兜守編 4月13日 その6 決着
「もう一勝負といこうじゃないか! 覚悟しろ、グリデン!」
「く、……止むを得ん!」
僕が身構えるのに対し、グリデンは予想外の動きを見せた。
なんと、自らの背後に先ほどの暗い大穴を出現させ、その中へと身を投じたのだ。
「あ! 逃げるな!」
咄嗟に追いかける僕は、穴が消える前にどうにか飛び込むことに成功した。
そうして僕が行きついた場所は、一面が青い世界。
「ここは!? 妖精の森か!」
そこはまさしく、僕と由梨ちゃんが訪れた【妖精の森】であった。
グリデンはどうしてこんな遠くまで!?
「――くっ!」
重そうな鎧をガシャガシャ言わせて、僕に背を向け走るグリデン。
「さっきの偉そうな態度はどうした!? 怖気づいたのか!?」
追いながら僕は考え、ある仮設を立てる。
グリデンは、長期戦は苦手なんじゃないか? 強すぎる力の代償に、魔力を大量に消費するとかな。
その証拠に、奴は魔力で満ち溢れている【妖精の森】へ逃げ込んでいる。この森の木々から放出される魔力を吸収して、エネルギーを回復しようって魂胆なんじゃなかろうか?
だとすれば、早く仕留めないとまずいぞ!
「――兜守か?」
進行方向から声がして地面を見遣ると、そこに見覚えのあるキノコが。
寒冷地で見られるベニテングダケに似て、広めの赤い傘に白い球模様。間違いない。
「一号!」
「そんなに慌ててどうしたんだ? 忘れ物でもしたか?」
僕は駆けながら、一先ず一号に手を差し出す。すると一号はタイミングよくジャンプし、僕の手に乗った。
「今ここを黒い鎧を着た騎士が通ったろ? そいつを追ってるんだ!」
「あの邪悪な気配ムンムンの奴か! しかしなんでまた?」
僕は頭の上に一号をちょこんと乗せてやる。振り落とされないでよ?
「――あいつは魔族なんだ! やっつけないと、由梨ちゃんの命が危ない!」
「なんだと!? 嬢ちゃんの命が!?」
僕が簡単に状況を説明すると、一号は遠くまで響くほどの大きな口笛を吹いた。
キノコも口笛吹けるのか! 口がどこにあるか知らんけど!
すると、僕に並走する形で、リスに似た動物が現れた!
「お呼びですか、おやびん!」
リスもシャァベッタァァァァァァァ!!
「オレの友達がピンチなんだ! 大至急仲間を集めろ! 戦いだ!」
「わかりやした! おやびんの頼みとあれば!」
「お礼に、今年の冬はいつもよりたくさん木の実を集めてやるよ!」
一号が言うと、リスは木の幹を高速でよじ登っていった。
途端、森がなにやら騒がしくなってきた!
「おやびんの友だち、きけん!」
「きけん、よくない!」
「おやびんが友だち助けるなら、ぼくたち、それを助ける」
グリデンが逃げて僕が追跡する中、方々から声がする!
「――広大なる【妖精の森】よ! 俺の名はグリデン! 切り倒されたくなければ、俺に魔力をよこせぃ!」
前方を走るグリデンがそう叫ぶと、前方に現れた一際大きな木の根元にその大剣を突き立てた。奴はそうすることで魔力を吸えるのか!
「させるかぁ!!」
僕は奴の背後から剣を振り下ろすが、
「貴様が背後から迫るは承知のうえよ!」
グリデンが振り向きざまに繰り出した裏拳の凄まじい風圧で吹き飛ばされてしまった。魔法による攻撃か!?
「うわぁ!!」
僕は頭からぴゅーん! と飛んでいく一号を咄嗟に捕まえ、胸に抱いて地面を転がる。
「――大丈夫か!?」
「ああ、ありがとうな兜守!」
両手のひらに一号を乗せた僕は彼に外傷が無いことを確認。
「今のでわかったぜ。確かにあいつはよくない奴だ」
「僕を助けてくれるのか?」
森のざわめきを聞いた僕がそう聞くと、一号はぴょんと跳ねた。
「ああ! 今こそ恩を返すときだ!」
一号がそう言ったときだった。
周囲に生い茂る木々の間から、または頭上の枝から、たくさんのリスが出てきた。
よく見ると、リスの背にはキノコが乗っている! いや、跨っていると言うべきか? まるで人間が馬に跨る騎馬兵みたいな感じだ。いわば騎リス隊!
