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兜守編 4月13日 その5 勇者の末裔


 僕の渾身の突撃は秒で返り討ちにされた。


「あぁああああああああああああッ!?」


 今度は苦悶の雄叫びを上げ、僕はまたしても後方へ吹っ飛び、盛大に背中から壁にぶち当たってめり込んだ。幾本もの亀裂が僕を中心に広がり、石の破片がポロポロと落ちていく。


 キュアソードを放さずに持っていた己の右手を褒めたい。生身なら死んでますよ!


 アイナのときと同じように、僕の右目は相手の動きを正確に捉えていた。反応して、追随できていたんだ。けど、身体の動きが間に合わなかった。


 攻撃が来るのが完全に見えているのに、身体だけが動かない状態。どうなってる!?


 僕はどうにか意識を保ち、傷が超回復した瞬間、めり込んだ壁から抜け出す。


「どうした? 威勢がいいのは声だけか?」


 2メートルに及ぶ巨体で地を踏みしめ、ギン、ギンという鉄靴の音を響かせながら魔剣士が迫る。

 

 アイナの技をただコピーしたってだけで安心しちゃダメだ。もっと感覚を研ぎ澄ますんだ!


『死合いではね、計算よりも感覚の方が大事よ。周囲の空気の動き、気配、音に神経を集中して、心の眼で見るの。剣を振るうときも、心で振るいなさい』


【試練の間】でアイナからそう教わった。その通りにやってみるんだ!


「まだまだこれからだ!」


 呼吸を整え、二本の剣を構えた僕は再び前へ。


 グリデンの眼前に迫った僕は、しかしここで横に飛び、くの字を描くような軌道で奴の背後に回り込む。


 グリデンの大剣が動く。振り向きざま、横薙ぎの一閃だ。


 大丈夫だ、見えてる。落ち着いて対処しろ。


 僕はキュアソードを右に振るう形で大剣の刃を受けつつ、メナスブレイカーを右上から左下へ、斜めに切り裂く軌道で相手の胴体を狙う。


 メナスブレイカーの能力は、僕が脅威と見做したものをなんでも切り裂くというものだ。


 僕にとってグリデン・ヴェインは脅威そのもの。つまり奴が装備している鎧ごと切り裂けるはず!


 さっきはグリデンへの恐怖だけが頭にあったから上手くいかなかったが、奴の大剣も【脅威】だと認識して破壊してやる!


 ――もらった!!


「ッ!?」


 ここで僕の視界がぐにゃりと揺らぐ。脇腹に衝撃。次の瞬間、僕の身体は真横へ吹き飛ばされた。


「ぐぁあ!?」


 なにが!? 一体なにが起きたんだ!?


 ズザザァアアアア! っと石造りの地面に倒れ込んだ僕は、すぐに跳ね起き――るのは体型的に無理なので転がり起きた。


 今の一太刀――動きは見えていた。対処方法も本能的にイメージできてた。けど、今回も身体が思い通りに動かなかった。


「――不可解か?」


 グリデンが言う。


「自分の意思が行動に反映されず、戸惑っているようだな」


「お前の魔法の仕業か?」


 後退りながら、僕はダメ元で聞いてみる。


「然様。このまま戦ったのではあまりにもつまらん。冥土の土産として教えてやろう」


 来た! 冥土の土産に教えてくれるパターン! 


「ぜひとも知りたい!」


「我が大剣・シュープリスは、相手の思考と肉体を切り離す能力を持っているのだ。貴様ら人間は、頭の中に精神を司るものが入っている。そこから肉体へ命令が送られることによって、手足を動かしたりする。シュープリスはその命令を斬るのだ」


 チートじゃん! そんな魔法もあるんか!


