1話
「なぁにしてるのん」
「なぁにしてるのんって……入学式が終わって疲れてるから寝るに決まってんだろ。つーか、なんで美夜が学校に来てんだよ」
昨晩、突然俺の元へやってきた夜月美夜と名乗る死神を一晩家に泊めてやることにしたのだ。
いや、恐らく一晩ではなく、俺が死ぬまで住み続けるのであろうぐらいに家でくつろいでいた。
それに、泊まるところや食事などは全部"こちら側"持ちのようだった。
唯一節約できるとしたら、女性服には困らない事だ。どうやら死神の力で好きな服装に着替える事が出来るらしい。その変身する姿は絶対に見てはならないと警告され鶴の恩返しそのものだった。そしてその能力により、昨日はワニのパジャマを着て寝ていた。
俺が昼過ぎまで寝るはずのルーティンが美夜により妨げられ、『さっさと学校へ行け』やら、『学校へ行けば私が幸せを与えてやる』とうるさかったため、俺は1年ぶりに学校へ行ってみる事にした。
ちなみに俺の学校は不登校者ゼロを掲げる日本唯一の特別指定学校だ。
その特徴として不登校者特別進級制度と呼ばれる国が初めて認めた制度が存在する。
これは不登校になったとしても、高校統一実力テストを自宅で受け、国の指定する点数や規定をクリアする事で進級認定をもらえる制度である。
9割の不登校者はこの規定を乗り越える事がほぼ不可能なため、あるようでない制度だ。
俺は家にいてもやる事がなかったため、暇潰しで高校統一実力をテストを受ける様にしていた。
今朝、進路の先生にかけあったところ、自慢ではないが学力はかなり高い方なためクリアしており、2年生から通えるとの事だった。
そして今日は高校2年生1学期のスタートである。
それもあってか、周りからは『あんなやつ1年の時いたっけ』とか『たぶんいたけど知らないだけ』とかありがたい事に曖昧なおかげでスッとクラスには溶け込めた、はずだ。
(……なのに。)
「お前のせいで目立っちまってるだろうがぁ!!」
「ひゃあ!! うるっさいわねぇ、いきなり大声出さないでよ!! それに転校生がクラスに馴染むためにはファーストインプレッションが重要なのよ、邪魔しないでくれる?」
(お、おいおい……お前は俺に幸せを与えるためにいるんじゃないのか?)
「はぁ、見てみろよ周りを。1年間いたかどうかも定かじゃない俺が転校生という設定のお前とタッグを組んでるせいで注目の的だぞ。……それに」
「……それになによ」
「い、意外とモテるんだなぁって……」
そう、こいつは転校初日で顔とルックス、ハキハキとした威勢をクラスの前で発揮する事でスクールカーストの上位を獲得したのだ。
「フッフッフッ……この死神様をなめてもらっちゃ困るわよ」
「あ、学校ではその死神っていうワードは禁止な!! めんどうな事は避けたい」
「それもそうね、禁句辞書に載せておいた方がよさそうね」
(本当にこいつが俺に幸せを与えてくれるのか?)
「てかどうやって入学したんだよ。高校ってそんな1日そこらで入学できるもんなのか?」
「あー、そのあたりは特に気にしなくていいわよ。病気で1年間学校を休んでた事になってるわ。奇跡的にこの学校に特別な制度があったおかげで入学する事ができたの。校長先生からも『今日から不登校者だった子も学校に来るから同じクラスの方がお互い友達になれるだろう』と配慮してもらって同じクラスってわけね。まぁ、もし断られたら死神の力で無理矢理入学したけどね」
(こいつさっそく死神ってワード言ってるじゃねぇか。)
「ふーん、まぁいいけどモメ事はなるべく避けてくれよ? いきなり問題なんかおかしたら学校へいくどころじゃなくなっちまうんだからよ」
「わかってるわよ、何かあったらすぐ手を引くから安心しなさい」
『ドガァン!!』
突然、俺の教室に誰かが入ってきた。
「け、賢斗ぉ〜!! やっと学校きたんだな!! ずっと心配してたんだぞ? 連絡しても帰って来ないし!!」
「だ、大吾か……急に驚かすなよ。てか本当相変わらず筋肉が凄いんだな」
「ねぇ、この筋肉マッチョは賢斗の友達?」
「そう、一応幼馴染」
「へぇ、賢斗に友達がいたのね……私は今日からこの学校に来た夜月美夜。宜しくね!!」
「おう!! 2-B組の桐崎大吾だ! 宜しくな! それにしても本当心配したんだぞ? お前の好きなか松下聖奈も気にしてたんだからな?」
「聖奈さんが!?!?!?」
聖奈さんとは中学校が同じで少し思いを寄せた事がある女性だ。静かそうな雰囲気をかもち出しているが、ああ見えて当時ダンス部の部長を勤めており、そのギャップのせいかファンが大勢いた。
(あ……そういえばこの学校に入学してたんだっけか。中学3年生の卒業式以来会ってないから忘れてた。)
「な、何よ……急にそんなアニメみたいな反応しちゃって」
「い、いやなんでもない……すまん」
「大吾、その聖奈って子はどこにいるの?」
「あぁ、確かこのクラスになったんじゃなかったか? えーっと……あ、ほら、あそこにいるだろ」
大吾は俺の対角線上のドア側に座っている女の子に指をさす。
「ほほぉ〜ん、あの子ね。賢斗はああいう静かそうなタイプが好きなんだぁ」
「う、うるせぇ! 好みは人の勝手だろ?」
「しょうがないわね、ちょっと待ってなさい」
「ちょ、な、なにするつもりだよ。っておい!」
美夜は聖奈さんの元へズガズガと駆け寄る。
そして1分後ぐらいに俺らの方を振り向き、親指を立てたグーサインをした。
(なんでそんな得意げな顔をしているんだ……い、いったい何をした……!?)
俺らの元へ帰ってくる。
「今度の土曜日に行くわよ!」
「へぇ? 行くって、どこへ?」
「そんなの決まってるじゃない、お花見よ!」
急展開すぎて何が起こったが把握しきれてないが、俺は今週の土曜日にお花見に行く事になった。