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兜守編 4月13日 その2 増援要請&山登り


 攫われた由梨ちゃんを助けるためにも、僕たちはすぐに行動を起こす必要がある。


 幸か不幸か、アイナはアズロットの腕の中で気を失っている。


「アズロット、今なら逃げられる! 一緒に来てくれ!」  


「わかってるが、落ち着け。まずは最善の策を考えるんだ」


「アズロット殿の言う通りだロブ。あのドラゴンは、自分が気に入ったと言って奪った宝を、今も大切に貯め込んでいると考えられるロブ。そして宵隠殿はあいつに気に入られているロブ。気に入ったものを愛でるということはつまり、彼女にすぐに危険が及ぶ可能性は低いロブ」


 と、涙をふきふきしながらスタローン。


「山のオークの動きも活発になっているのか、今朝から山の至る所で狼煙(のろし)のような煙が確認されています。自警団が防御壁からもたらした情報なので間違いありません」


 スタローンを支えるポルポが言った。


「ドラゴンをやっつけに行こうにも、オーク共が邪魔ってわけか……ヤバくなってきたな」


 と、腕組みをするアズロットは、


「――兜守、それからスタローン卿にも、悪い知らせを伝えなくちゃならねぇ。混乱を避けるためにも不用意に広めたくはなかったが、状況が状況だからその必要が出てきた」


 魔王城で魔力反応が観測されたこと、その反応の一つが【レフモケ】の山に移動したことを僕たちに話して聞かせた。


「ロ、ロブゥ!?」


「閣下! し、しっかり!」


 またも腰を抜かしたスタローンに肩を貸すポルポ。


「魔力反応って、――な、なんだよそれ。正体はまだわからないのか? 【妖精の森】にいたようなオークじゃないの?」


 ただの勘違いであってほしい僕は、そんな質問をしてしまう。


 移動速度が桁違いだ、とアズロットは言う。正体としては魔族の可能性が極めて高く、それも上位に君臨する、魔王に限りなく近い存在の懸念があるらしい。


「オークなんて、下っ端の中の下っ端みてぇなもんだぜ。なにせバカだし、魔力も全くと言えるほど使えないからな。本当にヤバイのは、名前を与えられた指揮官クラスの奴らだ。大抵は人の姿形をしていて、魔力を使った特有の異能を操る。連中と比べたら、さっきのドラゴンだって格下になる」


 確か、異能はそれを操る者の生命エネルギーを消費して発動するものだと教わった。使い過ぎると命に関わるというデメリットがある。


 アズロットによれば、自然界に存在する魔力をエネルギーとして発動する異能は生命エネルギーを使うことがなく、ほぼ無尽蔵に使うことができるらしい。


 魔族はその魔力を敏感に感知して体内に取り込むことに秀でている種族で、無尽蔵に異能を発動できるという点で他の種族より勝っていることに慢心し、かつて世界支配を狙った戦争を仕掛けたのだという。


 レース開催前、僕の部屋でカジュアルが言っていた魔族の残党が、実在したのだ。


「――由梨ちゃんを助けるには山の火口まで行かなくちゃいけなくて、そこへ行くには山のオークたちに見つかっちゃダメで、火口に着いたら着いたで由梨ちゃんを助けつつ例のあれを回収しなくちゃいけない、か……」


 難易度が高すぎてヤバイ。


 これはさすがに、僕とアズロットだけでなんとかできる問題じゃないぞ。


『あたしたちはここまでね。あっという間だったけど、恩は絶対に忘れないから、何かあったらいつでも連絡をちょうだい?』


 ここで僕は、シーズの言葉を思い出した。


 携帯には、第七艦隊の艦長と直接話せる電話番号が入っている。


「――呼ぶんだ」


「何をだ?」


 どうやら心の声が出ていたようで、アズロットにそう聞かれた。


「艦隊から、ありったけの戦闘機を呼ぶんだ。それと、シーズに連絡して、例のパワードスーツの開発がどうなったか聞こう。3Dプリンターを使うって話だから、一つ出来上がれば、それを量産するのは簡単かもしれない。そうしたら、ドアド国王に頼めば、パワードスーツで武装したドワーフ軍を派遣してもらえるかも!」


