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兜守編 3月27日 僕は勇者の末裔らしい

みなさま、今日も一日お疲れ様です。

ゆっくりしていってください。


 テテテ テテテ テテテ テテプルン♪ テテテ テテテ テテテ テテプルン♪


 昼間。久々の休みに部屋でゴロゴロと豚になっていたら電話が鳴った。


「もしもし?」


『あなたが家内兜守(いえのうちこもり)さん?』


「そうですが、どちら様ですか?」


 電話してきた相手は年若い少女の声で言った。


『おめでとう。あなたは選ばれたわ。4月に行われる異世界レースの参加者枠に当選よ』


 異世界レース? この前ニュースで世界的な話題になってた一大イベントのことか?


 参加者枠に当選って、僕、そもそも応募してないんだが?


「何かの間違いじゃありませんか? 私は応募していませんが……」


『あなたは特別なのよ。今からあなたのお家にお話しに行っていいかしら? レースに参加するための準備を手伝うから』


 やけに慣れ慣れしい物言いだな。


「いえ、そういうのいいんで……」


 僕は電話を切った。


 これはたぶん、新手の詐欺だろう。レースに必要なものだからという名目で高額の品々を押し売りされるとかな。


 テテテ テテテ テテテ テテプルン♪


 また電話が鳴った。


「もしもし?」


『今、あなたのアパートの近くにいるの』


「あの、やめてもらえます? 失礼します」


 電話を切る。


 テテテ テテテ 


『今、あなたのアパートの前にいるの』


「いい加減にしてくれ! なんで声のトーン下げたんだよ!? ホラーゲームなら夜中に一人でやってくれ!」


 テテテ テテテ


 しつこい!


『今、あなたの部屋の前にいるの』


「声のトーンが下がったまま! 通報するぞ!?」


 僕は電話を切り、無視を決め込む。


「今、あなたの後ろにいるの」


「うぎゃああああああああああああああああああッ!?」


 振り向いたらそこに女の子がいた。


 パーカーにスカートにハイソックスというカジュアルな格好で。


「お邪魔するわね。はい、これ。レースの参加証」


 女の子は僕に封筒を手渡し、セミロングの金髪を揺らして微笑んだ。


 人前に出ることを想定していないジャージ姿の僕は何が起きたのか理解できず、敷きっぱなしの布団や散乱した漫画に足を取られながら6帖の部屋を壁際まで後退する。


「ど、どこから入った!?」


 ドアや窓は閉まっている。


 くたびれたシャツは脱ぎっぱなしだわ、食器は流しに溜まってるわで、他人に見せられるような部屋じゃないんだ。せめて取り繕う時間が欲しかった。


 ゴミ袋に突っ込んだままの酒の缶や壁際に整列した酒瓶を見られるのもアル中だとかって誤解されそうだ。しかも何故か酒瓶だけは規則正しく軍隊みたいに並べてあるのが中途半端に几帳面で逆に変に思われるかも。


「入ったというよりは、現れたと言った方が正しいわね」


 そう言いつつ、女の子はにこやかに手を差し出した。


「初めまして、私はカジュアル。聖人のカジュアルよ」


 ……はい?


 セイジン? カジュアル?


「嘘つけ! 成人(、、)には見えないぞ? せいぜい18歳とかそこらじゃないのか?」


「字が違うわ。聖なる人の方よ」


 どうして字が違うってわかっちゃうの?!


「嘘つけ! よく知らんが、聖人がそんな原宿歩いてそうな服着てこんなとこに来るか!」


「視野が狭すぎよ。別に何着たっていいじゃない。気に入ってるのよ? このパーカー」


「どうだっていいから、とっとと出ていってくれ! さっきも言ったけど、僕はレースに応募してないし、そもそも出たいなんて1ミリも思ってない!」


「あなたには参加してもらわなければいけないの。あなたしかいないのよ」


 ダメだ、まるで噛み合わない。


 僕は仕方なく、カジュアルとやらの肩を掴んで回れ右をさせ、玄関の方へと押しやる。


「悪いようだけど、他所(よそ)で相手してくれる人を探してくれ。これ以上居座るっていうなら警察を――」


「家内(たかし)


