第05話 真神教
この章には動画がありますので、是非、ご視聴の方よろしくお願いします。
https://youtu.be/Z_1Xi3MfqTc
高千穂峡にほど近い、九州南部の霧島連山の麓。
森の中にポツンとある集落。
一見、変哲もない、どこにでもあるようなアパートの一室。
表札には三上六臣と掲げられており、その横に真神教受付室と小さく書かれていた。
真神教、それは一見、地方のカルト集団と思しき宗教団体であるが、実態は日本政府中枢に深く食い込んだ、がん細胞の様な集団である。
表向き、質素な生活を尊び、仏教の流れを汲んだ宗派であるように見えるが、その中身は、教祖三上六臣のカリスマ的な存在が可能にした彼個人の宗教組織である。
彼と一回でも話をすれば、巧みな話術で、彼を偉大な教祖と称え、彼の言うことなら、何でも言うことを聞くようになる。
さながら魔法にでもかかったようだと、その様子を見た者たちは声を揃えて話した。
彼は、得意の話術で信奉者を募ると、汚れ仕事を何でもこなす愚連隊のような組織、草薙隊を結成した。
それが半次郎を襲った部隊の一部だ。
彼は以前からある草薙隊を話術で手中し、武装隊として草薙隊を再結成させた。
合法非合法を問わず、草薙隊は三上の命令を忠実に聞き、実行し、政治中枢のほとんどを支配下に置いていた。
そのアパートのリビングの中。
そこで三上六臣は、黒い椅子に座り、目の前に膝を立ててかがんでいる、10人程度の黒服の集団、草薙隊を目の前に、膝を組んでいた。
「結果を聞こう」
三上は尊大な態度で、草薙隊へ問いかける。
すると集団の前列中央の男、隊長と思しき人物が顔を伏せたまま、告げる。
「失敗しました。」
・・・
三上六臣は草薙隊からの報告に失意を隠さなかった。
「分かっているのか、次の衆議院総選挙まで1年もないのだ。
それまでにあれを見つけなければ、事は達成できない。」
三上は、静かながらも焦りを覚えていた。
「それで霞が関(警視庁)には手を打っているのか。」
再度、草薙隊に問い、隊長がそれに答える。
「そこに抜かりはありません。
針貝のせがれの言葉には、耳も貸しますまい。」
「宗次郎め、一体どこにアレを隠したのか。」
「宗次郎・・・、半次郎の父親のことですか。」
「そうだ。宗次郎なき後、必ず半次郎がアレ手にしているはずだ。
なんとしても、探し出さねばならん。」
「我が命に換えましても、必ず探し当ててみせます。」
「頼んだぞ。」
「はっ」
黒服の集団は、その声を合図に、三上の元から去っていった。
「宗次郎、俺は必ず日本を手に入れてやる。
そのためには、お前が引き継いだ神刀、日出ノ太刀が必要なのだ。
俺の手元には、既に八咫鏡と八尺瓊勾玉がある。
あと一つ、天叢雲剣またの名を日出ノ太刀が揃えば、時の権力者から草薙隊の伝承者として認められ、天照大御神の神勅による正当な代理人となり、日本政府すら操られるのだ。
正当な伝承者としての儀式の日は、衆議院選挙が区切り目。
これを逃すと、後4年、無為な時間を過ごすことになる。
宗次郎、見てろ。来年の選挙後こそ、俺は支配者になるのだ。」
三上は、一人そう呟き、窓に映る霊峰、高千穂峡を眺めていた。
ーーー
半次郎が訪れた、駅前の派出所の中。
ベテランと呼ばれるだけの経験を積んだ中年警官は、いつも仕事には忠実な姿勢で臨んでおり、不正とは真逆な人生を歩んでいた。
彼がふと時計を見ると、時刻は午後8時過ぎだった。
すると、突然、派出所を訪れた若者が、スーツ姿で汗を流しなら暴漢に襲われたと訴えてきた。
彼は思考する。
やれやれ、ここも見知らぬ流れの者が幅を利かせるようになって、治安が悪化したもんだ。
被害を届けた若者への事情聴取は、一旦、若い後輩に任せるとして、一応、その様子を後ろから見守っておこう。
そう思い、後輩の事情聴取の様子を後ろから眺めていた。
話の途中、彼は我々にとんでもないものを見せてきた。
揉めた相手があの真神教だとは・・・
それが出た途端、話を聞いていた後輩を後ろに呼び出し、これに関わるな、と念を押した。
あの宗教団体は、やばい。
我らが警視総監直々に、この組織の行為には目をつぶれと、お触れをだしているのだ。
もちろん、そんな指示が出ていることを示す文書やデータは、全く残してはいない。
若い後輩は釈然としていないだろう。
しかし、組織の中の人間として生きていくには、必要なことなのだ。
このようなこと、組織の中にいるといずれは、遭遇する。
遅いか、早いかの違いだ。
私を恨むなら、恨んでも構わない。
後輩も良い経験になるだろう。
自身の正義感や矜持と違う対応を、せざるを得ない状況に追い込まれることは。
被害届を出そうとした彼への対応は、私も当たった。
なだめすかして帰宅を促し、ようやく彼は、ここを後にした。
やれやれ、今日は当直で明日の朝まで仕事時間だが、これだけで今日は、くたくただ。
明日の非番は、家内には悪いが、ぐったりさせてもらおう。
明日はビールがうまいだろう。
それを楽しみにして、明日の朝の当直明けまで頑張ろう。