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 視界はあまり良くない木々の隙間を、周囲を警戒しながらマップに目をやり歩く。

 時折マップ上に現れる赤い点は、此方が近付かなければ自然と遠ざかり、襲いかかってくる事は無い。ただ単に、視界が悪く此方を視認出来ていないだけの可能性もあるが、そうであれば、今行なっている様に木々に隠れ慎重に動いている事が無駄ではないという事になる。

 背後を見ると、なんだかんだ言っていたみさが後に続き、私が意図的に無視している採取スポットでアイテムを回収している。普段であれば「後で分けて」と言う所だが、無理矢理付き合わせてしまっている手前、貰うのは忍びない。


 そんな事を考えながら、マップギリギリに表示されている道を辿って移動していると、丁度すぐ目の前からキャビィが現れた。

 草木に隠れて見えなかったのか、それとも今スポーンしたのか……。何方にしても倒す事に変わり無い。


「[風弾]」


 私は先の戦闘の様に風弾で短剣を弾き飛ばす。だが、握り方の問題か、それとも距離が空いていたからか、短剣は標的を外れて少し離れた木に当たり、地面に落ちる。その音に反応してか、近くで身を潜めて居たであろう別のキャビィ達も姿を現した。


「外しちゃったか〜。しかも、音に釣られて湧いてきたし。まぁ良いけど」


 そう呟きながら飛び掛かってきたキャビィの攻撃を避け、すれ違い様に耳を掴むと地面へ叩きつける。


「……叩きつけただけじゃ気絶しない。やっぱ頭か」


 そのまま、地面に叩きつけられて一瞬だけ硬直したキャビィの頭を蹴り飛ばす。此方にも多少のダメージが入ってしまうが、キャビィ1体を無力化出来ると考えれば安い物だ。

 同様に、飛び掛かって来たキャビィ2体を気絶させると、倒さず放置し短剣を拾い上げる。そして、1体だけ倒してもう1体をみさに投げ渡すと、私は道の方に目をやった。


「あげる」


「さんきゅ。お礼に後で採取アイテムあげる」


「着いてきてくれたお礼なんだけど……まぁいいや。それより、リリース直後は活気があって良いね。ほら」


 木々の隙間。そこから見える道に向かって、私は指を差した。そこには、丁度その道を通りかかろうとしている槍を持った男性が1人。マップにはギリギリ映らない場所に佇んでいた。


「うわぁ、槍使いか」


「強いの?」


 みさの呟きに私は首を傾げる。


「その逆。リアルで槍術を習ってる人か、才能の塊みたいな人じゃ無いと、上手く扱えない感じなんだよね。見た感じだけど」


「じゃあ何でうわぁって言ったの?」


「相手が可哀想だなって」


 なんともみさらしい理由に、私はクスリと笑う。

 だが、槍使いが弱いのは意外だ。槍という武器は、初心者でも扱えて、且つ安全に振り回せる初心者用の武器だと思っていたが……。現実の戦争でも、槍を主に扱っていた筈だし、簡単に扱えると思うのだが。


「まぁいいや。一応槍の効果を確認しとくか」


 万が一相手と戦闘になった時、大剣の様なノックバック軽減などの装備効果があると、対応出来ずに不意を突かれる可能性もある。そう考え、私はスキル欄から槍の武器効果を確認しながら、木々の影を渡る様に相手に近付いていく。


「槍であれ、長槍であれ、装備やスキル効果に特別なものは無し。楯も持ってないと様だし、後は魔法の発射方の再確認かな」


 槍の説明を見終えると、次は魔法の発射方を再確認する。


「視野画面の中央にある十字か、カーソルを向けた方に発射ね。これ以外は無いっぽいかな?非攻撃魔法はマークした対象にかけられるっぽいけど……デバフや状態異常もこれに入るのかな?」


「デバフや状態異常魔法は攻撃魔法判定だよ。……で、そのキャビィはどうするの?」


 私の疑問に答えながら、みさは右手に持ったキャビィを指差してそう尋ねてきた。


「ありがと。後、これはあの人に投げる用。……ここからは黙っててね」


 対象にかなり近付き、約10m弱。そろそろ草木が晴れる所まで足を進めた私は、後ろに控えるみさに喋らない様伝える。みさはそれに頷くと、固定ポケットから転移石を取り出して木の影に隠れた。

 どうやら、窃盗後の行動を伝えなくても理解してくれている様だ。その事に口角を上げながら、私は地を這う様に身を屈め、道に面した木の影まで移動すると、木に背中を預けて道を覗き込む。


 槍の男は此方には気付いていない様子で、私から見て左……西に向かって歩いている。遠目でも分かっていたが連れはおらず、警戒心も薄い様子。立ち居振る舞いからして、十中八九私と同じ初心者だろう。好奇心に目を光らせ、楽しそうに道を歩いている所を見ても、その可能性が高い。

