表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/34

兜守編 4月13日 その1 性格が悪くて光物に目がないロリコン糞ドラゴンが来た!!

 

 精神的・肉体的疲労のダブルパンチで死んだみたいに眠った僕は翌朝、スタローンたちと朝食を済ませ、さっそくドラゴン退治に行くための準備をすることになった。


 まず手始めに、第七艦隊からの支給品――空撮用ドローンを使って、件のドラゴンが棲む山――【レフモケ山】の偵察を試みる。


 最大飛行距離5000メートル、最大飛行時間30分のハイスペック仕様を、僕は5分ほどの操作練習のあとで山へ向け出撃させた。


 ドローンに装備されたカメラは僕の携帯とリンクさせてあり、空撮映像がリアルタイムで僕の携帯に映し出される。


 ドローンはあっという間に空の彼方へ消えて見えなくなり、街の防御壁を悠々(ゆうゆう)と越え、ものの数分で山の頂上へと接近。空を飛ぶという移動手段がこんなにも画期的で、ストレスなく、それも高速だということを、僕は改めて実感した。


「何か見えるか?」


 僕は旅の仲間で一番視力がいいアズロットに聞く。


 僕の携帯画面を覗くアズロットは唸る。


「いや、まだそれらしい姿は見えねぇな。映像を元に誘導してやるから、山の火口に入ってくれ」


 ドローンの目となったアズロットに言われた通り、僕はドローンを操作。


 見事火口上空へ到達し、内部へと降下を開始させた。初めての操作にしては上出来じゃないか?


「いいぞ。そのままゆっくり回転数を下げろ。――んん!?」


 アズロットがまた唸った。


「どうしたんですか?」


 身長が足りなくて携帯の画面を覗けていなかった由梨ちゃんが聞いた。


「今一瞬、ドラゴンっぽい首と頭が見えたんだが、野郎の黄色い目に見つかったとたん、画面が真っ暗になりやがった……!」


「くそ! プロペラの音に気付かれて、叩き落とされちまったか!」


 僕たちは、いくら操作しても何も反応しなくなったドローンによる偵察を断念し、次のプランに移ることにした。


 一先ず街を回って、使えそうな物資を揃える必要がある。お金はスタローンから貰えたので問題ない。


 アルコールを摂取してしまった由梨ちゃんは、体調こそ問題は無かったものの、昨夜のことは何一つ覚えていないらしく、


「――き、昨日の夜? ……ど、どうして女の子のプライベートを聞こうとするんですか? いつものことですがキモイです。お、覚えてるわけないじゃないですか! おじさんはきっとおかしな夢でも見たんです!」


 と、なぜかぷりぷりと不機嫌なご様子で、僕との間にアズロットを挟んで歩く。朝からずっとこんな感じで、僕とはまともに口を利いてくれない。


「昨日の夜に何があったか覚えてる?」


 って聞いただけなんだけど、どうして、


「きっとおかしな夢でも見たんです!」


 と返してきたんだろうか? やっぱり女の子はよくわからん。


「――そこのアンタ! 止まりなさい!」


 メインストリートを歩いて数分。突如として一人の獣人が声を掛けてきた。


 頭から猫のような耳をぴょこんと生やした、黒い長髪の女の子。細く締まった身体つきで、剥き出しのお腹の上に銀の胸当て、素材不明のショートスカート、ハイソックスにブーツといった露出多めの装備を纏い、長さが1メートルほどある二本の剣を腰に帯びている。緩やかに反り返る鞘の形状は日本刀みたい。


 なんというか、エロい。上半身の装備が銀の胸当て一枚だけとかヤバイ。そして可愛い。年は17歳の由梨ちゃんと同じか少し上くらいだ。遅れて気付いたが、スカートの後ろから伸びたこれまた猫みたいな尻尾がフリフリと揺れてる。


「ええと、どちら様です?」


 女の子はアズロットの横を歩く僕を指差してきたので、そう尋ねる。


悪者(わるもの)ハンターよ。名前はアイナリア」


「悪者ハンター?」


 初めて聞く単語に首を傾げる僕。


「文字通り、悪いヤツを懲らしめるのが仕事。自覚がないみたいだから教えてあげるけど、あんたは今、指名手配されてるわ」


 ――はい?! 指名手配!?