「よぅし! 揃ったな! あの黒い奴をこの森から追い出すぞ!」
一号の声に、リスとキノコたちの鯨波が上がった。
「一号、助けてくれるのはありがたいし心強いけど、さすがに無謀だよ!」
「やってみなくちゃわからないぜ!」
と、一号。
「――小賢しい雑魚どもよ、このグリデンに歯向かうか?」
身の毛がよだつような、肌がビリビリと痺れるような殺気がグリデンから放たれた。
「みんな、ここは僕に任せて下がっていてくれ! 相手がヤバすぎる!」
と、僕は剣を出現させてキノコたちを制そうとするが、
「「困ってるこもり、助ける! 友だちのためなら、いのち、かけて戦う!」」
「お前らよく言ったぜ! 掛かれ!!」
キノコたちの意気を聞いた一号の号令で、騎リス兵が一斉に突撃した。
ヤバイ!
「フハハハ! 身の程知らずめが! 捻り潰してくれる!」
木から魔力を得たか、大剣を抜き放ったグリデンが大きく一振り。突如、デブの僕でさえ浮きそうになるほどの突風が吹き荒れた。思考と肉体を切り離したり風を起こしたり、奴の魔法は一つじゃないってことか!
「「わー」」
ああ! みんなが飛ばされて――。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
僕はメナスブレイカーを精一杯振るい、周囲を渦巻く突風を打ち消す。脅威と見做したものを斬る効果で、やっつける!!
結果、放って置けば彼方まで吹き飛ばされて命は無かったであろうキノコやリスたちが、どうにか自力で着地できる程度まで風力を弱めることに成功した。
「な、なんて力だ」
「ぼくたちじゃまるで歯が立たない」
小学生の男の子が裏声で話すみたいな、なんとも言えない可愛さのある声でキノコやリスたちが狼狽えてる。
「お前の狙いは僕だろ!? 他の生き物に手を出すな!」
「笑止。勇者の血族を味方した時点で万死に値することを知れぃ!」
まずい! グリデンがまた大剣を振り上げた! 第二波が来る!
「やめろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
僕と共に駆けだしたのは一号! 僕がグリデンの大剣をメナスブレイカーで受け止め、突風の発生を防ぐと当時に、彼はジャンプしてグリデンの鎧に体当たりを見舞った。
瞬間、僕は一号がつぶれてしまうと思い恐怖した。だって、キノコが全速力で鋼鉄の鎧にぶつかるんだ。人間が全力疾走してコンクリートの壁にぶつかるようなものだよ。
だが、一号は丈夫な奴だった。さらに、僕が勢いをつけてグリデンの大剣とぶつかり合ったタイミングが良かったのか、グリデンの重心が大幅に後方へ揺らいでいたのだろう。真正面からの一号の一撃によって、奴は大きくバランスを崩した。
「な、なに!?」
グリデンも運命の悪戯までは予測できなかったらしい。
ぐらりと後方へ崩れていく。
「――もらった!!」
このままグリデンが仰向けに倒れたところへ僕が剣を突き立てれば勝負ありだ! と思ったら、
「まだだ!」
奴が倒れていく先は地面――そこにまた暗い穴が出現し、グリデンを丸呑みにしやがった!
「逃がすかぁ!!」
僕も突進の勢いに任せ、前のめりに倒れる形で穴へとダイブ。
「お前ら! 森の安全は任せたぜ!!」
と、一号も僕の肩に飛び乗るかたちでついてきた!
そうして僕と一号が飛び出したのは――これまた見たことのある光景!
たくさんの松明と石造りの立派な円柱がずらりと寸分の違いなく並ぶ大広間。
「――貴様何者だ!?」
「こ、こ、ここ、ここは、ドワーフ王国の太守、ドアド10世の間なるぞ!!」
王座の両脇を守る鎧姿のドワーフが斧を構えた。
そのうちの一人は聞き覚えのある声――ココだ!
ここは、ドアド10世がいた王の広間! ドワーフの地下王国だ!
