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魔科学者によるスライム実験

スライムひとつでこんな文章量になると思いませんでした。

当初前後に分けようかと思っていたのですが、いざPCで読んだ時に文章量的にいけるかと思ってひとつにしました。

ちょっと長いです。

「戻ってきてしまった……」


ある種の絶望感に立ち尽くすカノンとは対照的に、達成感丸出しで仁王立ちする翠華が並ぶ。


翠華の言によれば、東に真っ直ぐ行けば街道に出られるとのことだが、肝心の方角が森の中では分からないのだ。


真っ直ぐ歩いているつもりでも、人は癖がついた方向に曲がってしまう。


そうした事態を避ける為、通常はパーティで森を踏破する場合、前衛が先導し魔導士を挟んで後衛が進路の曲がりを指摘する。


翠華のように魔法で方角が分かる魔導士がいればそれを指針にすることもあるが、少なくともカノンの知り合いには翠華ほど精緻に方角が分かる魔導士は居ない。


それほど優れた魔導士であるのには違いない。


「それではカノンの疑問にお答えしましょう。このスライムは強酸性という話はしましたね?」


『雑貨店』での燃え尽き具合を鑑みて、翠華はひとつひとつ丁寧に解説していく。


「このまま瓶に詰めて敵に当てるだけでもかなりの威力なのですが、折角魔力伝導率が良いのでひと手間加えようと思います」


講義を続けながら『家』に入っていく翠華に、仕方なくついていく。


トランクケースをベッドの方にどかっと投げ出して、留め具を外す。


僅かに青い色をした液体が入った瓶を取り出し、壁沿いにあった剣の柄を引っ張り出す。


「この剣の柄には魔鉱石が使われています。魔鉱石の説明は要りますか?」


ここで頷けばどこまで話が脱線するか分かったものではないので、カノンは簡潔に答える。


「ある程度の魔素を蓄えておけるものだって聞いてる」


「そう!これにより魔道具は動力無しでも簡易的な魔法を行使出来るようになるのです!もっとも、大きさによって溜め込める魔素の量が変わるので、寿命が長いほど魔道具本体も大きくなるのですが」


若干脱線したがベターな回答だったと思う。


「スライムは核でその身体を維持します。核自体が魔素の塊みたいなものなので、同じ魔素の塊である魔鉱石に形態変化の術式を組み込んでおけば……」


そう言って、じゃぼっと柄をスライム原液に突っ込んだ。


ゆっくりと翠華が柄を引き抜くと、薄い青色の刀身が出来上がった。


「なんでも切れるライトセイバーの出来上がり!!!」


「わかんないけど、それはなんか違うと思う」


カノンのツッコミはスルーされ、翠華は部屋の隅に置かれた丸太に向き直る。


「せいっ」


軽く振っただけにも関わらず、丸太が真っ二つに割れた。


「……焦げてないか?」


「まぁ、強酸ですからね。断面が炭化したのでしょう。しかし素晴らしい切れ味です!これで世の冒険者は刃こぼれからサヨナラする日が来ますよ!」


恍惚とした笑みで天を仰ぐ翠華に控えめに言ってカノンはドン引きしていた。


「あっ」


翠華が声を上げるのと同時に、刀身が崩れ落ちた。


床にスライム原液が散らばり、飛沫を散らした。


「……やはりこの程度の大きさでは1分くらいが限度ですか」


「ダメじゃねぇか」


「刀身をもっと短くなるように術式を変えて……いやそれではナイフくらいのサイズになってしまいますね……いっそ魔鉱石の方を大きくして槍に……術者がずっと魔力を与え続けていれば問題ないのでは?」


「なぁ」


「なんですか?」


「……焦げてないか?」


「それはだから炭化して……」


「いや、床がさ……」


散らばったスライム原液からじわじわと腐食しているのを見て、一瞬翠華から表情が消えた。


「あああああぁぁぁぁぁ!!!!!中和剤!!!中和剤どこでしたっけ!!!」


「良いから水!水持ってこい!」


「強酸に水なんか掛けたらこの研究所ごと吹き飛びますよ!?あああぁぁぁあった!」


翠華が戸棚から取り出した瓶の中身をドバッと床にぶち撒けると一応収まったようだった。


「危うく床が抜けるところでした……いえ、これはもう早々に床板取り替えた方がいいですね……いつ踏み抜いてしまうか……」


「なんか途中でスゲーこと言ってなかったか!?この研究所ごと吹き飛ぶとか!!!」


ベッドの下からバールのようなものを取り出してベキベキと床を剥いでいる翠華に爆弾でも見るような目でカノンは聞いた。


「吹き飛ぶはちょっと、いえだいぶ誇張しましたが間違いなく火事になりますよ……」


「焦げたんだから水を掛ければいいんじゃないのか……」


「気になるなら今度スライムを見かけた時に熱湯でも掛けてやると良いですよ。爆発四散すると思います」


「いやそれこっちも危ないだろ」


そもそも洞窟を主な根白とし、天蓋から『垂れて』捕食するスライムという生物は、この世界ではかなりのベテラン冒険者が退治するのがセオリーだ。間違っても駆け出しに毛が生えたような自分が相対するものではないとカノンは改めてスライムの危険さを体感したのであった。


「ライトセイバー改め、スライムソード。発想は良いかと思ったんですけれどねぇ……」


ハンマーで床板を打ち直しつつ言う言葉はどこか力無い。


魔法といい料理といい、つくづくなんでもやる子だなとカノンは思う。


「この様子だとベノムスライムソードも難しいですね……そもそもずっと魔素を与え続けられるだけの魔力量があるなら剣より魔法使いますし」


強酸にさらに毒を追加したベノムスライムはベテラン冒険者でも不覚を取れば生きては帰らない。


カノンは自分の価値観が吹き飛んでいくのを感じながら、翠華の言葉に疑問を持った。


「まさかファイアスライムソードなんて考えてないよな……?」


カノンの言葉に、翠華は悪戯がバレた子供のようにびくりとした。


「あー……スライムソードが完成した暁にはやってみようかなと思ってました」


「馬鹿なのか?」


ファイアスライムは他のスライムとは違い、獲物を捕らえるのに酸を用いない。


自信が纏う灼熱の劫火をもってして獲物を丸焼きにして吸収する。


吸収した獲物はその劫火の中で焼かれ続けてやがて生き絶える。


生き絶えた獲物を燃料にさらに火力を増し成長し、やがていくらか大きくなると核を分裂させて増殖する。


その劫火は対火系魔法を何重にも重ねても焼かれるほどである。


ファイアスライムソードなんか作った日には持ち手が焼かれることが詳しくないカノンにも容易に想像が付いた。


「いえ!しかし、ファイアスライムはその特性上、他のスライム種とは違うのですから、別の用途で使おうと思ってましたよ!?」


必死の弁明も今の失敗を見れば説得力に乏しい。


「なんでもいいけど、間違っても屋内でやるなよ……」


カノンの半眼の嘆願に、翠華は乾いた笑いを返した。

この辺で「魔術」と「科学」の境が分からなくなりました。

次話で皆さんが思っていた「あれ?これ科学でよくね?」が是正されます。

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