第三話『革命大行進!』
先輩が起こそうとしている革命に加担することになり、この世界のことも色々と見えてくる。
昔はこの世界も平和でいくつかの国に別れていたが、いつの間にか英雄が覇を唱える群雄割拠時代になり、更には魔界から魔王の軍がこの世界を侵略し始めているというのが今現状の姿だという。
「なんだかすごく殺伐としてますね・・・。」
「乱世とはそういうものだよ、我々がやろうとしていることもある意味では平和を乱す行いなのだからな。」
確かに、平和に日々を過ごしたければ、お上に黙って従っていれば争いもなく平和とも言える。
だが異世界に飛ばされた俺や先輩を迫害してくるような相手と仲良くはできそうもない、まだこの国がどういう状況なのかも知りはしないが、少なくとも先輩は保護してくれたし信用できる。
「言い忘れていたけど、この国の王・・・私たちが倒すべき相手は異界魂なんだ。」
「異界魂・・・!?」
確か異界魂は俺たちのような異世界に呼ばれた、召喚士と呼ばれる人たちが女神の加護で呼び出す魂であり、召喚士の要望に応じた魂を女神が選定し送ってくる、というものだと聞いた。
「で、でも召喚士が制御してるんじゃ・・・?」
「いや、この国の王は知略を駆使して自分の召喚士を封印したんだ、私もその場に一緒にいたから顛末は知っている。」
「一緒に?なんでその時助けなかったんですか。」
「その時は私が逃げるので手一杯だったからさ、すでに城内の兵士はそいつの息がかかっていたからね、私も一杯食わされたというところさ。」
「で、攻め入るとして勝算は?兵力もいくつあるのかの?」
今まで黙っていた義教が口を開いた、相変わらず不機嫌そうな顔をしているが。
「・・・正直兵力は全く足りてないと言って過言ではないだろう、教会の信徒たち合わせても80くらいだ。」
「80か、全然足りんのう、どうにかできんのか?」
「それができたら苦労しないよ、民間にも徹底されてるから扇動も容易ではないんだ。」
「ふん、軟弱者たちめ・・・それならば暗殺を狙うしか無いだろうの。」
「暗殺か、それなら勝ち目はあるが、やるなら召喚士である君と私、後は異界魂たちで行くことになるな。」
「そんな少人数で大丈夫なんですか・・・?」
「むしろ潜入するなら少人数に限るからな、それに異界魂はこの世界だとすごく強い、君も召喚した時に戦うところを見ただろう?」
先程のことを思い出す、確か彼女2~3人を一瞬でたたっ斬っていた。
召喚士と異界魂は密接に関係しているらしく、召喚士の持っている女神の加護が異界魂を強靭にしているらしい。
「先輩、能力のことすごく詳しいんですね。」
「君より長くこの世界にいるからね、少なくともそれなりの知識はあるよ。」
「どうでもよいが、せっかく呼ばれたのなら派手に暴れたいところよのう!」
「だからさっきから色々聞いてたんですね義教さん・・・。」
「当たり前よ、わしを誰だと思うとる!6代目足利将軍ぞ!」
「とりあえず、詳細な計画を練ろう。城内については間取りは知っている。」
そこから夜遅くまで計画を議論し、作戦を立てた。
作戦はこうだ、信徒たちが町中で暴動を起こし兵士をできるだけ引きつけ陽動する。
その間に城内に少数で侵入して王を討ち取るわけだがここで二手に分かれ、先輩たちは玉座に向かい俺と仲間は地下牢に行き捕らわれている信徒を開放、いるなら召喚士の救出ということになった。
そして国王の異界魂を聞くと、あの有名な司馬仲達ということに驚いた。
異界魂だから俺達の世界の偉人か何かだと思っていたが、ゲームでもよく見るくらい有名人だ、こんなのを倒せるのかと不安になってしまう。
こちら側の異界魂は先輩が連れている少女を含めて二人、数では勝っているがそれだけで打ち倒せるのだろうか?