「くっ! 咄嗟に穴に飛び込んだはいいが、まさかドワーフどもの巣窟に出るとは!」
グリデンも不本意だったらしく声を荒げている。慌てて穴に入ったものだから、出現ポイントをうまく設定できなかったと見た!
「――あれ?! こ、兜守殿!?」
と、ココがこっちへと駆け寄る。
「気をつけろ! そこの黒い騎士は魔王の配下だった奴だ! 僕たちの敵だ!」
僕の言を聞いたドワーフの衛兵たちが一斉に斧を手に集まってくる。
「王の留守を守れ!」
「「ォオオオオオ!!」」
数十人のドワーフがグリデンの眼前で扇形に広がり防御を固める。
僕と一号は共にグリデンの背後に立つ。
「どうしたグリデン、逃げてばっかりじゃないか。状況は多勢に無勢だ! 降参するなら今の内だぞ?」
「か、数で勝ろうと、俺の力には到底及ばぬわ!」
言って、グリデンは大剣を振るい、また突風を発生させる。
だが、ドワーフたちはグリデン動揺、頑強な鎧に身を包んでそれなりの重量があり、更に日々の鍛錬もあってかずっしりと構えて踏ん張っているために効果がほとんどない。
吹っ飛んだのは一号が飛ばないように手で優しく握りしめた僕くらいだ。
「――ぐぇ!」
広間の柱の一つに背中から激突した僕は目が飛び出しそうなほどの衝撃を受けてむせ返る。
「兜守! 大丈夫か!?」
うつ伏せに倒れた僕の手から転がり出た一号がぴょんぴょん跳ねる。
「この七色に光る剣を握ってる限り、僕は大丈夫!」
僕は左手でキュアソードを構えて立ち上がると、右手にメナスブレイカーを出現させ、グリデンの突風に耐えるドワーフたちを援護するべく一歩を踏み出す。
メナスブレイカーを風が向かってくる方へ構えると、剣の能力で風が切り裂かれて弱まる。
そうして僕はドワーフたちの方を向いているグリデンの背後に迫り、両の手の剣を振り下ろす。
「――甘いわ!」
さすがに読んでいたか、気配で察したらしいグリデンが大剣を振るって僕の剣を薙ぎ払った。
しかしその行為で突風が止み、ドワーフたちが一斉に斬りかかる。
「このチビどもめぇ!!」
一振りごとに数人のドワーフを薙ぎ飛ばすグリデン。
僕はアイナの立ち回りを活用して奴の懐に飛び込むと、横薙ぎの一閃を見舞い、その黒い巨体を吹き飛ばすことに成功。
「――お、おのれ! か、斯くなる上は!」
壁に激突して怯んだグリデンは、自身の背後にまたしても穴を出現させた。
「やべぇ! また逃げられるぞ!」
ぴょんぴょん跳ねてきた一号がまた僕の肩に飛び乗る。
「一号! これ以上は危険だ! 君はここに残れ!」
「お前だけ行かせられるかよ! オレはキノコの代表として一緒に戦う!」
「命拾いしたなドワーフども! だがこの借りはいずれ必ず返してやるぞ!」
グリデンはそう叫んで穴へと飛び込んだ。
「ぼ、ぼくもお供します!」
斧を担ぎ、僕と並んで駆けだすのはココ!
「よせ! 危険だぞココ!」
「ぼくは、ド、ドワーフの戦士です! 本当は、王様と一緒に出陣したかったんです! で、でもシーズ殿が作った鎧が合わなくてお留守番に、――だから今回は行きます!」
銀の面頬を外し、その顔を初めて見せ、彼は――いや、彼女は言った。
がっしりした体格とは裏腹に白い小顔は、涼やかで落ち着いた感じの美を備え、フリルやレースが似合いそうな女のそれ。
見習いの青年ドワーフかと思ってたら女の子だったとは!
