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兜守 エピローグ


 4月14日。


 僕は顔面に三本のひっかき傷を掘られた状態でこの日を迎えた。


【レフモケ】の街は健在。平和は守られた。


 4月13日の昼間に行われたオーク軍との戦闘で【レフモケ】が被った損害はゼロ。死傷者もゼロ。


 これはすべて、シーズのパワードスーツを装備したドワーフ軍の活躍によるものだ。


 リリスとヘルとかいう魔族の姉妹は、天使みたいに可愛くて悪魔みたいに恐いカジュアルの手で二人まとめて八つ裂きにされたうえ串刺しにされ、再起不能の状態で闘技場から回収。


「魔族は私が責任を持って監視するわ。というわけでここでお別れよ。みんな頑張ってね!」


 と、カジュアルが手配したレース実行委員会のレスキューチームだかなんだかが搬送ヘリでどこかへ運んでいった。そのヘリに同乗する去り際のカジュアル曰く、二度と悪さができないように監視したうえで治療をしてあげるのだそうだ。


 八つ裂きにされて串刺しにされたのに死なないとか、魔族のタフさはチート級だと個人的に思う。


 グリデンはまさにタフさの権化だった。


 みんなで一度に襲い掛かり、羽交い絞めにした状態で僕のメナスブレイカーで首を斬り飛ばしても死ななかったからな。


 胴体から切り離されて首だけになったグリデンは、しかしそれでも平気で僕への復讐を叫び続け、仕舞いには首を丸ごと布袋に詰められてこれまたレース実行委員会のレスキューチームだかなんだかに搬送ヘリに乗せられて魔族姉妹と一緒に運ばれていった。


「――ドラゴンをやっつけてくれたロブなぁ! あなた方には感謝感激ロブゥウウウ!」


 みんなで山を下りて【レフモケ】に戻ったら、スタローンがまた噴水みたいな涙を散らして何度も頭を下げてきたのが昨日の夕方。


 それ以降、街の人々はオークの死体を焼き払うといった戦の後始末に駆り出された戦士を除いて、戦勝を祝うお祭り騒ぎだった。


 レース実行委員会のドローンも街中を飛び交って、獣人たちやレース参加者たちの様子を世界に実況した。


 ズタボロの仲間たちは同じようにズタボロのまま死体処理に行かされた戦士たちに同情しつつ、フラフラとスタローンの屋敷へ行き、みんなして倒れるように休んだ。


 ドアド率いるドワーフ軍はパワードスーツのエネルギーが切れたため徒歩で帰ることになったが、【レフモケ】の住人たちにお礼をさせて欲しいと引き留められ、宴に参加して一晩野営した。


 ドアドとシーズに礼を言った僕はキュアソードのおかげでピンピンしてたから、平原に出て戦士たちを手伝った。


 で、日付が変わった今日の早朝。


「――しまったァアア!! アイナのことすっかり忘れてたァアアッ!!」


 と、血相変えて【レフモケ】を飛び出してまたもや登山して例の【試練の間】に向かった僕は、


『どうしてまた来たのだ? ここにはもう破片は無いぞ?』


 とメナスに突っ込まれ、ただ【試練の間】の先の通路に忘れ物をしちゃっただけだと説明してアイナの待つ場所へ急行。


「――あら、兜守じゃない。ずいぶんと早かった(、、、、)わね? あんまりに待つのが短すぎて、あんたを料理する方法を100通りくらい考えちゃったわ」


 と、アイナは目元に影が差した満面の笑みで僕を迎え、猫科の獣人特有の鋭い爪で僕の顔をやったのだった。


 アイナにたくさん料理された僕がアイナに引きずられて【レフモケ】に戻ったのがついさっき。


 時刻は午前11時。第二レース開始まであと一時間だ。


「おーい、兜守! どこへ行っておったのだ? 探したぞ」


「あたしたち、これで帰るわよー!」


 と、ドアドとシーズが僕を呼ばわった。


 彼らはちょうど、【レフモケ】の門からドワーフたちを引き連れて出てきたところだった。


「ご協力感謝します、王よ。シーズもありがとうな。帰ったらまた開発を続けるのか?」


 僕はお礼を言い、シーズに尋ねた。


「そうね。まずはドワーフ軍全員ぶんのスーツを完成させようと思ってる。それから先はそのときに考えるわ」


「お前は今後もレースを続けるのだろう? YOOTUBEでお前のチャンネルをフォローしておいた。

応援しておるぞ!」


 と、ドアドがパワードスーツの武骨な手を僕の肩に置く。


「頑張ります! 動画を気に入ったら、グッドボタンを押してもらえるとありがたいです。シーズも頼む。ポイントが増えるから」


 僕はぬかりなく二人にお願いし、一行が去るのを見送る。


「――兜守よ、お前のこれからの働きに期待して、護衛を一人残してやったぞ! スタローンの屋敷へ行くとよい!」


 去り際にドアドが振り返って言った。


「護衛?」


 引き続き僕を引きずりながらアイナがクエスチョンマークを浮かべる。


 そういえばドアドもシーズも僕が引きずられていることには一切触れなかった。僕がぞんざいに扱われるキャラだって思ってるのかな?


