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黒き雷帝は深淵より至れり  作者: がりょあ
2/7



 ドワイフ学園があるのは、スロム王国の中で最南端に位置するアシガハートと呼ばれる都市だ。

 それに対してダートリユニオ本社があるのはスロム王国の中でも北の方。

 本社から学園まで都市をいくつか跨ぐので、高速道路を使っても車で四、五時間かかる。

 

 車の中というのはかなり暇だ。

 スメホがいじれない。

 スメホをいじっていると酔うのだ。

 一回吐いたことがあり、それ以降は車の中でのスメホは軽いトラウマになっている。


 同乗しているシルフィエットとくだらない会話をして、それに飽きたらもう寝ることくらいしかやることがない。

 席を後ろに倒して目を閉じる。

 昨日は重役を何人か集めて轍ゲー祭りをしたのだ。ポテチとかコーラとか集めて大はしゃぎした。僕はお酒は飲めないけど、重役達はお酒もジャンジャン飲んでいた。ダートリユニオ最後の夜ということで多めに見てくれたのか、多少はめをはずしてもシルフィエットに注意されることはなかったのだ。

 だからかすぐに眠気が襲ってくる。



「着きましたよー。起きてください、グレイス様」 


 何時間眠っていただろうか。

 まだ寝足りない体をぐわんぐわん揺すられる。

 目を開けると、天使のように美しい顔が僕を見下ろしていた。


「おはよう、ハニー」


「おはようございます。寝ぼけてないでさっさと降りてください」


 いつの間にか車が止まっていた。

 どうやら目的地に着いたらしい。


「運転ご苦労さん」


 ぽんぽんと運転手の肩を叩いて黒塗りのバンを降りる。

 側から見たらどこかのヤクザの親分みたいだ。

 似たようなもんか。

 

「うん、いい天気だ」


 グッと背伸びをすると凝り固まっていた骨がポキポキなる。

 座ったまま寝ていたもんだから寝違えて首のところにしこりができている。


「入学試験は午後一時からなので、今からだと少し時間がありますね」


 そういえばずいぶん早く出ていたな。

 6時くらい出発だった。

 腕時計を見ると今は11時。

 五時間近く眠っていたことになる。


「車で待っているのも退屈でしょうし......どこかで昼食でも食べていかれますか?」


「そうだね、ちょっとデートしよう」


「デートではないですけど分かりました」


 というわけで、どこか適当にランチを食べられる場所を探して、シルフィエットと一緒に街をぷらぷらすることになった。


「結構都会なんだね」


 ダートリユニオのあったところでは見れないような超高層ビルが普通に立ち並んでいる。

 何より昼間だというのに人が多い。

 もっと辺境の田舎をイメージしていたのでめんくらった。

 さすがは王国随一の学園のある都市である。


「これだけ色々なお店があると目移りしてしまいますね」


 心なしかシルフィエットは楽しそうだ。

 普段仕事をしているときにはなかなか見せないような表情。

 そういえばシルフィエットは田舎育ちだと言っていた。

 都会ってやつにに憧れていたのかもしれない。

 僕も育ちは似たようなものなので、気持ちは分からんでもない。

 

「あ、タペオカメルクテーですよ! ほんとに存在するんですね」


 しばらく歩いていると、シルフィエットが急に僕の腕を掴んで指をさす。

 あのシルフィエットが目を輝かせているだと!!?


 何事かと目を向けると、いかにもチャラチャラした雰囲気の店でチャラチャラした帽子の店員がなんかチャラチャラした飲み物を売っていた。


「タペオカ......何?」


 聞き返すとシルフィエットは信じられないものを見るような目で僕を見た。

 ドン引きするほどなの?


