2垢 ヤンデレ?
思井君が、おじさんの中身だった。それは衝撃的な事実。でも、そんな衝撃的な事実があったからこそ、私は思井君なんて言う普通ではつながれないようなイケメンと繋がることができた。
でも、だからといって私とおじさんの関係性は変わらない。リアルで恋人となっても、デートをしても、MAHOはMAHOで、おじさんはおじさん。中身の私たちなんて関係はない。
ーーMAHOちゃん今日も可愛い
キモいーー
消えてなくなれば良いのにーー
ーー辛辣っw
ーーでもそんなMAHOちゃんも尊い
ーーデュフフッ!
キモッーー
メッセージをやりとりする私たちは、リアルのことを覚えていないわけじゃない。でも、私たちはそれぞれの役を演じる。
思井君は気持ち悪いおじさんで、私は冷たい態度の女子高生。
……でも、この関係性も嫌いじゃなかった。勿論リアルの関係性も温かくて好きだけど、こっちはこっちで昔のことを思い出すから……。
そういえばーー
クラスの女子の悪口が最近ひどいーー
ーー誰?
ーーおじさんその人とはもう二度と喋らない
おじさんは、というより、おじさんの時の思井君も愛はとてつもなく重い。私の悪口を聞けば本当にその人とは私が許さない限り二度と話をしないし、自分がその日に話をした異性は全て報告してくる。……浮気をしてないって示すためらしい。
でも、流石に重すぎる気がするんだよね。……まあ、私も似たようなことをしてるから人のことは言えないんだけど。
教えないーー
ーーなんで?
おじさんが関わると面倒くさいーー
ーーめ、面倒くさい!?
ーーがっくし……
その後、肩を落とした動物のスタンプが送られてくる。おじさんがこんなのを使ってると思ったら気持ち悪いんだけど、思井君が使ってると思うと可愛く思えてしまう。顔の違いって凄いよね。……だけど、なんで顔も普通な私が思井君に選ばれたのかは分からないけど。
「……おはよう。裏垢ちゃん」
「ああ。うん。思井君、おは、よう?」
次の日。いつものように私に後ろから抱きついてきて挨拶をする思井君。だけど、振り返って顔を見てみると、その顔にはどこか覇気がない。
私は首をひねって、
「何かあったの?」
事情を聞いてみる。思井君がここまで落ち込むのって珍しいからね。
思井君は顔を上げ、
「裏垢ちゃんに面倒くさいって言われたから……落ち込んでる」:
昨日の最後のやりとりで落ち込んでいるらしい。相変わらず思井君は愛が重い。私に嫌われたくないって言う気持ちがひしひしと伝わってくる。
思井君が落ち込んでると私も辛くなるから、私は急いで訂正を。
「あ、ああ。……べ、べつにあれは思井君が面倒くさいって言う意味じゃないからね?思井君が関わると面倒くさいってだけだから」
「そう?面倒くさくない?本当に?本当にそう思ってる?」
「ほ、本当だよ」
私の顔を見つめ、真偽を確かめる思井君。
こういうときにも愛を重く感じるけど、面倒くさいなんていう感情は全く湧いてこない。私だって、面倒くさいなんて言われたらこうやって縋り付く自信がある。
「……そう。なら良いんだけど」
思井君は少し納得してないような顔をしながらも私から離れた。それで円満に解決。……になるはずなのに、
「ねぇ。思井君」
「ん?どうしたの?」
思井君に話かける女子。私ではなく、陽キャグループの中でも中心的な子。私とは正反対で、目立ってて明るくて綺麗。
「私も抱きついて良い?」
フレンドリーな感じで、思井君に尋ねてくる。きっとこの女子としては思井君に抱きつきたいんだと思う。だけど、
「えっ。何?ボクの裏垢ちゃんは渡さないけど?」
思井君はそう勘違いする。……いや、これはわざとなのかもしれない。思井君は、自分がモテることをちゃんと理解しているから。
……それなのに、なぜか私と付き合ってるところは変人だと思うけど。
思井君の反応に陽キャ女子は目を丸くしながらも
「い、いや。裏垢さんじゃなくて、思井君に抱きつきたいんだけど?」
「ふぅ~ん。……それはやめて」
思井君は真顔で首を振る。
昔はここまでではなかった。もっと気軽に女子とは触れあってたし、優しかった。でも、私と付き合いだしてから思井君は他の女子と触れることを拒否してる。私に対して誠実でいたいらしい。
何度も思うけど、愛が重い。
「い、良いじゃ~ん」
それでも陽キャは思井君に近づく。でも、思井君は、
「え?ちょっと!?思井君、私を盾にしないでくれない!?」
「ん?離れるのも嫌だし、これが1番楽かなって」:
私の後ろに隠れて、陽キャから逃げる。思井君はこれが楽とか言ってるけど、私としては全くもって楽ではない。陽キャが引きつった笑みで睨んできてるぅぅぅ!!!いやぁぁぁ!!怖いぃぃぃ!!!!
