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 洞穴の入り口に立つと、中から風が吹いているのが肌感で分かる。それに対して、洞穴が何処かに繋がっている可能性を考えるより先に、VRMMOでここまでリアルな感覚を得られる事に感心した。

 流石は一世を風靡した技術だ。何故、今は廃れてしまっているのか不思議で仕方ない。


「なんだかんだ言って、フルダイブゲームって楽しいな。昔の有名なゲームとか配信でやろうかな?」


 最近のVRゲームは、配信がまともに出来る機能が備わっていない。だが、昔のVRゲームであれば配信稼業が盛んだった事もあり、配信に役立つ機能がゲーム内に備わっている事が多い。暫くはヘキグラをメインに配信するつもりだが、メンテ中や空き時間に他のVRゲームを触ってみてもいいかもしれない。


「ふぉえあぁ、おふぅぇのぁあぅふぉ」


「なんてぇ?」


 配信で遊ぶゲームの事を考えていると、行動不可が解除されたみさが私の元に来て得体の知れない言語を口にする。何を言っているのか理解出来ず、聞き返しながら振り向くと、口元から赤いエフェクトを散らしながらヒカーラ草を頬張るみさと目があった。


「……何してんの?」


 懐疑的な視線を送りながらそう尋ねると、みさは唇を器用に動かして口からはみ出た葉を飲み込み、一息ついてから頬を膨らませて声を張り上げる。


「ぷはぁ!……ちぃが顔を殴るから、体力めっちゃ減ったの!だから仕方なく、草を食べて回復してたんじゃん!」


「じゃん!って言われてもさぁ……。お尻触ったこがまるが悪いでしょ。それとも……通報した方が良かった?」


 最後の方で少しだけ声を落とし、目を細めながらみさの目を見る。


「ちょ、それは無し!ごめんって!」


 私の“通報”という発言に肩を跳ね上げると、みさは慌てて両手を胸の前で振り、謝りながら私に抱きつくと頬に頬を擦り付けてくる。


「別に怒ってないけどさ。何回も通報画面が出ると、いつか間違えて通報しちゃうかも知れないし……。気を付けてよ?後、配信もあるんだから、BANされても知らないよ」


 スキンシップが激しい事自体は、普段からそうなので然程気にして無いが、ゲームや配信に影響が出るのはコチラも困る。かと言って、現実であれば好き放題触っていいと言うわけでは無いし、出来ればやめて欲しいのだが。


「あ、配信的に良くないか」


 今更気が付いたのかと、私は半ば呆れながら溜息を吐く。


「もぅ……。で、この洞穴なんだけど。もしかして、次フロアに行く為のポータルなの?見た感じ、普通に道が続いてそうだけど……」


 セクハラの話は置いておき、私はみさから視線を逸らすと洞穴の中を指差す。中は当然だが明かりが無く、入り口付近しかまともに確認する事は出来ないが、道自体は奥に下にと続いている様だった。


「多分、フロア移動のポータルだと思うけど……ベータの時と雰囲気が違う。ベータの時は、もっとこう……境界に透明なヴェールみたいなのが見えてたし」


 みさはそう言うと、顎に手を置きながら洞穴の入り口に立ち、内部に向けて手を伸ばすと何度か仰いで見せる。その行為に何の意味があるのかと思いながら後ろで見守っていると、みさが突然手を止めてコメントを読み始めた。


「え?フロアが一括になったってどういう事?……ポータル廃止?そのまま歩いて次フロアに行くの?」


 コメントに首を傾げるみさを見て、私もみさの配信のコメント欄を覗く。


「ええと……。へぇ、ベータの時とダンジョンの仕様が変わったのね。って、ごめん皆。今の、こがまるの配信のコメントの話。……分かった、皆のコメントも読むから」


 みさの視聴者情報によると、どうやらベータ版のダンジョンの仕様と今の仕様とでは、大分違いがあるらしい。ポータルの他にもダンジョン内の光源や、ダンジョンの最初の転移条件も違うというコメントもある。

 それに対して反応していると、私の配信の視聴者達が「こっちのコメントも読んでくれ」と騒ぎ出したので、みさの配信のコメント欄を閉じて頭を下げた。


「ごめんて。……お、フロア移動の事書いてくれてる人居るじゃん、ありがとね。……“次フロアはそのまま歩いて行く感じだったぞ。これ、他プレイヤーの待ち伏せとか出来そう”。おぉ、いい事聞いた」