 カジュアルの口から出た名前に、僕は思わず動きを止める。


「なんでお前が僕の従弟(いとこ)の名前を知ってるんだよ? ストーカーか?」


「あなたも隆も、同じ血を分けた勇者の末裔。隆は去年、お餅を喉に詰まらせて亡くなったでしょう? 長旅に耐えられる体力があるのは、もうあなたしかいないのよ」


 勇者の末裔ってなにそれ。詐欺にしたってもう少しまともな設定あるでしょ。


 隆が去年死んじまったのは事実だが、親族の間で勇者のゆの字も話題になったことない。


「勇者って、歴史の教科書に出てくる、魔王を倒したっていうあの勇者? 日本出身とは聞いてたけど、いくらなんでも僕の親戚に(じつ)の末裔がいるなんて話はご都合的すぎる。そんなに僕を騙してレースにけしかけたいのか?」


「騙してなんていないわ。隆だけじゃなくて、隆のお父様も、あなたのお父様とお母様も事故で亡くなってるでしょう? もうあなたしかいないの」


 どこで調べたのか知らないが、この女は僕の親族の情報を握りまくってる。全部事実だから恐い。僕の両親も、いとこの親父も、本当に交通事故で10年前に死んだ。とんでもない災難もあったものだと何度嘆いたか。


「どこで情報を仕入れてるのか知らないが、確かに僕の親はもういない。けど、それがどうやったら勇者の末裔だなんて飛躍した話になるんだよ? もうちょっと説得力のある設定にしないと誰も信じないと思うけど?」


「嘘みたいな本当の話よ? あなたには、あなたのご先祖様絡みのことで、レース中にやってもらいたいことがあるの」


 玄関の前で、カジュアルは振り返った。


 言っていることはぶっ飛んでるが、彼女は至って真剣な面持ちに見える。


 こんな可愛い女の子に間近で見つめられたことなんて、この34年の人生で一度も無かった。当然、耐性なんて持ってない僕は徐に視線を逸らす。


「ぼ、ぼきゅに何をやれって言うんだ?」


 照れを隠そうとして、つい自分から聞いてしまった。あと噛んだ。


「勇者が魔王を倒したとき、勇者の聖剣は魔王を斬った反動で砕けてしまったの。しかもその破片はものすごく広範囲に飛び散った。【スラジャンデ】の全域にね。あなたにはレースという名目で【スラジャンデ】の各地を回って、砕け散った剣の破片を回収してほしいの」


 いや剣(もろ)すぎだろ。プラスチック製? 新聞紙丸めただけとか言わないよな?


「……砕けちゃった剣の破片なんか集めて何になるんだよ?」


「前回【スラジャンデ】が出現したとき、あなたの父方のお爺様が勇者の末裔として抜擢されて、【スラジャンデ】の平和が保たれているか調査する目的で旅に出たんだけど、彼が手記にこう書き残してるのよ。『魔族再興の兆しあり。要警戒と認む』って。私たちは国のエライ人たちと話し合って、いつか魔族が再び襲ってきても対抗できるように、勇者の剣を修復することにしたの」


「僕の父方の爺ちゃん、そんなすごい偉業を成し遂げてたのかよ!?」


 父方の爺ちゃんは確か、僕が中学生の頃にちょうど100歳で死んだはずだ。


 前回の異世界出現が1919年だから、当時の爺ちゃんの年齢と体力的に旅に出られなくはないけど、……いやいや、無い無い。身内が出てくる話だから一瞬信じそうになった。


 学校の授業で習ったが、魔王が支配していた闇の種族――通称:【魔族】は、かつて異世界の地で他の種族と戦争を繰り返して苦しめていたらしい。オークやトロールといった種族が中心だった気がする。魔族以外の種族としては、それこそエルフとかドワーフが有名。あと小さな妖精(フェアリー)もいたっけ。