「ま、待ってください! 指名手配って、ここにいる太ったおじさんがですか?」


 由梨ちゃんが僕を親指で示す。僕の名前、太ったおじさんじゃなくて兜守だよ? 家内兜守。


「そう。そこのデブ。名前は家内兜守で合ってるわね? これからこの街の領主に許可を取って触れ込みをしようってところでバッタリ会うなんてね。大人しくお縄につくなら、半殺しにするのは勘弁してあげるわよ? わざわざこの街の住人を不安にさせるような触れ込みをやらなくて済むし、私の手間も減るし」


 デブって言ったね!? 親父にもデブって言われたことないのに!


「――ふん、とうとう腹の内に潜む(いや)らしさが露呈して悪者認定されたか。自業自得だぞ」


 今朝、石から元の姿に戻って同行している黒ヒヨコに鼻で笑われた。今は僕の誤解を晴らす方に力を割り振ってくれよ!


 アイナリアと名乗った猫耳美少女は、くりっとした釣り目を細める。


「私の言うことに従わないなら、覚悟してもらうわ」


「話を進めすぎだ。まずこのおっさんの罪状はなんだ? どんな理由があって指名手配されてるんだ?」


 アズロットが一歩前に出てくれた。


飛魚(ひぎょ)を始め、様々な種族を見境なく襲って食い殺した罪よ」


 出た濡れ衣! ルシフェイスが流しちゃったっていう例の噂だ。そんなことだろうと思ったんだよ。


「誤解だ! 僕が他の生き物を食ってるように見えるか?」


「ええ。そのみっともないお腹が物語ってるわ。大陸の東部は貧しい地域が多いのに、それだけお腹が出るんだもの。何人食べたの?」


 ヤバイ。腹が出てるのは事実だからなにも言い返せない。

 

「おじさんのお腹は、彼の自堕落な生活の罰なんです。ただの呪いです」


 と由梨ちゃん。呪いなの? このウエスト周りの脂肪。


「なぁ猫耳の姉ちゃん」


 アズロットが切り出す。


「アイナリアよ。言い難いならアイナでいいわ」


「アイナちゃんよ、俺たちは怪しいもんじゃねぇ。今この大陸でレースが開催されていて、その参加者なんだよ。他にも俺たちと似たような格好で大荷物を担いだ連中がこの街に何百人も来てるだろ? そんな中で兜守が指名手配されてる根拠はなんだ? こいつほどじゃないが、他にも丸っこい奴ならいると思うんだが?」


 こいつほどじゃないがってなによ?


「もちろん、レースの噂は耳に届いてるわ。そこのデブをマークした理由は、彼の顔が、目撃者の証言をもとに描いた似顔絵と酷似しているからよ」


「その証言の出どころは?」


 今度は僕が聞いた。


「西の端に生息する飛魚から聞いたの。私のところに直接伝えに来たわ。外見的特徴を聞いて、私がそれを元にスケッチを描いて、似たような人間を探してたってわけ」


 レース実行委員会の公式サイトで見たけど、この街は警察の役割を果たす組織が無い代わりに、アイナみたいなハンターたちが雇われて、警備を任されているらしい。


 で、アイナは普段は旅をして大陸を回り、悪党を取り締まるフリーの悪者ハンターらしい。


 これは厄介な相手と遭遇してしまったぞ。


「ここで立ち話も何だし、私と一緒にこの街の詰所へ来てもらえるかしら?」


「あの、……これから僕たち、ちょっとあそこの山までドラゴン退治に行かなくちゃいけないんですけど……」


 買い物行くみたいなノリで言っちゃったけど、信じてもらえたかな?