 待ち伏せが出来そう。恐らく、私のプレイスタイルを考えての発言だろう。待ち伏せして、プレイヤーからアイテムを盗む所が見たい。という気持ちもあるかも知れない。だが逆に、フロア移動用の通路は待ち伏せされ易いとも言える。


「全プレイヤーが絶対通る道だもんね。待ち伏せには絶好の場所って訳かぁ。こがまる、どう思う?」


 何にせよ、対人戦関連の事はみさに指示を仰ぐ方が良い。ベータプレイヤーという事も勿論だが、読み合いや戦略……事対人戦においては“プロ”の域に達する有名プレイヤーだからだ。


「地形に関しては見ないと分からないけど、待ち伏せがいたら完全に私達が不利だね。まぁ、初見の場所なんて全部そうだし、アドリブでやるしか無いよ。問題はそれより“明かり”だね」


「明かり?……確かに、入り口から見ても中は暗いけど……。いうて初期ダンジョンだよ?無くても問題無いんじゃ?」


「コメントでは、明かりが無いとかなりキツいって。前はどのダンジョンにも松明が湧いてたんだけど、それも無いらしいし。取り敢えず、入ってみないと何とも」


 そう言うと、みさは洞穴の中へと足を進めていく。


「ちょっと待って。火生せ──あぁ、えっと、火属性魔法があるんだから、灯りは確保出来るでしょ?そこら辺の木の枝を拾って、松明を作る事も出来るんじゃ……」


 魔法発動バグの事を思い出したので、念の為、魔法名を伏せながら私はみさに提案する。対した光源にはならないかも知れないが、足元が見えるのとそうで無いのとでは、進み易さが違うと考えてだ。だが、みさは首を横に振って私の案を却下し、その理由を述べる。


「待ち伏せの危険を考えると、最初から灯りを持ってくのは危ないかな。灯りに関しては考えがあるから、先ずはフロアの移動しよ」


 みさの言う通り、灯りを持ってフロアを移動すると、待ち伏せしているプレイヤーに一方的に見つかり、不意を突かれる。だが、灯りを持たずに同じ場所で待ち続けられる程、ダンジョン内が安全であるとは思えないし、それ以前に、待ち伏せしているプレイヤーがいるとも限らない。ハッキリ言って、居ない方が多いのでは無いかと思う。

 序盤も序盤。始めたばかりの初心者が多く、大した稼ぎも無いだろう現段階で、時間を潰してまで他プレイヤーを襲うメリットが皆無だからだ。

 もし、そんな事をするプレイヤーが居たとするなら、このダンジョンをクリアして、レベルもある程度上がった人達だろう。


 そう考えるが、みさに任せた以上、コチラから口出しするのも憚れる。現状、灯りが無くとも足元は辛うじて見えるので、問題も無い。

 洞穴内は暗いが、フロア移動用の通路だからか道幅は狭く、左右の壁も一応だが目視出来る。マップも範囲が狭いとはいえ普通に機能しており、マッピングも問題無くされている。暗いとはいえ、1度でも目視さえ出来ればマップに地形が反映される様だ。


 木の根が張り巡らされた洞穴を下る事数分。ある所を境に地面は傾斜を失い、道幅が広くなる。


 床の材質は土より石に近い感触。壁も同じく簡単には掘れそうにない。天井は2メートルより少し高い位で、跳躍は疎か長物の扱いも厳しいだろう。

 壁や床、天井の至る所に木の根も露出しており、そこに寄生する様に青白く淡い光を発するキノコも生えている。そのお陰で、案外視界が保ててはいるが、灯りが無いと厳しい事には変わり無さそうだ。


「出待ちは居なさそうだね。戦闘音も聞こえないし……この感じだと、通路と出入り口付近はモンスターも湧かない仕様なのかな?」


「てか、セーフティエリア説ない?」


「それは無いかな。チュートリアルでも、セーフティエリアは目視出来るって言ってたし。ダンジョン入場時に見てるからね。普通にAIや仕様の関係で湧いてないだけだと思うよ」