「タペオカメルクテーも知らないんですか? そんなんだから世間知らずって言われるんですよ。タペオカは最近若者の間で流行っていて、つうぇったーでもトレンド入りしている超バエてバズバズな飲み物なんです。覚えておいてください」


「へえ......そうなんだ」


 シルフィエットの説明はいつになく熱っぽい。

 つうぇっターでバエるのか。

 そりゃバズバズなわけだ。


「バエるのはインステですけど」

 

 インステでもバエるのか。

 そりゃかなわん。


「まあ行こうか......ん、どうしたの、シルフィエット?」


 なぜかシルフィエットが立ち止まって動き出さない。

 じっとタペオカを美味しそうに飲んでいる若者たちを羨ましそうに見ている。

 まさかこれは......。


「......飲みたいの?」


「......いえ、そんなわけがないです。ただグレイス様が飲みたいかもしれないと思いまして」


「僕は別にいいや。他、行こう......おーい、シルフィエットさーん?」


 シルフィエットは立ち止まったままだ。

 心なしかタペオカを見つめる視線が熱っぽい。


「......絶対飲みたいんだろ? そうなんだろ?」


「いえ、飲みたくないです。いや、飲みたくないわけではないです。ただ、グレイス様が飲みたいというのならほんのちょっと付き合ってあげてもいいかなと思ったくらいです。ほら、何事も経験と言いますし? タペオカというのはどんなものなのか、一度味わってみないとわからないですし? 未知のものに足を踏み入れてみるのもまた一興と言いますか......うん、そうです、一興です。一興なら仕方ないですね、買いましょう。タペオカメルクテー、試しにどんなものか買ってやりましょう。そうと決まれば早速買ってきますね」


 自分で自分を論破し終わるとてくてくてくと僕のことも放っておいてシルフィエットはタペオカメルクテーを買いに行ってしまった。


 ......なんかキャラ変わってない?

 いつもの冷徹な仕事のできる完璧人間シルフィエットさんがちょっと可愛い感じになっている。

 タペオカ恐るべしだ。

 あとで僕も一口もらおう。



 タペオカの列は長く、シルフィエットは時間がかかりそうなので一人で歩きながら待つことにする。

 すると、少し大路から外れた人目につかなさそうな狭い路地から声が聞こえてきた。


「おいこら、喧嘩売ってんのか? 何当たってきてんだよ、オオ?」


「す、すいません......!!」


「すいませんで済むと思ってんのかああ??」


「ごめんなさい。見てなくて……」


「そんな言い訳が通じると思ってんのか? ああ??」


「ひい、ご、ごめんなさいい!!」


 とそんなやりとりが聞こえる。

 まさか、これは……。


 トクン、と胸が高鳴るのを感じる。

 憧れのやつ!!!!

 

「おい、そこのチンピラども!!」


 僕は狭い路地に走っていくと、一も二もなく飛び出す。


 こんな機会逃したらいつまたこのセリフを言えるかわからないからね。


 見ると赤髪ショートのかわいい町娘が怯えた表情で震えていた。

 目の前には、怒りを隠そうともしない金髪のヤンキーみたいな男。

 さっき怒鳴っていた奴だろう。

 それだけで状況は大体察することができる。


 僕はポケットに手を突っ込んだまま女の子をかばう位置にしゅたっと着地し、目線だけでヤンキーを威嚇する。


「チンピラども、だと? 俺は一人だぜ? ああ?」


 チンピラのくせに細かいやつだな。

 まあいい、重要なのはそこではない。


「こんなところで何をしている?」


 できるだけイケボを心がけて僕は言った。


「へっへっへ、お前に関係があるのかなあ??」


 チンピラがにたあっと気色の悪い笑みを浮かべる。

 なんともテンプレな悪役じゃないか。

 そういうダサいのも嫌いじゃない。


「関係ならあるさ。一善良な市民として、困っている人がいるのは見過ごせないからね!!」


 善良な町娘Aさんはぽかんとした顔で僕を見ている。


 これは惚れさせちゃったかな。

 ……でもごめんね町娘Aさん。

 僕には心に決めた人がいるんだ(いない)。


「へっへっへ、正義のヒーロー気取りかよ!! かっこいいねえ!!」


「かっこいい、だと? 当たり前だ!!」


 悪の組織のボスという職業柄、正義のヒーローと呼ばれるのには抵抗があるがな!