あれこれ考えてもドツボにはまるだけだし、これ以上はやめておこう、俺は助けてもらった恩を先輩に返す、それだけだ。
そして決行日が訪れる。
陽動部隊に別れを告げて俺たちは城を目指す、道中は特に何もなく、無事に潜伏場所にたどり着く。
しばらくすると城門が開き部隊が出撃していくのが見える、どうやら陽動は成功したようだ、俺たちもすぐに準備にかかる。
城の兵士には先輩たちの息のかかった間諜もいる、計画通りに門番が間諜の時に門へ向かい、通用口を開けてもらい潜入した、ここまでは作戦通りに事が運んでいる。
予定通り、ここで二手に分かれ俺たちは地下牢の方へ向かう。
ネット画像とかでしか見たこと無いような石造りの西洋のお城を地図通り下へ行く、ろうそくがないと足元も見えないくらい暗い。
「な、何だお前達は!・・・がはっ」
牢屋番を義教が一撃で切り伏せる、こんなろうそく明かりだけが頼りの暗闇の中で一撃で倒せるのはやはり異界魂だからだろうか。
「私たちは信徒を開放します、あなたは召喚士が捕らわれていないか探してください。」
「わかった。」
牢屋の鍵をうばい、次々と捕まっていた信徒を開放する、彼らはこのまま城内の開放のための戦力になるという。
俺はその間各牢屋を見て回るがそれらしい人物は見当たらない・・・。
やっぱり牢屋にはいないのか、だとするとこの城のどこか別のところに捕らわれているのだろうか。
そうやって探していると義教さんが何かを見つけたようで俺を呼ぶ。
「お主、この壁が怪しいぞ。」
「壁・・・?何もないように見えるけど・・・。」
「阿呆、隙間風があるのを感じぬか、この奥に何かしらの空間があるのじゃろう。」
「うーん?それならどこか開くスイッチがあるかも、探してみよう。」
壁際をくまなく探すがスイッチらしいものは見当たらない、こういうのは何かしらあるのがゲームや漫画だと常套手段なのだが・・・。
「ええいまどろっこしい!こうしてくれるわ!」
ついにしびれを切らした義教さんが刀で石壁を斬る、本来なら敵う筈はないが石壁は両断されて倒れて崩れる、切れ味斬鉄剣かよ・・・。
「ほれ、当たりじゃ、おったぞ。」
「・・・っ!大丈夫ですか!?」
召喚士と思しき人が隠し部屋に監禁されていた、知り合いではないが俺と同じ学校の服装をしているし間違いなくこっち側の人間だ。
「う、うう・・・。」
「かなり衰弱しておるの、生かさず殺さずにしていたようじゃな。」
自力で歩けそうにも無いので肩を貸して予定通りに脱出する、普段からあまり運動をしてこなかったがこの世界に来てからは少し体が軽い。
これも女神の加護なのだろうか、なんにせよ今のような体力を使う作業も楽にできるのは好都合だ。
この暗い地下牢を抜けてこの人を城外に保護できれば俺の役目は終わりだ、上の方では戦闘が行われているようで喧騒が聞こえてくる。
そして地上に出て城内を通る時、ここで一つの狂いが出る。
なんとそこが主戦場となっていたのだ、兵士や信徒たちが乱戦していて、その中には先輩と司馬仲達と見られる人物もいる。
「なんてこった、戦場のど真ん中じゃないか!?」
「少し時間をかけすぎたかもしれんな。」
戦いの中心はもちろん先輩たちと司馬仲達である、異界魂同士の激しい戦いはその部分だけ異次元空間のようである。
戦いを見る限り先輩の異界魂の少女が劣勢のようだ、先輩を守りながらの戦いになっているからだろうか、多勢に無勢な感じだった。
俺は手負いの人を抱え歩き出す、位置的に先輩の横を通ることになるが義教さんが守ってくれることを信じることにしよう。
そして先輩の戦場の横を通る時、先輩に呼び止められた。
「召喚士、見つかったのか・・・!」
「え、あ、はい!無事見つかりました!これから脱出します!」
「我が召喚士を見つけたというのか、小娘にしては頭が回りおるわ。」
「そうだとも、これでお前も終わりだな、司馬仲達!」
「まさか!」
先輩はナイフを構えると背を向け走り出す、逃げるのではなく俺の方に来ているではないか、刺される!そう思って目を瞑った・・・。
「・・・?」
体に痛みも無いので目を開けてみる、先輩は確かにナイフを体に突き立てていた、俺の隣の人に。