序章 幸せをあなたに
『ピンポーン』
(なんだよ、こんな時に)
『ピンポーン』
(覚悟を決めたんだ、俺はやるぞ)
『ピンポーン』
(ったく、うるさいな……ほっといてくれよ。)
『ピンポンピンポンピンポーン』
(しつこい、しつこすぎる……集金か宗教か?)
『ピピピピピピピピピピピピピンポーン』
「はいはいはいはいはい!! 今出ますよ!!」
(こんなに激しくチャイムを鳴らすなんてどんな奴だよ。最後になるんだ、どうせなら今まで溜め込んだ怒りを全てこいつにぶつけてやる!!)
玄関の扉を開ける。
「はいはい!!!! いったいなんでしょーか!!」
「あなたをお迎えにあがりました」
「……はい?」
扉を開け、どんな人物なのか確認すると、それは俺と同い歳ぐらいで綺麗な顔立ちをしている1人の少女だった。
「あなたをお迎えにあがりました」
「あぁ……ええっと……多分部屋を間違えてると思いますよ」
『ガタン!』
扉を強く閉める。
「ったく、ただの間違いかよ!! 頼むからこんな時にやめてくれ」
『ピンポーン』
『ガゴン!!』
扉を強く開ける。
「だから間違いだって言ってるでしょうが!!」
「いえ、間違ってなどいません。私はあなたをお迎えにあがったのです」
「はい? 悪いけど俺はタクシーなんて頼んでないし、ましてやピザなんて頼んでないっつーの!!」
「はい……確かに頼まれてはおりませんが、私はあなたに会いに来たのです」
「俺に? つーかあんた誰だよ」
「私ですか? 私は……死神です」
「……死神?」
「はい、死神です」
「えーっと、冗談は辞めてもらっていい? 今凄く忙しいんだ。死神ごっこは公園の子供達とやってくれ」
『ガタン』
今度は少し軽く扉を閉める。
(何だったんだ今の人……死神とか言ってたな。黒髪ロングにドクロのヘアピン。そしてゴスロリチックなワンピースに、大きな鎌を背負っていたってことは……デスサイズ? ガチで死神なんじゃ……)
「んなわけねぇか!! さぁ仕切り直しだ!!」
『ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン!!』
「うぉおお!! びっくりしたぁ、絶対ヤベェやつだろ!!」
恐る恐るドアを開け、扉の前に立つ少女を見る。
「もういい加減にしていただいて……」
「お迎えにあがったって……言ってるでしょうがぁぁああ!!!!」
「うわぁぁ!! きゅ、急に大声あげんなよ!! 周りに迷惑だろ!!」
「あんたがさっさと私の言ってる事聞き入れないからでしょ? 聞いてたイメージと全然違うじゃない! とりあえず中に入るわよ!」
「え? あ、おい! 勝手な事すんな!!」
俺を押し切り、ズガズガと部屋の中に入る。
「何勝手に人の家に上がり込んでんだ!」
「うるっさいわねぇ! うわっ……汚い部屋」
「うるさいのはお前の方だろ! 警察呼ぶぞ!」
「勝手にしなさい? 私にとっては意味のない事だけど?」
「意味のない? どういう事だよ」
「だからさっきから言ってるでしょ? 私は"死神"なの。警察なんてこれで狩りとってやるんだから!」
背中に括り付けられていた鎌を取り出す。
「お、お前それ……」
「知っているようね、そうよ、俗にいう死神の鎌」
「そうか……可哀想に。中二病のまま成長して持ち歩く様になってしまったんだね」
「ち、違うわよ! 死神はこれを持ち歩くもんなのよ! ……あら、これは?」
天井から吊るさせた縄を指摘される。
「お前には関係ないだろ」
「あるわよ。だって死神なんだもの」
「笑わせんな。じゃあなんだ、俺が死のうとしてたから"死神"とやらが来たってのかよ」
「まぁ、そういう事になるわね」
「じゃあ今から死ぬから見届けてくれ。誰かに見られながら死ぬのも悪くない」
「はぁ? 何で私があんたの死を見届けなくちゃならないのよ。それに知ってる? 首吊りの自殺なんて色んなのが飛び出て気持ち悪いのよ?」
「え、え? 死神って死期が近づいてる奴に現れるんじゃないのか?」
「それもそうだけど、少し違うわ」
「じゃあ何だよ」
「死神ってのはあんたの想像通り、死期が近づいてる者に現れる……ここまではあっているわ」
「んで?」
「そしてその死期はどうあがいても覆す事の出来ない運命の様なものなの。私達死神はその死期を本人に知らせ、死を迎えるまでに"幸せ"を与える事を宿命とされた存在なのよ。そして最後には幸せになって死んでもらう。それが死神の仕事よ」
「なるほど……つまりお前は今日、俺に死期を伝え、俺が死ぬまでに幸せになってもらうために来たっていう事なのか?」
「簡単に言うとそういう事ね」
「……ッハハ、本当に頭におかしいんじゃねぇか!?
」
「何がよ」
「だって俺は今死のうとしてたんだぜ? お前が今日来なかったら今頃死んでいたはずだろ? お前がもし本当に"死神"だったとしたら、俺はいつ死ぬんだ?」
「今日から1年後よ」
「1年後?」
机に置いてあるデジタル時計を確認する。
「つまり、今日が2022年3月31日だから……2023年3月31日って事か」
「そうよ。あなたは今日から1年後、死ぬ事を約束されてるの。これは誰にも覆せない運命なの」
「俺がどんな手を使って死のうとしてもか?」
「そうよ。死のうとする前に、死なない様になる"事象"が何かしら起こるわ。それにハイこれ、腕に装着する様にしてね」
ドクロマーク柄の腕時計を渡される。
「なんだこのおもちゃの時計」
「お、おもちゃとは失礼ね! これは死神タイマーと呼ばれる代物よ。 時計をよく見てみなさい、命のタイムリミットが表示されているはずよ」
時計を確認すると、時間の見方に関しては通常の時計と変わりないが、画面に残りの日数が赤く数字で表示されていた。
(残り365日……こいつ俺をバカにしやがって!!)
「お前いい加減にしろよ!? そこまで言うなら試してみろよ!!」
俺は椅子に登り、ぶら下がっている縄に首を通し椅子を蹴飛ばした。
「ちょ! あんたね!」
「ゔ、ヴヴヴヴ……グッギギギ!!」
(ぐ、苦しい……!! 意識が遠のいていく……やっとこれで嫌な事を全て忘れられるんだ。後悔は……ない。)
その時だった。
『ズドン!』
天井から電球に括り付けられていた縄が人の重さに耐えきれず、床に落下した。
「ぉぇぇえええ!! ゲホッゲホッ!!」
「はぁ、びっくりした。ほらね、だから言ったでしょうに」
「ぢ、ぢぐじょう」
(喉が締め付けられたせいで声がだしずれぇ)
「ほら、手、貸すわよ」
「あ、ありがどう……」
「私は夜月美夜」
「俺は柊賢斗だ」
「これから1年間宜しくね、賢斗!」
「あ、ああ」
俺は今日からこの死神と暮らす事になるのだった。
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