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ランダムチャットから始まるラブストーリー

作者: ウルタール

もし、十年前の僕に対して今の状況を説明しても、「そんなん与太話やん」って一笑に付すと思う。

五年前の僕やったら、「そうなん?おめでとう!」と言いながら、ずっと住んでた大阪を離れることに対してゴネたやろな。


今の僕は3月に入籍を控え、慣れない町で去年の1月に取った免許を携えて、前職と所縁も全くない業界で仕事に従事してる。

自分でも環境変わりすぎやろって思うけど、今はこれで良いんやって思える。

新しい環境は僕の好奇心を適度に刺激してるし、ようやく若葉マークの外れる軽自動車は周辺散策の立派なお供。

関西弁じゃない自分の話口に気持ち悪いと思う頻度が下がって、日々の仕事ではやっとルーティーンを理解できてた。

今は業界の専門的な知識を吸収して資格勉強の参考書とかを剪定してるとこ。




僕は、大阪府民から宮城県民になった。




---




思い返せば七年前、僕は昔馴染みの先輩から「そんなとこでバイトしてるぐらいならウチで働いたらエエやん!」と誘われた工場で働いてた。


実家住まいやったから、仕事終わりに母がご飯を作ってくれてたけど「早く彼女を捕まえろ」とか、「結婚して私たちを安心させろ」と言った話を、泥酔した両親から聞かされるのがイヤやった。


けど血は争えないもので、僕も酒は好きやったから贔屓にしてた飲み屋さんには良く通っていた。


僕は酔うと誰かと話をしたがる所謂、絡み酒と分類されるクチ。

カウンターで隣に座った知らんおっちゃんともキャッキャ言いながら話すし、よく分からん誕生日パーティに招かれたこともある。

だから店を出てから一人で黙々と帰る時間が嫌いやった。


彼女がおる時は大抵、彼女に電話をしながら帰るんやけど(冷静に考えれば良い迷惑)当時付き合ってる彼女はおらんかったから、インターネットで他の人とランダムに会話できるとこで通話してた。