 我ながらなんともぶっ飛んだヤバイ戦略だ。けど、これくらいやらないと、今回の危機は乗り越えられる気がしない。


「そういうことか。もうこうなったら、やれそうなことは全部やってみようぜ!」


 アズロットも賛同してくれ、僕は地上への階段を上がりつつシーズへと電話を掛けた。


 ――――――。


 そうして地上に出た僕たちは、予想だにしていなかった人物――ルシフェイス・ルインと再会。目を覚ましたアイナに彼が証言したことで僕の疑いは晴れ、倒壊した詰所の瓦礫からアイナの同業者たちを救助した後、その場でこれからの作戦会議を開くことになった。


 シーズ曰く、ミスリル製のパワードスーツは試作一号機が完成したらしく、現在3Dプリンターで絶賛量産中とのことだった。


 準備が整い次第、ドワーフたちに操作方法を教えるという話だったけど、全軍の分量を用意するにはフル稼働でも10日以上掛かるらしい。


 間に合うかどうか微妙なので、僕はドアドにも電話。


『――由梨が攫われただと!?』


 鼓膜が痛くなるほどの声量で、ドアドは言う。


『おのれ邪竜め! 罪の無い者たちを苦しめるとは、ドワーフの仁義が許さん!』


「陛下、お願いです。どうか、手勢を増援として差し向けて頂けないでしょうか? シーズにも電話しましたが、最新の鎧の開発はまだ途中みたいで、せめて完成したパワードスーツの分だけ、ほんの一握りだけでもいいので……」


『――わかった。シーズと協議し、至急準備する! 場所は【レフモケの山】で間違いないな?』


「はい、陛下」


『儂らが行くまで持ちこたえるよう、【レフモケ】の領主に伝えろ!』


「わかりました!」


 こうして増援の要請に成功した僕は、次にスタローンを振り返る。


「ドワーフ族の王が、街の救援のために軍を送ってくれるそうです!」


 間に合えば!


「ロブゥ!? ほ、本当ロブか!?」


「本当ろぶ!」


 しまった、興奮のあまり語尾が移った。


「――ドワーフの王からの言伝(ことづて)で、こちらが到着するまで持ちこたえろとのことです!」


「もちろんロブ! 街の自警団と、剣の腕が立つ者たちに協力を呼びかけるロブ!」


 重ねて話すことで語尾のことはあまり気にされないよう誘導した僕は、最後の難関――第七艦隊の艦長へと電話を掛けた。


『あなたがミスター・家内か。私は第七艦隊旗艦、ロナルド・レーガン艦長、トーマスだ。あなたの要請を聞き、優先的()つ非常に前向きに検討するよう、国防長官から命じられている。早速要件を聞こう』


 トーマス艦長の低く滋味深い声は、厳粛な雰囲気を醸し出していた。


「宜しくお願いします。早速なのですが、【スラジャンデ】のマップはお持ちですか?」


『今手元にある』


「大陸の南東側に、【レフモケ】という街があります。そのすぐ側に【レフモケの山】があるのですが、そこに凶悪なドラゴンと、それに付き従うオークの大軍がいて困っているんです。これらの敵集団は、そう間を置かずに、僕たちが滞在している【レフモケ】を襲ってくるでしょう。そこで、無理を言って大変恐縮なのですが、どうか戦闘機を派遣して、僕たちを助けて頂けませんでしょうか?」


