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音ゲーのイベント走ってて遅れました。今後ものんびり投稿します。気が向けば。
洞窟内を探索する事数分。地上とは比べ物にならない程、周囲の景色に変わりは無く、出現するモンスターの種類にも何一つ変化が見られず、少し退屈な時間を過ごしていた。
「地下に潜ってもキャビィばっかなのはどうなのよ……。鶏が居ないだけマシだけどさぁ」
「ダンジョン探索に時間掛かるから、モンスターの種類が少なく感じるんだよね。レベル上げを兼ねてるってものあるけど……」
「ダンジョンが広過ぎるんだよ」
「迷路みたいに複雑ってのもあるからね〜。地上に関しては、単純に広そうだけど」
「直径1キロは余裕でありそうだよね。ってか、さっきの戦闘でバッグが1つキャビィの素材で埋まったんだが?」
「私も。……一旦荷物整理しよっか」
巾着の1つがキャビィの素材で埋まった事で、もう1つの巾着にドロップアイテムが流れ込む。その所為で、余計にアイテム枠を消費している事を考え、私達は少し進んだ先にある広い空間に踏み入れる前に、足を止めて荷物の整理をする。
荷物整理も終わり、その場から腰を上げて空間に目をやると、丁度他通路から別プレイヤーが空間に足を踏み入れる所だった。
「あの人達、地上から来たのかな?だとしたら、あっちの通路に進むんだけど……」
目の前の空間にある通路は、私達がいる通路を含めて3つ。みさは私達から見て右側の通路から出てきたプレイヤーを指さすと、そのプレイヤーに駆け寄った。
私も、彼女の後を追う様にプレイヤーの方に駆け寄ると、相手側もコチラの存在に気付いた様で。私達の事を視界に入れると、警戒もせずに笑みを浮かべながら手を振り出した
「こんばんは〜!」
「こんばんは。元気っすね」
みさの元気な挨拶に、背が低く丸っこい体型の男性は、頬の角度を上げながら片手を上げて挨拶を返す。
「これぐらい普通ですよ!で、聞きたい事があるんですけど……お兄さん?は地上から来た感じですか?」
「疑問系じゃ無くて良いっすよ。……お姉さんの言う通り、地上から来ました」
彼……お兄さんは、みさの呼び方に倣う様に、みさの事をお姉さん呼びしながらそう答えた。
お姉さんと呼ばれて嬉しいのか、みさは二ヘラと頬を緩めると、鼻頭を軽く掻く。
「へへ……!あぁ、私達も地上から来たんです。で、私達が来た通路は一本道になってますよ。潜るなら、余った通路を進むのが良いと思います!」
恐らくドワーフであろうその男性は、みさの指さす通路に視線を送ると頭を下げ、コチラに提案を持ち掛ける。
「あざっす。お姉さん達も地下に行くんすよね?なら、一緒にどうっすか?」
だが、みさは空を指さして彼の提案を拒否する。
「私達配信者で、今も配信中なんです。だからお先どうぞ!」
そんなやり取りを横目に、私はコメント欄を眺めながら、カメラがあるであろう方向に手を振っていた。決して、会話に入り込めない訳ではない。私が話す必要が無いと判断しただけだ。
事実、みさの言葉に頭を下げた男性は、残り1つの通路を進んで行った訳で。決して、悪意あるコメントが言う様な「コミュ障」では無い。
「ちぃ、私達は少し後に出発しよっか。他のプレイヤーが来たら、その時は気にせず進むけど」
「了解。ってか、あんまりプレイヤーに合わないね。タウンやダンジョンの入り口ではあんなに居たのに」
「それ私も思った。もしかしたら、私達がいる場所がマップ端なのかもね。地上にいた時もそんな感じだったし」
「なんで分かるの?」
「ん〜……雰囲気としか言えないかなぁ」
そう首を傾げる彼女を見て私は「ふーん」と答えると、明後日の方を向いて考え事を始める。
