5話
「ハァハァハァハァ……やっと……ついたぁ」
「遅いぞ賢斗ぉ!! 約束時刻はとっくに過ぎてるぞ!」
死神タイマーを確認する……と、長い針は5を指していた。
(12時5分……5分の遅刻……くっそぉ、美夜の野郎!!今度は絶対に待ってやらねぇ!!)
「賢斗くん、凄い汗……良かったらこれ使って」
カバンから制汗シートを取り出し、俺に差し出した。
「い、いいの? ありがとう!」
(やっぱさすが聖奈さんだな!! どこかの死神さんと違って気が使えて女子力も高い!!)
「あれ、そういえば美夜は?」
「美夜さんならおすすめのスポットがあるとか言って凄い速さで公園に行きましたよぉ?」
(どんだけ下調べしてきたんだよ。)
「はぁ、しょうがない……遅れてきた罰だ。買い出し行ってくるから、先に行って美夜と合流しててくれよ」
「おうよ!! 任せとけ!!」
「1人だと重たいだろうから、私もついてく」
「え、ぜんぜん大丈夫だよ? 聖奈さんは時間通りに来たんだし、先にレジャーシートの上でくつろいでなよ」
「ううん、大丈夫」
(こ……これは2人で会話するチャンスなのでは?)
「じゃあ、お言葉に甘えて手伝ってもらおうかな。そしたら大吾、美夜を見つけたら位置情報を送ってくれ」
「おう!! 気をつけて行ってこい!!」
「ことりちゃんもお願い」
「はいなのです!!」
そう言うと、大吾とことりは美夜のいる公園の方に駆け出して行った。
(さて……聖奈さんと2人きりは流石に緊張するな。何か話さないと命がもたない。)
「お花見とかいつぶりだろ……聖奈さん毎年してるの?」
「ううん、私も久しぶり……2年前、中学生3年の春にクラスのみんなで一緒にお花見した以来かな」
(ああ、そういえばお花見をした気が……する。)
「あ……もうコンビニ着いたみたいね」
『ウィーン』
店内に入る。
「えーっと? お花見といえば、サンドイッチとかおにぎりとか買って行けば良いのか?」
「ううん、それは心配ご無用だよ。お昼ご飯は家で作ってことりちゃんに持たせて置いたから」
(な、なにぃ!? 今日は手作りご飯を頂けるのですか!? なんてご褒美なんだぁ〜。)
「だから飲み物だけ買って帰りましょ。 ことりちゃん達はもう合流したみたいよ、ほら」
聖奈さんがスマホ画面を見せてくれる。
ことりから美夜と大吾の準備姿の写真が送られてきていた。
「お、ほんとだ、じゃあ急いで戻るか」
俺と聖奈さんはオレンジジュースやコーラなどの定番の飲み物を買い、ことりの示す現在地に向かう事にした。
「確か……ここら辺のはず」
「うひょ〜い、聖奈さぁん、賢斗さぁん!! こっちですよぉ!!」
ことりの呼ぶ声がする。
「あ、見つけた」
「お、みんな揃って……ってすげぇとこに場所取ってんな!!」
美夜達がいる場所は、大きな桜の木の真下だった。
そこはどの桜の木よりもはるかに大きく、絵になる様な立派な桜だった。
美夜達の元へ向かう。
「スゲェなこの桜の木!!」
「へっへ〜ん!! 凄いでしょ? 前日のリサーチってやつなのよ!」
「へいへい。飲み物買ってきたぞ」
「うっひょ〜!! 喉がカラカラなのです〜!」
美夜がコンビニ袋をあさる。
「あれ、賢斗……食べ物買ってきてないじゃない!!」
「それはですね……」
「私、サンドイッチ作ってきた」
「え、聖奈さんが?」
「あ!! そうです、お伝えするのを忘れておりましたなのです!! 聖奈さんに渡されていたのです!!」
ことりが重そうなバスケットケースを開ける。
「お、おおおおおお!! こいつはスゲェうまそうだな!!」
「本当ね!! すっごく美味しそう!!」
「ぜんぶ独り占めしたいのですぅ……」
「みんな、ありがとう」
それもそのはず、手作りとは思えない程の品揃えと美味しそうなボリューム感。
種類は様々だ。
タマゴサンドにBLTサンド、ツナサンドにハムサンド、それにカツサンドにデザートのイチゴサンドまであるではないか。
「凄いよ聖奈さん、恐るべし女子力」
「そんな事ないよ……ほら、食べよう」
それから俺達は聖奈さんの作ってくれたサンドイッチを一つも残らず平らげた。
コンビニ以外で食べるサンドイッチなんて人生で初めて食べたが、想像を遥かに超える美味しさで心から感動してしまった。
(ありがとう、聖奈さん。この味は一生忘れないよ!!)