 脳から身体へ送られる命令――つまり電気信号を、剣から発生する見えない斬撃で斬ることで、一時的に脳の命令を身体が無視する状況を作り出しているってわけだ。


「それじゃ、お前が剣を振るう度、こっちは一時的に動けない状態になるってことか!?」


「そうだ。今の貴様では為す術なく、我が大剣の錆となる他に道はない。さぁ、カラクリを教えてやったのだ。これを乗り越え、俺をもっと楽しませろ!」


 いや、無理ですよそんなの。


 頭では考えられても身体がついてこないんでしょ? キュアソードを握っていてもやられたわけだし、メナスブレイカーは……。


「――やってやろうじゃないか!」


 僕はそう返した。僕が脅威だと思ったものをなんでも斬れるメナスブレイカーなら、もしかしたら対抗できるかもしれない。


 脅威だと思ったものをなんでも斬れるというのが肝だ。


 僕は奴の剣の能力を知って、それを脅威だと思った。これでメナスブレイカーが奴の能力そのものを斬って無効化したり、あるいは効果を鈍らせたりできるかもしれない。


「行くぞ!」


 僕は再度二本の剣を構え、グリデンの真正面から勝負を挑む。


 やはり、メナスブレイカーの効果で、僕の思考と運動機能が切り離される現象は無くなった。


 僕はアイナとの打ち合いで覚えた体捌きで剣を振るい、グリデンと幾度も切り結ぶ。


 ――くそ! メナスブレイカーで奴の大剣そのものも斬れると踏んだんだが、そう簡単には斬れないか!


 キュアソードのおかげで傷は一瞬で治るにしても、さすがに限度がある。あんな大剣の攻撃を受け続ければ危険だ。 


 逡巡する僕の隙をついて、グリデンは僕の剣を弾き、返す刃で斬りつけてきた。


「くっ!」


 どうにか受け止める僕だが、――ダメだ、単純に力で押し負ける!


「フハハハハ! 勇者よ! 貴様の末裔は豚に成り下がっているぞ!」


 グリデンの気合一閃で、僕は由梨ちゃんが倒れる側まで吹っ飛ばされてしまった。


「いででで!」


 受け身を取れず、背中から墜落した僕は情けなく呻いて由梨ちゃんの真横に転がる。


 くそ、このままじゃ、由梨ちゃんを助けるどころか、僕自身もやられてしまう!


「――おじ、さん?」


 ここで由梨ちゃんが目を覚ました。


「由梨ちゃん! 大丈夫か!?」


「ごめんなさい。ドラゴンの居場所を知らせようと思っていたのに、あの黒い騎士に意識を奪われてしまいました」


 僕の呼びかけに、由梨ちゃんは消え入りそうな声を返した。


「君が無事ならそれでいい。少し待っててくれ。僕がその黒い騎士をやっつけるから!」


 キュアソードによってダメージが全快した僕は再度立ち上がり、由梨ちゃんを庇うようにしてグリデンに向き直る。


「――っ!?」


 由梨ちゃんの小さな息遣い。彼女の視線が僕の背中に注がれているのを感じる。


 グリデンが猛烈な勢いで僕の眼前に突進してきていた。


「うぁあ!?」


 呼吸を整える間もなく、僕はグリデンの猛攻に曝される。


 奴の大剣は両刃になっており、右から襲い掛かったと思うと、今度は左から、上から、斜め下から、断続的に的確に往来して僕の首を狙う。その一撃一撃はいずれも必殺の威力を持ち、重機で殴られているかのような重さがある。


 僕は右目の能力でアイナの動きをコピーしたとはいえ、それだけでは魔剣士を自称するグリデンの実力に及ばない。経験もセンスも向こうが上だ。


 そんな僕がグリデンを倒すには、短期決戦でゴリ押しするしかない。


 ――くそ! 早くやっつけたいけど、全然隙が無い! 守ので精一杯だ!