「――だ、ダメだココ! 女の君を危険な目に遭わせたくない!」
一刻を争う状況で思わず本音を言う僕を、ココはこれまた初めて怒りを露わに眉を吊り上げて睨んだ。
「ぼくは女でも戦士です! 必ずお役に立ちます!」
どもることなく放たれたココの言葉に気おされた僕は、
「わ、わかった!」
と頷いて、一号も一緒に穴へ飛び込んだ。
そうして辿り着いた場所――そこはどこかの盆地――いや、山頂の窪みだった。
周囲を見遣ると、ズタボロになったドラゴンの死骸が見えた。あれは、性格が悪くて光物に目がないロリコン糞ドラゴンじゃないか! ということは、ここは【レフモケの山】に違いない。戻ってきたわけだな。
背後には大きな洞窟。その奥に下りの階段が見えるから、恐らくはここが地下の闘技場への入り口だ。
「――こ、この俺がこれほどまでに後退を余儀なくされるとは――!?」
グリデンは僕たちの前方10メートルほどの場所に立ち、肩で息をしている。
「グリデン! もう鬼ごっこは終わりにしろ! 僕はどこまでもお前を追いかけるぞ!」
僕は呼ばわり、二本の剣を手に歩き出す。
「お前が逃げ続ける理由を当ててやろうか? 長期戦に弱いからだ!」
「……く!」
あ、今グリデンが歯を食い縛った! ということは言い当てられて悔しいってことだな。
「無理もない。思考と肉体を切り離すなんて複雑な技を繰り出したり、突風みたいな大技を連発したんじゃ、いくら魔力があったって足りなくなる。それは、お前が遠く離れた【妖精の森】まで魔力を吸いに行ったことからも明らかだ」
「黙れぃ!」
と、叫ぶグリデンだが、かなり魔力を消耗しているのか、何もしてこない。
「――やめにしないか? 2000年前の復讐とか、どうだっていいじゃないか。僕は確かに勇者の血を継いでるけど、ただのデブで無職のおっさんだぞ?」
なぜだろう。説得する側の僕が悲しい気分になった。
「お前の上司――ザッハークって言ったか? そいつは悪いことをしたからやっつけられたんだろ? お前もここで悪いことをして、同じようになるつもりか?」
「勘違いをするな! ザッハーク様の崇高な理想に逆らった勇者どもが悪なのだ! ザッハーク様はすべての種族を支配下に置き、平等に不死の命を与え、世界を統治しようとなされた。それに大人しく従っておればよかったものを、貴様らは逆らった! 逆らわなければ争いも流血も起きなかったにも拘わらずだ! かつて貴様ら悪の勝利で終わった戦いを今ここで再び演じ、ザッハーク様の勝利で塗り替えるのだ!!」
グリデンは唸り、大剣を構えた。
魔族の連中は、自分たちの考えが絶対的に正しいと思っているってことか。
「そういうのはな、価値観の押し付けって言うんだぜ?」
「その口、二度と利けなくしてくれる!」
地を蹴ったグリデンが迫る。説得はダメか! 恐らく奴は、己がどうなろうとも復讐を遂げる気だ!
「――はぁあ!!」
ココが斧を水平に構え、グリデンの大剣を受け止めた。彼女の足が地面にめり込み、徐々に沈んでいく。
「ぅおおおおおおおおおお!!」
僕が加勢し、グリデンの大剣を押し返す。
ココが何の問題もなく斧を振るえた点から、グリデンはシュープリスの能力を使わず、純粋な剣術で勝負を挑んでいることが伺える。要はそれだけ消耗しているってことだ。
「――よう兜守! それにココも! なんで二人がここにいるのか知らねぇが、兜守は新しい破片をゲットできたみてぇだな!」
そこへ思わぬ助っ人――アズロットが現れた。鍔迫り合いになった僕たちの側面からグリデンに殴りかかる。
「ぬっ!? 新手か!」
大きく後方へ飛びのくグリデン。
「アズロット! あのドラゴンをやっつけてくれたのか!?」
「ああ。大分消耗させられて、今までくたばってたけどな」
僕が聞くと、アズロットは頷いた。彼の傷だらけの身体が、かなりの激戦であったことを物語っている。
「けど、由梨がさらわれちまって、カジュアルの奴が助けに行ったんだが、お前あいつに会わなかったか?」
「ここの地下にある闘技場であったよ。由梨ちゃんもそこにいて無事だ」
僕は背後の洞窟を指さして言う。
そのときだった。
「――あら? 兜守じゃない。いつの間に山頂まで移動したの?」
洞窟の奥から階段を上がって、カジュアルが現れた。由梨ちゃんも一緒で、彼女に背負われている。
ズタボロになったパーカーは片方の袖が破れてなくなり、白い腕が露出している。スカートも所々が破れ、全体的に赤黒い染みがついている。
「グリデンの能力でここまで来た。そっちはどうなった?」
「片付いたわよ?」
僕の問いに、カジュアルは満面の明るい笑みを見せる。
「――あんまりにも悪い子たちだったから、久しぶりに本気出しちゃった」
そう言って舌を出すカジュアルだが、その目は全く笑っておらず、頬や金色の髪に付着した赤黒い染みも相まって、ただならぬ恐怖を感じた。
「槍はどうした?」
今度はアズロットが聞いた。
「魔族の女の子たちを、仲良く磔にするのに使ったわ。焼き鳥って食べ物は肉が串に刺さってるでしょう? それを魔族でやってみたの」
想像するのも恐ろしいことを、カジュアルは楽し気に語った。
怒らせたら恐いのは、由梨ちゃんだけじゃなさそうだ。
「――おーい! みんなお揃いで何のイベント?」
「兜守の隣にいるのはココか!? 留守番のお前がなぜここに!?」
と、そこへ更に、ブースターを噴射したパワードスーツが二機飛んできた。
シーズとドアドだ!
