第03話 暴発
シュキン
鋭利な刃物が、その光沢の残像だけを残し、スーツ姿の男が一瞬前までいた場所をかすめる。
「なんだ、こいつら。
お前らは、誰だ。」
襲われたサラリーマンが誰何するも、誰も返答せず、辺りには殺気が漂っていた。
彼は困惑していた。
サラリーマンになって2年、九州の片田舎から東京の会社へ就職した針貝半次郎は、この状況に戸惑っていた。
東京の街にも慣れた頃、帰宅のため、いつもの公園を横切り帰路についている時だった。
都内から程よく離れた場所に借りたアパートは、通勤時間こそ辛いものの、公園に近いことから、半次郎は気に行っていた。
時間によっては、ほとんど人気がなくなることから、帰宅時には多少回り道になったとしても公園を横切る形で歩いていたところ、突然、謎の集団に囲まれ、襲われたのだ。
「俺、金なんか持ってねぇぞ。」
とっさにバックステップで凶刃を避ける。
素早く周囲を見渡すと、7人の男が黒色で様式が統一された衣服を身にまとい、それぞれ刃物を片手に、半次郎を狙っていた。
「なんなんだよ。
お前ら何者だ?」
そんな状況なのに半次郎は焦ることもなく、すぐに対処法を考え始める。
親父が言ってたっけ?
周囲を囲まれたときは、背面を壁なので塞ぐことが理想だと。
しかし、襲われた場所は開けた公園のため、そんな壁はなかった。
周囲に人気もなく、大声を出してもそれを察知できる人が見当たらない。
黒い衣服の男たちは、半次郎を中心に円を描くように囲んでいるため、ちょっとでも隙があれば直ぐにでも襲ってきそうだ。
半次郎は父、針貝宗次郎の教えを思い出す。
宗次郎は、半次郎からみれば冴えない自営業の社長であったが、なぜか武術全般を嗜む武道家であった。
父の意向なのか趣味だったのか、今となっては、分からないが、日本古武道と思われる武術を幼少期から叩き込まれていた。
嫌々取得した武術だが、それが今になって役にたってきた。
半次郎は、集団の力量を測っていた。
集団に囲まれたとき、一番大事なのは同時に攻撃されないよう、立ち回ることである。
半次郎は囲まれた集団の中で、一番対処しやすそうな者を探し出す。
「左手後方のこいつだな。」
狙いをつけた半次郎は、左手後方にいた一人の男へ、突然その男に対し正面を向け、左手でジャブを繰り出す。
相手を格下と思っていた男は、突然の逆襲に戸惑い、隙が生まれた。
そこに、半次郎の左手裏拳が狙われた男の顎にヒットし、仰け反った隙に半次郎は包囲網を突破した。
「よし、このまま遊具場まで走る」
半次郎はすぐに公園の遊具場まで走り、遊具を背面に、男たちに相対する。
遊具付近は明かりもあり、この状態であれば、遠くからでも視認できるポイントに位置していることこから、ここで時間を作れば、誰かが察知してくれるだろうと思っていた。
男たちも同じことを考え、時間を与えないように、次々と半次郎に襲いかかってきた。
右手に刃物をもった男が、半次郎の正中に突き刺そうをするが、それを半次郎は左手で右手を払いのけながら、男の袖をつかみ右足膝を男の腹部にカウンター気味に入れる。
男は倒れるが、すぐにその後ろから、別の男が飛びかかる。
飛び掛かった男を半次郎は右にかわし、同じく右足つま先で男の股間を蹴り上げる。
すぐに右手から別の男が襲いかかってくるが、蹴り上げた足を直ぐに折り返し、男の後頭部へ踵を落とし、気絶させる。
親父から習った技の一つ、弧月の蹴りであった。
こんな技、どんなときに役に立つのかと思ったが、まさか東京で役に立つとは、思いもしなかった。
三人目が倒れた後、左から相手を電撃でショック麻痺させる、電撃銃のユニットが発射されたが、体をひねって躱した。
その際、三人目の男が持っていた長さ20センチくらいの刃物を拾い、電撃銃をもった男に投てきすると、その男の左手にヒットし、鮮血をまき散らしていた。
続く5人目は獲物を使わずに半次郎の左手袖をつかみ、引きずろうとしたので、右手で相手の左袖をつかみ、背負い投げの状態で、頭から地面にたたきつけた。
そこでリーダーらしき男が撤退の合図をしたため、黒装束の暴漢たちは、一斉に逃げ出した。
半次郎は5人目を投げた際、衣服の袖を引きちぎっていたが、それをポケットに収めると、すぐに警察へ被害届を出そうし、用心しながら交番へ向かった。