 緊張による額の汗を拭きながら、僕は話した。


『要件は聞き入れた。直ちに協議に入り、国防長官にも再度確認を取る。軍事介入の可否とその詳細は、追って連絡する。これで構わないな?』


「はい! ありがとうございます。もし僕になにかあって電話に出られない場合は、僕と同じくレース参加者のアズロットに連絡をお願いします!」


『アズロット? 今、情報処理班が連動してレース実行委員会公式サイトの参加者プロフィールを調べているので少し待ってくれ。 ……なるほど、君と行動を共にしている男か。部下がGPS探知と同時に衛星画像を解析したので確認させてもらいたい。今君が立っている場所から1メートルの位置に立っている大柄な男で間違いないか?』


「は、はぁい! そうですぅ!」


 なんだか米軍の技術力がヤバすぎて声が裏返っちゃった。その気になれば凄いことができるんだな!


 会社の営業部で働いていた頃の自分の姿が思い浮かぶ中、僕は何度も頭を下げた。


「どうだ?」


 と、アズロット。


「やったぞ! 本当にお願いを聞いてもらえた!!」


「マジか! 戦闘機とかが来てくれるのか!?」


「まだ確定ではないけど、協議してOKが出たら来てくれると思う! 僕に連絡をくれるように頼んだけど、僕になにかあったときは、あんたの携帯に電話が来る」


「わかった。よくやったぜ兜守!」


「――兜守殿の故郷からも、増援が来るロブか?」


 僕とアズロットが拳を突き合わせたところで、スタローンが言った。


「故郷ではありませんが、人間の軍事大国が力を貸してくれます!」


「な、なんとありがたいことロブ! ――そのぉ、人間の国の統治者は、謝礼に何を望んでいるロブ?」


 スタローンにおずおずといった様子で聞かれたが、


「ええと、僕はそこまで気にしていられる余裕はなかったので特に聞いていません。それは事がすべて収まったときに考えましょう」


 と適当に濁しておいた。国家間の謝礼の取り引きなんて、アラサーの一般人が関与できる範疇に無い。


 実際にアメリカさんが異世界の街の領主に謝礼を求めるかどうかも怪しいしな。


「――行くのか? あの山に」


 それまで僕たちの話を見守っていたルシフェイスが口を開いた。


「ああ。急いで準備して、すぐ出発する」


 僕が頷くと、衝撃の一言が。


「なら、ボクも同行する」


「わかった。――ええ?」


 僕は一度頷いたあとでルシフェイスを二度見。


「悪いか? ボクはまだ君に掛けた迷惑をすべて清算できたと思っちゃいないんだ。来るなと言われても、手伝わせてもらう。宵隠の正確な位置がわかるのはボクだけだし、手は多い方がいいだろう?」


 ルシフェイスは心を入れ替えたのか、本当に僕たちに協力してくれるつもりらしい。


「来てくれる分にはありがたいが、妙な真似をしたらタダじゃ済まさないぜ?」


 アズロットがそのデカイ身体で歩み寄り、圧の凄い視線を浴びせるが、ルシフェイスは全く動じずに首を縦に振る。


「そこなアイナとやら。領主の私から正式に依頼するロブ。悪者ハンターとして、家内殿たちのドラゴン退治に加勢してくれロブ」


 ここでスタローンがアイナに言うと、


「誤解して迷惑を掛けたという点で、私もあなた達に清算をしなくちゃね。喜んで協力させてもらうわ」


 彼女は胸の辺りまである黒髪を後ろで一つに結びながら頷いた。


 こうして、【レフモケの山】へ登るのは僕、アズロット、ルシフェイス、アイナの四人となった。


 僕らはまず、スタローンの紹介で服の仕立て屋に行き、これまで身に着けていた現代的な服はそのままに、山肌の色合いに似たマントをもらった。保護色を身に(まと)って、少しでもドラゴンやオークに発見される可能性を減らすためだ。


 それからすぐスタローンのお屋敷に戻って必要なものだけを装備し、山へと出発した。


 ドラゴンが出た騒動の後、現場に居合わせた僕たちを一時的にレース実行委員会のドローンが撮影していたが、スタローンのお屋敷に入ったおかげでそれ以上の撮影は諦めてくれたようで、(うま)く撒いた状態だ。


