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第四話 俺とプラモで協力関係

「エレナ……エレナ、か」


 エレナ。異世界の人間。

 ざっくりとした説明だけど充分だと思う。

 とりあえず俺は彼女、エレナの名前を繰り返した。


「まぁ今はこのプラモ……バトルガールズ・プラモデルの第一弾、『ガンナー・ガール』のボディを借りてるから、人間とは言えないがね。とりあえず『ガン子』と『エレナ』、どっちでもいいぞ?」


 と、言ってる傍からまた別の名前案。

 確か『ガン子』は『ガンナー・ガール』の愛称だったはずだ。


「え、なんでそんな話知ってるんだ?」

「自分が使うボディだ、関連情報はひと通り押さえておかないとまずいだろう?」


 さらっと言ってるけどすごい話では。

 一体どういう理屈でそんなことができるんだろ、と聞きたくなったが踏みとどまる。

 他にも聞きたいことがてんこ盛りだ。

 片っ端からじゃキリがない。

 とりあえず俺はさっきの名前の話に戻ることにした。


「ひとまずエレナで。ガン子だと別のと混ざりそうだし」

「了解、それならエレナで頼むよ、巧」

「お、おう」


 それにしても、エレナは自分がプラモって自覚はあるらしい。

 でも目的は怪獣討伐のはずだ。

 なんでプラモの体を借りてるのか。

 もっと別の何かを借りた方がいいんじゃないか。

 というか、何をどうすればプラモの体から巨大化できるのか。

 おまけに俺が持ってた武器プラモ(一個壊れたけど)まで巨大化する始末だ。

 今までプラモ一つにこんな疑問ばっかり出てくる事態があっただろうか。


(いや、プラモが気になりすぎだろ、俺)


 自分で気付いて苦笑い。

 でも相手がプラモなんだ、しょうがない。そう思って素直に聞いてしまった。


「あのさ、アナザービースト、だっけ? そいつを倒す専門家が、なんでプラモになってんだよ?」

「ざっくり言うとそうするのが最も合理的だからだ」

「……え、どういうこと?」


 頭に思いっきり疑問符が浮かぶ。


「プラモデルは高度文明だからこそ生まれる代物だ」

「え?」

「虚実問わず多彩な構造物をミニサイズで再現する技法、流通のための量産方法、趣味として選択できるほどの文化水準。どれを取っても高い技術、ないし文明が確立していなければ成り立たない」

「な、なるほど?」

「そしてそれら全てを実現可能な文明は、まさにアナザービーストの餌だ」

「お、おう……」

「だが一方で、広く流通するプラモデルは実に便利だ。調達は容易で拡張性も高い。扱える者も多く、現地民の協力が得られれば、不測の事態にも柔軟に対応可能。しかもこのスケールなら省エネかつ待機も簡単だ」