 そうした思考が僕を焦らせ、手元を狂わせた。


 大剣――シュープリスが僕の肩を抉り、血しぶきが上がる。


 焼けるような激痛が電流のように駆け巡る。キュアソードが癒す。また斬られ、激痛が走る。


 それでも僅かな隙に身体を動かし、必死に大剣を受ける僕の両足は押されて後退し、床に亀裂を走らせ、めり込み始める。


 まともな一撃を喰らえば、僕の胴体など容易く両断されてしまう。


「つまらん! なんの力も持たぬのであれば、潔く散れぃ! そこな小娘もろとも地獄へ落としてやろう!」


「――由梨ちゃんに、そんなことはさせない!」


 刃同士がぶつかり合った衝撃が僕の手に伝わり、ビリビリとした痺れが蓄積されて握力が落ちていく。


 キュアソードの回復を上回るペースで疲労とダメージが蓄積する僕は、次第に服が血に塗れていく。


「おじさん! わたしのことなんて放って置いて、ここから逃げてください!」


 由梨ちゃんの泣き出しそうな声。


「嫌だ!」


 振り下ろされた大剣を、僕は両の剣を頭上でクロスさせて防ぐ。しかしあまりの重さに押され、片膝をつく。

 

「何回同じことを言わせるんですか! 自分の立場を――」


「立場なんて糞くらえだ! 女の子の一人も守れないで、何が勇者の末裔だ! ふざけるな!」


 それは、自分自身への怒りだった。


「僕は絶対に! ここを! 離れないッ!! 僕なんかのために自分を犠牲にするな!! 君は君のために生きろ!!」


 僕はクロスさせた剣を、グリデンの大剣を巻き込む形で横へとスライドさせて躱し、鎧に覆われたグリデンの胴部に体当たりした。


「――ぬッ!?」


 グリデンとは体格差がありすぎて、僕の体当たり程度ではビクともしないように思われたが、体重だけならそれなりにあったので、僅かだが怯ませることができた。


「うぉおおおおおおおおおおおおお!!」


 そのまま僕はグリデンの身体を推す。由梨ちゃんから距離を離す。


 だが、


「――無意味な真似を!」


 グリデンの肘打ちが上方から僕の背中に突き刺さり、僕は前へとつんのめって倒れた。

 

 次の瞬間、


「死ねぃッ!!」


 僕の身体の中を、背中から襲い来た刃が刺し貫いた。


「――――――ッ!!」


 由梨ちゃんが悲鳴を上げたのか、僕の聴覚が狂ったのかわからない。甲高い音が脳内を錯綜する。


 僕を通過した刃が抜かれ、その切っ先が違う角度から再び僕の中へ。


 キュアソードが僕を治すも、同時に新たな裂け目が穿たれる。


 皮膚が千切れ肉が断たれ骨が砕かれ、内臓が潰され神経が侵され感覚が毒され僕が破壊されていく。


 キュアソードを握る右手の感覚が消えた。視界の隅で右手の様子を確認。右手首から先が無くなっている。キュアソードも消えている。


 左肩から変な音。


 噴水みたいな赤黒い液体の雨が降り始める。


 視界の隅を僕の左腕が飛んでいった。


 太ももの感覚がなくなった。


 僕の足がついたままのブーツが僕の目の前に転がる。


「――いやぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 由梨ちゃんが叫んだ。


 ちく、しょう。僕は、どうなって、しまったんだ?


 目は見えるが、まるで感覚が遠退いていくようだ。痛みが薄い。


「よくも! よくもぉおおおおおおおおおおおおおおッ!!」


 熱風が吹き荒れ、由梨ちゃんの身体から蜃気楼のような赤黒いオーラが放たれた。


 彼女の頭の両サイドから生じた赤く小さな角が光り、紅色の瞳と、鋭い爪と鋭い牙も同様に暗闇で煌めいた。

  

