冒険者、研究所で一夜を明かす。
毎度思うのですが、拙作、行間を取らないせいでキッツキツのレイアウトな気がします。
改善する気はありません。
ぷはぁっと見てる側まで気持ちがいいほどいい飲みっぷりでエールを一気に飲み干し、湯上りでまだ若干湿った長い黒髪をくるくると弄びながらカテナは言う。
「まさか一年見ない間に弟子が家に男を連れ込んでいるとは思わなかったねぇ」
「それは―――」
「誤解です」
うん、言おうとした言葉は同じだけれどそんな真顔で言われると心に来るものがある。
「誤解じゃないさ、恣意的な解釈ってだけで」
「悪気がある分余計に酷いですね」
ケラケラと笑う様はとても90歳を越えた大魔導士には見えない。
カノンの基準では同い年程度―――20代前半、17、8と言われても驚かないほど若々しかった。
「さて、じゃあ少年」
少年と言われるには面映い歳なのだが、と思いつつもカノンはカテナを見据える。
青い瞳は心の底まで見透かされるような思いだ。
「どこまでいった?」
「ぶふぉぁ!?」
真剣な目をして聞くことが酒場の酔っ払いのソレである。冒険者が普段泊まる宿屋を兼ねた酒場ならいざ知らず、今日会ったばかりの女の子の家に―――半ば強制的にとはいえ―――泊まる羽目になった上、一応名目上は保護者であろう女性から聞かれるには相当酷い内容だった。
「会ったばかりなのにどこまでもないでしょう!?」
悲鳴のように叫ぶとカテナはふむ、と少し考えるような動作をした。
「森で遭難したパーティなんかを拾ってくることはわたしもよくあったが、男と言えば大概ケダモノのように女を襲うものだという認識だったぞ」
「レンさんでもですか……?」
「カテナでいい。いやまぁ、当人的にはおいしく頂こうとしたんだろうが、いかんせんわたしはその辺は疎いのでな。客人をほったらかして研究に没頭していたら目の下にクマを作った半裸の男が朝ベッドの上でノックダウンしているところなら何回か見た」
「これはひどい」
当人が自覚しているのかどうか知らないが、翠華もカテナもかなりの美人である。
言動が少々アレなところはあるが、翠華は窓辺で本を読んでいれば絵になりそうな美少女だし、カテナはどこかミステリアスな雰囲気を醸し出す美人である。
しゃべらなければ美人。とはよく言ったものである。
「わたしは見ての通りこの国では一般的ではない『竜人族』だからな。お前たち『人間族』の価値観とはだいぶ異なる」
言って、カテナは人差し指を立てる。
「お前たちが『魔族』と呼ぶ者たちは、単に魔法を使う術に長けている国家の臣民たちだ」
音もなく人差し指の先に火が灯る。
「わたしはそこの出ではないが、その国に住むものの大半が魔導士というわけだな」
詠唱無しで行われた魔法が、カテナの実力を物語る。
「でも、この国じゃ隣は魔族領で、魔王が統治する魔物や魔獣、魔族が闊歩する恐ろしい土地だって」
「そりゃプロパガンダだ。悪しき者が居る、国民よ奮起せよってな感じだな。魔王っていうけどちょっと魔法が使える普通の国王様だぞ」
「魔族の侵略だってあるじゃないか」
「元々『魔族領』だったところにこの国が入植して国境が曖昧だったところ線を引きたくなった何代か前の王様が『領地奪還』とか言って始めた小競り合いな」
「常識が崩壊していく音が聞こえる……」
カノンには『常識』の二文字がガラガラと音を立てて崩れていく幻聴が聞こえた。
「言葉も違うし、文化や価値観も違う、元々自分のモノだった、と双方が言えば子供でもケンカになるだろう。似たようなものだ」
あっけらかんとした態度でグラスに魔法で氷を作り、そこに琥珀色の液体を入れていく。
それを、三つ。
「飲めるだろう?」
仄かに薫る煙いような甘い香りはウィスキーか。
「頂きます」
厳かに受け取ったグラスは縁が薄く上品な作りになっている。
隣で翠華も受け取る。
「おいお前飲めるのか?」
ぎょっとして問うと何を今更と言った風に翠華は答える。
「お酒は自己責任で、が冒険者のルールでしょう。この師匠に付くのにお酒の一杯も飲めないはずがないでしょう」
言われて確かに、と思わないでもないが、ちっこい娘が酒の入ったグラスを持つ姿はどうにも違和感を拭えない。
躊躇いもなくぐいっと飲む翠華の姿を、なんとも微妙な面持ちで眺めていたカノンは、自身のグラスに注がれた琥珀色の液体を見るともなしに眺める。
「俺は、魔王を倒す勇者になるはずだったんです」
カノンは独り言のように溢す。
「なればいいじゃないか。今からでも遅くない」
カテナはこともなげに言う。
「『なれなかった』んですよ」
結構な量を飲んだはずだが、酔いの欠片も顔に見せず、カテナはふむ。と思案げな顔をした。
「話してごらん。何か閃くかもしれない」
真剣な話にしようと思っていたんですが、どうにもうまくいかず難航しております。
次話更新は結構間が空くかもしれません。




