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魔法とライターともふもふと。

書き溜めてはいたのですが、しばらくぶりの更新となってしまいました。

切る場所がわからず……

「つまりです!《電気》なる不思議な力を用いることで!魔力を持たない人にでも簡単に魔術が使えるんです!」


「はぁ」


食卓を囲みながら翠華の講義の続きを聞くこととなったカノンは、適当に相槌を打ちながらもそもそとパンを口に詰め込んだ。


備蓄、と翠華は言っていたが、パンは今朝焼いたばかりのものらしく、ふわふわとした食感は街のパン屋と比べても遜色ない。


何やら危ない研究の真似事をしているようだが、艶やかな髪といい、料理の腕といい、年頃の女の子としてはかなり出来た子らしい。おまけに顔も良い。


「カノンは魔法は使えますか?」


いつの間にそんなに親しくなったのか、ファーストネームで呼び捨てである。


「俺は魔素適性がからっきしなんで、全く使えん」


魔素とは、空気中に漂う不可視の物質で、魔法を使うために身体に取り込み使用されるものである。


カノンは自身に適性が無いことを知った瞬間に興味を失ったモノだが、効率良く魔素を運用する術を学ぶための魔導学院なども大規模な都市にはある。


「それではこちら、《ライター》と言うものなんですが」


そう言って翠華が取り出したのは手の平ほどの大きさの金属製の箱だった。


「なんだこりゃ……金属製の箱に見えるが……」


金属自体は珍しいものではない。


帝都に行けば金細工のアクセサリーや鉄製の甲冑であったり、金属製品には事欠かない。加工や材料の調達難易度であったり、おいそれと買えるものではないため、基本的に冒険者が持ち歩くものは革製品と相場が決まっている。


翠華はカノンの問いかけには答えず、箱を半分ほどからカチリと開いた。


箱の中から現れたのはこれまた金属製のダイヤルと蝋燭の芯のようなロープが一本。


「せやっ」


翠華が両手で箱を握りしめ、カシュッという音と共にダイヤルを回すと火花が上がった。


「うおっ!?」


突然のことに思わず仰反るカノンを見て、翠華は苦笑いを浮かべた。


翠華の手元が明るくなる。


ぼうっと燃えるロープが露わになり、カノンは絶句する。


「このように、簡単に火が起こせます」


どやぁっと薄い胸を張る翠華をそっちのけにカノンはまじまじと翠華の手元を見やる。


「魔術が使えない者にもって言ってたよな?ってことは俺にも使えるってことか?」


「もちろん。ちなみにこれは電気も使ってないので特別大掛かりな装置も必要ありません」


翠華が箱を閉じるとたちまち燃え上がっていた炎もかき消えた。


閉じた箱を翠華に手渡され、軽く説明を受けてから箱を開いた。


ひとつ深呼吸をして、ダイヤルに指をかける。


「ファイア!」


一息にダイヤルを回すとシュッという音と共に火花が散った。


ロープに火が灯り、カノンの手元が仄かに明るくなる。


「おおっ……」


感動に打ち震えていると、テーブルを挟んで向かい側からクスクスと笑い声が聞こえてきた。


「魔術……ではないので……詠唱は要りませんよ……」


心底可笑しそうに笑う翠華にカノンはいたたまれなくなった。


「あとそれでは詠唱も不完全です。ちゃんと学んでみますか?」


「いや、いい。どうせ使えないだろうし……しかし、これほど気軽に火を起こせるのは良いな。冒険者辺りに売れるんじゃないか?」


「加工が結構面倒くさくて、大量に作るには結構大掛かりになりそうなんですよねぇ〜。材料費も馬鹿にならないくらいかかってますし、利益を得ようと思うと小売価格が凄いことに……ちまちま作ってたまに街に卸してますけど、あんまり売れ行きは良くないようですし」


「だってこれ、結構高いだろ?」


カノンがざっと見ただけでも、ゴーレムの鉄板、サラマンダーの体液、もふもふの綿といった中級から上級の魔物の素材で出来ている。


「そうでもないですよ。ゴーレムの鉄板は元を辿ればただの鉄鉱石ですし魔力が籠っている必要は無いので普通に鉄鉱石で代用しています。サラマンダーの体液はしばしば大量発生したときに安売りされるのでそのときを狙って買い付けています。問題はもふもふの綿ですねぇ……」


「だろうな……」


『もふもふ』という字面と見た目こそ可愛らしいが、この国においてもふもふという生物は時として災害級に認定される。元々は沿岸部の水生生物だが、河を遡上して上流の山の湧水で育つ。そして、『転がって』降りてくるのだ。それも千や二千では足りないほどに。


川沿いをころころもふもふと転がってくるそれはまさに『雪崩』であり、強固な城壁のない集落が過去いくつか滅んだこともあるらしい。


「夏毛だとサラマンダーの体液が上手く馴染まなくて、冬毛を刈り取らなきゃいけないのですが、なにせあの大群ですからね……噛みついたりしないのが唯一の救いですね」


一般認知として、もふもふの脅威度は低い。人や家畜を襲うようなことはせず、愛玩動物として飼育されていたりもする。水平な尾と横に突き出した胸ヒレで陸上をぺちぺちと蠕動(ぜんどう)し、柔らかい毛玉が「きゅー」と鳴くのである。だが数とは時として暴力であった。


「……なぁ、それ、羊の毛じゃダメなのか?」


ふと思いついてカノンが呟くと、翠華は雷に打たれたようにライターを落とした。


「…………近くに羊牧場が無いのでダメですね!」


―――もふもふ牧場も無いのだが、とカノンは天井を仰いだ。

作中に登場する『もふもふ』ですが、当方が所有するイルカのぬいぐるみがモチーフだったりします。

購入当初はもっふもふだったのですが、洗濯を繰り返す度にちょっとずつ萎れていっております。

さらに言えば、この世界では「魔素」と「電力」は全く別物になります。

故に「魔法」と「科学」の融合物、すなわち「魔科学」と呼んでいるのですが、そこら辺の解説は後々翠華が長々と語ってくれると思います。

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