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黒き雷帝は深淵より至れり  作者: がりょあ
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「ただいまんこー」


「おかえりなさい、ついでに死んでください」


 帰るとホテルに合わせてか普段よりおめかしをしたシルフィエットが僕を出迎えてくれた。

 普段は必要がないからという理由で化粧の類を一切しないシルフィエットはすっぴんでも十分すぎるほど天使なのだが、たまにこうやってうっすらとでも化粧をしているシルフィエットを見ると、やっぱり化粧品は偉大だったんだなということを再確認できる。

 何が言いたいかというと、シルフィエットが綺麗だということだ。

 口紅なんかつけて、露出の少し多めなワンピースなんか着てるもんだから、僕みたいな純真無垢でうぶな男の子が目のやり場に困るくらい色っぽい。

 二歳くらいしか違わないはずなんだけどな......。

 どうしてこうも艶っぽく見えるのか。

 神様が本気を出したらこんなのが出来上がるんだろうな。 


「どうしました?」


 僕が黙っているとキョトンとシルフィエットが首を傾げる。


「いや、綺麗だなと思ってさ」


 正直に白状すると、シルフィエットは一瞬だけ頬を赤くしたが、すぐに元の顔に戻って小さく「そうですか」とだけ言った。


「試験はどうでしたか?」


 ソファーに腰を下ろすと、シルフィエットが聞いてくる。

 特に心配もしていない様子だ。


「ん、まあ余裕だったよ」


 親指を立てて見せると、シルフィエットは嬉しそうに微笑む。


「お疲れ様です」


 その笑顔を見れただけで、テストを頑張った甲斐があったというものだ。

 まあ特に頑張ってもいないけど。

 筆記試験に至っては食パンマンを描いてただけだからな。


  

 シルフィエットと一緒に食べた夕食は豪華なものだった。

 さすが三つ星ホテルだけあって、シェフはいい腕をしている。

 エビチリとかめっちゃ美味しかった。


 部屋に帰ってシャワーを浴びる。

 そろそろ寝ようかというところでシルフィエットの表情が少しだけ寂しそうな色を帯びる。


「こうやってグレイス様の面倒を見るのも、当分の間はないかもしれませんね」


 シルフィエットがきているのはピンクの豚さんのパジャマだ。

 普段は綺麗で推してるシルフィエットがパジャマによって可愛さまでまとってしまう。天使かな。

 ちなみに僕が着ているのは青い牛さんのやつだ。どうでもいいね。


「そうかもね」

 

 僕はそれだけ返事した。


 シルフィエットは明日の朝早くダートリユニオ本社に帰ってしまう。

 彼女は何かと忙しいので秘書だからってこうして僕にいつまでも付き添ってはいられないのだ。

 僕が学校に通えるのも、シルフィエットが僕の代わりに一生懸命働いてくれているからだ。

 

「初めてグレイス様と出会った時のことを思い出します」


 昔を懐かしむようにシルフィエットが目を細める。

 三年前くらいの話だ。


 僕たちが出会った時、僕は十二歳でシルフィエットは十四歳だった。

 代々ダートリユニオのマスターには同じ年頃の専属の秘書がつく決まりになっている。

 僕くらいの年齢の子が組織の中にシルフィエットしかいなくて、しかもシルフィエットは当時からとても優秀だったので僕の専属秘書になるのは必然だった。

 僕は自分専属の秘書がいることが嬉しくて、ついいろいろちょっかいをかけたりしたものだ。懐かしい。


「出会った当初からグレイス様は怠け者で性格もひねくれていたので、この生意気なガキさっさと野垂れ死なねえかな、などと思っていたものです」

 

「ははは、結構過激だったんだねシルフィエット。あの頃は僕も幼かった」


「まあ今も思ってますけど」


「ん? 今なんて?」


「それが今ではこんなに立派になられて......感動しています......ぐすん」


「いや、聞き逃さなかったよ? 瞳うるうるさせてるとこ悪いけど、僕聞き逃さなかったよ?」


 シルフィエットは目元に滲んだ涙を拭う。

 僕の成長に感動しすぎて一時的に耳が遠くなっているようだ。


「あれから色々なことがありましたね。今までグレイス様がやってこれたのも、全部私のおかげです......ぐすん」


「それ言う人逆じゃない?」


 若干薄れた気がしなくもないがシルフィエットに感謝しているのは本当だ。


 思えば僕がマスターになりたての頃、僕は周囲からの信頼を得られずに孤立していていた。

 幼くして組織の頂点に立ってしまったことで、妬みとか懐疑とかいろんな感情が向けられたのだ。

 中には僕暗殺計画とか立てる輩までいて、僕は強いから殺されることはないけどその時は流石に組織をまとめることを挫折しそうになったものだ。

 そんな時に一番僕の近くで親身になって助けになってくれたのがシルフィエットだ。

 グレイス様は普段は怠け者に見えるが実はやる時はやる男なんですだとか、優柔不断に見えて決断力がすごいとか、ポテチばっかり食べてますがピーマンも食べれますとか、いろいろ僕のことを重役たちに説明してくれたのだ。

