第1話 日常と少女
この世界変わってます。そして主も変わってます。
眼前には広大な草原、見たことのない場所に佇む3つの姿があった。
「えーっと、ここどこよ...?」
少女はこちらを見て微笑みながら一礼をしてた。
とある日、部屋中に一風変わったアラーム音が鳴り響く。
「お兄ちゃーん、起きて?遅刻しちゃうよ?早く起きないとお兄ちゃんの○○○潰すぞ!」
光のごとく変わったアラームを止めたのがこの男。
(やばい、アラームを極ヤンデレ妹モードで寝てしまった。目覚めが悪いなぁ)
(あ、どうも初めまして。みなさん。秋元 智木です。)
(え?誰に紹介してるかって?)
(あなた方にですよ。)
(え?何言ってるかわからない?)
(ははは。僕もわかりません。)
そう、この男。
独り言が多い男。
変わった男である。
(さぁ、二度寝でもするかな。後10分・・・。)
下の方でドアが開く音がし、階段を上がって来る音が聞こえてくる。
(やば、あいつだ!)
(みなさん、今からくる奴は倉本 結衣って言います!
なんか『結衣』って優しそうな感じの名前でしょ?全然違くてあいつは..)
俺は布団を深くまで被り、守りの態勢にはいる。
扉は勢いよく開き、部屋に大きな声が響いて
「起きろ〜!遅刻するよ!ほら早く起きて!」
なんて、言ってくれたら一発で起きるのに現実は違う。
現実は無情。無言からのかかと落としだ。
だが俺も甘くない。すかさず布団の中でガードをする。
これを習得にどれだけくらってきたか・・・。
だが、結衣もそれを読んでいるので第二の攻撃が来る。
そう、攻撃なのだ。俺に恨みでもあるのか・・・?
拳が飛んでくる。腹部狙いで。
だが今日は違った。まさかのフェイントだった。
本命は布団を剥がすことだった。
作戦は成功し見事剥がされてしまった。
俺はうずくまり赤ん坊のように喚く。
「やだやだやだ!あんなとこ行きたくない!」
駄々をこね、起きない智木を冷たい目で見る結衣。
本当にゴミを見るような目で見てくる。
「...その目やめてよ。本当に傷つく」
「じゃあ、早く起きて。毎朝毎朝疲れ..る..。」
結衣は周りを見渡し、言葉が詰まるのがわかった。見たな。
「あ!またこんなにフィギュア増やして!なんで一夜でこんなに増えるわけ!?」
それを聞いた瞬間ベッドの上に立ち、高らかに声を出した。
「ふはは!今の配達はすごいんだぞ!即日、翌日で配達可能なのだ!アムゾン最高!」
「...そう、片付けとく」
聞き間違えであってほしい声が微かに聞こえた気がした。
「結衣さん、お願いだからやめてえぇぇ!!」
そんな言葉を尻目に部屋から出て行くのであった。
「どうですか皆さん、あれが結衣という女ですよ。ひどいですよ。学校では人気者で容姿端麗でスポーツ万能?
すごく評判はいいんですけどね。どうしてもああなってしまったのや...ら...?」
「聞こえてんだけど、また独り言?」
また、あの冷たい目がこちらをドアの隙間から覗いてるのが見える。
早くしろと訴えながら蔑む目が。
すみません、すぐ行きます。そんな気持ちで綺麗な一礼をしたのだった。
☆
「あぁ〜、行きたくない。帰っていい...?」
「ダメに決まってるでしょ。何言ってるのよ。」
学校に向かう足が重い。深いため息も止まらない。
「そんなため息してると幸せが逃げるらしいよ?大丈夫なの?」
「この状況にため息出ないわけないだろ...知ってるだろ?」
少し考えた結衣は口を開いた。
「あー...もしかしてあれのこと?」
★
3ヶ月前のことだ。
クラスで一人ずつ自己紹介が始まった。それが悲劇の始まりだった。
高校生になったことにより気持ちが舞い上がっていた。そう高校デビューしようとしていた。
『名前』『得意な科目』までは良かったが『趣味』が良くなかったらしい。
大好きなアニメ、ゲームの話をした。熱くなりすぎて10分ぐらい語っていたらしい。
気づいた時に遅かったようで教室中が冷たい空気になっていた。
でも、なんでそんなのでデビューしようとしてんだ?って思うかもしれないけど
そこの学校はアニヲタが多く通う学校として有名だった。教室に40人居て半分ヲタクと思ってくれていい。
だが語ったアニメやゲームはクラス皆の嫌いなライバル会社だったらしく
例えるならジ○ンと連○軍。そのぐらい対立しているらしい。
まさにクラス替えまでの一年戦争開戦宣告したも同然だった。
それを引き金に周りからは敵視で見られていき、行きたくなくなった事の顛末だ。
★
「だから趣味だけ言って座れば良かったのに」
「だって多いから話したらウケると思ったんだもん...」
後から後悔しても遅い。もう火蓋は切って落とされたのだから。
そんなことを考えてると横から肩を叩かれ、焦っている結衣がこちらに顔を覗かせる。
「ちょっと!時間やばいよ!のんびり歩きすぎ!」
「なら近見で行くしかないな」
「え、行くの?あそこはちょっと苦手なんだけど...」
「でも、間に合わないなら行くしかないよ」
何をそんなに迷ってるんだ?遅刻したくないはずなのに。
他に何かあるのか?
「わかった。行こう。...まだ大丈夫」
最後に何かを言ってたが、よく聞き取れなかったので先を急ぐか。
近道は家と家の間を通る道のことで、人一人が通れるぐらいの幅。普段よくお世話になっている。
足早に俺は歩を進めていく、それに続いて結衣も通る。
中間ぐらいに差し掛かった時にまさかの問題が発生した。
「ちょ、ちょっと助けて!」
後ろの方で助けを呼ばれたので、振り返ったら顔を赤くして助けを呼んでいる結衣がいた。
助けを呼んだ割に何も変わってないように見えたが、よく目を凝らすとそれはつっかえていた。
胸だ。
「お、お前。挟まったのか...?」
「そうだよ!見るな!変態!!はぁ、まだ大丈夫だと思ってたのに!全部智木のせいだから!」
「えぇ!俺のせいかよ。」
「そうだよ!もっと早く起きてくれればこんなことにならなかったのに!」
目を少し涙で濡らし訴えてきた。
いつの間にか結衣も成長してたんだな、なんて感心していたら早く助けろといわんばかりに睨まれた。
手を差し伸べ、引っ張り出すことに決めた。
「もう少しで出口だから我慢してね」
後ろでブツブツ文句を言ってる声が聞こえてくる。
なんて言ってるか聞き取れないが、出口が見えてきた。
「ほら、出れた...よ...」
「やっと出れた!もうここ通らないから...ね...」
隙間から出た二人の前には見知らぬ草原が広がっていた。一人の少女と合わせて。