(意識的に気付き難い違いとかがあるのかな?ってか、あんだけ歩いてマップ端ってのも不思議だけど……。マップ画面の軌跡的にも、端とは思えないし)
マップ端であろうと無かろうと、特に関係は無いのだが。地上の地形に違和感を覚える。が、今考えても時間の無駄。そう思い、私は目に留まったコメントを読み上げる。
「……お?“さっきの人と何話してたの?”。──あぁ、そいえば、皆には他の人の声が聞こえない設定だったっけ。えっとね……大まかに言うと、私達は配信してるから、先に進んでって話してたの。ほら、勝手に配信に載せるのも悪いでしょ?」
後半は、私の考えでは無くみさの判断ではあるが。
「視聴者なら、一緒に行動するんだけどね。700人も見てるんだから、誰か近くに居ないの?」
その問いに、視聴者より先にみさが答えた。
「地上でもムズイのに、こんな地下で……自分が何処にいるか分からない状態なんだから、会いたくても会えないよ。マップ全埋めしてれば来れるだろうけど」
「こがまるの配信なら居そうだけどね。マップ全埋めした視聴者」
「あ〜……何人か居そう。心当たりあるもん」
「冗談のつもりだったんだけど……まぁ、居てもおかしくは無いのかな?」
先に向かった男性に追いつかない様、のんびりと雑談を繰り広げていると、私達が来た通路側の壁の一箇所が、突然音を立てて頭台の岩を落として穴を開ける。それに驚き、私は肩を跳ね上げながら振り向いた。
「──っ!!?」
「──お?モンスターが湧くのかな?」
私とは裏腹に、みさは落ち着いた様子で振り返るとそう言った。
「モンスターって壁から湧くの?」
その疑問に、みさは頷いて答えた。
「場所にもよるけどね。基本はああやって壁が崩れて、そこから湧く感じだね。元々崩れてた場所や隙間から湧く事もあるけど……もしかしたら、この場所は人があんま来ない場所なのかも」
「ん?どして?」
「人が来てたらモンスターが湧いた亀裂が残ってるだろうなって。だけど、今新しく出来た──って、出てきたよ」
みさは途中で説明を止めると、壁の亀裂を指差した。振り向くと、亀裂に出来た穴からリス型のモンスターが、まるで机から布が滑り落ちる様に地面に生まれ落ちる。
実際にリスを見た事は無いが、骨が抜かれて側だけが粘液の様に滑り落ちる姿は、可愛く言えば猫の様……だが、私の目には、リスとは思えない悍ましい何かとして映った。
ソレは地面に落ちた後、内側に骨格が生えたのかと思える位突然起き上がり、辺りを見回すと私達を見て固まった。
「スクウォール……だっけ。ポップする時ってあんなキモいんだ……」
「そう?あんなもんじゃない?ほら、動物の出産シーンとかでも、赤ちゃんってあんな感じで出てくるし」
出された例えにあまり思い当たる節が無いが、もしかしたら、私の見間違いかも知れない。洞窟内は暗く、スクウォールが湧いた場所にアカリダケは生えていないので、その可能性は高い。
「う〜ん……そんなもんかぁ」
コメントを見ても、モンスターのポップの仕方に言及している物は居ない。やはり、あれは私の見間違いだったのだろう。
「気のせいだったのかなぁ……って、他にも出てきた」
どうやら、私達が気付いていなかっただけで、他にも複数の亀裂が壁にあったらしく、生まれ落ちたスクウォールの近くの壁からもう2匹、スクウォールが姿を現した。
そして、先程の光景が見間違いで無かったのだと、他2匹の生まれ方を見て納得すると、みさに視線を移す。
「……ねぇ、やっぱキモくない?」
「あれ……こんなポップの仕方だっけ?なんか……肉が落ちてきたみたいで、確かにキモいかも……」
今回はみさも私と同じ様に見えていたらしく、モンスターが地面に落ちる様子を見て気味悪がっている。コメント欄の視聴者も私達のやり取りで漸く気付いたらしく、同じく嫌悪していた。
「バグかな?それか仕様が変わったとか?」