なんて思ってたはずなのに、
「……ねぇ。思井君。そんな地味な子じゃなくてさ、私にしとかない?私、こう見えても尽くすタイプなんだけど?」
私は思わず腰にあるカッターナイフに手が伸びそうになる。でも。ポケットに手が入る前に思井君から手を捕まれた。
私は小声で、
「(やめて!あの女が殺せない!!)」
「(いやいやいやいや!殺すのはやめようか!ボクが無視するだけで我慢してあげて!!)」
抗議するけど、思井君に必死に止められて思いとどまる。
……決して思井君が重いのは、私が人に手をかけないようにするためじゃないからね?そこは勘違いしないでよ。
そう思う私が落ち着くのを確認してから思井君は私の手を解放し、
「ごめぇん。ボク、学校のボクしか知らない子に壁を越えさせる気はないんだぁ」
私の方をかなり警戒しながら陽キャに謝る。それを聞いて、やっと私はポケットにいつでも入れられるようにしていた手を普段の位置に戻せる。
思井君が明確に拒否したから、陽キャも引いてくれると思うんだよねぇ。
なのに、
「はぁ?じゃあ、教えてよ。私は何でも受け入れるよ」
なんて薄っぺらい言葉を陽キャは宣う。
私と思井君の場所は、2人だけの場所!他の人に踏み入れられるなんて、許せない許せない許せない許せないぃぃぃ!!!!
「(裏垢ちゃぁぁぁぁんっ!抑えて抑えて抑えて抑えて!!!!!)」
「(思井君!邪魔!どいて!!)」
「(じゃ、邪魔ぁ!?流石にそれはひどいってぇぇ!!!)」
またポケットに伸びる私の手を思井君は必死に抑えながら、
「頑張って探して。学校の外の僕は1つじゃないんだから。ボクの壁を越えたいと本気で思うならそれくらいやってよ」
「……ふぅん」
不満そうにしながらも、陽キャはそれ以上言ってこなくなくる。私はそれを見てやっとまた落ち着くことができるようになる。
思井君はその私を見て安堵している。
「おぉい。HR始めるっぞぉ」
「あっ。はぁい!」
先生の言葉を聞いて、これ幸いとばかりに思井君は席に着く。陽キャも不満そうな顔をしながら去って行った。
私はほっとしながら、思井君をじっと見つめる。
私は知りたい。思井君が言っていた意味を。思井君の学校外の姿が1つじゃないと言うことを。……つまり、私には見せてない姿があると言うことを。
知りたい。私はその姿を知りたい。
知りたい。知りたい。知りたい。知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい
思井君の全てが、知りたい
ねぇ。教えて?ーー
教えてよーー
「SNSで馬鹿にしてるおじさんに素顔の写真を送ったら学校で3番目にイケメンな男子に話しかけられた」《完》
この作品は一旦ここで終了です!
この作品の他にも同じような短さの作品を投稿しているので、作者のページから「長編化予備群」のシリーズを覗いて頂ければ!!
人気があった作品は長編化します。勿論この作品も……チラチラッ(ブックマークや☆をつけて頂ければ、続きが書かれるかも……