 言ってることが何から何までツッコミどころ満載のはずなのに、一周回って確かに合理的に思えてくる。

 とりあえずエレナの世界では並行世界のプラモを武器として使う技術があるってことはわかった。

 人によっては大歓喜間違いなしだろう。

 実際、俺だって実際に戦ってる姿を見てワクワクしたし。


「だから私達はこうしてプラモデルに宿る形で、アナザービーストが出現する平行世界を訪れている」

「でも、それなら普通のプラモにすればよくね? なんでわざわざ美少女プラモに?」

「メカヘッドではコミュニケーションに困るじゃないか」


 ごもっともである。

 実際、こうして話す分には何の不自由もない。

 スケールの違いこそあるが、生身の人間と話しているのとほぼ変わらない。


「確かに今の方がよっぽど話しやすいもんなぁ……」

「それに私も女だ。任務とは言え、あまり色気のない姿ではやりづらい」

「女だったの⁉」


 衝撃の事実である。

 が、当の本人は何を言ってるんだとばかりの顔をしやがる。


「むしろこの見てくれで女じゃない可能性が……あー、そうか。この世界でもアバターの性別を偽る文化はあるのか」


 そして勝手に自分で納得する。

 ネットの性別を変える思考、世界が変わっても存在するらしい。

 そもそもプラモを武器にできる技術と言い、方向性がおかしくないかエレナの世界。

 いやそういうのはどうでもいい。


「まぁそこはどうでもいい。それよりも話の続きだな」


 ちょうどエレナも同じことを考えたらしい。

 脱線しかけた話の軌道修正に入った。


「先程、プラモデルは便利だという話をしたわけだが……まぁ、制約はある」


 そして人差し指を立てる。


「一つ。宿るプラモデルは選べるが、基本的には組立前のものでなければいけない」

「なんで?」

「こちらの技術面の問題らしい。私もよくは知らない」


 きっぱり言い切られた。

 とりあえず聞いた所で何かわかるわけでもない、と思った所ではっとなる。


「いやちょっと待て。それじゃあアンタ、ずっと未完成のプラモに宿ってたってことか⁉」

「まぁそうだな。少なくとも君が積みプラの消化を始めた頃には待機を始めていた」

「うっそだろマジかよ……!」


 思わず頭を抱えた。

 俺が積みプラの消化を始めたのはおよそ半月前。

 その期間内のどっかで『ガンナー・ガール』の組み立てに手をつけていれば、もっと早くあのデカブツを倒してもらえたんじゃないか。

 一体どうして後回しにしてしまったんだろう、という後悔が湧いてくる。


「なんつーか、すまん……! いや、謝って済むことじゃないんだけど!」


 そんな思いから全力で頭を下げたけど、返ってきたのは呆れまじりの声だった。


「確かに組み立て時期の遅れはイレギュラーだが、過ぎたことだ。それに些細なことだとも」

「いやでもさぁ!」


 やっぱり思うのだ。

 もっと早く組み立ててれば、壊されなくて済んだものがたくさんあったんじゃないか。

 物の話だけじゃない。諦めずにいられたこととか、取り返しのつく話とか、そういうものもだ。


「そもそも、アナザービーストを倒すために私が来た、ということ自体、この世界にとってはイレギュラーだぞ?」


 でもばっさり言われてしまった。

 言葉に詰まる。


「というわけで君が気に病む理由は一切ない。……話が脱線したから戻そう」


 そしてあっさり次の話題に行ってしまった。

 簡単に流していいんだろうか、という気持ちが顔を出したけど、エレナはお構いなしだ。


「次の制約だが、これは武器の調達に関してだ。プラモデルの兵装化……コンバート・シーケンスと言うんだが、ざっくり言うとコンバート対象のクオリティで、耐久度に大きく差が出る」

「え……えぇと、差が出るって、どんな感じに?」

「思い出してほしい。昨日送ってもらったビームライフル、壊れてしまっただろう?」


 壊れたというか、砕け散ったというか。

 どっちにしろ一緒か。


「組立説明書の通りに組んだだけの状態、これを素組みと言うんだが、その状態だと使った後で昨日のように壊れてしまう。コンバートする際に余計な負荷がかかるんだ」

「じゃあ、どうすれば壊れなくなるんだ?」

「余計な負荷の原因をなくせばいい。パーツ同士の隙間、ランナーから切り離した時に残る切り跡。他にも塗装する場合は色ムラやツヤ消しの有無……いろいろあるが、そういったものを排除し、プラモとしての完成度を高めていけば、自然と理想的なコンバート対象になっていく」

「なるほど……あれ? じゃあさ、エレナ自身はどうなんだよ?」


 素組みだとまずいのはわかる。

 でもそれならエレナ自身も素組みのはずだ。

 無事じゃすまないんじゃないかと心配になったけど、当の本人はにっこり笑って首を振った。


「宿ったボディとそれに付随する武器一式には、初回コンバート時にクオリティ補正をかけているから問題ない。向こうの世界から持ってきたエネルギーが必要だから、その一回しか使えないんだがな」

「そ、そうなんだ……」


 そう言われ、今更ながらエレナを観察する。

 確かにクオリティが高くなっているというか、プラモっぽさがない。

 あちこちに残ってるはずの切り跡、つなぎ目の隙間も見つからない。

 なんというか俺が組み立てたプラモ、って感じがしないのだ。

 と、エレナは何を思ったのかくるりと一回転。

 腰に手を当ててモデルみたいなポーズを取った。


「まぁ、今後のお手本みたいなものだと思って、しっかり見るといい」


 女性が言うにはなかなか挑戦的なセリフだ。プラモだけど。


「見るといい、ってアンタなぁ……ん?」


 思わず目を逸らした後、なんかおかしいな、と首をひねった。


「今後の、お手本?」

「あぁ。ここで三つ目、最後の制約だ」


 何か変な話の飛び方をしてる気がする。

 だが俺が質問するより先に、エレナが答えを言い出した。


「普段がこのサイズである以上、プラモ作成は現地の人間にやってもらわなきゃならない」

「……おいまさか」

「ご明察。巧、君にはより高いプラモ作成スキルを身につけて欲しいんだ」

「なんで⁉」


 思わず立ち上がろうと手をついた瞬間、ピンポイントで痛みが走る。

 見れば手のひらにランナーの切れ端が食い込んでいた。まさかのランナー奇襲再びだ。

 いつだってそうだ。

 コイツはいくら掃除しても必ず残っていて、忘れた頃に襲いかかってくる。


「あー……うん、よくあることだな。早速アドバイスだが、パーツの切り離しは箱の上でやった方がいい。掃除が楽だし、パーツの紛失も多少防げる」

「ご忠告感謝! 次からそうするわ! あぁもう!」


 まさかプラモにそんなことを言われる日がやってくるなんて。

 一周回って笑えてきた。


「つーか俺プラモ初心者だぞ⁉ その俺に頼むってどういう話だよ!」

「どうもこうも、君はこのボディを組み立ててくれた。それに今、こうやって私と話ができている。ならば君に頼むのが当然だろ?」

「初心者! 俺初心者って言ってるから! いきなりクオリティを高めろとか言われてもどうすりゃいいかわかんねぇよ⁉」

「そこは問題ない。自分でやることはできずとも、私がひと通りの方法を押さえている。用意すべき道具、具体的な作業内容、そこも含めてサポートする。まずは教えた通りにやってくれればいい」