 私の案を否定するみさに「そっか」と短く答えると、私は壁際に近付き、光るキノコを木の根から摘み取る。

 その隣で、みさは固定ポケットから組合証を取り出すと、2度素早く叩いて何かを確認していた。そして、私に確認した内容を伝えてくる。


「一応確認してみたけど、ちゃんとb1に移動した事になってる。リアリティは増したけど、比例して移動時間も増えたのはちょっとなぁ……」


「ベータからやってる人にとっては改悪なのかな?初めてプレイする私にとっては、ドキドキ感があって楽しいけど……。はいコレ、食べる?」


 みさの悪態に意見を返しつつ、私は光るキノコの詳細を確認すると、それをみさに差し出した。


「光るキノコも初めて見るし……。いや、食べるのは遠慮しとく。状態異常に掛かると面倒だし」


 顎に手を当てながら、私が持っているキノコに顔を近付けたので、私からもみさの顔にキノコを近付けると、みさは勢いよく顔を上げて手を振った。


「そっか」


 私は“アカリダケ”を巾着に仕舞うと、洞穴と呼ぶには深く、広過ぎる空間を再度確認する。


 所々にアカリダケが生息しているお陰で、マップの書き込みは地上同様問題無い。所々道の線が曖昧になっている箇所は、単純に木の根で死角になっている場所だ。


 通路自体は単純な1本道。10数メートル先が曲がり角になっているので、その先がどうなっているかまでは分からないが、少なくとも、普通に行動しているプレイヤーやモンスターは居ないだろう。だが、待ち伏せするなら、あの曲がり角の先だろう。


「取り敢えず、あの曲がり角まで行こっか。ちぃは後ろから付いてきて」


「りょ」


 そう言って歩き出したみさの足取りは、警戒とは掛け離れた軽い物だった。足音も普段通り鳴っており、全く存在感を隠していない。それどころか、曲がり角に近付いても一向に止まる素振りを見せず、挙げ句の果てにはそのまま角を飛び出した。


「え?!ちょちょ、なんで?」


 困惑する私を余所に、みさはそのまま左を向いて角を曲がっていく。その様子から、待ち伏せするプレイヤーがいない事が分かるが、あれだけ警戒する様な事を言っておいて、不用心にも程がある。


「ちょっと待ってよ……!めっちゃズカズカ行くじゃん……!」


 私は小声でみさを呼び止めると、身を気持屈めて出来るだけ足音が鳴らない様に追い掛け、曲がり角を曲がる。すると、みさはそんな私の姿を見て笑い始めた。


「ぶぁはは!ちぃ何やってんの〜!!」


 お腹を抱えて、右手で指を差して大声で笑うみさに驚き背筋を伸ばす。そして、何度か周囲を見回すと、みさの元へ歩み寄り小声で怒鳴る。


「出待ちされてるかもって警戒してんじゃん!……って、毛皮?」


 よく見ると、みさの左手にはキャビィの毛皮が握られていた。


「いつ取り出したの?全然気付かなかったけど……」


「曲がり角を曲がる前にね。私だって、ちゃんと警戒してるんだよ?」


 そう言って、手に持っている毛皮をヒラヒラと見せびらかすと、用が済んだのか巾着に収納する。


「ま、待ち伏せは無かった訳だし、一旦は警戒を解いても問題無さそうかな!」


 曲がり角を曲がった先も単純な1本道。アカリダケの数も多く、人が隠れられそうな場所や空間がない事も、マップで確認出来ている。

 通路の先のアカリダケ付近にキャビィが群がっている所を見ても、ここから先は待ち伏せが困難だという事が分かる。以降は、あまり他プレイヤーを警戒せずとも問題無いだろう。


「でも……さっきみたいにトコトコ歩いてくのは危ないでしょ。いくらこがまるが対人戦得意だからってさ……。モンスターもいる訳だし」


「モンスターならどっちみち襲われるから。それに、プレイヤー相手なら下手に気配を隠さない方が良いんだよ。襲わせるタイミングを、ある程度こっちで調整出来るからね」


「でも、バレてない方が動き易いでしょ?」


 その言葉に、みさは「何言ってんの」と笑ってこう続けた。


「さっきまで普通に喋ってたんだから、関係無いよ!」


「あっ、確かに」


「ちぃもまだまだだなぁ!そんなんじゃ、格上相手から盗めないよ?」


「ぐぅ」


「いや、出さないでよ」


 軽いやり取りをして無駄に張った気を落とすと、私達は木の根が張り巡らされた洞窟内の探索を始めた。


固定ポケット

組合証…0.01kg

マナストーン(極小)…0.01kg

転移石[拠点]…0.1kg

合計…0.12kg


バッグ

ウサギの毛皮*12…1.2kg

ウサギの耳*13…0.13kg

キャビィの前足*8…0.4kg

ヒカーラ草*2…0.02kg

合計……1.75kg


バッグ2

下級マナポーション……0.1kg

傷薬軟膏(5/5)*2……0.1kg

アカリダケ*2……0.02kg

合計……0.22kg

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