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魔科学者、雑貨店に赴く。

ネタバレ

新しい登場人物が出ます。

「たのもーーーーーーーう!!!!!」


バーンと木製の扉を開け放つと、店主と思しき男が喧しそうに顔をしかめた。


「嬢ちゃん、店に入ってくる時にいつもやるソレ、なんとかならんのか」


「ナメられたら負けとおばあちゃんも言っていましたし、もうこれが私の矜持みたいなところあります」


「せめてもう少し静かにだな……」


言ってもどうせ聞かないんだろうなといった風に天井を見上げる店主に、カノンはちょっと同情した。


「……なんで付いてきてるんですか?」


「仕入れって言ってたから道具屋の類だと踏んでな。ほら、俺装備全部盗られちまったし」


街に入った時は尋常ではなく青ざめていた翠華であったが、この店に入る直前にはすっかり元の様子に戻っていた。


「そっちは、冒険者か」


「カノン・ラズです」


「ドラン・バズだ。ようこそ『雑貨店』へ」


ドランと名乗った男が言う通り、まさしく雑貨店であった。




『雑多に集められた店』という意味で。




「正式な店名もあるんだけどな。この街で店って言うと宿屋を除くとここだけだからな。面倒くせぇから『雑貨店』で通してる」


広い店内では無いが、薬草から鍋、武器防具や何に使うのか見当もつかないものまで、所狭しと並んでいた。


「装備盗られたつったな。ここでほとんどのモンは買える。質も悪くねぇつもりだ」


ドランの言うように、剣一振りでもその質が見てとれる。


カノンの手荷物は雑事をこなす為にいつも腰に巻いたベルトに括り付けてある小型のナイフと、これまた括り付けてあるポーチーーーなお、中身はない。シャツの内側に縫いとめておいた銀貨が3枚と銅貨が12枚。


狩りをするなら弓矢が良いが、魔獣を相手するならやはり剣が欲しいところだ。


懐の寂しい今、無駄遣いするわけにもいかず、カノンは剣をひとつひとつじっくりと眺めていくことにした。




その横で。


「てんちょー!ライターは売れましたか?他の魔科学製品は???」


食い気味に翠華がドランに自信の品の行方を聞いていた。


「ずっと置いてはいるが、やっぱ高価すぎると思うぞ。ライターはひとつ売れたが、魔科学製品とやらはさっぱりだ」


そう言って金貨を一枚カウンターの上に置く。


「ではこの金貨で今度はスライム原液をください。ありったけ」


「そういう変なもん買い付けるのは、俺もこの商売長いことやってるけど嬢ちゃんだけだぜ……あるけどよ」


あるのか。内心でカノンは突っ込んだ。


カウンターの下から何本か瓶を出して並べる。


「右からスライム、ベノムスライム、ファイアスライムだ。一本銀貨10枚、三本ずつあるから銀貨90枚。金貨1枚だと端数が出るが他になんか買って行くか?」


「では小麦粉と葉野菜を何種類か見繕ってもらえますか?」


「まいど」


「急に庶民の買い物になったな……」


カノンの呟きに、ドランは口をへの字に曲げた。


「この嬢ちゃんはな、こっちで用意してやらないと本当に有り金全部研究費に突っ込んじまうんだ。……ここだけの話、依頼の品は敢えて端数が出るように発注してる」


最後だけ、カノンにしか聞こえない声で話したドランは、街の他の人間たちがそうしたような嫌悪感のようなものはない。むしろ、親戚の叔父さんかのような振る舞いだ。


そうした疑問が顔に出ていたのか、ドランは小声のまま続けた。


「アンタも見たろ。この街の、あの嬢ちゃんに対する態度。なーんか、ほっとけなくってな。たかだか髪の色やら『瞳の色』やらが違う程度で、どうしてこうなるかね」


「『瞳の色』?ごくありふれた翠の色じゃーーー」


「このスライムというのはですね、強酸性の体液を核となる部分で制御して人を捕食するという魔獣でして、魔力伝導率が良く良い素材になるんですよ。ベノムスライムは毒となる植物や昆虫なんかを捕食して体液に毒を溜め込み、吐き出すことで大型の獣も仕留める手強い魔獣ですね。ファイアスライムはーーー」


「嬢ちゃん」


「なんですか?」


「多分もう聞こえてねぇ」


膨大な情報量に許容量を超えて、カノンは真っ白に燃え尽きていた。








「ありがとうございました。良い買い物が出来ました」


「おう、またなんかあったら寄ってくれ」


カノンとドランが当たり障りのない挨拶を交わしている間にも、翠華はトランクケースにみっちみちにモノを詰め込んでいた。


「ではてんちょー!また!」


どうにか留め具が嵌りスチャッとケースを背負った翠華は、晴れ晴れとした笑顔で手を振った。




店を後にしたものの、カノンはどこに行くべきかと早速頭を抱えた。


この街には冒険者ギルドがないらしい。


通常、冒険者はギルドから依頼を受けて仕事に就く。


翠華の『家』から東に森を抜けて、その後北に向かって着いたこの土地だが、ありふれた農村といった佇まいで、先の一件さえ見なければ平和そのものである。


だから、途方に暮れた先の単なる思いつきだった。


「なぁ、さっきのスライム何に使うんだ?」


「気になりますか気になりますよねさあじゃあ帰りましょう我が研究所へ!!!」


「え」


好奇心は猫を殺すという。


やたらと大きいトランクケースを軽々と背負う翠華の膂力は、冒険者の端くれのはずのカノンより、遥かに強かった。


小さく華奢な女の子に街から引き摺り出される哀れな冒険者は、半泣きでせめて自分で歩くからと言うまで引き摺り回されたのであった。

やっと『魔科学』らしい文章が出せました。

この辺りを執筆していた時は完全に失念していたのですが、モンスターを狩ってその素材を得るのはかなり難しい世界観になっておりますので、ドロップ品で道具を作る必要性をどうやって演出するか後に悩む羽目になりました。

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