表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

花蓮さんはレシピどおり料理することに楽しさを見い出せない

 土曜の穏やかな昼下がり。花蓮さんは篠崎のマンションで、

猫のガブルスと一緒にゴロゴロしていた。その隣で篠崎は、RPGの

レトロゲームに苦戦して時折、花蓮さんにアドバイスを求めてくる。


挿絵(By みてみん)


焦る篠崎「死にそう!ここの敵めっちゃ強い!なんで?」


ガブルスの肉球をマッサージする花蓮さん

「それは、先に行くべき街を1つ飛ばしているから」


涙目の篠崎「そうなの?!早く言って~!

(花蓮さんもガブルスも可愛いから許すけれども!)」


 そうして2人と1匹は気ままな時間を過ごしていたが、

ふと花蓮さんが、ゲームに悪戦苦闘している篠崎に尋ねる。


ゲーム画面を眺める花蓮さん「篠崎は、食べ放題とか、

大盛りのお店に食べに行きたいと思う?」


ゲームに必死な篠崎「あんまり。たくさん食べると

目立っちゃうから。興味はあるけどね~」


閃く花蓮さん「じゃあ私が作ってあげるよ」


ゲームの手を止める篠崎「えっ?」


 花蓮さんは膝の上にいたガブルスを篠崎に渡し、立ち上がると、

エプロンを借りて昼食の準備を始めようとする。


珍しくやる気がある花蓮さん「今日は私だけで作るから、

篠崎はゲームしてて」


 やる気に満ち溢れた花蓮さんには悪いが、篠崎はこれまで見てきた

花蓮さんの料理スキルを考えると不安になる。だが、いつになく

自信ありげな花蓮さんの微笑みに、篠崎もにっこりと笑った。


心から嬉しそうな篠崎「花蓮さんが私のために料理してくれるなんて、

感動だよ!でも、無理しないでね?いつでも手伝うから言ってね?」


 花蓮さんは頷き、キッチンに向かう。ゲーム以外でやる気を出す

レアな花蓮さんを止める気は起きず、篠崎は心の中で

(まぁ、どんなものが出てきても、花蓮さんの手作りなら絶対に

全部食べるよ)と、余裕で微笑んだ。


 だが、花蓮さんは家庭科の授業でしか

料理をしたことがない女だった。


挿絵(By みてみん)


冷蔵庫の中身を確認する花蓮さん

「もやし、キャベツ、ほうれん草、豚バラ肉…」


 野菜炒めが作れそうな材料を見つけて、

お米を炊こうか迷っていると、冷蔵庫の一番下の

引き出しに、中華麺が大量に入っている。


驚く花蓮さん「篠崎、この麺、どうしたの?」


ゲームの手を止める篠崎「あっ、それは貰ったの。

この前ラーメン食べたんだけど、麺が美味しかったって

言ったら、わざわざ製麺所から取り寄せてくれたんだ」


数を確認する花蓮さん「すごい量だね…」


 麺がそれぞれ包装されていて、1つが1人前だとすると、

ざっと20人前はある。花蓮さんはそれらを取り出し、

キッチンカウンターの上に並べて見つめた。どう考えても

多すぎる。だが、今回のコンセプトは「大食いチャレンジ」

なので、10人前は頑張って作ってみることにした。

そして脳内で、ラーメンの構造をシミュレーションする。


ラーメンを思い出す花蓮さん(麺とスープがあって、その上に

具材が乗ってる。麺は茹でるだけ、具材は野菜炒めのイメージで。

…スープの味付けは、醤油か塩か、味噌…)


 花蓮さんは首を傾げ、スープの作り方をスマホで検索した。

にぼし、鶏ガラ、長ネギ、ニンニク。そしてレシピの解説を

読めば読むほど、なんだか料理に対して嫌気がさしてきた。


そっとスマホを仕舞う花蓮さん(…どれを何カップとか、

時間や手順まで決められてて、なんかゲームのチュートリアルを

ずっとやってるみたい…料理を楽しめる人ってすごいな…)


 花蓮さんはあらためて、自分が料理を好きではないことを実感した。

今すぐ諦めて、自由度の高いゲームをやりたい。だが、「料理を

作ってあげる」と言った時の、あの篠崎の笑顔を裏切ることはできない。


再度食材を探す花蓮さん「何かキーアイテムがあれば…」


 そうして冷凍庫を開けたとき、大袋に入った海老が目に留まる。

それは既に殻が剥いてある海老で、花蓮さんはこれに希望を託すことにした。


なんとなく理解した花蓮さん(味の決め手は海老。塩味のタンメンにしよう)