 噂では、【スラジャンデ】に棲むそうした人間以外の異種族たちが、世界中のファンタジー小説に出てくる種族の基になったとか。


「百歩譲って僕が勇者の末裔だとしよう。だからってどうして僕なんだ? 破片の回収なんて、他のレース参加者とか、プロの冒険家とかに頼めばいい話じゃないか」


 僕の言に、カジュアルはしかし首を振る。


「勇者の聖剣――その破片に触れられるのは、勇者本人か、彼の血を引く子孫だけ」


 そうはならんやろ。


 漫画やゲームじゃあるまいし。


「知らん! この太鼓腹が目に入らんか! 運動不足歴30年だ!」


「旅をしてたくさん歩けば痩せるわよ」


「そのへんの公園散歩するんじゃないんだからさ」


「それと、独身だから失うものも特に無いでしょう?」


「もののついでみたいにひどいこと言うな! 失礼な聖人がいたもんだ! ていうか聖人ってなんだよ!?」


「初代勇者に協力して一緒に旅をした六人の仲間の一人よ? それぞれが聖人、魔人、鬼人、竜人、仙人、霊人と言われていて、特殊な魔法を扱うことができたと言われてる。私はその聖人の末裔ってわけ」


「僕が中学生くらいの頃にそんな感じの設定で自分が主人公になって悪と戦うみたいな脳内妄想してたわ懐かしいなぁ」


「おめでとう。実現できるわよ」


「めでたくないわ! 僕が今の話を全部鵜呑みにすると思ってるのか!?」


「信じられない?」


 困り眉で首を傾げるカジュアル。なにそれ。僕をおちょくってんの? 可愛いなチクショウ。


「――当たり前だ! 勇者ごっこはゲームで間に合ってる! 僕みたいなアラサーの引きこもりオタクはみんなベテランの勇者だ!」


 僕が思わず声を荒げても、全く動じていない様子のカジュアル。


「わかった。なら、あなたのお婆様に電話してみて? 父方のね」


「…………」


 まさか。


 僕の父方の婆ちゃんが、もし今の話を知ってたら、それはつまり、カジュアルの話はぜんぶ本当だってことだ。


 僕は次第に早まる鼓動を自覚しつつ、婆ちゃんに電話。状況を説明したら、マジで冗談抜きで嘘みたいな本当の話だった。


「――先立った爺様が勇者の子孫でねぇ。事が事だから、ときが来るまでは黙っておく決まりだったんだよ。隆も天に召されたとなっては、もうお前しかいないんだ。許しておくれねぇ。おばあちゃん、毎日仏様にお祈りしておくから」


 それだけじゃない。


「あ、家内くん? 落ち着いて聞いてほしいんだけどね、君、明日から会社に来なくていいことになったから」


 職場の上司からそんな電話が掛かってきた。


「あの、課長? それってどういう――」


「レース実行委員会の人――カジュアルさんだっけ? その人からいろいろ話を聞いたよ。大変だろうけど頑張ってね! うちとしては、とぉ~っても不本意ではあるんだけど、二度と帰って来ないかもしれない人のために席を空けておくほどの余裕ないの。だから本当に申し訳ないんだけど解雇の扱いになっちゃうんだよね。退職金、来月中に振り込まれるから」


 そんな感じで一方的な解雇通知が終わった。


 僕の人生も終わった。


「うそ、だろ……」


 電話を終えた僕は思わずそう漏らした。


 なにこれ。


 不当解雇だ。


 ものの数分で人生暴落しすぎじゃね?


「課長さんから? 良かった。ちゃんと手続きできたみたいね」


「人の解雇に『良かった』だと!? お前は悪魔か!?」


 正式な手続きも無しに口頭だけとか適当すぎるだろ。


 失業保険の申請しないと!


「これであなたは自分が食べていく意味でも、是が非でもレースに参加して、報酬を手に入れるしかなくなったわね!」


 カジュアルは両手を腰の後ろに回して微笑む。間違いない、こいつは悪魔だ。


「――はい、これ」


 と、カジュアルは腰の後ろに回した手を僕の方へ差し出した。その手のひらには銀に光る指輪。


「え? なにそれ」


「あなたの父方のお婆さまから預かってきた勇者の指輪(ブレイブ・リング)よ? 知らないの?」


「なにそれ」


「初代勇者が身に着けていたものよ? この指輪には、子孫を災厄から守る魔法が掛けられていて、代々受け継がれてきたの。人差し指にはめている間しか効力は発揮されないから気を付けて?」


 なにそれ!? そんな家宝みたいなやつまであったのか!


