咎の印
巻かれた包帯が痛々しい少女が登城の挨拶に訪れた。
「ああ、また傷が増えているではないか。王宮治癒師共はなにをしておる!」
「いいのです、叔父様。私の傷は戦の咎戒ですから」
ロサリアは敗戦国の反乱を抑えるべく、戦後半年にわたり鎮圧に従事していた。
多くの敵を屠ったことをロサリアは心を痛め、傷を負っても自然治癒に任せることを己に戒めてとして課していた。
特に袈裟斬りの後が醜く、デコルテを出すドレスは着られない。
完全な回復は可能であるが、ロサリアは体中の傷跡を敢えて治そうとしないのだ。
「くそっ!あの愚王子め。アイツはお前の武勲を掠め取るばかりではないか!」
「わたくしは婚約者にして後の后になる者、当然のことを担っているだけです」
カルバード王子は本陣で構えるのみの存在、武将としては当然のことではある。
だが戦場で剣一振りすらしたことはない、飾りの頭だった。
「ふん、見かけだけの青二才め。今宵も祝勝会としょうして財を食い潰す脳しか持っておらん」
「わたくしも珍しく招待されました。叔父様、エスコートお願いできまして?」
「まて、王子がエスコートするのではないのか?」
「それがお忙しいようで、叔父様を頼れと」
あのバカが公務で忙しい?側近達に丸投げの男がなぜと宰相は訝しんだ。
「いいんです、父様に似た叔父様とご一緒できるなら嬉しいですわ」
ロセリアの父は数年前に病に倒れた、それ以来面差しのよく似た叔父を慕っている。
「嬉しいのは私だよ、うちにはむさ苦しい息子達しかいなからな」
まあ、とコロコロと笑う少女。
叔父として宰相としてこの子を護り続けたいとリーレンは思う。
「さあ、時間のようだ。広間へ行こう、傷は痛まないか?」
「はい!薬湯を飲みました、痛みはないですわ」
華奢な腕を叔父の腕に巻き付けニコリと微笑む。