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「皆〜!ちょっと早いけど“こんこが〜”!」


 準備画面が開けて配信が始まると同時に、みさは自分のカメラに向かって元気に“いつもの”挨拶をする。その隣で、私は自分のカメラに向かって手を振りながら、「集まってくれてありがとね」と呟き、みさの進行を待つ。


「今日からなんと……本日から正式サービス開始した、ヘキグラをやって行こうと思うよ〜!皆、ベータ版の配信も見てくれてるから、詳しい説明は要らないよね?だけど一応……この配信が初めての人も居るだろうから軽く説明!このゲーム、ヘキサグランダンジョンズはフルダイブ型のMMOサバイバルダンジョンゲーム!狩って進んで集めまくっての、超ボリューミーなゲームだよ!」


 みさは普段よりもテンションが高めで、身振り手振りを交えて進行を続ける。流石“登録者10万人越えの有名配信者”としか言いようが無い。

 そう思いながら私は自分のカメラを持つと、みさの配信画面と自分の配信画面を確認しながらカメラの位置を微調整する。そして、双方の画面で視点がある程度重なった事を確認すると、みさの隣へ移動した。


「それで……皆知ってると思うけど、今日はコラボ配信!画面にチラチラ映ってるから気付いてると思うけど……って、ゲームアバターだから誰か分かんないか!じゃあ自己紹介よろしく!」


 ヘラヘラと笑いながら横に少しズレるみさに詰め寄ると、私はカメラに向かって手を振ると、みさの挨拶を真似しながら自己紹介を始める。


「皆おはよー。後、こがまるファンの人達こんこが〜、ちぃちゃんでーす。今日はこがまるの誘いでヘキグラをやりまーす」


 雑な自己紹介に雑な挨拶。自分でもそう思うが、私はこれで良い。キャラもそうだが、私にとって配信は趣味の延長。みさに誘われなければ配信をやるなんて発想が出ない様な、そのレベルのお遊びだ。それでも、登録者や視聴者は居るわけで……一概に遊びだけとは言い難い。


「ちぃ、もうちょっと可愛く挨拶してよね。折角の狐っ子が台無しじゃん」


「ダウナー系巫女狐っ子も良いと思うけど……寧ろ、そっちのが需要ありそう」


「……やしがに。よしちぃ、今日から君はダウナー系だ」


「それはやだ。良いから話進めてよ」


「ちぇ、絶対伸びると思うんだけどなぁ……。じゃあ話戻すね……今、私とちぃはキャラクリとチュートリアルを終わらせて、今からダンジョンに行く所なんだー。ちぃの視聴者の為に説明すると、このゲーム……ヘキグラは、草原なら草原、火山なら火山で1区画ずつが拠点含めて移動マップになってて、その中にダンジョンが幾つもある仕様なの。で、ダンジョンを探して攻略する感じになるよ」


「へぇ、私も初耳」


「まだ説明してなかったもんね。ダンジョン入るのはエリア移動式だから、外から見た大きさと内部の広さは全然違うよ」


「結構ゲーム要素が強いね。もっとリアルかと思ってたわ」


「仮想現実風のゲームとは違うね。その分、手が出し易いってのがあるけど……リアルと遜色無いって謳ってる割にはゲーム寄りだよね」


 ヘキグラは現実世界とほぼ同じ仕様の物理演算を使用しており、キャラクターの操作感やパラメータも現実の人間に近い物になっている。だが、ダンジョンやキャラクター以外の場所はゲーム寄り……非現実的な仕様らしい。


「まぁ、下手にリアルにされるよりは……フルダイブゲームをやらない人間からするとやり易いかも?」


「コンシューマーゲームばっかやってるちぃがそう思うなら、そうなのかもね。……じゃあ、ゲームの紹介はこの辺にして、早速ダンジョンに行こっか!皆も早く見たいでしょ?」


「……とか言って、自分が早くダンジョンに潜りたいだけでしょ?」


「バレた?」


 本当は、配信を始めてからすぐにでもダンジョンに向かいたかったが、視聴者数が安定するまでに時間が掛かってしまった。前倒しで開始した弊害であるが、その間を何無く繋ぎ止められるみさの手腕には脱帽だ。