 僕は指輪を受け取り、言われた通り人差し指に。


「――指が太すぎて入らないんだけど」


「……よく見てみなさい?」


「んん!?」


 カジュアルがそう言うと同時に、人差し指の第二関節で引っ掛かっていた指輪が大きく広がり、僕の指にすっぽりとはまった!


「――サイズが自動で調整されるのも、魔法の恩恵?」


「そう捉えていいと思うわ」


「便利というか、なんでもありだな魔法って。驚きだ」


「私はあなたが何も知らなさ過ぎて驚いてる。勇者の一族なんだから、魔法についてはもちろん、『魔族に気をつける』ってことくらいは教えられてるかと思ってたわ。これまで異世界が地球上に出現する度に人類と交流が持たれて、魔族や他の種族もいくらかは地球の世界に秘密裏に移住したと言われてるの。人間に化けるとかでうまく溶け込んでるからわからないのも無理はないけど」


「魔族に気をつけろって、日本は平和だぞ? ニートだって生活保護で生きていけるような国だ。仮に魔族がいたとしても、ここまで便利な国でわざわざ悪さをしようなんて思わないんじゃないのか?」


 僕がそう言うと、カジュアルはため息と共に肩を落とす。


「本当になにもわかってないのね。魔族に人間の感性は通用しないわよ? 連中の中には、未だに2000年前の戦争を続けている輩がいるの。つまり、亡き魔王のために戦おうとしているのがいるってこと」


「そうなの!? じゃあ、日本の街に紛れている魔族が、その、僕が勇者の末裔だって知れたら、勇者に倒された魔王の復讐みたいな感じで襲ってくるかもしれないってことか?」


「可能性は高い。だから政府は秘密裏に魔族を見つけてやっつける組織を作って、陰であなたたちを守ってきた。世界に目を向ければ、それを生業(なりわい)にしてるハンターもいるし」


 ただの引きこもりの冴えないデブが(あずか)り知らないところでそんな壮大な物語が!?


「そんなアニメの裏設定みたいなことが僕の身の回りで起こってたなんて……!」


「それじゃ、お爺さんの瞳の色が青だったのは知ってる?」


 急に何の質問だ?


「知ってるけど、それがどうしたんだよ?」


 確かに僕の爺ちゃんの目は外国の人みたいに綺麗な青色をしていたと記憶してる。なんで青なのかと聞いたら確か、変わった体質だとかって返事をされたんだっけ?


「彼の目の色は黒だから、受け継いだ勇性遺伝子(ゆうせいいでんし)が薄いのかしら……? だからお爺様たちも彼には何も言わなかった……?」


「小声で何を言ってるんだよ?」


「なんでもないわ。気にしないで?」


 ほんと何なんだよ! わけがわからん。


「さて! 私の話が本当だってことが証明できたところで、一緒に来てもらうわ。ちなみに私、こう見えて異世界レース実行委員会の副会長だから、手配は任せておいて?」


 半ば放心状態の僕の前で、カジュアルが無慈悲に話を進める。


 副会長の権限とやらで僕の人生を地獄に変える手配をしてくれちゃうわけですか。


「レース開始は今から2週間後の4月10日。当選者の公式発表は4月1日。あなたはレース開始まで、護衛役の子(、、、、、)と一緒に基礎的なサバイバル訓練を受けてもらうわ。聖剣の破片は少なくても6つ以上あると推測されていて、それなりの長旅になるからね」


護衛役(、、、)?」


「念のためにね。【スラジャンデ】は魔族を始め、異種族の本拠地だから。というわけで由梨(ゆり)? 入ってきていいわよ!」


 開いた口が塞がらない僕の耳に、示し合わせたようにドアノックの音が響く。


 家主でもないカジュアルが勝手に開けたドアの先に、黒いブレザーにチェック柄のプリーツスカートという学生服姿の女の子が立っていた。赤らんだ頬に小さな口。紅色の瞳。整った小顔はお人形みたい。