「――!? 貴様はもしや、鬼人の血族か!?」


 鬼人化した由梨ちゃんを見て、グリデンが驚愕の声を漏らす。


 刹那、由梨ちゃんが両の手から放った真空波がグリデンの鎧に火花を散らした。


 衝撃で後方へ吹き飛んだグリデンは、しかし空中で体勢を立て直し、難なく着地して由梨ちゃんと対峙。


「鋭い爪に、紅の瞳。そして目にも止まらぬ速さは間違いなく鬼人のそれ! ……なるほど、勇者の末裔たるそこな豚を守るべく、行動を共にしていたか!」


 ちょうどいい、とグリデンは薄く嗤う。


「豚と共に果てさせてやろう!」


「――ぅうぁあああああああああああああッ!!」


 歯を剥き出しにして唸り、由梨ちゃんは四足獣の如くグリデンに迫った。


 グリデンは凄まじい高速捌きで大剣を振るい、由梨ちゃんの攻撃を尽く防いだうえに猛烈な反撃を見舞い、容易く返り討ちにしてしまった。


「ぅう!」


 鬼人化が解け、僕の傍に倒れた由梨ちゃんが呻く。


「――おじ、さん」


 由梨ちゃんが僕を呼ぶ。彼女の目から、透明な光が流れる。


「――おじさん。わたし、あなたにたくさん、ひどいことを言いました。あなたが、気持ち悪いから……」


「…………」


 この期に及んで気持ち悪いですか。まぁ、そうですよね。


 僕は意識こそあるものの、声を発することのできない状態になってしまっていた。


「でも、わたし、あなたが嫌いなわけじゃ、ないんですよ? あなたが、頑張ってるの、わかってるから……」


 雫で頬を濡らしながら、由梨ちゃんは微笑んだ。


 暖かくて、優しい、僕の好きな笑顔だ。


「だから、戻ってきてください。まだ行かないで。わたし、おじさんが強くなっていくのを見ていたいんです。これからも一緒に、旅がしたいんです」


「…………」


 由梨ちゃんは、僕を嫌っているようで、引いてるようで、軽蔑しているようで、その実、見てくれていたんだ。わかってくれていたんだ。


「――ねぇ、聞こえてる? おじさん。返事、してよ……」


 悲し気な声で言う由梨ちゃんの側に、グリデンが迫る。


「何を悲しむ必要がある? 貴様らはこれから揃って死ぬというのに」


 と、冷笑するグリデン。


「また、頑張ってるところ、見せてよ。応援させてよ……」


 頑張りたいのは山々なんだけど、手足斬られちゃってるんですよ。


 いつもならそんな感じでぼやきの一つでも零すところだが、ダメだ。意識が遠のいていく。


 悲しみと絶望に打ちのめされ、由梨ちゃんはとうとう泣き出してしまった。白い歯を食い縛り、綺麗な表情を歪め、嗚咽の合間に僕を呼びながら。


 ――嗚呼、ダメだ。


 このままじゃダメだ。


 終われない。こんなところで終わりたくない


 もうこれ以上、あの子を泣かせたくない!


「諦めろ、鬼人の小娘。四肢を断たれた勇者の末裔はもはや虫の息。お前が如何に呼びかけたところで無意味よ」


「――わたしは信じてる。あなたはこんな場所で終わる人じゃないって、信じてる!」


 そうだ。僕はまだ終わらない。これから先も進んでいくんだ、由梨ちゃんと一緒に!


 グリデンの動きは右目で粗方覚えた。あいつの能力に邪魔されずに、もう一度剣を振るうことさえできれば、勝機はゼロじゃない。


「勇者の末裔がここで終わる器か否か、俺が今確かめてやろう。首を刎ねることでな! これでザッハーク様の復讐が完遂されたも同然ッ!!」


 グリデンの足音が迫ってきた。僕は俯せで顔を横向けた状態だから見えないが、たぶん僕のすぐ近くに立っていて、僕の首を刎ねようとしているんだ。


「やめて!」


 由梨ちゃんがそう言うってことは、僕の予測は当たっているのだろう。


「お願いだから! ――なんでもするから!」


 ん? 今なんでもって……。


 僕の心臓が、強く脈打った。遠のいていた意識が覚醒する。朦朧として、淡々と思考を処理するだけだった時間が終わり、活力が戻ってきた。


 遠くに転がる僕の右手――その人差し指に嵌められた指輪が光っている。


 その光は次第に大きくなり、一帯を眩い白で包み込んだ。


『兜守。私が見えているか?』


 青年の涼やかな声がした。まるでテレパシーみたいに、脳内に声が響く。次いで視界を埋め尽くす光の中から、細身な男のシルエットが浮かび上がった。影になっていて容姿はわからないが、確実に僕より若い。