「うひょ〜本当に美味しかったのです、また食べたいのです!」
「うん、また作るね」
「そういえば夜月、このあと何するんだ? 俺は上手いもん食ったから力が溢れ出てるぜ!!」
「ああ、確かにそうだな……美夜、昨日夜な夜な考えてたけど、何か思いついたのか?」
「フッフッフッ、良くぞ聞いてくれたわね。今からする遊びは」
「遊びは?」
「かくれんぼよ!!!」
「かくれんぼ? お前、よなよな考えてたくせにかくれんぼなのか?」
「そうよ! この花見の中だもの。走り回るのは周りに迷惑でしょ?」
(確かに一理あるな。)
「よし、ジャンケンしよう」
ジャンケンした結果、まさかの負けたのは聖奈さんだった。
是非、俺と交代してあげたいところだが、負けたのに少し嬉しそうだったためやめといた。
嬉しい感情はわからなくもない、1人VS大人数の方が断然やる気が出るし、ドキドキする。
開始時間は3分後で、聖奈さんが数え始めたため、みんなバラバラに散った。
俺はなんとなく、時計塔付近の方に向かう事にした。
(とっくに3分過ぎてるし、どこに隠れようかなぁ。ここら辺なんかあるかなって思ったんだけど、なんもねぇな。ちょっと戻って木の上でも登るかぁ。)
花見をしに来た人達は、ただの木など見向きもしないため、人目に触れず登る事ができた。
(おぉ〜!!めっちゃ景色が良いなぁ……この公園ってこんなに桜の木が広がってたのか。)
この公園の桜の木達を独り占めしている、そんな気がした。
そう、景色に夢中になっていると俺の木が揺れ始めた。
(え、もしかして見つかっちゃった?)
息を潜めて後ろを振り返る。
「あれ、賢斗じゃない、あんたこんな所で何してんのよ」
振り返るとそこには美夜がいた。どうやら隠れる場所が被ってしまったらしい。
「おい、ここは俺が先に占領したんだぞ。他の木に行けよ」
「いやよ、そんなの。あなたレディーファーストって言葉を知らないの? ここは私に譲りなさい」
「いやまて、あそこにいるのは聖奈さんだ。大吾の奴、もう見つかってやがる」
大吾は、知らない人のお花見に潜入して隠れていたらしい。
(あいつのバカさ加減とコミュニケーション能力はどうなってんだよ。)
「美夜、今ここで降りるとかえって2人とも見つかってしまう。ここは一旦休戦といこう」
「はぁ、しょうがないわね」
それから俺ら2人は協定を結び、2人で身を隠す事にした。
「なぁ美夜、ありがとな」
「な、なによ急に」
「美夜のおかげで久しぶりに楽しい思い出が出来た。大吾も元気そうだったし、新しい友達もできた。それに聖奈さんとも話す事ができた」
「そう、良かったじゃない? 私もこうして誰かと遊ぶのは久しぶりで楽しかったわよ」
美夜は照れながら満足げな顔をしていた。
「美夜は本当に幸せを与える死神なのかもな……ってやばい!!!」
って言っていると、手を滑らせて木から落下してしまった。
「ちょ、賢斗大丈夫!?」
「くっそ、いってぇ〜!!」
「あ、賢斗君みっけ……ついでに美夜ちゃんも」
「聖奈さん!?」
俺が落ちた事により、聖奈さんに見つかってしまった。
美夜が木から降りてくる。
「もーほんと何してんのよあんた」
「見つかった事より俺の落ちた事の心配をしてくれよ」
「後はことりちゃんだけね」
「あの子どこにいるのかしら。見た目は子供っぽいから探すの大変そうね」
「えーっと、あ、ことりならあそこにいるぞ」
俺はことりのいる方へ指をさした。
「お、楽しそうに子供達とバドミントンしてんじゃねぇか!! 俺も混ぜてくれ!!」
大吾はことりの方へ駆け出して行った。
(もう、こいつら何なんだ。)
こうして、かくれんぼの幕は閉じ、人生最後の花見にも幕を閉じたのだった。
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