「じゃあ、木漏れ日の洞窟へ〜……レッツゴー!」


「やー」


 素でテンションの高いみさの掛け声に合わせて私も腕を上げると、私達はカメラを自動に切り替えてから南西へ歩き始めた。


 ……が、十数秒後。テント群に隙間ができた瞬間、前方に木々で出来たドームが目に入り、私達は口を開く。


「もしかして……アレが木漏れ日の洞窟じゃね?」


「……うん。森林エリアで見たフォルムだ。草原だとあんな分かり易いのか……」


 草原エリアは高低差が殆ど無く、見渡しも良い。その分、描画距離内であれば大体の物が見つけられる。それは、ダンジョンも例外では無い様だ。


「地上1階からスタートのダンジョンって、ダンジョンのある場所が盛り上がってたりするんだよ。あんな風に。でもそっか……草原エリアはこんな利点もあるのか」


「こがまるって、草原エリアはあんまこなかったの?」


「うん。森林エリアと大して素材やモンスターが変わらないからね。それに、私が来た時にはもう少しテントの数も多かったし。ダンジョンの位置も違ったんじゃない?」


「いや知らんけども。でも、これだと迷わなくて済むね」


「そだね〜。早く行こ」


 そう言って小走りになるみさを追いかける様に、私もその場から走り出した。


 数十秒後、ダンジョンの前に辿り着いた私達は、ダンジョンの周囲で屯している他プレイヤー達を見つけた。


「何してんだろ」


「B5までの案内人を探してるんじゃない?それか単純に、一緒に入る人を待ってるとか」


「案内人?」


「チュートリアルで教えてもらったと思うんだけど、ダンジョン内のマップは周囲を自動で周囲をマッピングするだけで、最初から全部が書かれてる訳じゃないでしょ?だから、既にマップを埋めたプレイヤーは、マップを埋めてないプレイヤーに道案内して儲けたりしてるの。で、アレはその案内人を探してるんだと思う」


「ふーん」


「まぁ、6時間毎にダンジョン内はリセットされるから、儲けるのも簡単じゃ無いけど」


「取り敢えず、今の私達には関係無い感じね」


「そんな感じ。じゃあ入ろっか」


 そう言うと、ダンジョンの入り口である木々の隙間の前まで向かい、薄暗く先の見えない森の中へ足を踏み入れた。

 どこがエリアの境界だったのか分からないが、いつの間にか視界は暗転し、先程までの喧騒が消え失せる。だが、それも束の間、草木の擦れる音と共に視界が青く染まり、次の瞬間にはダンジョン内のセーフティエリアに移動していた。

 取り敢えず、周囲の状況を確認する為に辺りを見回すが、セーフティエリアには私とみさしかいない様で、セーフティエリアの外にも他プレイヤーの影は見当たらない。


「ダンジョンとうちゃーく!って、到着はちょっと前に済んでるか」


「にゅうじょーう……よりは到着の方がしっくりくるけどね。もっと前に言うべきだったんじゃ無い?」


「やしがに!皆見て〜!これがヘキグラのダンジョンだよ〜!って、皆もう見慣れてるよね」


「私の視聴者は、初めて見る人も居るんじゃ無い?……でも、チュートリアルとは少し雰囲気が違うね。なんか興奮してきた」


 木漏れ日の洞窟のF1の見た目は、擬似ダンジョンと大差無い。恐らく、擬似ダンジョンの内部は、初期拠点の最初に攻略するダンジョンを模して作られたからだろう。それでも、少し離れた場所から感じる人や戦闘の気配を感じるからか、チュートリアルの時とは感じる空気が違った。


「おぉ、やる気満々だねぇ。じゃあ、ちぃの為にダンジョン入場の説明を軽くするね」


「お願いします」


「ふふん!殆どのダンジョンは、入り口から中に入った時はランダムスポーンになってるの。ベータの時と同じ条件なら、周囲30m以内にプレイヤーが居ない場所に飛ばされる感じ。だから、出待ちとかはあんまり無いかな。それでも、最初は周囲にプレイヤーが居ないか警戒した方が良いけどね」


「入り口って言っても、入場先はランダムなんだ。有難いっちゃ有難いね。入った瞬間PKされるのは御免だし」


 初期地がランダムスポーンでは無く、固定スポーンだった場合、無防備なプレイヤーを一方的に狩る事が出来てしまう。それ以外にも、高レベルプレイヤーがスポーン先で待機するだけで、ダンジョンそのものを占拠出来てしまう。そうなると、始めたばかりのプレイヤーが不利になってしまうので、運営的にもランダムスポーンの方が都合が良いのだろう。

 その分運が悪いと、地形やモンスターの配置によっては、ダンジョン探索自体が困難、又は不可能になってしまう可能性もある。

 逆に言えば、数分で目的階層に到達出来る可能性もある訳だが。


「後、同じタイミングでダンジョンに入った人とは、同じセーフティエリアからスタートする仕様だよ。だから、わざと合わせてくるプレイヤーには注意ね」


「おっけー。それ知ってないと危ないな……って、セーフティエリア消えたね」


 みさの説明を聞いていると、周囲を囲っていた青い膜が音も無く消え去り、近くの薮が怪しく揺れ始めた。


「時間が経ったり範囲から出ると、入場時のセーフティエリアは消えるんだよ。で、近くでmobがスポーンする様になるの」


「へぇー。って事はつまり……」


 私は右手に掴んでいた巾着の紐を手放し、腰に納めた短剣に手を伸ばす。


「祝!初せんとーう!」


 みさの嬉しそうな声と同時に、トスン。と、巾着袋が地面に落ちて砂埃を上げる。それをゴングの合図と見たのか、薮から数匹のキャビィが飛び出してきた。


「さぁ、ちぃ!やっておしまい!」


「やー!」


 キャビィ達に向かって手を伸ばし、そう命令するみさのノリに合わせて、私はみさの前に一歩出る。そして、短剣を顔の前に構えながら身を屈め、鋭く息を吐くと同時に、1体のキャビィに狙いを定めて全速力で駆け出した。


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