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明けましておめでとう。


 道すがらのアカリダケを回収しながら、蛇の様に畝った一本道を進む事数分。私達は、道の先が下り坂になっている事に気が付くと、一旦その場に足を止めた。


「先が坂になってるね」


「そうだね。次の階層……って割には、他に道が無さすぎるけど……」


 私の言葉にみさは頷きながらそう付け加えると、通路の先の下り坂を覗き込む。


 目の前の緩やかな下り坂にはアカリダケは生えておらず、周囲の壁にに張り巡らされている露出した木の根も見当たらない。

 雰囲気的にも、地下に入る時と同じような、階層を移動する為の通路にも感じるのだが……。みさの言う通り、ここに来るまでの道のりは短く、殆ど一本道であった。

 マップを確認しても、今まで通った道……この階層は異様に狭い。


「この場所……私達が通って来た道が、メインフロアから隔離された“隠し通路”的存在って可能性もあるけど……。取り敢えず進んでみよっか。ちぃ」


 みさは顔を引っ込ませると、私に手招きをする。


「なに?」


「手出して」


 近くに寄ると、みさは自分の拳を突き出す。


「ん」


 何を渡されるのかと疑問に思いながらも、両手を拳の下に持っていく。するとみさは拳を開いて、握っていた物を私の手のひらの上に落とす。


「……石?」


 手のひらの上に落とされた物は、目玉程の大きさの無数の石。いつの間にこんな物を回収していたのか。と疑問に思いながら、私は左手に全ての石を乗せると、その中の一つを摘み上げて眺める。


「そう、石。地下に潜る時に、灯りの確保の話をしたでしょ?この坂道に明かりは無さそうだから、それを使って確保しようって寸法よ!」


 みさは胸を張りながら鼻を鳴らす。だが、これでどう明かりを確保するのか、私には一切見当が付かない。


「いやさ、私に渡されても……コレを光らせるのは無理でしょ。……採ったアカリダケを、すり潰して塗りたくればいいの?」


「……あぁ!ちぃ天才!その手があるじゃん!」


 咄嗟に捻り出したアイデアは、みさの考えとは違う物だったようだが、どうやら最初に思い描いていた物より良い案らしく、みさは声を明るくして両手を胸の前で叩く。


「じゃあ……どうせだし、生産してみよっか!」


「生産……?武器が作れるとか言ってたあれの事?」


「そそ!このゲームの醍醐味と言っていいコンテンツだよ!自分が思い描いたものが何でも作れちゃう凄い奴!」


 MMORPGでは、モンスターの素材や収集品で武具やアイテムを製作するのはよくある事。とは言っても、大体のMMOはその為に必要なスキルや職業を選ばなければならず、メイン攻略とは程遠いキャラメイキングをする必要があったりもする。だが、ヘキグラではその様な仕様は無く、自由にアイテムや装備の製作が出来る。一応、生産が有利になるスキルが存在するが、必須という訳ではない。

 ただ、生産の方法に癖があり、中々目当てのアイテムが作れないと、リリース前にみさが愚痴っていた記憶がある。


「生産って、専用のアイテムが必要だったりするんでしょ?前に愚痴ってたじゃん」


「それは特定のアイテムを作る時だけだよ。簡単な物を作るだけなら、素材だけあればいつでも作れるよ」


「そうなんだ。……で、生産ってどうやるの?」


「生産自体は簡単。メニュー画面を開いて、ディスクの下の欄に生産の項目があるでしょ。それをタッチするだけ。あ、アイテムは、生産開始前に用意しないと反映されないから気をつけてね」


 みさの話を聞きながらメニューを開くと、確かに生産の項目が存在した。


「生産なんてあったんだ。気付かんかった」


「ちゃんとメニュー画面は確認しないとだよ。……ほら、試しにアイテム作ってみたら?アカリダケと石で、発光する石とか出来るんじゃない?」


 物は試し。という事で。みさに促されるがまま、私は巾着からアカリダケを取り出すと、メニュー画面の生産をタッチした。


「……あれ?何も起きない?」


 だが、生産をタッチした瞬間。メニュー画面が消えただけで、何かが表示されたり、現れたりする事は無かった。それに対し、声を出して首を傾げると、みさが答える。


「自分でアイテムを加工するんだよ。ほら、さっき言ったみたいに、アカリダケをすり潰して石に塗ってみて」


「どんなアイテムを作るか〜とかは聞かれないのね。……前に、目当てのアイテムが作れないって愚痴ってたけど、何となく察したわ」


 製作するアイテムの種類を選択してから、製作を開始するのだと考えていたが、どうやらそうではない様で。確かにこの仕様では、狙いの種類の武具を作るには苦労しそうだと、1人で納得しながら頷いた。


「レシピがあれば、作りたい物が作れるんだけどね。手探りってなると、まぁ……」


「短剣を作りたくても、剣が出来ちゃったりとか……他にも色々ありそうだね」


(普通のアイテムで、且つ簡単な生産なら、別に失敗してもいいけど……。レアアイテムに複雑な加工をして、目的と違うアイテムが出来上がったら……心折れそう)