春の月が綺麗な晩に、飲み屋から帰る途中で衝動的に何か食べたくなった僕はコンビニに寄って塩焼きそばとスミノフアイスを買った。

時節柄、近所で有名な藤の花を見れるスポットで花見をしながら話し始めたのが僕らの初めての出会い。

会っている訳じゃないから出会いと表現して良いのか分からんけど、塩焼きそばと藤の花は僕らの思い出の品。


何を話したのかは全然覚えてないけど、東北出身で関西弁に免疫がなかったのか笑う声を聞くだけで嬉しくなった。

関西人は自分の下らん話にも笑ってくれる娘に弱い(諸説あり)ので、話した内容は全然覚えてないけどもっと話したいと思ってた。



Skypeの連絡先を交換して僕が飲みに出た時に、彼女が寝るまでの子守唄代わりによく話ようになった。

同僚の変なヤツの話、自分の昔の失敗談、学生やった彼女がどんな勉強をしてるのか、最近ハマってる趣味の話。

関西弁でふざけがちな僕と落ち着いたトーンのちょっと訛りのある標準語で話す彼女。

写真も交換してなかったけど不思議とウマの合うインターネット上の友人。

僕が25歳、彼女が20歳の春の話。




---




夏のある日、彼女が彼氏と別れたと聞いた。


あんまり愚痴もノロケも聞いてなかったからその彼氏がどんなヤツか良いとこも悪いとこも全然知らんけど、すごいもったいないと思った。

思っちゃった事は大概僕の口から親しい人へは漏れるので告白した。


詳しい告白の言葉は全然覚えてないけど、多分彼氏アホやなとか、もったいないとか、付き合おうって感じの事を言ったんやと思う。

こういう大事な日や言葉を思い返したときに覚えてないってのが、申し訳ないけど僕らしいと思う。


付き合ってからSkypeよりも使いやすくてPOPなスタンプも送れるLINEを交換した。

僕らの関係は酔っ払った時に話すおもろいヤツから、毎晩LINE通話する遠距離カップル(尚、お互いに顔は知らないものとする)に変わった。


不思議とお互いに顔写真を見たいって話にはならへんくって、飲み友達にはイマジナリー彼女とからかわれてた。

貯金はしてたけど、当時新潟の大学で下宿してた彼女のところに押し掛けるのもどうかと思って躊躇してた。



そんな時に彼女が友達と大阪に旅行に来るって聞いて会ってみたいと思った。

彼女たちのスケジュールの都合と僕のスケジュールの都合でその時は無理やったけど、その辺りから僕はお金を貯めて彼女に会いに行くスケジュールを立ててた。


下宿生やった彼女が下宿先に泊めてくれるって話になって正直な話、宿代浮くなーぐらいしか思ってなかった。


僕が26歳、彼女が21歳の夏の話。




---




仕事終わりにキャリーバッグを転がして、難波で腹拵えしてから乗り込んだ夜行バス。

1月の乾燥する車内でのど飴舐めながらマスクして速効で寝た。


到着した1月の新潟はメチャクチャ寒かった。

雪国をちょっと舐めてた僕は寒さに震えながら夜行バスを降りて、電車で彼女の下宿の最寄り駅に向かった。


学生以来、大阪から出たことなかった僕は知らん土地にウキウキしながら彼女どんな子なんかなぁってワクワクもしてた。



改札出たとこで待ち合わせしたけど、お互いに顔も知らんかったから電車を降りてからLINEで通話しながらお互いを探した。

ていっても梅田とか難波と違ってガラガラな訳で、携帯片手にキョロキョロしてる女の子なんて一人しかいなかったのですぐ分かった。



話はめっちゃ変わるけど、僕がカウンターで隣に座った知らんおっちゃんと話すきっかけはだいたい店主から話を振られたり、オジさんから絡んで来るパターンが多い。


その時おっちゃんは大概「兄ちゃんなかなかシュッとした顔してるなぁ」とか「なかなか男前やのに何で彼女作らんの?」「娘フリーやったら紹介したったのに!」とかそんな感じで。


最初の内は社交辞令と思って適当に流してたけど、僕はおっちゃん目線では結構イケメンらしい。



後で聞いた話やけど初めて会った彼女は僕を見て想像と違う(良い意味で)ショックでいっぱいいっぱいやったらしい。


僕は僕で思ってたよりも背が低いんやなぁとか、眼鏡女子やったんか、とか思ってた。


これが僕らの初対面。


彼女の家の近くの喫茶店で朝昼兼用の昼ごはんを食べながらいろいろ話してた(確かオムライス)晩はスーパーに買い物に行って、何でかは忘れたけど僕がとん平焼きを作った(後日彼女はソースがあまり好きではないと聞くことになる)

僕が27歳、彼女が22歳の冬の話。




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彼女と実際に会ってから僕らの関係は典型的なバカップルになった。


僕は結構ノロケる人間なので飲み友達には「もし、会うとしたらお前の葬式でどうも初めまして、お噂はかねがね……ってするんやろうな」とか言われてた。

彼女にも頻繁にその友達の話をしていたのでその絵面はちょっと見てみたいと思ってしまった。



勤め先はお休みはしっかりあるけど稼ぎの良いとは言える職場じゃなかったので、頻繁には会えてなかったけど、だいたい3ヶ月に一回位のペースで彼女とは会ってた。


彼女は大学を卒業して無事に就職してたのでお互いにお金をちょっと貯めて旅行した。

東京で行ったことなかったけど気になってたコミケに連れていってもらったり、横浜の繁華街をあんなんあるで!ってロケみたいにブラついたり、宇都宮で昼から餃子とビールを満喫して日光東照宮で御朱印帳書いてもらったり。


関東圏を中心に現地集合して美味しいもの食べて旅館やホテルに泊まって現地解散。

楽しい時間やった。



大阪旅行を計画した時に付き合ってる者ですって挨拶くる?って話たら彼女はちょっと相談するって言ってた。

彼女がお母さんに相談したら「いきなり大阪の人!みたいなのお父さんがびっくりする」「実際に結婚するタイミングで!」という話らしい。


僕が住んでるらへんではだいたい適当に連れてきて今付き合ってる人!みたいな感じで紹介してから入籍なり同棲するときに結婚させてください!って人が多かったから聞いてびっくりした。


大阪に連れてって両親に軽く紹介するつもりやったから、市内にホテルは用意してなくて急遽みさき公園で中学生みたいなデートしたのは良い思い出。

僕が29歳、彼女が24歳の日々。




---




次は箱根湯本に行こう!って話をしてた頃。


彼女が急に行けないって言い出した。

あんまりテレビを見てなかった僕は嫌われてしまったかと思ってめっちゃ焦った。


話をちゃんと聞くとめっちゃすごい伝染病が中国の武漢で出てきて、日本でも流行りそうって話で。

そんなん今までもSARSだなんだってあったやんとしか思ってなかった僕はじゃあそれ収まったら行こう!って話を先延ばしにした。


彼女も病院勤めやし移らんように気を付けてなって言うと彼女の病院ではコロナ患者を入院させることはないって聞いて少し安心した。


度々、箱根のあれが美味しそうだとか観光船が出てる!とか忘れないように話を振って、収まる兆しを見逃さんようにニュースもマメにチェックしてた。

国内感染者数がどうとか出るサイトにブックマークして、早く収まったらいいねって彼女とは夜に通話するだけの毎日に戻った。


僕は飲み友達とも趣味の友人とも会えずに鬱々とした緊急事態宣言の中で時間だけが過ぎた。



時間が少し経過して緊急事態宣言も明けたし会おう!って話を持ち掛けてみると病院側から県外の方との接触禁止の行動指針が出たと伝えられた。


我ながら重い男やなってちょっと思いながら彼女の勤め先をGoogleで検索したら県外の患者を見れないというお知らせがHPに表示されてた。


嘘は吐かれてないって安堵と、特効薬なり何なりがないとどうしようもないんかって不安が渦巻いてた。


彼女は僕とは大違いで真面目なので、本当に家と職場の往復する毎日でホンマに辛かったと思う。

僕ばっかりワガママ言うて困らせてもアカンなって思った。

通話する中で彼女の職場の愚痴も増えていってた。

僕が30歳、彼女が25歳の日々。




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新型コロナウイルスが流行し、そして彼女と会えなくなって一年がたった頃。