「――え。……あの、カジュアルさん。わたし、こんな引きこもりの陰キャみたいなおじさんと旅をしなきゃいけないんですか?」


 こんなに可愛い子が開口一番に言う台詞じゃない。


「髪は伸び放題でボサボサですし、髭も伸び放題でモジャモジャですし、プリン体お化けですか?」


 引きこもりだの陰キャだのボサボサだのモジャモジャだの、初対面の相手に対して失礼すぎやしないか? 最近の学生さんは礼儀って概念を知らないのかな? 


「そうよ? この人がプリン――家内兜守さん」


 誰がプリン体お化けだ!


「――これから長い付き合いになるでしょうから、仲良くしなさい?」


 カジュアルにそう言われ、女の子はため息交じりに、


「わたし、勇者の仲間の一人――宵隠十三(よいがくれじゅうぞう)の末裔で、宵隠由梨(よいがくれゆり)といいます。これからしばらくの間、不本意ながらあなたの護衛役を務めます」


 やる気の欠片もない、嫌々感ありまくりの態度で自己紹介。


 それと宵隠って、なんだか忍者みたいな名前だな。


「――ちょっと待ってくれ。どう見ても未成年の学生さんじゃないか。この子が僕の護衛役? 親御さんのお許しとか取ってあるの?」


「もちろん。それにこの子は日本政府御用達の忍者の一族だからとても優秀。安心していいわ。仲良くしてあげてね」


 カジュアルは何の問題もないかのように言った。


 忍者みたいな名前だと思ったら本当に忍者! 名前の時点で悟られちゃってるけど平気なの!?


 こんな態度のなっていない子を国が勇者の末裔の護衛役にするとか、世も末か……。


「僕がこの子と旅をする話って、政府も知ってたりするのか!?」


「ええ。というか、レースの開催に携わるすべての国が認知してるわ。極秘でね」


 そのスケールのデカさよ。


 たった今無職になって無性にムシャクシャしてるアラサーのデブのおじさんと、未成年の女の子だよ? これ法律的に危なくない? 僕が誘拐犯だとかって叩かれたりしない?


「ほんのちょっとでもわたしに触ったら痴漢容疑で細切れにしますので、そこのご理解よろしくお願いします」


 由梨ちゃんは二重の綺麗な目を細めて僕を睨んでから、形式張ったお辞儀をした。


 いや、その、触れただけで細切れにすることをよろしくお願いされましても……。


 僕、こんな子と一緒に旅をするの?


 こんな僕たちに重要な役割を任せていいの?


 デブで引きこもりで陰キャの僕と嫌々参加の忍者だよ?


「……レース参加の拒否権は?」


「拒否してもいいけど、無職になったのよ? これからどうやって暮らしていくの? 就職難のこのご時世に」


 君のせいじゃないか!


「それに、あなたが剣を回収してくれないと、いざ敵が攻めてきたときに誰も立ち向かえなくて、世界が征服されちゃうかもしれないのよ?」


 なにその良心に訴えかけるような言い方! これで拒否ったら僕がひどい人みたいじゃん!


 しかも立ち向かう役回りまで僕と来た!


「あの、行くにしても失業保険の申請を済ませてからにしたいんだけど……?」


「その辺りは政府がちょいちょいっとやってくれるから心配しないでいいわよ?」


 そんなことってある? 『ちょいちょい』で済むの?


「……出発は、ビール飲んでからでもいい?」


 勇者の末裔だの魔王だの指輪だのと、いろいろ追い詰められた僕は、言いながら冷蔵庫に手を伸ばした。


 最後の1本、スーパードライ。


 僕の人生も、スーパードライ。


 酒の一杯も飲みたくなるわ!


 ……これ飲んだら髭剃ろう。



初めまして。

お読みいただき、ありがとうございます。

続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひお願いします。

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