「あら意外。そんなボヨンボヨンの身体でドラゴンと戦うの? とても勇気があるのね! それじゃ、尚更詰所でそうなるに至った経緯が聞きたいわ」


 アイナの生一本の声がなんとも芝居がかったものに聞こえた。全然信じてくれていない。 


「だから、誤解なんですってば! 僕は誰も食べてません!」


「そう言われて、はいそうですかと引き下がれるわけないでしょう? 噂が流れるのには必ず理由があるのよ? それを突き止めて処理するまでが私の仕事なの。一緒に来なさい。変な気を起こしたら縛ってでも連れて行くわ」


 ええ。仰る通りだと思いますよ。ちなみに噂が流れた原因はルシフェイスっていう超恵まれて育った高慢(こうまん)ちきのクソ野郎なんですけどね?


「……ちょっとタイム!」


 僕はアズロットと由梨ちゃんと輪になって作戦会議。


「ど、どうしよう? 噂を流したのはルシフェイスだって説明したところで、裏付けが取れない限り、信じてもらえないよな?」


「ああ。説明したとしても、ルシフェイスの奴から直接裏付けが取れるまで、結局身柄を拘束するって話になるだろう。不本意だが、ここは事を荒げないためにも従わざるを得ない状況だぜ……」


「こうなったら、急いでスタローンさんのところへ戻って、助けてもらえるように頼んでみます。ですからしばらくの間、詰所で待っていてくれませんか?」


 由梨ちゃんの案に、僕は頷く。仮に、竜人なり鬼人なりの力でここから無理矢理逃げたとしても、今度は僕たち三人ともが御尋(おたず)ね者になってしまう。


「……わ、わかった。で、できるだけ早く頼むよ!? ここは異世界で、日本の法律とか一切関係ないから、どんな目に遭うかわかったもんじゃないし……」


 こうして、大人しく拘束されるという見解でまとまった。


「――あなたの指示に従います」


 僕はそう言って、両手を揃えて前に差し出す。まさか手錠を掛けられる破目になるとは。


「なに? その手」


 アイナは不思議そうに首を傾げる。


「え、あの、僕を拘束するんじゃ――?」


「そういうこと? 手を縛ったりはしないわ。これを飲んでもらうから」


 アイナは言って、僕に小さな紙袋を突き出してきた。


 中身は白い粉。


「――この大陸に古くからあるしびれ薬だな。効き目は様々だが、一般的には数分から数十分の間、身体が動かせなくなる」


 と、僕の頭に留まった鳥が解説してくれた。なるほど。これを飲んで動けなくなったところを、アイナが運んでいくわけか。手錠を掛けるよりも、身体機能をマヒさせた方が確かに逃走されるリスクが低い。


 僕は言われた通り、しびれ薬を口へと流し込む。昔薬局で処方された粉薬みたいな苦さはなく、無味無臭だった。


「――ほら、飲んだぞ」


「結構よ。それじゃ、こっちに来て?」


 手招きされたので、僕はアイナのすぐ側へ。


「――はい」


 アイナが(おもむろ)に僕の前でしゃがんで、右腕を真横へ水平に伸ばした。


「え?」


「担ぐから、私の肩に覆い被さりなさい。利き腕が右なのよ」


「か、担ぐって、僕デブだよ?」


 我ながら情けない確認の仕方だ。


「あんたの倍は大きい牛人(ぎゅうじん)だって担げるんだから平気よ。あんまり(めす)の獣人を舐めないことね。人間さん」


 しゃがんだ姿勢から上目で睨まれた。恐いけどカッコいい視線にドギマギする僕。


 アイナみたいなイケメン美少女が日本の学校に通ったら、きっとバレンタインにチョコの山をもらうんだろうな。


 躊躇するのも束の間。早くもしびれ薬の効果が現れ、全身の感覚が遠のき始めた。


 意識はあるけど、身体の力は抜けていき、平衡感覚が薄れ、自分が立っているのかすら判然としない状態に!