 そんな健気なシルフィエットの頑張りが重役たちにも伝わったのだろう、少しずつ僕が疎まれることは少なくなっていった。


「私がグレイス様に戦いを挑んだ時のこと、覚えていますか?」


「そんなこともあったね」


 これまた随分と懐かしいエピソードだ。

 シルフィエットが僕の秘書になってすぐの頃。


 当時僕が潰そうとしていた敵対組織の中に未成年の子供が大半を占めている部隊が存在した。

 敵は親に捨てられた孤児達を拾ってきて兵士として教育していたのだ。

 孤児達はもともと戸籍がないから跡がつかないしお金もかからないので、使い捨ての戦闘機としてこれ以上便利なものはない。

 最低限の食事と寝床だけ与えればいいし、劣悪な環境に耐えきれず死ねばまた拾ってくればいいだけの話だからだ。

 この世界では珍しい話ではないしダートリユニオと敵対していることには変わりないから、僕は躊躇わず孤児達の舞台も全滅させるつもりだった。

 この国で組織同士が戦争をするっていうのはそういうことだ。

 かわいそうだとは思うが、僕もダートリユニオに与する人間を守り切る義務がある。


 重役達はみんなその意見で納得した。

 でも、シルフィエットだけは首を縦にふらなかった。

 彼らを保護しダートリユニオ内で再教育すべきだと言った。

 シルフィエットも元々孤児だったから、孤児達にに共感したのかもしれない。


 噛み付くような目で戦いを挑まれたのを覚えている。

 僕に勝ったらその孤児達を保護することを約束しろと言われた。


 シルフィエットの考えは甘い。

 この非情な世界でそんな優しさを持っていれば、いつか絶対に足元を掬われるだろう。

 でもこのままじゃ納得しないだろうし僕はその戦いを受けることにした。

 

