街外れの森の中で
万策尽きたとはこのことか。
最後に食べたのは木の実だったか木苺だったか。
もう三日ほど、まともなものを口にしていない。
動く気力すらなく、地面に仰向けに転がり、木々の合間から差してくる眩しい日差しを手で遮って、青年はひとつ溜息をついた。
「このまま死ぬのかなぁ、俺……」
水を求めて辿り着いた小川のほとりで、青年、カノン・ラズはさらさらと流れる音を聞きながらぼんやりと呟く。
地元の村ではそこそこ腕の立つつもりだったが、世界は広かった。
街に出てみれば上には上が居り、都会だと思っていたその街も冒険者には中継地点でしかないことを知り、自分がいかに小さな世界で生きてきたか思い知った。
冒険者として仕事を始めてから二年が経ったが、薬草の採取や弱い魔物の討伐といった安い報酬の仕事しか受けることができず、
大したものも持っていないにも関わらず野党に追われ、やっと逃げ切ったと思ったら荷物の入った皮袋を忘れてきた。
野党を巻くのにがむしゃらに走り回ったせいで帰り道も分からず森を彷徨い、気がつけば三日経っている。
完全に遭難である。
走馬灯のように過去が巡る中、ぐぅ、と腹が鳴る。
「腹減った……」
ガサゴソ、と悲壮感漂う彼の元に草木が鳴る音が届いたのはそんな時だった。
野党に追いつかれたか、はたまた魔物が啄みに来たか、どちらにしても万事休す。
「ふんふんふーん♪」
と絶望に打ちひしがれていたカノンの元に、能天気な鼻歌が聞こえてきた。
ガサゴソガサガサと近寄ってくる気配に目をやるとその主が姿を表した。
綺麗な白髪を首元で切り揃え、純白のローブを着た少女だった。
カノンが呆気に取られていると、少女は能天気な鼻歌をそのままにおもむろに服を脱ぎ出した。
「なっ!?ちょっ!?」
その声にようやく気づいた少女が脱ぎかけの服を手に固まる。
恐る恐るといった感じで、カノンの方に目を向ける。
しばし、沈黙があった。
鳥と虫の鳴き声が森の中に響き渡る。
「ぎゃああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!覗きいいいいいぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!!」
少女が絶叫を上げ、その声に驚いた鳥たちが一斉に飛び立った。
「いやいやいやいや!!!そっちが後から来たんだろ!!!!!やめろ石を投げるな痛ェ!!!!!」
ぎゃーぎゃーと騒ぐ声が、森の中で木霊した。
当方の書く女の子は何故か「キャー」とは叫んでくれないんですよね。