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魔科学者と冒険者、風呂に入る。

皆様ご待望のお風呂会です。

ネタバレ。

「キャー!」があります。

「というか、さっきの爆発で背嚢の中身よく無事だったよな……」


「そういえば、そうですね……使った素材が良かったんでしょうか……」


どういう原理であれほどの爆発が起こったのかカノンにはわからないが、少なくとも翠華は理解しているはずだ。


ともすれば、背嚢の中で瓶が割れないような工夫はしたのだろうが、あれほどの衝撃波を喰らってなお誘爆しなかった背嚢の性能は計り知れない。


丁寧に扱うに越したことはないが、とりあえず、先に冷静になったカノンが地面に背嚢を下ろしたことで鬼ごっこは終了した。


二人とも全身砂まみれで埃っぽい。


「付随実験もしてみたいところですが、陽も落ちてきましたし、今日のところは帰りましょう……」


「そうだな……」


カノンは気づいていなかった。


本人的には「街に帰る」つもりであったのだが、翠華は『家』に帰るつもりでしゃべっていた。


帰路の主導権(イニシアティブ)が翠華の方にある以上、着くのは『家』の方だった。


呆然と『家』を見上げるカノンに、翠華は本当に何も気づいていない様子で、「どうしたんですか?」

と聞いた。


「いや、俺は街に帰って宿屋に泊まるつもりだったんだが……」


「泊まっていけばいいじゃないですか。今から森を出ようとしたら街に着く前に完全に陽が落ちますよ」


「いや……しかしな……」


年若い女の子が一人で暮らす家に泊まるというのは、なんというか。


「客間ならいっぱい空いてますから!」


笑顔で言った少女に、カノンはなんとなく残念な思いを抱いた。






薪を使えばお湯を張れるが浴槽がある家は少ない。


水を大量に運ぶすべが無いためだ。


多くの場合、貴族や名手の家に、水魔法を得意とする魔導士が浴槽に水を溜め、それを薪や魔法で沸かすといった手段が取られる。


そのため、大きな街には大衆浴場などがあったりはするのだが、小さな農村などになれば川での水浴びや井戸水をタライに溜めて身を清める。


しかし、翠華一人でお湯が張れてしまうため浴槽があるのだという。


「じゃあなんで最初、川で水浴びしてたんだ?」


「面倒くさかったからです」


出会いがしらに服を脱ごうとしていたところを目撃された翠華は微妙に目を逸らしながら言い切った。


この魔女っ子は実験以外はとことん怠惰らしい。


今も浴槽に水属性魔法で満たした後、床下のかまどのようになっているところに薪をいくつか入れて火炎瓶で着火するという横着をしてのけた。


この建物、石材や金属を使っている箇所が多いが、木材を使っていないわけでもない。


昼間見た床を炭化させたスライムの件といい、少々無用心すぎるな。とカノンは思う。


「川が近くにあるのに干からびかけてるカノンもどうかと思いますけれど……」


草が高く茂っていたから気づかなかったが、本当に目と鼻の先に川があったのは、それだけ己の未熟さを感じざるを得ない。


耳に痛い言葉に眉根を寄せていると、窓に付けられた鈴がちりんとなった。


「沸いたみたいですね。お先にどうぞ」


原理はわからないが、ある程度の温度になるとこの鈴がなるらしい。


そういう魔法は見たことも聞いたこともないので、魔科学の何かなのだろう。


いい加減慣れてきたカノンは鈴がなんなのか問うことをせず、「じゃあ」と席を立った。


「お風呂は一番奥の右手側です。脱衣所で脱いだものは箱の中に入れておいてください」


「わかった」


言われた通り廊下をまっすぐ進んで右手奥の扉を開けると、得体のしれない金属の箱が鎮座していた。


「……大丈夫なんだよな?」


若干不安を覚えながらも脱いだ服をその箱の中に入れていく。


自分の背嚢(リュック)から昼間『雑貨店』で購入した着替えを取り出し、とりあえず床に置く。


手巾を持って浴室の扉を開けると浴槽が鎮座していた。


大人四人くらいは入れそうなやたら大きい浴槽だった。


「貴族でもここまで大きくは作らないと思うんだけど……」


個人が持つには大きすぎるが、大衆浴場にするには小さすぎる絶妙なサイズだった。


浴槽の隣には取っ手のようなものとそこから伸びる管。


「シャワーの使い方わかりますかー?」


「キャー!?」


閉めたはずの浴室のドアがバーンと開け放たれ、翠華が顔を出した。


「ちょ、今、俺、風呂?!」


「今持ってるのがシャワーです。取っ手を回すとお湯が出ます。髪とか体とかしっかり流してから湯舟に浸かってくださいね」


ぽいと石鹸を投げて寄越し、手巾で前を隠したまま片手でどうにかキャッチした。


「では、ごゆっくり~」


何事もなかったかのように扉を閉め掛け、はたと気が付いてにやりと笑って見せた。


「これでお相子ですね」


パタンと閉じられた扉に向かって、カノンは、


「お前のは故意だろ!?」


と叫ぶしかなかった。

1話目でも書きましたが、当方の書く女の子は何故か「キャー!」と言ってくれないので言わせておきました。

苦情の代わりに皆様の思うシチュエーションを併記していただければワンチャンあるかもしれません。

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