 手のひらにアカリダケと石を置き、両手で包み込んで揉む様にアカリダケをすり潰しながら、そんな事を考える。

 みさの反応や当時の愚痴り様からして、恐らく経験があるのだろう。正式リリースで様々な仕様が変更されている様だが……生産関連はどうなっているのだろうか。


 1分程、手のひらの中で石とアカリダケを揉み続け、感触が全くの別物になった事を確認すると、手のひらを開いて中身を見る。


「おぉ、ちゃんとペーストになってるね。よしよし」


 思惑通り、アカリダケは完全なペースト状に変化しており、石全体に万遍なく塗布されている。だが、発光の強さ自体は加工前と変わり無い。


「あんまり光らないね……。幾つ作ればいい?」


「残りの3個も加工しちゃって。終わったら、メニュー開いて生産を押して、終了を選択すれば出来上がるから」


「分かった」


 私は頷くと、同じ手順で残りの石にもアカリダケを塗布していく。そして数分後、全ての石の加工を終えると、生産から終了を選択して、初の生産を終えた。


「生産終了っと。……お?少し見た目が変わった?」


 終了を選択した直後。一度のびをしてから地面に置かれた生産品に目をやると、見た目が変化している事に気付く。確認の為、1つ摘み上げて詳細を確認する。


「ええと……“アカリダケの菌床(石)”?石を土台としてるから育たないって書いてあるけど、それはいいとして……」


「見せて見せて!」


 菌床と、あまり聞き慣れない言葉が出てきたが、問題はそこでは無く──


「完成前より少し暗くなった?」


“明度”の変化だ。


「やしがに。ちょっと明かりが弱くなったかもね。狭い通路なら問題無さそうだけど……」


 これでは、広い空洞に出た時の明かりとしては期待出来そうに無い。この先の坂道を下る程度であれば申し分無いが……。


「明かりが強くなる方法とかあれば良いけど……。ねぇ、こがまるが最初に考えてた案って何なの?」


「火生成で石に炎上を付与して、それを明かりにするって感じ。MPは消費するけど、回復分でプラマイ0だから。戦闘中は明かりの確保が難しいけど、私が請け負えば良いかなって」


「ふーん。……これより、そっちの方が光源的には良くない?それか、これを燃やしちゃうとか」


 私は手に持ったアカリダケの菌床を軽く上げると、みさの案に賛同する。


「そうだね……。燃やしても問題無い感じだったら、そうしよっか」


 みさが頷くのを見て、私は呪文を唱える。


「[火生成]」


 すると、手に持ったアカリダケの菌床に火が着き、周囲が一層明るく照らされる。

 だが──


「──あ、ダメージ喰らってんだけど。ちょっと待った」


燃えている物を持っているのだから、当然と言えば当然だが。着火直後、私の体力は徐々に削られていく。仕方無く、一度地面に菌床を捨てると、私は意味も無く手を払った。


「こがまる、持てないんだけど……どうする?」


「ん?蹴ったり投げたりすれば問題無いでしょ。そもそも、道の先を確認する為に明かりを確保する訳だし。マップさえ更新出来れば、目が見えなくても大した問題じゃ無いし」


「いや……見えなかったらモンスターと戦えないじゃん」


「気合いだよ!……ってのは冗談。まぁ、炎上は基本10秒続く訳だし、その間に倒せば問題無いって事。それに、私が戦ってる間にちぃが光源を足せば良いだけだし」


「こがまるがそれで大丈夫なら……まぁいっか」


「問題なしなし!じゃあ行こっか!さっきまでは私が先頭だったけど、明かりがいるまでは2人で並んで進もうね」


 そう言うと、みさは私の右に立ち、私の腕に腕を絡ませて歩き始めた。


「セクハラは無しだからね」


 流れ的に危ういと感じ、先手を取って釘を刺すと、私は菌床に着火して前方へ放り投げた。


 拾っては投げ、拾っては投げを繰り返して坂を下る事数十秒。道は平坦になり、石が勝手に転がらなくなった。

 周囲に明かりは一切無い。手元を見る事すら出来ない暗闇で、私の火生成の魔法を頼りに、みさは固定ポケットから組合証を取り出すと、階層の確認をする。


「組合証もb2になってるし、フロアの移動は出来たみたい。にしても……明かりになる物が一切無いね。前のフロアでアカリダケを採取するのが前提って感じかな」


「採取しといて良かった……けど、火属性魔法があるから、その必要も無さそうだったけど」


「もしかしたら、どっかで光源のレシピが手に入るのかな。採取品を見逃したとか……。んな事もないと思うけどなぁ」


 私の声に反応せずに、みさは1人で呟きながら顎に手を置いて頭を拈る。


 立ち止まっている間は、菌床に火は着けずそのまま手のひらに乗せている。何度か確認したが、着火する度に耐久値が減っているので、それを節約する為だ。今いる場所の様に、大人2人が両手を広げられる位の通路であれば、歩いている時も着火する必要は無いかもしれない。


「コメントで、明かりがないとキツイって言ってたけど……。b2からが本番って感じかな?」


「……だとしたら、私の腕の見せ所だね!よし!考えてても仕方ないし、ガンガン進んじゃおう!行くぞー!」


「急にテンション上げるじゃん。まぁ、その方が私は楽だけど──ちょ、そんな強く引っ張んないでよぉ」


 いきなりやる気を出し、その場から駆け出す様に歩き出したみさに、強引に腕を引かれて危うく転けかけ、手から転がり落ちた菌床を慌てて掴む。そして、無くさない様にと耐久値が減っていない2つの菌床を巾着に仕舞い、投げた菌床を拾い上げると、私はみさに合わせる様に早足で歩き始めた。


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