「誰だろうな? ところでアイナ? 僕のズボンがこのままだと擦り切れておしり丸出しになりそうなんだけど――?」


 そうして僕は引きずられ続けてスタローンの屋敷へ帰還。


 屋敷ではみんなが旅の荷造りをしていて、そこに件の護衛役が加わっていた。


「――ココ! ココじゃないか!」


 アイナの手から解放された僕はよっこいしょと立ち上がり、ココに歩み寄る。


「私、あなた方の旅に、お供します! あなた方のおかげで、少し、話せるようになったので、恩返しさせてください! それに、今まではうまく話せないせいで、引きこもりだったので、これからいろいろな場所に行って、視野を広げてみたいんです!」


 と、ココは瞳を輝かせて言った。


「王様も、勉強して来いって、お許しをくれました!」


「仲間が増えるのは頼もしい限りだ。よろしく頼むぜ」


 アズロットがココの頭をわしゃわしゃと撫でる。


「そういうことですのでおじさん、ココさんまで変な目で見ないでくださいね? もしココさんにセクハラなんかしたら細切れですので」


 言いながら、由梨ちゃんが僕の分のバックパックを手渡してきた。


「僕の荷物もまとめてくれたのか? ありがとう由梨ちゃん」


 僕は聞こえないふりでお礼を言う。


「――お前はどうする? キノコ」


 と、石の状態から目覚めていたヒヨコが、由梨ちゃんの右肩にちょこんと乗っている。


「オレもあんたらについていくことにしたぜ! なんだか面白そうだからな! 森のことは仲間に任せてきたし」


 由梨ちゃんの左肩に乗って、一号(キノコリーダー)が答えた。


 これで旅の仲間は由梨ちゃん、アズロット、ヒヨコ、一号(キノコリーダー)、ココという面子になった。僕を入れたら4人と2匹だ。


 あれ、誰か忘れてる気がする。


 と、僕が思ったそのときだった。


「なかなかの戦力が揃ってきたな」


 屋敷の門が開かれ、一人の青年が入ってきた。


「礼がまだだったな、ルシフェイス」


 僕はその男の名を言い、手を差し出す。


 ルシフェイスは僕の目を見て、手を掴んだ。


「手伝ってくれてありがとう」


「――いいさ。いろいろあったしな」


 バツが悪そうに笑って、ルシフェイスはズボンのポッケから何かを取り出し、僕の手に握らせた。


 黒くて堅い、直径10センチくらいのそれに屋敷の照明を当てると、鈍い光沢を帯びていることがわかる。  


「邪竜の鱗だ。アズロットが倒したあと、黒焦げになった邪竜の腹部にまだ無事な箇所があってね、それを切り取ったんだ。レース実行委員会のホームページで検索したら、これ一つで100万円くらいの値打ちがあるらしい」


 ひ、百万だって!?


「そ、そんな高価なものを僕に?」


「僕の活動資金は足りてる。なにかあったときにそれを換金するといい」


 そう言って、ルシフェイスは去る。


「第二レースも、お互い頑張ろうじゃないか。今後二度と、卑怯なことはしない。正々堂々勝負するとここに誓う」


 と、僕に背を見せるルシフェイスは、高く上った太陽の光を受けて、今までで一番輝いて見えた。


「そろそろ出発の時間ロブな。この屋敷はあなた方の家ロブ。なにかあったらいつでも利用していいロブよ」


 スタローンがポルポと共に見送りに来てくれた。


「皆さんのお荷物にそれぞれ、少量ではありますが食料と果実酒をお入れしておきましたので、どうかお役立てください」


 と、ポルポ。


「なにからなにまで、お世話になりました」


 由梨ちゃんがぺこりとお辞儀し、僕たちも続いた。


 人助けができた心地よさは、なかなかにいいものだった。


 こうしてスタローンの屋敷を後にした僕たちは、第二レーススタート地点の門を目指す。【レフモケ】の四方に位置する中の、北側の門だ。


 テテテ テテテ テテテ テテプルン♪


 その道中、僕の電話が鳴った。

 