 どうなったのかというとボッコボコにされた。

 全治二ヶ月くらいの重傷をを負わされた。

 ブチギレてるシルフィエットがまじで怖かった。


「わざと負けてくれたんですよね」


 シルフィエットが僕を見つめながら言う。


「なんのこと?」


 ちなみにその後シルフィエットの活躍で孤児達は無事に保護された。

 孤児達は保護されるまで長期間の洗脳と劣悪な生活環境の下での生活を強いられていたようで、再教育には時間がかかった。今ではだいぶ普通の人間らしくなっている。


「とぼけても無駄ですよ。グレイス様の本当の強さを知っていればそのくらいわかります」


「.......」


 黙っていると、シルフィエットは頬を膨らませる。


「相変わらずそういうところは素直じゃないんですね」


「何言ってるんだ。僕ほど素直で率直な人間はいないだろ」


 そう言うとシルフィエットは胡散臭そうに目を細める。


「そういうことにしといてあげます」


 あんまり納得していないのかシルフィエットは頬を膨らませたままだ。

 可愛いからいいけど。


「今までありがとうね、シルフィエット」


 普段は気恥ずかしくて言えないような言葉がスルリと出てくる。

 慣れないホテルで寝泊まりなんてしているからかもしれない。

 なかなか素直に感謝を伝えるタイミングなんてないからな。


「まるで今生のお別れみたいな言い方ですね」


「もしそうだったらキスぐらいしてるよ」


 僕の冗談にシルフィエットはクスリと笑った。

 顔が少しだけ赤い。


「今日は一緒に寝ますか?」


 何の前触れもなくシルフィエットが言う。


 心臓がドクンとなった。

 心臓って本当にドクンとなるんだと思った。


「なんか毒でも食べたの?」


「どうしてですか? 一緒に寝ちゃいけないんですか?」


「いやそうじゃないんだけどね、普段のシルフィエットなら絶対言わなさそうなセリフだなって思っただけ」


「私にだってそういう気分の時くらいあります」


 ほらほらと急かすように僕の背中を押しベットに誘導する。

 何だかシルフィエットがやけに積極的だ。

 寝るっていうのは、普通に寝るって意味だろうか。

 それとも寝る(意味深)って意味だろうか。

 状況的に後者も全然あり得る。


 僕に背を向けさせてベットに押し倒すと、するするとシルフィエットも体を滑り込ませてくる。

 僕の背後でシルフィエットの息遣いが聞こえる。


「ねえ、シルフィエット、当たってるんだけど」


 柔らかくて温かい双丘がむにゅっとした感じで背中に押し当てられている感触がする。


 マスターのマスターがやる気を出してしまう前に離れてほしい。


「ふふふ、当ててるんです」


 あ、やる気を出してしまった。

 マスターはせっかちだからなあ。


「......なんかシルフィエット、変じゃない?」


 こんな誘惑するようなこと、普段のシルフィエットなら絶対に言わない。

 思えばタペオカを食べたあたりから少しずつシルフィエットの様子がおかしくなっていった気がする。

 もしかしてタペオカが原因なのだろうか。

 あのつぶつぶの入った液体に、何か特殊な魔法でもかけられていたのだろうか。


 シルフィエットは首を横に振った。


「今までが変だっただけです。元々は私、こういう性格だったんですよ。仕事のせいで普段は気張った態度でいますけど、本当は普通の女の子なんです。だから、最後くらい、女の子になった私をグレイス様に見てもらってもいいかなって......」


 キュイっと僕のパジャマの裾を掴まれたのでゴロンと振り返る。

 上目遣いでシルフィエットが見上げていた。

 その頬は蒸気したように赤みがさしている。


「ね?」


 小首をかしげるシルフィエット。


 ゴクリ。

 僕の喉が鳴った。

 

 マスターは暴発寸前だ。

 近年稀に見る超絶美少女が至近距離で、しかもベットの上で僕を見つめているのだから無理もないか。


 さて......。 


 この娘、食べちゃっていいのだろうか。

 

 両手を少し前に伸ばす。

 指先から柔らかな幸せが伝わってくる。

 あ、やばい、幸せすぎる。


「というのは冗談で」


 背後から声が聞こえた。

 振り向くとすました顔でシルフィエットが立って、こちらを見下ろしていた。

 僕が掴んでいたのはそれっぽい形の枕だった。


「.......」


「身代わりの術です」


「ニンジャーのやつ?」


「そうです」


「あそ」


 シルフィエットは幼少期の異国での訓練により変な技を使えるのだ。


「グレイス様は、もう少しお色気に強くならないといけませんね。学園には女子も多いと聞きますから気をつけてください」


「......」


「怒ってます?」


「怒ってますぅ」


「少しからかっただけじゃないですか」


「.......おっぱい触らせてくれたら許すかもしれない」


「さっきまで背中に感じてましたけど」


「どうせあれも本物じゃないんでしょ」


 いじけたように言うとシルフィエットはちっちと手を振った。


「それはどうかわかりませんよ?」


「......ってことは本物なの?」


「さあ......それはヒミツです」


 教えてくれないのか。

 じゃあ本物だと思うことにしよう。


 うふふと可笑しそうに笑うと、シルフィエットは部屋の玄関に向かう。


「おやすみなさい」


 シルフィエットの部屋はちゃんと隣にとってあるのだ。

 つまり僕と寝てくれることはないと言うことで。


「おやすみ......」


「なんですか、その顔。私がいないのがそんなに寂しいんですか?」


「僕さびちい」


「グレイス様ももう十五歳なんですから、一人で寝られるようにならないといけませんね」


「おっぱい触りたい」


 いつもみたいに呆れるか怒られるだけだと思っていたのだが、予想に反してシルフィエットはぴたりと動きを止めた。


「......そ、そんなに触りたいんですか?」


「っていうか揉みたい」


「もみっ!? ......はあ、そうですね。グレイス様が学園で成長して立派な大人になって帰ってきたら、私も少しなら、その、もみ......触らせてあげる気分になるかもしれません」


「ほんとに?」


「あくまで可能性の話ですよ? 言っときますけど、立派な人間は私に事務作業を押し付けて自分はスマホゲームしてゴロゴロしたりとかしませんから」


「分かった」


 ベットの上で正座して即答するとシルフィエットは胡散臭そうに目を細めたが、僕の真剣さが伝わったのかふふふと笑った。


「そこまで言うなら期待してます」


「任せといてよ」


「じゃあ、今度こそおやすみなさい」


 そう言い残してシルフィエットは出て行ってしまった。

 バタンとドアが閉まり、僕はベットの上にポツンと取り残される。


 立派な人間になる.....か。


 これ以上立派になってどうするんだろ。

 将来の自分が末恐ろしい。



 ☆


 採点中の職員室にて。


「いやー、今年は優秀な生徒が多いですなあコレーヌ先生」


「そうですなあ、ギレーヌ先生。難しい問題にもかかわらず生徒のほとんどが半分以上点数をとっていますなあ。素晴らしい。みんなよく勉強している。ん? なんですかこの答案用紙。......パン? いや、変な顔の……人……??」





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