「ああ。あんたは誰だ?」


『私は君の先祖にあたる者だ。最初に勇者と呼ばれた男さ』


 僕の問いに、青年は衝撃の返答。


「あんたが初代の、――勇者なのか?」


『お雨が右手の人差し指にはめている指輪に掛けられた魔法によるものだといえばわかるか? お前がピンチになったときに発動する安全装置みたいなものだ』


 チート級のお助けアイテム来た!!


 毎朝起きたらすぐ指輪をはめる習慣つけておいて良かった! もしはめ忘れてたらと思うとゾっとする。とはいえ、僕がこんなになるまでどうして放置したのよ?


「もう少し早く出てきてくれよ。手足をやられちゃったんだぞ?」


 と、僕はご先祖に文句を飛ばす。


勇者道(ゆうしゃどう)に苦痛はつきものだ。俺なんて、首から下が全部粉々になったことあるしな』


 なにそれ恐い! もう死んでるじゃん!


「魔王との戦いでそうなったのか?」


『いや、仲間とのじゃれ合いでちょっとな』


「じゃれ合いってレベルじゃないだろ!」


『俺の話はいい。今はお前のことだ』


 と、初代勇者は仕切り直す。


『――今のままじゃ、お前は1分と持たずに死ぬ』


 でしょうね。


「そんなのはわかってる! なんとかしてくれ! そのために出てきたんだろ?」


『もちろん、助けることはできる。だがな、兜守。俺は子孫を甘やかすつもりは毛頭ない。この意味がわかるか?』


「わかりたくない!」


『いや、そこは、なんでもするって答えるところだぞ? そういうとこなんだよお前は』


 助けてもらうはずが説教されてない?


「……なにをすればいいんだ?」


『これまでの所業を反省し、誓いを立ててもらう』


「所業!? 僕がいったい何をしたっていうんだよ?」


『まずはこのレースの最初、海岸で恐竜に襲われたときだ。お前は由梨を盾にしたな?』


「それはそうだろ! だって由梨ちゃんの方が僕より強いもの!」


『そういうとこなんだよお前は』


 次だ、と初代は続ける。


『お前は服が破れてしまった由梨を見て興奮したな? そして彼女の裸をドローンが撮影しているのを見て、止めるどころかわざともたついて、撮影させる時間を与えたな?』


「そんな変態なこと僕がするはずないだろ! すぐにタオルを取り出して由梨ちゃんに渡したさ!」


 言いながら僕は4月10日その2を振り返る。


 いいぞ、もっとやれ! 視聴率が上がるぞぉ!


 とかって血走った目をしながら思ってたなぁ。


「……いや、由梨ちゃんの裸がYOOTUBEにアップされるのを期待してました」


『そういうとこなんだよお前は』


 次だ、と初代。


『お前はドワーフの王との会食で、由梨の印象を貶めるような発言をしたな?』


「いや、そんな失礼なことしないよ」


 言いながら、僕は4月11日その4を振り返る。


「それなりにってレベルじゃないですよ? 堅い石も握り潰しますし、腕力は怪獣並みです」


 由梨ちゃんが怒りのあまり片手でフォークを捻じ曲げたとき、そんなことを言ってしまった気がする。


「……いや、由梨ちゃんがゴリラだって誤解させるようなことを言ってしまいました」


『そういうとこなんだよお前は』


 まだあるぞ、と初代勇者。


 まだあんの!?


