第2話 少女
ど、どこだここは...?見知らぬ場所だが。
これはもしかしてもしかするかもしれない...。夢にまで見た異世界では!?
やっと頭の整理が追いついたのか結衣が口を開いた。
「えーっと、ここどこよ...?」
「異世界キター!!」
「きゃ!いきなり大声出さないでよ!」
「そんなこと言ってる場合じゃないよ!異世界だよ!未知の場所だよ!テンション上がらない訳ないじゃないか!」
「違う道を通ったとかじゃないの...?」
「そんなことないよ!絶対ここは異世界だよ!迷い込んだんだ!魔王とか倒して英雄なんてなったりして!」
そんな興奮してる傍に小さな少女がこちらを見ているのに気づいた。
「ねぇ、女の子がこっち見てるよ?誰だろ」
「え?もしかして異世界人第1号!?」
横を向くと杖を持った少女がこちらを見て深く一礼した。
顔を上げ、目を輝かせて何か言っているようだが、何を言ってるかわからない。
「あー、やっぱり何を言ってるかわからないなぁ。」
「でも、何かを嬉しそうに言ってるのはわかるね」
「こういう時はここに来た時に最初からわかるとか、何だけど違うみたいだな」
俺は首をかしげてわからないと表情に出してみた。
何かを察したのか杖をこちらに向けてきた。杖の先端が光り出し何かの呪文を唱えてる。
ん?待て。どうして初対面の人に杖を向けられてるんだ?
突如、頭に死が過った。
「逃げるぞ!良くない気がする!」
「え?どういうこと?」
結衣の手を全力で引っ張り、坂を駆け下がる。
やばい、やばい。来てすぐやられるとか聞いたことないぞ!
「あの子、俺たちを殺す気だ!」
「えぇ!?どうしてわかったの!?」
「会ったばかりのやつに杖向けるとか普通ないだろ!包丁向けられてるのと一緒だぞ!」
「ふーん、ねぇ、何か火の玉がこっちに来てるけどいいの?」
聞いた時には遅く、腰に直撃したのがわかった。
俺は膝から崩れ落ち、瞼をそっと閉じた。
・・・・・。
(死んだ、開幕死んだ)
(聞いたことない、異世界に来て開始1分で死んだ奴)
(ごめんなさい、お母さんお父さん。息子は異世界で死んでしまいました)
(先立つ息子をお許し下さい。)
(そして、学校の友...いないわ。そういえばいないわ)
(お父さん、お母さん。結衣と二人で天国でよろしくしてます)
(さようなら...)
・・・・・。
(長くないか?お迎えに来てくれないの?)
(自分で来いってこと?ひどくないか。)
(でも、何か聞こえてきたな)
(.....早く起きないとフィギュア壊すよ?)
・・・・。
「ダメって言ってるじゃん!」
「あ!やっと起きた!寝すぎだよ」
目の前には何もなかったように結衣が立っている。何がおきたんだ?
「やっと起きてくれましたね」
声のする方を振り向くと、そこにはあの火の玉を放ってきた少女が立っていた。
「お前!どういうこと...だ?あれ、何で言葉が通じるようになってるんだ?」
「先ほど放った魔法は、簡単にいえば言語魔法を使いました。それで言葉がわかるようになってると思います」
「そういうこと、あんたが『死ぬ』なんていうから驚いたじゃない」
でも、言葉を習得するのに為に火の玉が飛んでくるとか聞いたことないぞ。
なんだこの世界。言葉を習得するのに開幕に攻撃まがいなことされるなんて。
「...質問してもいい?」
「はい、なんでしょうか?」
「ここには君に呼ばれて来たってこと?」
「はい、そうです」
「どうして呼ばれたか聞いてもいい?」
「...おとぎ話にすごく憧れたからです」
あれ、話がおかしな方向に行きそうな気がする。
「私、おとぎ話で読んで召喚された人と冒険に出るのが夢だったんです!
たくさん勉強し、鍛錬もして、そして今回やっと成功したんです!」
すごく目を輝かせてたのはそういうことか・・・。
「...魔王とか魔物を討伐して欲しくて呼んだんじゃなくて?」
「はい、違います!」
「...旅がしたくて?」
「はい!」
きっぱり言われちゃったよ。どうしたものか。
俺はてっきり「勇者様、世界を救ってくれ」なんて展開を期待していたが。
いや、まだあれがある。落胆するな俺。
「そうか、歳はいくつ?」
「10歳です」
結衣は興奮気味で近寄り、頭を撫でる。
「すっごいね!小さくてもそんなことできちゃうなんて!」
「...小さくないです。」
「わわ!ごめんね!小さくないよね」
少し目を濡らせて小さい声で反抗していた。可愛いな。
でも、確かに若い。やっぱり異世界はとんでもな設定だな。
ということはまだとんでもない設定が出てきそうだな。用心しよう。
「じゃあ、改めまして。俺は、秋元智木」
「私は、倉本結衣。よろしくね」
「トモキ様とユイ様ですね。私はネネ=シャルーラです。ネネとお呼び下さい」
そんなたわいもない会話をし、三人は握手を交わした。
だが、トモキと握手を交わす際にネネが少し嫌な顔をしてたように見えたようだった。