多いです。御免

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