「お前にその女が守り切れるかな??」


 タンッとチンピラが踏み込んできて、僕めがけて拳を振り下ろす。

 チンピラにしてはなかなかいいパンチだ。

 勢いがあるし重そうだ。

 内輪だったら敵なしだろう。

 だが残念!!

 相手はこの僕!!

 最年少でダートリユニオの頂点にまで上り詰めた天才なのだザマアミロ運が悪かったな!!


 と思っていると、衝撃的なことが起こった。


「どぶうぉっへえええええ!!!」


 ……えっ?


 僕が殴ってもいないのに、チンピラが吹き飛んだのだ。

 五メートルくらい宙を待ってコンクリートの塀に頭から突っ込む。


 パラパラと壁が剥がれ落ちる。

 チンピラはそのまま意識をなくしたようだった。


「……はあ、まったく余計なことしてくれて」


 ……えっ?


「あんたがしゃしゃりでてこなきゃ万事うまく行ったのに。あーあ、いるんだよねどこの世界にも、カッコつけてか弱い女の子守ろうとするきざなヤツ。ほんとお呼びじゃないっての」


 ……

 …………えっ??


 今、殴ったの?

 殴ったよね、見えたよ?

 拳が顔面にめり込んでたよね?


 そこに立っていたのは、さっきまで怯えた表情で震えていた町娘Aだった。

 怯えた表情はどこにもない。

 これみよがしにやれやれとため息をつく。


「せっかく正当防衛だったのに、これじゃあただの窃盗じゃない。犯罪よ、犯罪」


 そう言いながら町娘Aはコンクリートに突き刺さって伸びているチンピラの方に歩いていき、慣れた手つきでズボンとかカバンの中を物色し始める。


 ……何やってんのこの娘?


「……なに、文句ある?」


 ぎろりと睨まれた。

 顔怖いよ?


「......も、もともと僕が出てきたのはかっこいい決め台詞を言うためであって正義の味方をするためではないから君が何をしようが止めはしないよ?」


「なに、ビビっちゃったの? ウケるwww」


 え、ウザ。

 

「財布財布……あったあった。って、はあ? 何コイツ、威張ってた割に全然持ってないじゃない! 五千ゼニスってガキかよ! 都会だから少しは期待してたってのに……まあ、所詮はチンピラってことね」


 町娘は小馬鹿にするようにチンピラを見下ろして鼻で笑う。


「……あれ、あんたまだいたの? もう帰っていいよ? っていうか最初からいなくてもよかったんだけどねwww あ、そうだ、一応聞いてあげるけど怪我とかしてない? なに黙ってんの? してないのね? ああそう。ほんとはあんたが怪我しようがしてなかろうがどうでもいいけど、ほら、一応礼儀で聞いといてあげただけだから勘違いして付き纏わないでね。あんたみたいなタイプに多いのよね、一度優しくしただけでつけあがるヤツ。私かわいいから好きになっちゃうのは仕方ないけど、そこの線引きだけはちゃんとしてよね、面倒だから」


 この娘殺していいのかな?

 ダートリユニオの総力を上げて滅殺するよ?


 ちなみに町娘はお札を抜き取って空になった財布はちゃんとチンピラのポケットに戻してあげていた。

 偉いね。



「本当にたまたま絡まれただけなんだよね?」


 一部始終を見ていたわけではないが聞こえてきた会話からは娘の方がチンピラに絡まれていたように聞こえた。

 今となっては疑わしいが。


「そんな都合よく向こうから絡んでくるわけないでしょ。私が最初に殴ったのよ。あとは怯えたフリしてれば向こうが悪者になるってわけ」


「あ、なるほどね」


 ……あれ? 