ワクチンも出始めてお互いに二回打ったけど、それでも彼女の勤める病院は県外の方との接触を控える行動指針を撤回しなかった。

流石に一向に会おうとしない彼女に対して頑固やなと思ってた。


この一年会えない日々が続いて多分冷静じゃなかったと思うけど、もう一回あの日に戻っても同じ事考えたと思う。



結婚するか分かれるかやなって。



考え始めたきっかけは彼女の勤め先にも県外で働く旦那さんとかいるご家庭もあるみたいで家族が会う分には問題なさそうって思ったんやと思う。


言い方悪いけど別れちゃって別の人を見付けるか、結婚っていう大義名分を振りかざして会うか。


そのどっちかしかもうないなって思った。


夜LINEで何でもないような会話の中で、いきなりでアレなんやけど結婚しようってプロポーズした。

彼女の第一声は「え?なんて???」やった。




次の日に僕は辞表を上司に提出して、引き継ぎもしっかり行って3ヶ月で退職した。

有給もしっかり全日もらったのでそれまで持ってなかった車の免許を有休消化期間中に取った。


教習所のおっさんに「おっそいな、なんでもっと早く取りに来なかったんや。普通もっと早く来るやろ」って言われた時にはかなり苛ついたしこっちは金払ってんやぞ?って言っちゃったしここに書く位にはまだ根に持ってる。


その間にオンライン上で彼女のご両親に挨拶を済ませてこっちの両親にも挨拶してもらった。

いつも明るく、喋りすぎなぐらいの母親が涙で言葉に詰まってる姿を見てこっちも泣きそうになった。


無事に一発で免許も取れた1月、約30年住んだ大阪から宮城へと移る事を知り合いに言えるだけ言い回った。

元々知り合いには彼女の話を会い始めた位の頃から話していたのでそこまで驚かれる事はなかった。


中学からの同級生(胸筋をピクピク動かせれるマッチョ)には泣かれ、職場に誘ってくれた先輩や趣味の友人達からは寂しくなると言われた。

それでも当時の僕の心には雲一つなかった。

僕が31歳、彼女が26歳の冬。




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宮城に移住してからも数ヶ月彼女とは会えてなかった。

コロナの感染者数が増えたりとかもあったが埼玉に移動する事になったから。


再就職自体は比較的スムーズに進んだ。

全然経験したことのない業種に勤めてみたいっていう僕のワガママを除けば。

多分普通に工場探してって方がスムーズやったと思う。


けど、一回キリの人生で職を変えるならやったことないことをどうしてもやってみたいと思ったねん。

その結果、重機の整備士(見習い)へとジョブチェンジする事になったけど、就職先の事業所では研修する余裕がないとの事で、本社のある埼玉県へと研修で一年ぐらい移ることになった。


こんな事もないと埼玉になんか一生行かんなと割りと失礼な事を思いながら籍は宮城県へと残したまま埼玉県に移住した。

幸いにも資格や手に職を付ける環境に行くことは良いことだと彼女も彼女のご両親も了承してくれて、うちの両親は身体だけは壊すなよと見守ってくれた。


埼玉で研修を初めて何ヵ月かたった頃、彼女のご両親にもう一度直接ご挨拶に伺った時に彼女にも再開した。


ショートカットにイメチェンしてたけど久々に会う彼女は贔屓目が多分に含まれるけどかわいくて、初めて会った時よりも嬉しい自分がおった。

緊張しすぎて深酒して寝坊したのは一生彼女に頭の上がらない笑い話。



大阪にも一度だけ連れて行って(流石に結婚の為にって話で病院には何も言われなかったみたい)二人で宮城県に住む家を借りて、初めてクリスマスを一緒に過ごして(これまでは通話だけでクリスマスに会ってなかった)年を越した今、僕は最強に幸せです。

このまま入籍して幸せな家庭を築きます。




最後になったけど、育ててくれたし迷惑もいっぱいかけた父、母、姉に義兄さん。


いい加減やのにちゃらんぽらんな僕と付き合ってくれた友人達。


仕事に誘ってくれてた先輩、結婚資金を貯めるぐらい長いこと雇ってくれた前の職場皆さん。


素性もよく分からんし、全然即戦力じゃないのに中途採用してくれた今の職場の皆さん。


彼女を大事に育ててきてくれた義父さん、義母さん、義兄さん。


ありがとうございました。

これからもよろしくお願いします。

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