 標高が300メートルほどある【レフモケの山】はアイナ曰く、山頂までの所要時間にして、およそ2時間は見る必要があるらしい。且つオークたちの目もあるため慎重に進む必要があるということだった。

 東京にある高尾山みたいなものを連想していたが、実際に近づいて登ってみるとまるで違っていた。


 草木はどこにも見当たらず、地面は乾燥していて舗装などされているはずもなく、大きさの異なる石が広がっていて足を取られやすい。


 いっそのこと、アズロットのドラゴン化で僕たちを一気に山頂まで運ぶ案も出たが、ドラゴン化はあの性格が悪くて光物に目がないロリコン糞ドラゴンと対決するときのために残しておくべきだという話でまとまり、今に至る。何せ、アズロットがドラゴンになれるのは一日一回で、それも10分間が限界らしいからな。


「――オークたちは、こんな歩きづらい山のどこで暮らしてるんだ?」


 登り始めて1時間ほどが経過したところで、四人パーティの殿(しんがり)を務めるアズロットの声が後ろから聞こえた。


「連中はドワーフみたいに穴を掘って、地下で暮らしてるのよ。ドワーフほど上手じゃないけどね。この山はもうとっくの昔に寿命を迎えていて、あとはひたすら朽ちていく一方なの。ああいう邪悪な種族が好みそうな条件を満たしてるってわけ」


 と、アイナ。


 山が寿命を迎えた? 活火山ではないってことか。確かに山頂から火口のものと思しき煙などは一切確認できない。


 アイナは続ける。


「一つ妙なのは、山頂近辺から上がってる煙ね。ポルポって人が言ってた通り、オークたちが何らかの目的で上げてると考えられるわ。だから、煙の方へは近寄らないように進みましょう。穴にも注意してね? 中にオークの見張りがいるかもしれない」


 先頭を行くアイナのすぐ後ろを進むルシフェイスは、


「――くそ、ここにはちゃんとした土が無いから、木を生やせないぞ。これだと何かあったとき、ボクの能力で助けられない」


 と、不甲斐なさげに溢してる。


 本当なら、体力の許す限り走りたいところだが、そうしてもし足を滑らせれば自分どころか仲間も巻き込んで滑落事故を起こしかねない。ゆっくりと慎重に進むしかない現状に、僕は由梨ちゃんが心配で気が気じゃなかった。