「私に聞かれても……。取り敢えず、襲ってくる様子は無いけど、これは普通なの?」
「スクウォールは警戒心が強かった筈だから、仕様だと思う。……そもそも、私も戦う機会が少なかったからなぁ。スクウォールがポップする所もあんま見なかったし、これがデフォなのか?」
私達が話している間も、スクウォール達に動きは無い。強いて言えば、自分の身体より大きな尻尾を盾にする様に、尻尾を顔の前に回しているだけだ。
「こがまる、どうする?」
「どうするって……普通に倒せば良くない?ポップの仕方には違和感があったけど、それ以外は普通のモンスターだし」
「それもそうだね」
そう言うと、私は腰から短剣を引き抜いて流れる様に速攻を仕掛ける。
狙いは左端の1匹。それに気付いたスクウォール達は、標的にされた1匹以外は蜘蛛の子を散らす様にその場から逃げる。だが、中央に居たスクウォールは右端のスクウォールと違い逃げ道が狭く、みさに行く手を阻まれる。
「おっと、逃さないよ〜!」
それを横目に、私は尻尾を盾にしたまま身動きを取らないスクウォールに攻撃を仕掛けようと短剣を振り上げた。が、違和感を感じて振り下ろす寸前で動きを止めると、素早く左手を前に伸ばし呪文を唱えた。
「[風弾]!」
その瞬間、目の前のスクウォールは押さえ付けられていたゴムボールの様に地面から弾け飛び、私の顔付近の高さまで飛び上がると、身体全体を縦に回転させ太い風切り音を鳴らしながら尻尾を振り下ろした。
「うわっ……」
もし、あのまま短剣で攻撃していよう物なら、あの尻尾は空気では無く私の頭蓋を振り抜いていただろう。反応が出来たとしてもあの速さだ。避ける事は疎か、防ぐ事すら間に合ったか怪しい。
プレイヤーの攻撃に合わせたカウンター。それが、このモンスターの特徴であり、十八番の攻撃なのだろう。確かに、あれを初見で避ける事は不可能に近く、見慣れていても対処は難しい。
一撃必殺。だからこそ、攻撃後に隙が生まれる訳で──。
「いよっ!」
尻尾を振り抜き、宙に浮いたままのその身体は自由が効かない様で。余力の回転を残しながら地面に落ちるスクウォールを、そのままにする訳もなく。私は下から掬い上げる様に、短剣をスクウォールの顔面に叩き込むと、左手根を使い全体重を柄頭に乗せて、後方の壁に力強く叩きつける。
その瞬間、胡桃が割れる様な軽い音が洞窟内に響くと同時に、叩きつけられたスクウォールは水風船が割れる様に、赤いエフェクトとなって弾け消えた。
一瞬、短剣が折れたのかと心配し、慌てて短剣を顔の前に持ち上げるが、あの音が短剣から発せられた音では無いと気付くと、肩を落として安堵する。念の為に耐久値を確認したが、今の戦闘で減った様子は見られなかった。
「焦った〜!……でも一発かぁ、ダメージ計算どうなってんだろ。HPが低い?な訳無いか」
巾着に感じる僅かな重さの変化は無視し、今の戦闘に関して首を傾げる。そして、「まぁいっか」と結論を出すと、私はみさに声を掛ける。
「こがまる〜、終わっ……って無いのか」
すると、みさの方はまだ戦闘中の様子。とは言っても、頭蓋と尻尾の根本を鷲掴みにされたスクウォール見るに、終わりは近そうだ。
「あぁ、ちょっと待ってね!どうやって倒そうか考えてるから!」
「え、頭叩けばいいじゃん」
「いやさ、簡単な倒し方無いかなって」
「頭叩けばいいじゃん」
「……野蛮ちゃん、もうちょっとなんかあるでしょ」
「誰が野蛮ちゃんじゃ」
だが、結局はスクウォールの頭を何度か殴り、手の中で討伐したのだから、何も悩む必要は無かったのではと首を傾げる。
「……さて、先に行った人もある程度進んでる筈だし、私達も進もっか!」
「そだね。じゃあ野蛮ちゃん、先頭はお願いね」
「もぅ!ちぃの意地悪!」
ニヤニヤと、仕返しが如くみさをそう呼ぶ私に、彼女は頬を膨らませながら両手を強く下ろしてそう言った。




