魔科学者による新たなる発明
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「失敗は成功の母!小さな失敗など気にせず実験の続きといきましょう!」
カノンは「スライムの使い道」を聞いたのだが、いつの間にか助手扱いである。
遠い目をしながら準備を進める翠華を眺めていると、先程までの豪快な『実験』とは打って変わって、慎重な手つきで作業をしている。
なにせこのファイアスライムという種は『死んでも燃え続ける』のである。
核を破壊して体液のみになっても、その体液が燃え続ける特性を持っている。
果たしてこの劫火に塗れたファイアスライムをどうやって液体のまま持ち帰ってきたのか気になりはするが、聞いたら恐らくまた長い講義が始まることだろう。
そう思考放棄してちまちまと作業する翠華を眺め続ける。
ちまちまちまちまちまちま……
作業に没頭する翠華に焦れて、カノンは聞いてしまった。
「なぁ、それ、何作ってるんだ?」
「爆弾です」
「ばっ!?」
ずざざっと椅子に座ったまま器用に2mほど飛び退ったカノンに、仄暗い微笑みで翠華は言う。
「その程度下がったところで被害は免れませんよ。これ全部爆発したら本当に研究所ごと吹き飛びますから」
ぞっとして、カノンは青くなる。
「骨も残らないレベルで、ドッカーーーーーーーンですね……ふふふ……」
仄暗い笑みのままちまちまと作業する姿はマッドサイエンティストそのものであった。
カノンがマッドサイエンティストという言葉を知らなかったのが、救いなのか、どうなのか。
「昔の偉い人は言いました……芸術は爆発だと……」
「それ意味違うぞ?物理的に爆発させるんじゃないぞ?」
「魔科学者たるもの、クレーターのひとつやふたつ作るものです。私もそうありたい」
「在らないでくれ。後地味に災害級の特級呪物作ってんじゃねぇ」
「呪物じゃありません!魔化学物質です!」
バッと振り返ったその動作がもう怖い。その表紙にパリンといったら消し炭を通り越して塵になる。その事実がカノンの足を縫い止める。
出来ることなら、一目散に逃げ出したい心境だった。
「ファイアスライムの特性はその燃え続ける体液です。これは液体そのものが燃えているのではなく、気化した体液が燃えるのです。普段は核で液体状になるよう制御しているのですが、核を失った体液はあっという間に気化してその体積を数十、数百倍に広げます。倒したスライムがそのまま地面に染み込むように消えていくのはそれが原因ですね」
ファイアスライム原液が入っていた瓶は暈を減らし、その代わり通常は回復薬などが入れられる小瓶が十数個出来上がっていた。
「ファイアスライムの体液とサラマンダーの体液は近しい性質を持っていますが、サラマンダーの体液は液体にあとから火を付けないと燃えないところ、ファイアスライムの体液は空気に触れた瞬間燃え上がります。その特性を使って出来たのが、こちらの割れると爆発する小瓶です」
「危ないもんには違いないな……」
ファイアスライム原液が一瓶無くなったところで、翠華は手を止めた。
「さて……ではフィールドワークと行きましょう。この近くに岩場がありますのでそこで爆破実験ですよ!」
街に行ったときとは違う、小さめの背嚢に荷物を詰め、ウキウキと準備をし出す翠華に、カノンも仕方なくといった形で同行するのだった。