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アズロット編 4月13日 その1 忍び寄る魔の気配


 兜守と由梨は、ちゃんと眠れただろうか?


 俺は思いながら徐にベッドを抜け出す。


 携帯の日付は4月13日、朝6時。


 スタローンの屋敷は長いこと生きてきた俺でも記憶にないくらいに大きい。中央に聳える玄関ホール兼客間は天井10メートル、奥行き20メートルはくだらない広さを有していたくらいだからな。


 当然、大勢の客人が来ることを想定しているのだろう、部屋の数も多い。


 俺には少々窮屈ではあるが、それでもストレスを感じるほどではなく、清々しい朝を迎えられた。整えられた良質なベッドのおかげもあるかもしれねぇが、空気もうまい。


 俺は窓を開け、早朝のひんやりとした空気を感じる。


 深呼吸すると、清らかな空気が全身に行き渡り、なんだか浄化されているような気分になる。


 ここで、枕元に置いていた携帯が鳴った。電池式の充電器から取り外し、電話してきた相手を確認しようとする俺だが、


「……待てよ? 嫌な予感がするな」


 ふと手を止め、鳴り続ける携帯を見つめる。


 あいつか? あいつなのか!?


 疑心暗鬼が朝の清々しさを台無しにする。


 ……落ち着けよ、俺。そう何度も同じことが起こるわけないだろう。もし他のやつだったら、早く出てやらないと悪いぜ?


 俺は気を取り直し、携帯画面を覗く。


【カジュアル】


 ――ぁあ! ぁああああッ!!


 俺は尚鳴り響く携帯を枕の下に回し、音を遮った。


 あいつだ! やっぱりあいつが来やがった!


 早くもタイトル回収か!?


 この大陸に来てから、このパターンで何回やられたよ?


「……くそ!」


 け、けど、あいつの情報って大部分が余計なんだが、残りの1ミリくらいが超重要だったりするから無視するわけにはいかない!


 俺は窮余の一策を打つべく、携帯を取った。


 息を整え、鼻をつまみ、しゃべる!


「ただいま、電話に出ることができません。ぴーっという発信音のあとに、お名前とご用件を――」


『鼻をつまんで変な声出してもバレバレよ?』


「――いやだッ!!」


『まだ何も言ってないじゃない』


「なんの用だぁあッ!!」


『朝から元気ね』


「嫌だァアアアッ!!」


『だからまだなにも言ってないってば。落ち着きなさい? あなたももういい年なんだから』


 ゼェ、ハァ! 


 も、もう息が乱れてる! 拒絶反応か!?


『おはよ、アズロット』


「もう前座とかいいから、早く要件だけ言ってくれ。画像はナシだ。フリじゃねぇからな!?」


『泣き出しそうな声よ? なにか辛いことでもあったの?』


 今が一番辛いッ!


「大丈夫だ。気にしないでくれ」


『前話した魔力反応の件よ』


 良かった、今回は真面目だ。


 いや、良くはないか。


「……何かわかったか?」


『あれから更に反応が大きくなって、反応(もと)が二つあることがわかったの。それでついさっき、二つの反応の片方が、魔王城からあなた達がいる【レフモケ】の山に移動したのよ』


「なんだと?」


 それはつまり、その魔力反応を示す何か(、、)は自ら動くことができて、そうする意思を持っているってことになる。


『だから、まずあなたに連絡したわけ。警戒して頂戴。場合によっては、私も動く必要が出てくるかも』


「わかった。魔力反応の正体までは掴めていないのか?」


『ええ。それにはまだ時間が掛かりそう』


 俺は【レフモケ】の側にある山に悪いドラゴンがいる旨を伝え、関連性を聞いてみるが、


『――そこは何とも言えないわね。そのドラゴンが魔族と手を結んでいたドラゴン族の末裔なら、最悪の可能性も考慮しないといけない』


「最悪の可能性?」


『魔力反応の正体が復活した魔族で、山にいるドラゴンが魔族絡みの一族の末裔で、両者が手を組んで兜守を襲うことよ。もしそうなれば、さすがのあなたでも手に余るわ』


 なるほど。確かにその展開はまずいな。ドラゴン化すればどちらか一方は抑えられるかもしれねぇが、双方を相手にするとなると話は変わってくる。


「――お前の()は、まだ健在か?」


『まだ覚えてくれてるのね?』


「当然だろ。引退したわけじゃあるまいしな」


 俺はカジュアルがかつて愛用していた武器を思い出す。あいつの正体(、、)を知ってるのは、現代じゃ俺を()いて他に五人といないだろう。


『……もし手が必要ならすぐに言って。また進展があったら連絡するわ』


「わかった」


『兜守に言うかどうか、今回の場合はあなたに任せる。兜守がこの事を聞いても動じないくらいに成長していれば伝えてもいいと思うし、まだ頼りないままなら、あなたが頑張るしかないと思うわ。由梨ちゃんは……戦力的には及第点だけど、精神の成熟で言うなら、まだ早いと思う』


「まぁ、年季の違いもあるからな」


『……あなたはどう? 恐い?』


 俺がこの悪魔女と腐れ縁なのは、たまにこういうところがあるからかもな。


「いや。退屈してたところだ。仮に魔族が復活しているのなら、狩りが本職の俺に打って付けだぜ」


 電話の向こうで、小さな吐息が聞こえた。それが笑いなのか、安堵の息なのかはわからない。


『――アズロット』


「なんだ?」


『今更だけど、感謝してる』


「確かに今更だな。イタリアの事務所で言えってんだ」


『ありがとう。今後も兼ねて、頼りにしてるわ』


「……お前も他人ばかり気にかけてないで、たまには自分のケアもやっとけよ」


 こうして、部屋を鼻血で汚すことなく会話は終わった。


「――魔族、か」


 俺はお袋を想う。


 2000年前、初代勇者と共に旅をしたお袋は、激闘の末、魔王直属の魔剣士に殺されたと聞いている。


 万が一、だ。今回観測されている魔力反応の片割れがその魔剣士(、、、、、)だったなら、それはつまり、俺のお袋の仇ってことだ。


 今でこそお伽話扱いされている勇者の伝説――()は物語の後半に登場する。


 かつて世界を震撼させたというその魔剣士の名は、グリデン・ヴェイン。


 魔王親衛隊――四天王の最強格だ。


 

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