プロローグ とある男の異世界転生
え~……これを聞いているかわからないが大抵の人は「はじめまして」だろう。
どうも、俗にいう転生というものを経験した者です。
いきなり転生したといわれても訳ワカメと言いたいだろう。
むしろ「妄想乙」「中二病で草」「はい解散」という言葉が聞こえてきそうだが、現実になってしまったのだから仕方がないだろう。
と、いうわけでそこの君たち、回れ右して帰らないでくれ。
まぁ、つまらなかったりしたら即帰ってくれてもOKだ。
自分の醜態をさらすのも、それはそれで心に来るもんだから……。
まぁ、私の独り言だから聞いてる者などほとんどいないだろう。それなら気にせず好きなだけ語れるな。
事の経緯はこうだ。
いつも通りに、所属する組織の職場を回っていた時だ。
別段その日は用事など無く、ただぶらぶらと廊下を歩いていたのである。
今日は何をしようか……そんな風に何気ないことを考えていた。
次の瞬間。
謎の爆発によって廊下の壁が吹き飛んだのである。
……なんだね? いきなりすぎて理解が追い付かないだって?
事実だから仕方ないだろう。私だって最初は我が目を疑ったさ。
ただ普段通りに歩いていたら、突然壁が爆発によって吹き飛ぶ。
そんな客観的に見れば非現実的な光景を前にしても、その時の私は「あぁ、またか」と感じていただけだったよ。
私が死亡する前に所属していた場所は……言っては何だがそこらのファンタジーよりもファンタジーな職場だったからね。
そんなものだから、職場で爆発が起こるなんてよくあることだったのだよ。
「今日は爆発か……」なんて思いながら、こちらに向かって飛んでくる瓦礫を避けながら、爆発させた張本人を説教してやろうかと思っていてのである。
しかし、その時はいつもと違った。
なんとバナナの皮に足を滑らせてしまったのである。
そしてそのまま体勢を崩してしまい、飛んでくる瓦礫が直撃したことで私は意識を失った。
……いやまて、「なぜバナナの皮があったのか?」とか、「どこから出てきたのか?」だとかいう疑問はあると思う。
だけどそれは置いておけ。今は説明しきれないことが多いのだ。
そんなこんなで、私が目を覚ましたときには目の前に現れた女神に「異世界に行くつもりはないですか!?」と聞かれたのである。
普通であればそこで思考停止するところであろうが、そこは腐っても組織の幹部であり、すぐに考えを改めた。
結果がこれである。
…………うん。
自分で言うのもなんだが、なかなかぶっ飛んだ人生を送ってきたと思う。
まさか死んでしまったと思ったら、よくわからない場所に連れてこられて「異世界に行きませんか?」と言われるとは思わなかったよ。
一般人にはおそらく無いであろう様々な体験をしてきた身としても、これほどまでに不思議なことは早々なかったと言えるだろう。
いやぁ~長生きはしてみるものだ。
ま、私は一度死んでいるのだがな。
ハッハッハッ!
ハァ……。
さて、話を戻そう。
つまりどういうことかというとだ。
私は異世界に来たらしいということ。
それも勇者としてこの異世界……「ハイランド」に転生させられたようだ。
この世界では、前世で言うところのTHEファンタジーを詰め込んだような魔法や生物が存在している。
火球を放つ魔法があれば、火を吹くドラゴンだって存在しているらしい。
私自身、直接目にはしていないが、この世界での図鑑にて、存在することを確認したのである。
まったく……これではまるで物語の主人公ではないか。
物語の主人公は皆総じてチート能力を持っていて、その力で世界を救っていくという流れになるだろう。
あくまで推測だが、私も同じような立場になっているのではないだろうか。
まぁ、そんなものがあればの話ではあるがな……。
……ん? なんだって?
「お前は主人公じゃないだろ?」だと?
はっはっは!
確かに、私は主人公などという立場にはふさわしくないだろう。
精々、その立場の彼らに武器を提供する立場の方が似合っている。
もしくは、彼らに知恵を貸す存在といったところか。
どちらにせよ、私の立ち位置は前世と変わらない。
後に立つ者のために、先達として知恵を残す。
それが私たち、「発明家」というものだ。
おっと、自己紹介をしていなかったようだね。
口調が変わるようだが、こちらのほうが素なのだ。
気に障るようだったらすまないね。
身長190㎝。
体重80㎏。
年齢は50代後半。
それなりに伸ばした顎髭を持つ、白髪交じりのダンディなおじさんだ。
好きなものはブラックコーヒーと刺激的な発明。
嫌いなものは甘ったるいスイーツと怠惰な生活。
趣味としては――兵器開発。
そんな私の名前は北見譲二。
転生前には、とある組織のとある部署、そのトップを務めていた者だ。