第四話・幕間 戦士の独白
出かけるには準備が必要。
身支度を済ませてこい、と巧を風呂場へ送り出し、私はほふ、と息をつく。
「……ひとまず、よかった」
呟いてから声に出ていたことに気付き、慌てて口を押さえた。
聞かれてないだろうなと風呂場の方をうかがうことしばし、安堵に胸を撫で下ろす。
思っていた以上に気が抜けていたらしい。
(でも本当によかった)
ふと、脳裏にここ数日間ずっと見ていたものが浮かぶ。
日々並んでいくプラモの山。
比例して荒れるばかりの部屋の中。
映像を通して伝わるこの世界の荒廃化。
そして、寂しい背中。
世界の終わりを前に途方に暮れる様子に、何度歯がゆさを覚えたことか。
だがそれも終わりだ。
彼の持つ「バトルガールズ・プラモデル」は完成し、私は遂にこの世界の戦場に立った。
これからその悲しみを払い、世界を救う戦いが始まる。
(とは言え、初戦は順調とはならなかったが)
心の中で肩を落とす。
イレギュラーケースだった、というのはただの言い訳だ。
デフォルト兵装だけで対応すべきファースト・コンタクト型を相手に苦戦した事実は残っている。
しかも早々に彼が所有するプラモを損壊させてしまった。
(恥ずべき失態だ。これでは、また……)
一瞬、嫌な記憶が頭をよぎった。
慌ててかき消す。
(ダメだ。まだ初戦だ。巻き返せる)
そう。まだ戦いは始まったばかりだ。
最初の躓きはその後の分で巻き返せばいい。
まだそれができる余裕はあるはずだ。
胸に手を当て、自分に言い聞かせる。
――ちょっとだけ……やって、みよう……かな
不意に巧の承諾の言葉が思い出される。
期待感と不安が混ぜこぜになった表情で、おそるおそる武器プラモを受け取る様子は、何度も見てきた現地民の反応だ。
それを一日でも早く期待の色に変えてみせる。
(やれるはずだ、エレナ・グノーシア)
この世界に降り立つ前にも言い聞かせた言葉を、今一度。
私は改めて決意を固めた。