 しびれ薬を飲んだ者を見慣れているのか、アイナは待ってましたとばかりに一見華奢そうな身体を僕の腹部に押し付け、その右肩部分で僕をくの字に折り曲げるようにして、軽々と担いで立ち上がる。


 それまでは力が入っていなかったアイナの上半身に力が込められ、柔らかだった皮膚の下から硬い筋肉が膨張し、僕をしっかりとホールドした。鍛えてるっていうのはマジらしく、たぶん見た目に反して筋肉量が多く、代謝が高いために薄着でも平気なんだろう。由梨ちゃんと肉弾戦でいい勝負しそうだ。


「あんたたちも家内の仲間ってことで、重要参考人扱いよ。今は取り込み中みたいだからいいけど、後で詰所に来てもらうわ。重ねて言うけど、変な気は起こさないこと。いいわね?」

 

 アイナはアズロットと由梨ちゃんをひと睨みして踵を返す。


「――あなたこそ、おじさんに酷いことしないでくださいね? わたし達が彼の潔白を証明してみせます。もし傷の一つでも負わせたら、ただでは済みませんよ?」


 と、何故か低めのトーンで返す由梨ちゃん。どういうわけかお怒りのご様子だ。


 アイナは肩に僕を担いでメインストリートを進み、町の中央部で十字路にぶつかると、東へと進路を取った。


 目は覚めている僕は逆さまの視界に酔った。方々から数多の視線を感じる。まるで晒し者だ。


「は、早いとこ降ろしてくれないかな? 頭に血が上って気分が悪いんだ」 


「もう少しで着くから我慢して」


 アイナは言いながら大通りを逸れて路地へと入った。そうして何度か道を折れ曲がって歩くこと数分。


 アイナは今にも崩れそうな、亀裂にまみれた石造りの四角い建物の前に立つと、大分傷んだ木製のドアをキィキィ言わせながら開けて中へと入った。


「おぅ、アイナじゃねぇか! 西の地域で動いてるお前が東側まで来るとは珍しいな」


「肩に担いでるのはなんだ? 豚科の獣人か? 久々に会う俺たちへの土産にしてはしょぼいな」


 アイナが中へ入るなり、数人の屈強な男たちが野太い声を掛けてきた。たぶん、同業者のハンターたちだろう。あと、豚科の獣人じゃないよ? 人間だよ?


「久しぶりね。無差別捕食者を追ってこの街に来たら、メインストリートでばったり会ったのよ。だから拘束したの」


 挨拶もそこそこに、アイナは颯爽と室内を進んでいく。


 中は大人が酒を楽しむBARといった感じで、カウンターに椅子が数席と、複数の丸いテーブル、それと控えめなデザインのソファが見えた。


 ここがハンターたちの詰所だった。僕を降ろしてくれるかと思いきや、こじんまりとした広さのBARを横切って、奥にあった鉄製のドアをギシギシ言わせながら開けて地下へと降りた。


「――ここは?」


「地下牢よ。やらかした連中はみんな、処遇がはっきりするまで牢に入る決まりなの」


 洞窟のように縦長に伸びる地下室――その片側に鉄格子が淡く光る複数の牢屋が並んで設けられており、内の一つの鍵を開けて、アイナはその中にあった木製の簡易ベッドの上に僕を降ろして寝かせた。


 布団なんて気の利いたものはなく、四本脚の上に木の板が打ち付けられただけの、寝心地のねの字もない粗末な寝床。


 他にあるものといったら、これまたボロボロの木製の椅子に、食事や手紙を書くときに使うのか、小さな丸テーブルくらいだ。


「――それじゃぁ、あんたの言い分を聞かせてもらうわ」


 アイナは僕の方を向いて椅子に座り、すらりと伸びる両足をクロスさせて丸テーブルの上に投げ出した。


 そして胸元から小さな手帳を、スカートのポケットから羽根ペンとインクの小瓶を取り出す。


 彼女の細く締まったふくらはぎに程よくついた筋肉が絶妙に美しい足のラインを形成している。エロい。


「ぼ、僕の悪い噂は、僕と同じくこのレースに参加したルシフェイスっていう、超イケメンのクソ野郎が流したんだ。彼もこの街にいるから、探して直接聞いてみてくれよ。そうすれば、僕が無実だってわかる」


 僕は答えつつ、しびれた身体をどうにかして動かそうとする。少しだけど、首が動くようになってきた。アングルを! アングルを横にスライドさせれば、アイナの少しむっちりとした太ももの更に奥に広がるエデンの園が見えるかもしれない!