 スタローンは、すぐに由梨ちゃんの命が危険に晒されることはないって言ってたけど、やっぱり心配なものは心配だ。


 由梨ちゃんはあとでラインすると言っていたけど、それもまだ来ていない。


 そうして僕が何度目かわからないラインの受信チェックをしたときだった。


「――みんな止まって」


 先頭のアイナが合図を出し、僕たちは素早くその場に伏せた。


「どうした?」


「長方形の、門みたいな形をした穴があるわ。100メートルくらい登ったところ」


 ルシフェイスの問いに、アイナが声を絞って答える。


 早くも老眼気味の僕はピントが合わず、見つけるのに時間を要したが、確かに進行方向斜め左側に、長方形をした黒い穴のようなものが開いていた。


「あれは自然にできた穴じゃないわ。――妙ね。精巧に掘られてるから、オークのものでもない」


 猫科の獣人は目がいいのか、アイナが穴の様子を教えてくれた。


「オークじゃないなら、いったい誰が……?」


 ルシフェイスがつぶやく後ろで、僕はドワーフの地下王国での出来事を思い出した。


 それは試練の間の記憶。試練の間の扉は、今前方に見える黒い長方形と似たような雰囲気だった。しかしまだ距離があるから、なんとなく似ているとしか言えない。


「――リスクがあるけど、もう少し近づいてみないか? ちょっと気になることがあるんだ」


 僕は皆に提案し、距離を詰めてもらう。


 目測20メートルくらいまで接近して、僕の予感は的中した。


 長方形の穴だと思っていたのは、黒い門だったのだ。


「やっぱりそうだ。剣の破片はあの門の中にあるかもしれない!」


 僕は息を弾ませながら、門の前へ立つ。


 ドワーフのときと同じく、門には翼を広げた大きな鳥が彫刻されている。恐らく、【試練の間】に関するものだろう。ドワーフの地下王国で見た門と違うのは、高さが2メートル程度で小さいのと、何らかの文字が門の外周を縁取るようにして刻まれている点くらいだ。


「ちょっとアンタ、無暗に近寄らないの! オークたちの門じゃないって確証は無いんだから」


 両手を腰に当てたアイナが言った。【試練の間】のことは誰にも話していないから、警戒して当然だ。


「この門は、勇者がかつて使っていた聖剣の破片が隠されていることを意味しているんだ。つまりオークのものじゃない」


「お前さんが一つ目の破片を手に入れたときも、こんな感じの門があったのか?」


「ああ。ドアド国王が【試練の間】って呼んでた部屋の入口が、この門と瓜二つなんだよ」


 アズロットの問いに僕は頷き、使い魔のことも教えておいた。


「まさか、こんなところにあるとはな。カジュアルからの情報だと、山頂付近って話だったから、どこかに埋まってるものかと思ってたぜ。由梨が連れてる使い魔の鳥は、その【試練の間】ってところで破片を守っていたわけだな!」


 今のアズロットの言で気になったが、今回も妙な使い魔が破片を守っているのだろうか?


「――さっきから勇者だの試練だのと、何の話をしてるんだ?」


 ルシフェイスが話に入ってきた。本来なら部外者には言いたくない内容だが、ここまで来たらある程度は情報を共有しておく必要があるだろう。


「実は僕、……勇者の末裔なんだ」


 …………………………。


 ウケを取ろうとして盛大にスベったときのような沈黙が流れた。


 それもそうだよな。アラサーのおっさんが真顔で言うことじゃない。


「勇者って、あの魔王を倒したっていう伝説の?」


 目が点になったアイナが首を傾げる。


「ああ。体型が全然勇者じゃないとかってコメントは無しで頼む。地味にへこむから」


「ごめんなさい。喉元まで出掛かってたわ」


「それ言わなくてよくない? 結局へこむのかよ。腹はへこまないのに」


「ボクとやり合ったときに使っていた光る剣は、もしかして勇者の剣だったりするのか?」


 キュアソードを一度目にしているルシフェイスは割と信じている様子。


「正確には、勇者の剣の破片だな。ドワーフの国にあった【試練の間】で、試練をクリアして手に入れたんだ。破片はこの【スラジャンデ】に複数あるらしくて、僕はそれを全部回収するために、このレースに参加してる」


「破片を集めて、勇者の剣を作り直すのか?」


 ルシフェイスめ、察しがいいな。


「横取りしようなんて考えてないだろうな?」


「侵害だな。まぁ無理もないが、……ボクはお前に力を貸したいだけだ」


「ならいいけど。破片を集める理由としては、これでも一応子孫だし、家宝を取り戻しておきたいんだ」


 魔王が復活したときに備えるためだという真実は伏せた。ここで余計な不安を煽ると、パーティーの士気に関わる。


 僕が門に(こだわ)る理由を理解してくれたのか、アイナが門に刻まれた文字を読んでくれた。


「この門は、ふさわしい者の手によって開く。男は女を連れて、女は男を連れて入れ。って、古代文字で書いてあるわね……?」 


 なんでも、考古学を学んでいたことがあるというアイナ曰く、門の外周に刻まれた文字は【スラジャンデ】で大昔に使われていたものらしい。 


 アイナはそれとなく門に手を触れて押してみるが、ピクリともしない。


「ふさわしくない者には開けられないってことね。誰かに勝手に入られる心配が無いから、こんな場所に堂々と設置してあったのかしら?」 


 そう言う彼女の隣に立った僕が門に手を触れ、力を込めて押すと、まるで鍵の掛かっていない扉であるかのようにすんなりと開いた。中は通路になっているようだが、真っ暗ではっきりとはわからない。


 また目が点になったアイナが真横からガン見してくる。彼女は理解できない事象が起こると目が点になるのかな?