「あ、あとで説明します! 黒い鎧を着た魔族と戦っているんです!」
「――なるほど。山のオークどもを差し向けたのは貴様と見た!」
ココの言を聞いたドアドがグリデンを睨む。
「どんな魔法か知らぬが、何人増えようと同じこと!」
パワードスーツを見て一瞬驚いたかのように固まっていたグリデンが言った。
グリデン一人に対して、こっちの戦力は6人と一匹になった。
「――お、俺は止められぬ! 一人残らず、わ、我が大剣の錆にしてくれる!」
尚も戦意を燃え上がらせるグリデンだが、声が震えてる。
「頼もしそうな人間に、ドワーフもいるのか! すごい戦力だな!」
一号が僕の肩で言った。
「これから最後の戦いだ。振り落とされるなよ?」
「おうよ!」
「――まだやれる? アズロット」
由梨ちゃんを地に寝かせたカジュアルの問いに、アズロットが頷く。
「ああ。もうひと暴れしてやるぜ」
「ココよ、儂が前へ出る。訓練通りに続け」
「は、はい!」
ドアドとココも戦闘態勢だ。
「なんだかよくわからないけど、黒い奴が悪者ってことでオーケー?」
「オーケーだ」
僕はシーズにサムズアップを送る。
「――ボクを忘れてもらっちゃ、困るね」
掠れた声で地を這いながら現れたのはルシフェイスだ。
「おう! 無事みてぇだな。山の淵からここまで這ってきた根性は認めてやるぜ!」
と、今度はアズロットがサムズアップをルシフェイスに送ってる。
ルシフェイスもドラゴンの討伐に一役買ってくれたんだろう。服も容姿も台無しなくらいにボロボロだ。
「――カジュアルさん、わたしを運んでくれてありがとうございました」
目を覚ました由梨ちゃんが、そう言って僕の隣に立った。なぜか僕とココの間に割り込むような感じで。
「大丈夫か? 由梨ちゃん」
「平気です。おじさんは大丈夫ですか? 闘技場ではすごい奇跡を起こしてましたけど――?」
「その辺はあとで話すよ」
僕は由梨ちゃんを庇うように前へ踏み出し、剣を構える。
これで8人と一匹。
「――いくぞグリデン!」
僕は気迫と共に地を蹴り、先陣を切った。
それに合わせ、ルシフェイスが生やした木々がグリデンの背後を囲う。
アズロットとカジュアルが僕を一瞬で抜き去って突っ込んでいき、グリデンの両腕をがっちりとホールド。続くシーズ、ドアド、ココが同様に組み付き、胴部と両足を行動不能に。
「うおおおおおお!」
一号が飛び出し、こてんっとグリデンの兜を揺らす。
「最後くらい、かっこよく決めてください?」
と、由梨ちゃんが僕の背中に飛び蹴りを放ち、僕をロケットみたいに吹き飛ばす。
――前方へと。
「お、おのれぇえええ勇者ぁあああああああああ!!」
そうして雄叫びを上げるグリデンの首目掛け、僕は剣を振り下ろした。