 獣人の文化にも、雄と雌が守るべき分別のようなものがあるのだろう。アイナは足を投げ出してはいるが、股はしっかりと閉じてこちらには見えないように、身体を斜めにズラしている。そのおかげで彼女の長い足の全体のラインがよく見えるからそれはそれで目が幸せなんだけど、濡れ衣でここまで連れてこられたんだから、ね? 間違いの一つや二つ増えたところで、ね? 僕への償いということでここは一つ!


 口うるさく突っ込んでくる鳥も、キレると恐い由梨ちゃんもいないのをいいことに、僕は欲望に忠実になろうと思う。


「――ルシフェイスね」


 スラスラと手帳にメモを取るアイナに、僕は興味本位で聞いてみる。


「この世界の主な言語って、もしかして英語とか日本語だったりするのか?」


 シーズが発明したナノ・サプリメントの爆発的普及のおかげで、世界中の人があらゆる言語を理解でき、互いに会話が可能になっているが、もしナノ・サプリメントの効果が無くなったらどうなってしまうのか、不安でもあったからだ。


「基本的にはスラジャンデ語よ。でも、随分昔に、勇者たちが使っていた言葉がいくつかの地域で普及したって聞いたことがあるから、人というか種族によっては、あんたたち人間の言葉も通じるでしょうね」


 なるほど。言語が全く通じないというわけでもなさそうで、少し安心だな。


「わたしからもいい? あなたが言うように、なにも悪いことをしていないと仮定しての質問よ。あなたたち人間は、どうしてこの大陸でレースしてるの?」


 今度はアイナが僕に聞いた。無理もない質問だ。今まで出会って来たのは種族の代表者がほとんどで、彼らにはカジュアルの方からそれとなくレースの趣旨も説明されているんだろうけど、アイナのように、詳しい事情もわからないまま流されるようにしてレースを観戦している者の方が圧倒的に多いはずだからな。


「それぞれの目標を叶えるため、――かな? まぁ他にも、この世界にしかないものを持ち帰って一儲けしようとか、レースの賞金目当てとか、単純に面白そうだからとか、いろいろな理由があると思うけど、少なくとも僕や僕の仲間は、そういった私利私欲のためというよりかは、レースで勝つことが、自分や自分の大切な人のためになると信じてる。――なんというか、使命感を持ってレースをやってるよ」


 当然、僕は他の参加者の心情を知らない。だから、由梨ちゃんやアズロットやシーズと話して感じたことを、アイナに伝えた。


 そうしている内に全身がゆっくりと動かせるようになったぞ! まだしびれが残っていて感覚こそ薄いものの、頑張ればいろいろな動きができる。そう、アングルを変えることも!!


「……誰が動いていいなんて言ったの? 私はまだあなたを無実と信じたわけじゃないわ。それとその顔はなに? 鼻の下が伸びてほっぺが赤くて目つきが気持ち悪いんだけど?」


 ちッ! 男の不滅の下心がバレたか。


「べ、別に。早く自由にしてほしくて頭に血が上ったんだと思う」


「そのルシフェイスって人間の特徴を教えて? そのスケッチを元にわたしが街を探して、彼をここに連れてくるまで辛抱してもらうわ」


「もしルシフェイスが見つからなかったら?」


「そのときは他の方法で身の潔白を証明する必要が出てくるわね」


 これ、かなりヤバくね? レース開始に間に合わないパターンじゃね?