 そんな悠長なこと言ってていいんだろうか。

 だってアナザービーストの脅威はこれからって言ってるんだ。

 プラモのクオリティアップ方法を教える暇なんてないだろう。

 それよりもっとプラモに詳しい人間を探して、その人に頼んだ方が早いと思う。

 だけどエレナはあくまで俺に頼む気満々のようだ。

 全くもって引き下がる気配がない。


「何も最初から難しいことをやってくれと言うわけじゃない。それに最初は手持ち武器や追加パーツだけで充分だ」

「作業量とかの問題じゃなくてさぁ! そういうのはもっと詳しい人間に頼むとか!」

「そういった伝手に心当たりがあるのかい?」

「うっ……」


 それどころか痛い所を突かれた。

 ぶっちゃけプラモは一人で充分楽しめるもんだと思ってる。

 だから同好の士なんてさっぱり。周りにこういう趣味があることすら言ってない。

 手掛かり皆無と言えばそれまでだ。

 とは言え、それはそれ。

 初心者に頼む話じゃない、ってのは一緒。

 なのにエレナは「君ならできる」と言わんばかりの顔だ。


「確かに難度の高いこと、改造を始めとするオリジナルな作成もやってもらいたいとは思っているが、すぐにやってほしいわけじゃない。そもそも、そんなものが必要になるのは当分先の話だ。君が経験を積めるだけの猶予はある」

「だったらなおさら、その猶予でできる人間を探した方が――」



「自分のプラモで世界を救えるんだぞ? やってみたくないか?」



 出かけた言葉が止まった。

 目の前の美少女プラモは言う。


「伝手に心当たりはないのだろう? だったら初心者でも君がやってくれた方が早い。当然、私もそれが可能だから提案している。後は君が乗り気になるかどうかだ」

「……俺が、乗り気になるか、どうか?」

「あぁ。君が頷いてくれるなら私も全力でサポートする。接着法、切り跡の処理、スミ入れに塗装、最終的にはパーツ改造、プラ材からのパーツスクラッチ、その他もろもろ。プラモ作成にまつわるあらゆる方法を君に教える。もちろんつきっきりでな」

「お、多いな……? そんなにたくさんあんのかよ」


 もう自分の知らない世界の話だ。

 やっぱりできる気がしない。


「でも、それで君のプラモ作成スキルは上がる。そして上がったスキルでプラモを作ってくれれば、私がこの世界を救える。救ってみせる」


 だけどそんな弱気を打ち破るくらい、エレナの言葉には自信が詰まっていた。


「なぁ、自分の作ったプラモで、世界を救ってみたくないか?」


 そしてこの言葉だ。

 自然と昨日見た光景を思い出す。

 巨大化したエレナがアナザービーストを相手に戦う姿。

 ウエポン・コンバートした巨大剣で、一本角を叩き折った瞬間。

 あの時の俺はワクワクしてた。

 だってあれは、「俺のプラモが世界を救う」景色だ。

 アレをまた実現できるなら。そんな風に考えてしまう。


「難しい話じゃない。プラモを作るのは変わらない。そこにもう一手間かけられるようになる。ただそれだけの話だ」


 いつの間にかエレナはローテーブルに飛び移っていた。

 多分武器プラモの箱から持ってきたのだろう、一本の銃を抱えている。


「さぁやってみよう。意外と楽しいぞ?」


 それを差し出しながら、彼女は軽い調子で誘いかけてきた。

 ずるい。なんて言い方をするんだ、コイツは。

 心が、動いてしまう。


「……そ、そこまで、言うなら」


 俺はおそるおそる、武器プラモを受け取る。


「ちょっとだけ……やって、みよう……かな」


 すると「よく言ってくれた」とばかりにエレナが大きく頷いた。


「協力に感謝する。長い付き合いになるがよろしく頼むよ、巧」

「いやっ、ずっとやるとは言ってねぇからなっ?」

「はは、みんな最初はそういう風に言うものさ。俗に言うツンデレというヤツさ」

「絶対に違うだろそれ⁉」

「細かいことを気にするものではないよ。それよりも協力してくれると決まった以上、まずはやることがある」

「や、やること?」

「買い物だよ、買い物」


 両手をオーバーに広げ、軽快に告げるエレナ。

 すっかり彼女のペースだ。


「プラモを作るにはニッパーが必要。それと同じく、クオリティアップにも道具が必要になる。それに新しいプラモもだ。さぁ巧、ご飯を食べて出かける準備だ!」


 俺は言われるがまま頷く。

 対する彼女はやっぱり笑顔のまま。


(なんか、思いっきり乗せられる形になったけど、まぁ……いっか)


 あの様子だと断った所で食い下がってくるのが想像できる。

 それに今は他にやることもない。

 だったら「世界を救うためにプラモを作る」なんて話に付き合ってみるのもありかな、と思った。

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