「兜守? カジュアルよ。昨日はよく休めたかしら?」


「ああ。昨日は助けに来てくれてありがとうな。バタバタしてて、お礼がまだだった」


「お礼なんていいわよ。あなたをレースにけしかけたのは私だしね。さておき、大事な話があるの。みんなは一緒?」


「ああ。第二レースのスタート地点に行くところだ」


「ならちょうどいいわ。スピーカーにしてくれる?」


 僕はみんなに止まるよう言い、スピーカーモードにする。


「昨日捕まえた魔族から聞き出したんだけど、恐れていたことが起きたわ」


 魔王が復活した。


 カジュアルはそう言った。


 ――マジかよ。


「――というわけだからね、あなた達の行動方針を変更させて欲しいのよ。剣の破片を集めるのが目標だったけど、今後はこうして頂戴。破片を集めながらレースで一番になって、最初に魔王城に到達して、そこで魔王をやっつける。いい?」


「ま、ま、ま――!?」


 と、ココ。驚愕と恐怖のあまり、またスムーズに声が出なくなってる


「わ、わかりました!」


 眉宇を引き締めた由梨ちゃんが頷く。威勢のいい声とは裏腹に、顔が真っ青だ。


「なんだか、話がどんどんヤバイ方向に進んでないか?」


 と、素直に呑み込めない僕は言う。


「もう行くところまで行っちゃったから、これ以上話が悪くなることはないから安心して?」


 安心できるか!!


「だったらこの際だ。お前も旅に加われカジュアル。頼れる戦力は多い方がいい」


 アズロットの言に、


「そうしてあげたいのは山々なんだけど、こっちもいろいろあってね。魔族の内通者がいそうな感じなのよ」


 と、不穏な言葉を返すカジュアル。


「そんな発言、公共の電波でしていいのかよ!?」


「伝書鳩でも飛ばした方がよかった? 遅かれ早かれ、こっちの動向は悟られるわ。あらゆる情報が電子化で保存されてしまう今のご時世ではね」


 と、僕が狼狽えてもカジュアルは至って冷静だ。闘技場での決闘で垣間見たけど、カジュアルは本当にサイコパスな一面がある気がした。


「大変だと思うけど、みんなで協力して乗り越えて頂戴ね?」


 そうしてカジュアルとの通信が切れた。


 場に重たい沈黙が流れる。


「――こんなときは、他のことを考えて夢中になるのがいいぜ!」


 一号(キノコリーダー)が気を利かせてそんなことを言う。


「俺は寝る……」


 ヒヨコはそう言って石に変身。由梨ちゃんが真っ青な顔のまま、肩に乗る石を掴んでポッケにしまった。


 重たい空気から逃げやがったなヒヨコめ! チキンラーメンに入れて食うぞ!


「……ど、どうしますかぁ?」


 困惑顔のココが僕を見る。


「もうこうなったら、とことんやるしかないだろうな」


 僕はそう答えて歩き出す。


「わ、わかりました! お供します!」


 斧を胸の前で両手で握りしめ、ココが後から続く。


 そうだとも。逃げようにも手段がないし、逃げたって魔族の方から仕掛けて来るんだ。やられる前にやるしかないだろう。


「お前さんのことだからてっきり逃げようとするかと思ったが、見直したぜ」


 僕の左に並んで、アズロットが言った。


「ですね! やりましょう!」


 勇気を出してくれたのか、由梨ちゃんは青褪めた顔色をほんのりとした赤色に変え、僕の右隣を歩く。


「――そうだ、レースが始まる前に動画を上げよう。新しいメンバーのココと一号(キノコリーダー)を紹介して、少しでもいいからポイントを稼ぐんだ」


 と、僕は提案。前向きに先のことを考えて、それに夢中になることでネガティブな感情をやり過ごす作戦だ。


「そいつは名案だな。今のうちにフォロワーを増やしておけば、レースが進むにつれてポイントが稼ぎやすくなる」


「獲得したポイントで、また車を入手しましょう!」


 アズロットと由梨ちゃんの賛同を得たので、僕は早速携帯を取り出す。


 実家の婆ちゃんに、今は亡き両親と爺ちゃん、従弟の隆も、天国で見てくれるだろうか。


 そんなことを思いながら、僕は動画のタイトルを入力した。


【アラサーから始める勇者道! ~世界の命運を勝手に背負わされた僕たちの異世界レースがいろいろとヤバイ~】




 FIN



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