 そう決めた花蓮さんは、まずはスープ用の鍋を探す。ラーメン店の

厨房にある巨大な寸胴鍋があったが、それはスルーして、大きめの

鍋を取り出した。そして水を適当に入れて火にかける。


 そして野菜と豚バラを適当にざく切りにすると、10人前の麺の量に

対して、明らかに足りない気がした。だが、食材を切り刻む作業は、

ゲームと違ってレベルアップしないし、飽きてきたのでやめた。

そして沸騰した鍋に全部入れて、凍った海老もドバドバ投下した。

煮える順番などは知らないし、研究しようという気持ちも起きない。


ぐつぐつと煮える鍋を見つめる花蓮さん

(味付けは素材の味を活かすために、塩コショウ少々…)


 花蓮さんはササッと塩と胡椒を振りかけるが、明らかに薄そうだった。

だが、花蓮さんの実家(今も住んでいる)で母が作ってくれる料理も、

大抵味付けが薄いので、これが普通な気もした。

味見をしてみたが、麺と合わさった時の味の変化が読み切れないので、

もう、スープはこれで良しとした。正直、面倒になっていた。


麺を見せる花蓮さん「これって何分茹でればいい?」


同じ敵に負け続けている篠崎「えっとねー、3分くらいだったと思うよ」


頷く花蓮さん「分かった。篠崎、その敵は魔法に弱いよ」


泣きそうな篠崎「魔法忘れてた!ありがとうっ!!!」


 持ちつ持たれつの花蓮さんと篠崎はお互いに頷き合うと、

それぞれのやるべきことに向き合った。


挿絵(By みてみん)


 花蓮さんは大きい鍋をもう一つ取り出すと、たっぷりと

お湯を沸かす。その間にラーメンが10人前入るどんぶりを

見つけようとするが、巨大なすり鉢が見つかったのでこれに

入れてみることにした。


両手ですり鉢を抱える花蓮さん

(冗談みたいだけど、篠崎はきっと怒らないだろう…)


 そうして花蓮さんは沸騰した鍋に麺を入れ、きっかり3分茹でた後、

スープと麺を盛り付けた。花蓮さんはなぜか、作っただけで満腹に

なってしまったので、スープと野菜だけ自分のお椀に盛り付けた。


ゆっくりとすり鉢を運ぶ花蓮さん「…お、お待たせ、篠崎…」


驚く篠崎「ありがと~あっ!よく分かったね、それがいつも

私が使ってるどんぶりだって」


苦笑いする花蓮さん「篠崎はこれをいつも食べているのか…」


 そして5㎏ほどあるラーメンをテーブルに運び、篠崎もゲーム

を中断した。そして、なぜか唐突に部屋を駆け回るガブルスを

クスクス笑いながら、2人は「いただきます」と手を合わせた。


上の具材から食べる篠崎「うん、塩味で美味しいよ!」


微妙な表情の花蓮さん「なんかちょっと薄い?」


 ラーメンはかろうじて海老の風味がするものの、ほぼ無味だった。

だが、篠崎はそれに気づいていても、首を横に振る。


笑顔の篠崎「体に良い味がする。花蓮さんの愛を感じるよ」


安心する花蓮さん「それならよかった」


 篠崎は、素材の味というか、ほぼお湯味のラーメンに調味料を

足すことはせず、食べ進める。花蓮さんが作ってくれたことが嬉しくて、

そして、覚悟していたよりも問題のない味に安心し、大量の麺をすすった。

 一方で花蓮さんは、最近テレビでよくみかける大食いの様子が、

こうして目の前で繰り広げられて、不思議な気持ちになる。

篠崎はニコニコと、流れるように麺をすすり、あっと言う間に

食べ終わってしまった。


満足そうな篠崎「美味しかった!ありがとう、花蓮さん」


心配そうな花蓮さん「足りた?」


嬉しそうな篠崎「うん!腹八分目って感じでちょうどいいよ」


 お店のような大食いチャレンジをさせてあげられなかったことが

少し残念だったが、誰の目から見ても幸せそうな篠崎を見て、

花蓮さんは心の中で(頑張って作った甲斐があったな…また作って

あげようかな…半年に1回とか…)と考え、頷いた。


挿絵(By みてみん)


食事を終えて、2人は「ごちそうさまでした」と手を合わせる。


ふと尋ねる花蓮さん「そういえばあの麺、誰がくれたの?」


すんなり答える篠崎「あれは私の許嫁がくれたの。

先週の日曜日、ラーメン食べに行ったんだ」


言葉を繰り返す花蓮さん「…いいな、ずけ…?」


 予想外の発言に、花蓮さんの時がピキッと止まる。

すると、部屋を駆け回っていたガブルスが

「ンニニャッ(我もこれで遊ぶ!)」とゲームにじゃれ始めたので、

「ああああっセーブデータっ!」と驚いた篠崎が慌てて止めようと

立ち上がり、会話が終わってしまった。


 固まったままの花蓮さんの目の前には、食べ終えた

すり鉢とお椀があるだけだった。


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)

GWあっという間すぎる…次が最終話です!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