『お前は試練をクリアして手に入れた聖剣の破片を売り捌こうと考えたな?』


「そ、そんな滅相も無い! 名誉ある先祖が残してくれた剣をそんなぞんざいに扱ったりは――」


 思い出した。売ろうと考えたわ僕。


『俺の剣を金儲けに使おうとするとはな! そしてそのときも、由梨を失望させたな?』


「……はい」


『そういうとこなんだよお前は』


 まだまだ行くぞ! と初代勇者。


『ルシフェイスと一戦交えたとき、お前は由梨が辱めを受けているのを見てまたもや興奮したな?』


「それじゃぁまるで僕が変態みたいじゃないか!!」


 思い出した。あれは4月12日その2での出来事。由梨ちゃんがルシフェイスが生やした根っこに絡みつかれていろいろとヤバイことになっているとき。


 由梨ちゃんのシャツが引き裂かれた! ど、ドローンのやつが! ドローンのやつが由梨ちゃんに最接近!! YEAHイェアッ!!


 とかって思ってたっけ。


「……いや、おっしゃる通りです。狂喜乱舞してました」


 畳みかけるぞ! と初代勇者。


「もうやめて!! 僕のライフはゼロよ!?」


 僕はもう自分で自分が嫌になっていた。


 認めざるを得ない。僕は正真正銘の変態だと。


『……反省しているか?』


「はい……」


『自らの評価を自ら下げるような行いを、恥じているか?』


「はい……。イマイチ決まらないって思ってます」


『償いたいか?』


「はい」


『仲間を救いたいか?』


「はい!」


 僕の回答に嘘はない。由梨ちゃんを守れるなら、僕は本当になんだってやる。たとえ変態だって言われても、どんなに嫌われても。


「もう、守られるだけの僕じゃない。今度は僕が守る番だ!」


 大切な人の一人も守れないようじゃ、勇者の末裔を名乗れないしな。


『――いいだろう。それでは兜守。お前にもう一度戦うチャンスをやる。ただしこの一度だけだ。指輪の魔法は無限に続くわけじゃない。お前の致命傷を魔法で治したら、指輪は存在を保つことができないんだ』


「ただでさえチート級の魔法なんだ。それくらいのデメリットがあって当然だろう」


『……覚悟はできてるのか? あとはすべて、お前に懸かっているんだぞ?』


 重い響きだ。自分の人生の心配しかしてこなかった僕への質問には思えないくらいに。


 けど、これからは違う。


 僕は重荷を背負って進んでいくんだ。世界の命運という重荷を。


「とっくにできてる」


 僕は頷いた。世界の命運には、仲間の命だって含まれる!


『よく言った! それでこそ俺の子孫だ!』


 初代勇者が言うと、彼のシルエットが光の中へと溶けていき、再び眩い光が僕の視界を覆いつくした。


 ――――。


 全身が熱い。切断された部分から煙が上がっている。


 異様な光景だった。バラバラに飛び散っていた僕の手足が煙となって浮遊し、僕の胴体へと吸い寄せられるように合わさったかと思うと煙が消えて、そこから元通りになった僕の手足が、服も纏った状態で現れたのだ。


「――由梨ちゃん、今、なんでもするって言ったよねぇ? デュフフフフフフ、ウフフフフフ」


 僕は言いながら、ゾンビのようにゆっくりと立ち上がる。


 掛かったな初代勇者! 僕は反省したふりをしただけで、二度と嫌らしい発想をしないとは言っていないぞ!? まんまと僕を再生させたなフハハッ!


「それじゃあ、僕がグリデンをやっつけたら、あーんなことやこーんなことをお願いしちゃおうかなぁあ!?」


「……わたしの涙、あとで全部返してくださいね?」


 僕が復活したのを見た由梨ちゃんは、喜ぶとか感動するとかではなく、目元に影が差したあの恐い笑みを浮かべた。


 ――まぁ、ジョークはこの辺にして。


「――ば、馬鹿な!? 完全に望みを絶ったというのに、なぜ回復できた!?」


 と、グリデンが狼狽えたように半歩後退する。


「僕を誰だと思ってる?」


 僕は両の手にそれぞれ剣を出現させ、言い放つ。


「かつて魔王から世界を救った、勇者の末裔だ!!」



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