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王国魔導師団長の憂鬱

どうにか今週分も確保できました。

程なくしてイリスが目覚めると、即座にカテナの不在に気が付いた。


「しもうたぁぁぁ!!!ウチとした事が使命より趣味を優先してしもうたぁぁぁ!!!!!」


未だ簀巻きのままゴロゴロと転がるイリスを翠華は杖で突く。


「姉弟子様、なんですよね?そういえば師匠は昔のことあまり話さなかったんですけれど、魔導師団に居た師匠ってどんな感じだったんですか?」


「突くならもうちょい強めで」


「まず質問に答えろよ姉弟子」


残念なリクエストに杖を引っ込めた翠華に代わり、カノンがツッコむ。


「そこな少年、おねーさんへのリスペクトは大事やで。喋るもんも喋られへんやろ」


「おねーさんって、俺とそう歳変わらないでしょう?」


「女性に歳聞くなんてデリカシーの無い男やわぁ」


「自分で話題振っといてなんなんだこの人」


再び器用に体を起こしたイリスは別に改まった様子もなく続ける。


「ウチも3年しか教えてもらえんかったからそれ以上前は知らんけど、魔導師団の研究所にずっと籠っとる変な人やったよ。先生は見た目もアレやから公の場には中々出られんかったって聞いとるよ」


「待ってください、私がここで師匠に引き取られたのは5年前、10歳の頃の話です。それより前ってなると、結構歳いってますね?」


「丁度その年に先生居らんくなったんや!ウチはまだピッチピチの18や!」


「やっぱ俺とそう変わらないじゃん……」


今年17になったカノンのぼやきは誰にも聞き入れられず。


「というか翠華ちゃん15なんやな。おねーちゃんって呼んでもええんやで?」


「そんな属性過剰なお姉ちゃんは要らないです……」


「そうかー、気が変わったらいつでも言ってや?さて……」


イリスがすっと立ち上がるのと、無茶苦茶に縛ってあった縄が解けるのはほぼ同時だった。


「お役目自体は果たしたもんで、こっからはウチの自由時間やな」


「なっ……」


翠華がギョッとして仰反るが、カノンにはずっと見えていたので黙っている。


カテナに殴られた時には既に縄は解けていた。


「なんで抜けられたんかって顔やな妹弟子。そんなん……」


ふっと笑みを浮かべ、イリスは爽やかに言い放つ。


「一人で楽しんどる時に解けなくなったらアカンやろ?上手に縛られるにはまず縄抜け覚えなアカンねん」


「アカンのはお前の頭の方じゃないのか」


「今日イチ要らない情報でした」


「辛辣ええわぁ……」


イリスが一人愉悦に浸っているところ、大変放っておきたいが、聞きたいことは色々ある。


「行かせて良かったんすか?連れ戻すのが役目っぽいこと言ってましたが」


カノンの問いに、イリスは憂鬱そうに溜息を吐く。


「国としては連れ戻すんが筋やと思う。けど、40年も幽閉されとった先生にまた宮勤めさせるんがええことやとは、ウチには思えんのよ。加えてあの馬鹿力やねんぞ。本人に行く気が無いのにどやって連れて来い言うねん官僚のアホどもどつき回したろか。貴重な休暇潰してこのクソ暑い中早馬で一週間ぶっ通しやで。死ぬわ」


「せめて魔導師団の制服が白ければもう少し良かったかもしれませんね……」


「?どういうことや?」


「黒は光を吸うんですよ。熱をこもらせやすくて太陽の下だと大層暑いんです」


「光を吸うって、闇の魔術でもあらへんやろ」


「そういう性質があるってことです。カノン、机の上のレンズを取ってもらえますか?」


「これか?」


本の上に無造作に置かれていた拡大鏡を取り上げ、翠華に渡す。


「ここに黒い布と白い布があります。レンズで光を集めて白い布に当てると……」


窓から差し込む光をレンズで点の様に集めて布に当てると、徐々に焦げ臭い臭いがしてきた。


「このように、太陽の熱で焦げます。これが黒い布だと……」


説明しながら黒い布に光を当てると同じくらいの時間で燃え上がった。


「このように、同じ熱でも、黒い方が熱を集めやすい性質があるんです。なので、夏場は白い服を、冬場は黒い服を着た方が快適に過ごせるんだそうですよ」


「ほえー、これも先生の教えか?」


「師匠も知識としては知っていたみたいですが、頭がアレなので実証したことがなかったそうです。火魔法使えばどっちも燃えるとか言ってあまり頓着していませんでしたよ」


「お前ら!話はいいから早く火消せよ!床板燃えるだろ!!!」


話し込む二人を他所に、カノンはブーツで燃え続ける布を揉み消したのであった。




「白いローブ、正式に使えんか聞いてみるわ。これだけでも少し儲けもんやな」


床板は少し焦げたが、家主が問題なしと言ったのでとりあえず放置し、翠華は朝食の用意を始める。


カノンも食器運びなどの手伝いをする。


「姉弟子様は朝食まだですよね?食べて行きます?」


「イリスでええよ。そうなぁ、ほんならお言葉に甘えよかな。ロクなもん食えてへんし」


イリスも厨房に向かい翠華の手伝いを始める。


「イリスさんも料理出来るんすね」


「そらぁ、なぁ?」


イリスは翠華と目配せする。


翠華はそれで心得たとばかりに頷く。


「「健全な研究は健全な身体から!」」


「流行ってんのかそれ」


「あの先生に着いて行こ思たら多少くらいは出来へんと女子として自信無くすわぁ。なぁ?」


「師匠の作り置きもあるので期待して良いですよ」


「棚ぼたやなぁ」


なんやかんやと楽しそうに料理を作る二人はさっきまで初対面だったとは思えないほど仲が良い姉妹に見えなくもない。


見た目は全く似ていないのだが。


「カノン、何か不埒なこと考えませんでした?」


「ナニモカンガエテナイデスヨ」


かたや、つるーん、すとーんで、かたや出るとこは出てて引っ込むところは引っ込んでる女性陣である。


カテナもスタイルは良かったが、得物を振り回す分筋肉質だったと思う。


余分な肉が付いていないという点では三人とも共通項だが、余分でない肉も付かなかったのか翠華の名誉のためにも思わなかったことにしておこう。


「まだ15歳ですから!これから成長しますから!」


翠華の必死の弁明を、イリスは穏やかに笑っていた。

ツッコミ要人のはずがここまでツッコミどころかボケ倒してくれています。

イリスさんはいわゆる黒魔導士的なポジションです。

万能オールラウンダーなカテナさんとは対極の魔術特化タイプです。

カノンはそういう意味では盗賊職とか狩人に近いのでしょうか。

勇者とは……

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