興覚めの声
会場はすでに王宮楽団による優雅な音で溢れていた。
贅を尽くした晩餐の様子に宰相リーレンは眉間に皺を寄せた。
「あれほど自重するよう進言したというのに」
「叔父様?」
心配ないと言うように姪の頬を撫でた。
視線の先には王子とその側近達、それから何故かロセリアの妹のブリジットが屯していた。
ブリジットはどういうつもりか王子の腕に纏わりついていた。
その場所は婚約者であるロセリアのものだ。
「なにが忙しいだ!ロセリアを蔑ろにしおって」
リーレンは意見しようと歩を進めたが邪魔が入る。
「猊下、ガルレ大臣が別室で懇談したいと・・・」従者はそう告げてカードを手渡した。
「――うむ、仕方ない。ロセリア、一人で大丈夫かね?共に来るか?」
「いいえ、私は壁の花にでもなってますわ」
リーレンは後ろ髪を引かれる思いで「すぐに戻る」と告げ休憩室へ向かった。
ロセリアは白ワインのグラスを手に壁際へ退いた。
飲むわけでもなくクルクルとグラスを弄ぶ。
煌びやかなドレスを纏う令嬢達が婚約者や恋人と楽しそうに踊り回っている。
グラス越しに見れば「艶やかな金魚のようね」と呟く。
ふとロセリアはチラチラと探るような視線に気が付いた。
包帯のせいか、それとも王子の婚約者が壁になっているのが可笑しいのか。
「どっちもかしらね」
(どうせ近づいたら嫌な顔をされるだけだもの。招待しといてどうかと思うけど)
ロセリアはなにか嫌な予感がした、何かしら接触がある時は戦の話か嫌味か・・・。
「ロセリア、なぜこんな所に?」宰相の長男、つまり従兄が声をかけてきた。
「リュカ、久しぶりね」ふふと頬笑み返す。
「なにを呑気な、・・・あぁ包帯が増えてるじゃないか」
「ええ、昨日の討伐が思いがけず手強かったのよ」
油断しちゃった、と肩を竦め「イタッ」と顔を顰めた。
「無理してはいけないよ、反抗勢力は何も君が率先しなくとも」
「ええ、でも私にはこれしか取り柄がないから」
軽く指先にポワリと光を灯しユラユラと動かしてみせた。
「キミは属性いくつ持ってたかい?」
「4つよ」
そういいつつポンポンと4色の光の玉を出してみせた。
遠巻きに見ていた貴族達が感嘆の声を上げロセリアが放つ魔法に注目した。
「己の能力をひけらかすとは品のない女め!」
興覚めさせる嫌な声が背後から投げられた。