 観察し、タイミングを伺っていると、反対側の草陰から4体のキャビィが道に飛び出し、彼の目の輝きが増した。


「お!早速モンスターか!キャビィなのは残念だが……やってやんぜ!」


 なんとも、独り言が大きな御仁だ。此方の油断を誘ってるのか、新しいゲームに心躍らせているのか……。そんな事を思いながらも、想像通り男性は巾着を地面に捨て、戦闘を始める。


 だが……みさから話は聞いていた通り。いや、想像以上に槍は扱いが難しい様で、間合いを上手く掴めない男性の槍は空を斬り、懐に飛び込まれては、大きくよろける様に避けている。


(あれ、槍云々以前に戦闘センスが終わってるだけでは?)


 それでも、チュートリアルの同時討伐はクリアしているのだから、攻撃力は高いのだろう。と、その時──


「お、起きたか。結構気絶時間長かったなぁ」


右手に掴んでいたキャビィが目を覚まし、手足を激しく振り回し暴れ始めた。その所為で手を離しそうになるのを何とか抑えると、すぐに私は攻撃カーソルを表示させて構えた。


「おっとと。[風弾]」


 その瞬間、右手に掴んでいたキャビィは手から弾き飛ばされ、槍使いの男性がいる方向に吹き飛ばされる。とは言っても、彼とは数メートル距離があり、キャビィがぶつかる事はないし、私の方がキャビィとの距離は近い。だが、それでも問題は無い。

 私はキャビィが動き出す前に木陰から飛び出す。その物音を聞いて、やっと1体目を倒した男性が驚いて此方を振り向くが、もう遅い。


「[風弾]!」


 私はもう一度風弾を発射するとその場に立ち止まり、目の前のキャビィを男性に向けて弾き飛ばした。それを見て、男性は慌てて飛んで来たキャビィを槍で叩き落として消滅させるが、先程まで相手にしていた背後のキャビィに攻撃を入れられ、その場によろける。


「ぐぉ!いって!なんだよクソ!」


 男性の顔は驚愕と怒りの感情が浮かび上がっており、歯を食いしばりながら槍を後方に薙ぎ払う。だが、無闇に振るった槍は空を斬り裂き、キャビィの追撃をもろに喰らってしまう。


「ぐ、ごほぉっ!」


 キャビィの綺麗な空中二度蹴りにはノックバック効果がある様で、男性は私がいた場所に向かって飛んでくる。が、既に私は移動を始めており、男性とはすれ違う形になった。

 一瞬だけ男性と目が合うが、困惑と共闘への期待。そして、敵意を孕んだその瞳孔は、酔ってしまうのでは無いかと心配してしまうくらいに揺れていた。私か、キャビィか。何方を警戒するか悩んでいるのだろう。だが、男性が警戒すべきは動く者では無い。


「[風弾]!」


 私は、男性に向かって走るキャビィ達の間をすり抜けながら、地面に落ちている巾着に風弾を打ち込み、道の外に弾き飛ばす。


「あ!俺のバッグ!」


 男性はそう声を上げるが、何をされているのかは未だ理解していない様で、此方に何かする訳でもなく目の前のキャビィに槍を振るった。そして、安全圏まで離れた私が彼の巾着を拾い上げ、そのまま森の中へ走り続けた時、漸く自分の巾着が盗まれたのだと気付いたのか、男性は大声で叫び始める。


「おい!お前ふざけるな!っち、邪魔だクソ!」


 乱暴な言葉を吐き捨てながら目の前のキャビィを叩き潰し、私に向かって右手を翳す。


(魔法か)


 魔法が飛んでくる事を察知するが、私は既に森の中。木の影に隠れ、影を縫う様に移動をしながら移動する私にカーソルが合う事はない。


「[火球]!」


 彼の言葉と共に発射された火の玉は、誰も居ない明後日の方向へ飛んでいき、射程距離に達して消えた。その後は追いかけてくるかと思ったが、上手くキャビィが足止めをしてくれている様で、段々と声は遠ざかっていった。


「ここまでこれば大丈夫かな。……って、まだ怒ってる声聞こえるし。あれじゃ、恰好の的だね」


 周囲にはモンスターが常に湧き、そのモンスター達はプレイヤーが発した音に釣られる。現に、マップに映る幾つかの赤アイコンが、彼の居る方向に向かっていた。


「さて、私も一旦拠点に戻るかな。カバンの中の確認は後でいいでしょ」


 恐らく、ここまで逃げずとも途中で転移石は使えただろう。だが、もし使えなかった場合、逃げている最中に落としてしまう可能性を考えると、逃げ切った方が安全だった。逃げ切れる事も分かっていたと言うのもあるが。


「じゃあ、転移っと」


 転移石を使用した瞬間、私の視界は水色の霧に包まれると一瞬の浮遊感を覚えた後、ポータル広場へと切り替わった。


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