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大魔導士の新たな矢

ひとしきりカノンが処理を終えると、翠華がカテナに詰め寄っていた。


「そういう師匠こそ、一年も留守にして何取ってきたんですか!」


カテナは「おぉ」と思い出したようにポーチから羽根を取り出した。


「翼人族の羽根を貰ってきたんだ。カノンの弓の腕が想定より良かったんで出番が無かったが」


朱色をした鮮やかな羽根を弄び、カテナはつまらなそうに言う。


「何に使うんです?」


カノンが問うとカテナはすらすらと答える。


「風属性を帯びた翼人族の羽根は、彼らが狩りをするときに何本か投げるらしい。強風の中でも獲物を捉えることができるというんで、矢羽にこれを使ったら当たりやすくなるんじゃないかと思ってな」


「じゃあ師匠、これに当ててください」


そう言って翠華が取り出したのは件の爆弾。


「おいそれ!?」


翠華は全力で頭上に放り投げると地面に伏せた。


「いいだろう。カノン、弓貸せ」


素早く矢羽を取り換え一瞬のうちに、もはや見えなくなりつつある爆弾に矢を放った。


適当に放ったように見えた矢は狙いを定めた猛禽類のように瓶を射抜いた。


直後。




轟音が吹き荒れ木々がなぎ倒された。



森の中にちょっとしたクレーターが出現した。


「お前……なんてもの作ったんだ……」


吹き飛ばされたカノンはまたしても地面に転がっているにも関わらず、カテナは小動ぎもした様子がなく呆れたように溜息を吐いていた。






泉のほとりでパンに野菜や肉を挟んだ軽食を食べながら、カテナが総評する。


「売るにも素材を仕入れるにも高いな。戦争でも始めるのか?」


「いやぁ……思いつくまま作ってたらこんな感じに」


「お隣と戦争真っただ中の騎士団の連中とかは欲しがるかもしれんが……絶対素材も作り方も教えるんじゃないぞ」


「わかりました……」


しょんぼりと項垂れながらもそもそ軽食を食べる翠華に、カノンもフォローに入る。


「雷属性の弓?は暴徒鎮圧とかに使えそうでしたけど」


「あれは騎士団の連中が作らせた弩を使ってるからな。それだけでも結構高い。素人でも比較的まっすぐ飛ぶが、矢が小さいから威力も射程も悪い。かといって大きくすると持ち運びが不便なんだ」


カテナは翠華に向き直ると諭すように問いかける。


「国と国が戦争する規模なら重宝されるが、私がお前に教えたのは人々を豊かにする魔法の使い方だ。ゆめゆめ、忘れるな」


「はい……」


「ああ、でもアレは良かったぞ。シャワー」


打って変わって満足気な笑顔で言うカテナに微妙に気まずそうな顔のまま翠華が応える。


「師匠がお風呂にお湯貯めるの見て思い付いたんです。でもまだ欠点があって……」


「定期的に魔素を流し込んでやらないと水すら出ないんだろ?」


「はい……」


「魔鉱石に精霊銀(ミスリル)を混ぜてみろ。加工が面倒だが精霊銀の魔素を吸い取る性質と魔鉱石の貯め込む性質が混ざって補給要らずになる」


「精霊銀って、魔素の伝導率が高いだけじゃないんすか?」


精霊銀といえば、淡く輝く銀色の鉱石で、魔素の伝導率が高い、とはカノンも聞いたことがある。


「触れるものから吸い取ってるんだよ。溜め込む性質は無いからほぼ同時に吐き出してるけど。それが光る理由だ」


「それならスライムソードがさらに継続利用可能に!」


「柄が短すぎてどのみちスライム原液持ち運ぶ羽目になるぞ」


翠華の思いつきは瞬殺されたのであった。

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