 と、僕が絶句したときだった。


「――入るロブよ!」


 低くて渋いダンディな声が地下室内にこだました。


 そうして地上から階段を下りてきたのは、幸運かな、ロブ・スタローンその人だった。


 そのすぐ後から、アズロット、由梨ちゃん、そしてポルポがやってくる。


 二人が素早く機転を利かせて、この街で最強の助っ人を呼んできてくれたのか!


「おい、そこの猫耳娘! そこにいる(かた)は家内兜守殿ロブ! 私の大切な客人ロブ! こんな場所に閉じ込めるべき者ではないロブ! 今すぐ解放するロブ!」


「あ、あなたは! お初にお目に掛かります、スタローン卿」


 突然の来訪者に、アイナも慌てた様子で立ち上がる。


「よく見れば、名の知れたハンターか! 名前は確か、アイナリアといったロブな? 凄腕の剣士という噂はこの街にも届いているロブ」


 不自由な足を支えるための杖をハサミの手で器用につまんで突きながら、スタローンは僕が入れられている牢屋の前まで来てくれた。


「アズロット殿から話は聞いたロブ。アイナ、どうやらお前は大きな勘違いをしているロブな! 彼らは昨日この街に来たばかりロブ。お前の言う、無差別な捕食など一度もしていなければ、レース中もする暇など無かったロブよ。彼と行動を共にする由梨殿をスマホでずっと応援していたからわかるロブ! 私が今この場で、兜守の無実を証明するロブ!」


 そのありがたいお言葉、待ってましたよスタローン卿! 


「誠に僭越ながら、この者の処遇を判断するのに最適な証人の名を得ております。その証人から話を聞くまで、今しばらくお待ち頂けませんでしょうか?」


 アイナは見た目の若さとは裏腹に経験豊富なのか、あるいは肝が据わっているのか、スタローンの気迫に多少怯んでる僕とは対照的で、動じることなく交渉を始める。


「ロブゥ。その証人とは何者ロブ?」


「ルシフェイスという、人間の男だそうです。これから私がその者を探して参ります。それまでの間、家内兜守はハンター協会の治安保護法に基づいて身柄を拘束するのが本筋かと存じますが?」


「それは確かにそうロブが、彼らは外の世界から来た人間ロブ。であるならば、この大陸で認知されている治安保護法の作用について、人間の国家の代表を交えたうえで、一度ハンター協会で協議する必要があるロブ」


 スタローンとアイナがこの世界に存在する法律を交えた闘論を展開。


 さすがのレース実行委員会も、こうした個人間でのトラブルに関する法律の効力やら何やらを把握することはできていないらしかった。あらかじめ法律関連について【スラジャンデ】側の代表者と協議を詰めていれば、今頃僕たちはスムーズにドラゴン退治の準備を進めていられたかもしれないのだが。


「それは私も理解できます。ですがいずれにせよ、彼をここに留めておく必要があることに変わりはありません。犯罪の疑いがある者を監視することすら後手に回しざるを得ないような緊急事態が起これば、話は違ってきますが……」


 せっかく晴れた雲行きがまたしても怪しくなってきたそのときだった。


 その緊急事態が目の前で起こった。


 突如、地下牢を覆う岩の天井から『ズシィイィィィィン!!』という、かなりの重量物が落下したような地響きが発生。地下牢全体が大きく揺れ始めた。


「きゃっ!?」


 由梨ちゃんが小さな悲鳴を漏らすが、持ち前の強い体幹で倒れはせず、僕の方へ移動してきた。


「おじさん伏せて!」


「しびれがまだ完全に抜けてないんだ!」


「わかりました! ちょっと失礼します!」


 と、由梨ちゃんは簡易ベッドに横たわる僕の上に覆いかぶさった。


「な、なにしてるんだ! 君こそ僕のベッドの下に隠れろ!」


「あなたを守るのがわたしの使命ですってば!」


 言い合う僕らの頭上で、何か硬いものが破壊されたり、へし折られたりする音が響く。 次いで天井が何らかの凄まじい力で抉り取られ、乳白色の曇り空が露わになると共に、黒い巨体の姿が目に入った。