「これで、僕が勇者の子孫だってことを信じてもらえたか?」  


「ふさわしい者っていうのは、勇者の血を引く者って意味だったのね……アンタは勇者の末裔なのに、どうしてそんな体型なのよ? 目も死んだ魚の目みたいになってる」


 そりゃあ、自覚してる体型の太さを改めて他人にディスられりゃ、誰だって死んだ魚の目になるよ。


「男は女を連れて入れ、とかって言わなかったか?」


 アズロットが門に膝まれた文字の謎に注目する。


「つまり、ふさわしい者――勇者の末裔が男なら、誰か女を連れてきて、一緒に入れって意味じゃない? 理由は書いてないからわからないけど」


 と、アイナ。


 もしかすると、前回に引き続いて今回も二人で挑む試練が待っているのかもしれない。


「これから僕は中を見てくるけど、何か障害が待ち構えてるかもしれない。前回がそうだったんだ。そこでなんだけど、アイナに来てもらいたい。つまりここで二人ずつ二手に分かれて、破片を集める組と、由梨ちゃんを助け出す組に分かれようって話だ」


「『男は女を連れて入れ』だから、私が行くしかないわけね」


 肩を竦め、アイナが前に出た。


「アズロットとルシフェイスは由梨ちゃんの救出に向かってくれ。剣の破片が見つかったらすぐ手に入れて、援護に行くから」


「了解だ。気をつけろよ? 兜守」


 俺の肩を叩き、アズロットは頂上へ向け進み出す。


「――宵隠のことはボクたちに任せて、お前は自分のことに集中するといい」


 去り際、僕と目を合わせず言うルシフェイスに、


「海岸で見せた爽やかオーラはどこに行ったんだよ。まだ僕たちにしたことを気にしてるんだろうけどな、済んだことはもういい。今はこうして力を貸してくれてるんだから、恨むつもりもない。あとはあんたが自分を見つめ直して、再スタートを切ってくれればそれでいいさ」


 僕は片手を差し出した。


「――仲直り、してくれるのか?」


 ここでようやく、ルシフェイスは僕の目を見た。エメラルドグリーンの瞳が綺麗で、どこまでもイケメンなやつだ。


「ああ。顔がイイんだから、中身もイイって言われるようになるんだな」


 互いに手を握り合う。


「――ありがとう。精進するよ」


 ルシフェイスはそう言って、アズロットの後を追った。


「事情は知らないけど、ここへ来るまでにいろいろあったみたいね」


「まぁな。明日の第二レース開始前に今回の大仕事が片付けられたら、一杯やりながら語りたいところだ」


「いいわね、付き合うわ。旅の話には学びが多いから、ぜひ聞かせて?」


「え、アイナって、お酒飲める年なのか?」


「もう19よ? 成人の儀は去年済ませたから、立派な大人!」


 なるほど、獣人は18歳で成人なのね。


「そ、そうだったか! すごく綺麗で可愛いから、若く見えるな」


 僕が取り繕うと、アイナははっきりわかるくらいに顔を赤らめ、


「よ、よくそんな恥ずかしいこと面と向かって言えるわね!」


 猫のように細長い尻尾をピンと逆立てて目を逸らした。


「――は、早く行くわよ! 中を調べるんでしょ!?」


「ああ。い、今行くよ」


 暗い中でも目が利くのか、スタスタと門の奥へ入っていくアイナに、僕は懐中電灯を点けて続いた。




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