 ってことはアイツなんも悪くなくね?

 悪役なの口調だけだったってことじゃん。

 ごめんね、悪者呼ばわりして。

 もっとずっと悪い子ちゃんが隣にいたのにね。

 

 仕方ない、お悔やみの黙祷を捧げることにしよう。

 君には大変申し訳ないことをしたね。アーメン。来世では口調も直そうね。


「まあいいわ、試験あるしそろそろ行かないと」

 

 物色を終えた町娘が立ち上がる。


「試験? もしかしてドワエフ学園の?」


「……なんで知ってんの?」


 これは偶然だ。


「実は僕も受けるんだ」


「なに? あんたみたいな弱そうなやつが? はっはっは、おもしろ!!」


 腰に手を当てて娘は盛大に笑う。

 失礼な。


「人を見た目で決めるのは良くないぞ」


「あのねえ、知らないようだから教えてあげるけど、ドワエフ学園っていうのは王国各地で天才と囃し立てられているような生徒がゴロゴロ集まってくるの。そしてその中でも一握りの天才しか入学試験は突破できないの。それこそ私みたいなね。みたところあんた、オーラも覇気もないし、チビだし、なんか強者特有のそれがないのよね。いかにも喰われる側って感じ」


 チビ関係ないやろ。


「今からでも受験やめてお国に帰った方がいいわよ。どうせ落ちるんだし」


「ふっふっふ、僕もいいことを教えてやろう。能ある鷹は爪を隠すと言うだろう? 真の実力者である僕は、自分の大きすぎる実力を隠すために普段は力をできるだけ見せないように気を配っているんだ。だからオーラも覇気もわざと出してないだけなんだな、これが。出そうと思えば出せるんだよ? ここではやらないけど。つまり今君がみているのはいわば僕が作り出した僕という幻影というわけさ!」

 

 僕かっこよ。


「はあ? 厨二病なの?」


「厨二病ってなんだ?」


「......まあいいわ、哀れなあんたに一つ名前を教えてあげる。ミシェル・レーモンド、今年ドワイフ学園に首席合格をする者の名前よ」


「へえ、そんな優秀な奴がいるんだ」


「私よ」


「......なるほどね。張り切っているところ申し訳ないけど、首席合格をするのはこの僕だ。なぜなら僕は数十年に一人の天才だからね」


「自信過剰すぎるわよ、あんた。弱い奴が虚勢を張るのって見てる分には滑稽で面白いけど度が過ぎると身を滅ぼすわよ?」


「そのセリフそっくりそのまま返そう」


 僕が言い返したことが気に入らなかったのか、ミシェルの眉がピクンと跳ねた。

 怒らせちゃったかな。


「わかった、もし仮にあんたが私を抜いて首席になれたらなんでも言うことを聞いてあげる」


「なんでも?」


「ええ、できることならなんでもよ」


「そんな約束、軽い気持ちでしていいのか?」


「だって私、誰にも負けないもの」


 すごい自信だな。

 ここまで言われたら僕も男として応えなければならない。


「わかった。じゃあ僕が負けても特別になんでも一つ言うことを聞いてあげよう」


「ええー、いらなwww 大したことできそうもないし」


 やっぱりこの娘、ここで殺そうかな?


「まあいいわ、一応そう言うことにしといてあげる。どうせ落ちていなくなるんでしょうけど、もし仮に万が一あなたが合格たら、その時は私から直々に頼み事をしてあげる」


 頼み事をしてあげるって斬新な表現だな。


「じゃあせいぜい頑張ってね」


 そう言い残すとミシェルとかいう小娘は地面を蹴って消えるようにいなくなってしまった。

 

 ああ言うやつを落とすために面接試験があるんだろうね。

 え、僕?

 僕が面接で落ちるわけがないだろ。



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