 それは、黒くて硬そうな鱗に全身を覆われたドラゴンだった。地上にあったハンターの詰所は、周辺の建物ごと跡形もなく薙ぎ払われてしまったらしい。


 ドラゴン化したアズロットよりも更に大きい巨体は筋骨隆々。威嚇するように噛み締められた口からは太くて鋭い牙が覗き、赤く光る瞳が僕たちを睨んでいる。


「ロ、ロブゥ!」


「ああ、閣下ぁ!」


 地響きと慄きからか、体勢を崩してその場に倒れてしまったスタローンに、ポルポが駆け寄った。


「あいつが例のドラゴンか!?」


 牢屋の外に立つアズロットが唸る。


「そ、そうだロブ! 奴が悪いドラゴンロブ!」


 腰を抜かしたスタローンが、ガクガク震えながら答える。


 おのれ、性格が悪くて光物(ひかりもの)に目がないロリコン(くそ)ドラゴン! まさかこっちが赴く前に姿を見せるとは! 


「――鋼の意志(ウィル・ワイヤー)!!」


 由梨ちゃんが動いた。手甲から引き出した計10本のワイヤーが宙を伸び、性格が悪くて光物に目がないロリコン糞ドラゴンに襲い掛かる。


「なっ!?」


 だが、由梨ちゃんは驚愕の声を漏らす。なんでも細切れにするはずのワイヤーが、性格が悪くて光物に目がないロリコン糞ドラゴンの身体に傷一つ付けられず、跳ね返されたのだ。


「ここじゃドラゴンには変身できねぇ! みんなを巻き込んじまう!」


 アズロットも全力を出せない状態だ。


「スタローン閣下、下がってください!」


 そう言って、今度はアイナが動く。


 由梨ちゃん並みの俊足で飛び上がり、敵の足に二刀流の斬撃を見舞った。


「獣人風情がこのオレ様に勝負を挑むとは、とんだ命知らずがいたものだな」


 対する性格が悪くて光物に目がないロリコン糞ドラゴンは余裕な様子で、ただそこにドシンと構えているのみ。


「――そんな!? 私の攻撃が通らないなんて!」


「煩い虫けらはこうしてやろう」


 性格が悪くて光物に目がないロリコン糞ドラゴンはそう言うと巨体を捻り、太くて長い尻尾をアイナにぶつけた。


「うッ!?」


 図体の割に素早い動きがアイナの不意を衝き、彼女は諸に尻尾を食らって吹っ飛んだ。


「うぉっと!?」


 アズロットが咄嗟の機転でアイナを受け止めるが、ダメージがかなり大きかったらしく、アイナは意識を失っていた。


「――スタローン。以前話した通り、飛び切りの美少女を引き取りに、このオレ様自ら出向いてやったぞ」


 身体の芯まで震えあがりそうなほどにおぞましい重低音の肉声で、性格が悪くて光物に目がないロリコン糞ドラゴンが言った。


「は、話が違うロブ! この前話したときは、一週間待つという約束だったロブ! それにはまだ二日残っているはずロブよ!」


 上ずった声のスタローンが、ハサミの腕をちょきんちょきんと鳴らす。抗議のサインかな?


「オレ様の気が変わっただけだ。なんの問題がある? スタローン、お前はオレ様に直に命じられたのだ。であるならば、実現させるために身命(しんめい)を賭して動いているはずだ。その成果を聞いてやろう」


「ま、待ってほしいロブ! び、美少女は今手配している最中だロブ!」


 スタローンは今にも泣きだしそうだ。


「なに? オレ様の命令をまだ完遂できていないというのか?」


 対する性格が悪くて光物に目がないロリコン糞ドラゴンは、無慈悲極まりない発現で圧を掛けてくる。


「ひぃい!」


 ポルポが豚そっくりの尻尾をぶるぶる震わせながら(うずくま)る。


「――そこにいる小娘はなんだというのだ? オレ様に捧げるために連れてきたわけではないのか?」


 あろうことか、性格が悪くて光物に目がないロリコン糞ドラゴンは由梨ちゃんの方へ赤い瞳を向け、熱気を孕んだ鼻息を勢いよく吐いた。


「そ、そのお方は違うロブ! 私の客人ロブ!」


「お前の客人はオレ様の客人でもある」


 なにそのジャイアニズム!


「うむ。その体格、その美貌、申し分ないぞ。オレ様はお前を気に入った!」


「――ゆ、由梨ちゃんは僕の大事な仲間だ! お、お前なんかに渡すものか!」


 首から上は自由に動くので、僕はそう言ってやった。


「おじさん、大人しくしていてください。ここであなたが目をつけられたら大変です」


 と、由梨ちゃんが耳打ちしてきた。く、くすぐったいよ!


「デブのドブネズミがこのオレ様になにをほざいている? その牢屋ごと灰にされたいか?」


 性格が悪くて光物に目がないロリコン糞ドラゴンの強烈な殺気が、まるで重力を強くしたかのような重圧となって僕たちを襲う。


 目には見えない等身大の重りが載っているみたいに、身体が重い!


「くそ! これは奴の異能か!?」


 どうにか踏ん張って姿勢を保つアズロットが言う。


 異能を使えるのは人間だけに限らないということか!


「灰にはしないでください。その代わりに、この身をあなたに捧げます!」


 重圧の中、歯を食いしばって立ち上がった由梨ちゃんが、性格が悪くて光物に目がないロリコン糞ドラゴンに向かってそう言った。言ってしまった!


「ほう? お前もこのオレ様の力に見惚れたか?」


 そう問われ、由梨ちゃんは唇を噛み、握った拳を震わせながら僕をちらりと見た。


「――はい。わたしを連れて行ってください」


 そして由梨ちゃんは再び、性格が悪くて光物に目がないロリコン糞ドラゴンに向き直った。


「よし。今回はこの小娘をいただいていく。お前もオレ様のコレクションとして愛でてやろう。光栄に思え」


 由梨ちゃんは一度僕と視線を交わすと、性格が悪くて光物に目がないロリコン糞ドラゴンに向き直り、奴の足に、握りしめられてしまう。


「命拾いしたな、スタローンに、デブのドブネズミよ。次にオレ様がここへ来るまでに、更なる美少女を用意しておけ。でなければ、この街に未来は無いと思え!」


 雷鳴のように響き渡るおぞましい笑い声と共に、性格が悪くて光物に目がないロリコン糞ドラゴンは瓦礫を足場にして地上まで飛び上がった由梨ちゃんを捕まえ、大きく羽ばたいて飛び上がった。


「――あとでラインしますから!」


 そう言い残して、由梨ちゃんは性格が悪くて光物に目がないロリコン糞ドラゴンにさらわれてしまった! 


 由梨ちゃんは出かけた買い物先でちょっとだけ別れるみたいなノリで言っていたから、なにか策があるのかもしれない。


「ロブゥウ! 申し訳ないロブゥウゥゥ!!」


 と、噴水みたいな涙を放出して泣き叫ぶスタローン。


 由梨ちゃんが大丈夫そうに思えるからといって、安心なんてしていられるか!


 僕たちでやれることを考えて、実行に移さなければ! 


 万が一、……億が一だ。あの超強い由梨ちゃんになにかあったら、僕は多分、一生自分を許せないだろう。後悔に苛まれ続けるだろう。


 ボクのこれまでの人生は後悔だらけだ。


 一生後悔するような選択だけは、もう二度としたくない。


「――由梨ちゃん、待ってて。今度は僕が助ける!」


 旅をするうち、僕の中で由梨ちゃんの存在は、かけがえのない仲間と思えるくらいに大きくなっていたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