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ゾンビ  作者: 永谷 園
4/5

第4話 ゾンビファッション

第4話です。

よろしくおねがいします。


 ゾンビの数は猛烈な勢いで増えていった。

 いまでは日本全体の約30%がゾンビとなっているらしい。

 上田のクラスでも一人、また一人とゾンビになっていき、現在は十二人ほどがゾンビだった。


 河原で日暮が言いかけたのはこのことだったのだろう。

 この感染症は治療法がまだ確立されていない。

 つまりゾンビは増えていく一方なのだ。

 それも、ものすごい速度で増えていく。

 国も感染者の少ないうちから早急に対処しようとしていた。

 みんな心のどこかでわかっていたのだ。


 ゾンビ化ウイルスはとんでもない速度で蔓延していった。

 テレビではゾンビに関するニュースが毎日取り扱われた。

 ゾンビVS非ゾンビという形で作られた番組が多く、ワイドショーで人間のコメンテーターのたちがゾンビの問題点についてしゃべっていた。

 逆に、インターネットではゾンビによる人間への不平不満が大量に書き込まれた。

 『ゾンビハラスメント』という言葉が生まれ、人間側とゾンビが側に分かれて頻繁に議論が交わされた。



 上田のクラスも、ゾンビとゾンビじゃない人でなんとなく分断されていた。

 それまでいっしょに遊んでいた子同士でも、片方がゾンビになるとなんとなく離れていくのだった。

 人は人同士、ゾンビはゾンビ同士でいっしょに遊ぶようになった。

 上田は、以前いっしょに遊んでいた松村がゾンビになったので、また遊ぶようになった。

 休み時間、松村とトランプのスピードをして遊んでいた。

 すばやくカードを動かしていると、ポロっと松村の左目が落ちた。

「あ、左目そっちの方に落ちたわ。拾える?」

「はい」

「最近左目ばっかり落とすんだよね」

 松村が言った。

 目玉を落としてしまうと視界が暗くなり、うっかり踏み潰してしまうと再生するのが大変だった。

 もはや自分たちの肉体が腐っていることにはとくに何も思わなくなっていた。

 痛みへの耐性もあがっていて、あんまり無理やりに体を引きちぎったりするとさすがに痛いものの、自然に目が取れてしまうときなどはほとんど痛みを感じなくなっていた。

 そんな様子を見て、人間の子どもたちは眉をひそめた。

 ゾンビと人には見えない壁のようなものがあり、ゾンビでない人たちはあからさまにゾンビのことを見下していた。

 そして、自分は絶対にゾンビにはなりたくないと思っているようだった。

 

「うげぇ、ほんと気持ちわりいな……」

 新庄が松村の左目を見て言った。 

「しってるか? ゾンビってもともとはコンゴかなんかの怪物で、人間がドレイにしてたんだってよ。だからゾンビってのはもともとは人間のドレイなんだ。お前らもおれにしたがえよな」

 新庄がなにやらゾンビの悪口をしゃべっていた。

 人間のクラスメイトたちが笑った。

 新庄は暴力的だが、大きい声で突拍子も無いことを言ってみんなを笑わせることもあった。

 上田は新庄が苦手だったのでいつも複雑な気持ちだった。

 上田が新庄を噛もうとした一件以来、新庄はなにかと上田に目をつけてきて、ことあるごとに殴ってくるのだった。

 上田は自分が噛み付こうとしたせいで新庄がここまでゾンビを嫌うようになってしまったのだろうかと思い悲しい気持ちになった。

 上田だけでなく教室のゾンビたちは、いつもなんとなく居心地の悪さを感じながら暮らしていた。




 ある日、国民的人気アイドルがゾンビになった。

 大ニュースだった。

 それはもう大騒ぎだった。

 彼はただゾンビ化しただけではなかったのだ。

 ゾンビ化をあえて助長するようなメイクを施し「ゾンビファッション」として売り出した。

 髪をボサボサにし服もボロボロだった。

 青白いメイクを施し頬がこけたような顔だが、目には以前と変わらない力強い光が宿っている。

 有名な「スリラー」という踊りを踊っていた。

 その姿は力強く、美しかった。

 彼の「ゾンビファッション」は多くの人々の心を動かし、ゾンビになった人たちはもちろん、ゾンビ以外の人々の間でも大流行した。


 学校へ行くと、雰囲気が以前とは異なりゾンビたちは明るい表情をしていた。

 逆にゾンビでない人たちはなんだか流行に遅れている人のようになった。

 人間に寄せたメイクをしていた女子たちも、今度はみんな揃ってゾンビメイクしていた。

 ゾンビたちの青白い顔は活き活きとして輝いていた。




 新庄は面白くない様子だった。

「ゾンビは気持ちわるい」

 以前よりもさらに激しく、キツイ口調だった。

 上田は殴られたことを思い出し、すこし手が震えた。

 新庄が怒っているのを見るだけで手が震える自分が嫌だった。


「おい、もうやめろよ、そういうこというの」

 そう言ったのは松村だった。

「なんだよ。ドレイがおれにさからうのか!?」

 新庄が声を荒げた。

 ゾンビたちが新庄を睨みつける。

「このやろう!」

 新庄が松村に飛びかかった。

 2人の取っくみあいになり、松村も新庄に対抗する。

 噛み付こうとするわけではなく、あくまで殴り合いの喧嘩だった。

 新庄が松村に殴りかかり、すんでのところで松村がかわす。

 松村が避けた拳が、後ろのゾンビの子にクリーンヒットした。

 怒ったゾンビの子が乱闘に参加はじめる。

 怒ったゾンビの子の攻撃は、こんどは別の人間の子にクリーンヒットした。

 松村が新庄に向かって投げた椅子がまた別の人間の子にぶつかり、怒った何人かが喧嘩に参加していく。それを止めようとしたゾンビが別の人間の子になぐられて……と徐々に参加する人数が増えていき、やがて大きな喧嘩になった。

 それは子ども同士のケンカだったが、絵面だけみるとまるでゾンビ映画のようだった。

「わたし、先生呼んでくる!」

 そう言って、日暮があわてて教室を飛び出していった。

 上田も付いて行こうかと思ったが、その前に新庄に殴られて倒れた。


 騒ぎを聞きつけた松岡先生がやってくる。

 教室のパニック映画ぶりに一瞬驚いていたが、すぐに大きい声で子どもたちを制した。

「コラ! なにやってるんだ!!」

 松岡先生の声はゾンビ映画に負けないくらい恐ろしかった。

 


 その後、学級集会が開かれた。

 人間の校長先生は「喧嘩はゆゆしき問題だからよくない」というようなことを1時間くらいかけてしゃべっていた。

 上田たちはゾンビも非ゾンビもこの学校の生徒であることを誇りに思い、慎まなければならないのだった。


「長ぇよこの集会。まったく……どこのバカが暴れたんだ?」

 誰かが言った。

 周囲の目が新庄へと向けられた。

「なんだよ……文句あんのか?」

 新庄が吠えた。

 しかし、周囲の目は冷たいままだった。

 松村を筆頭に、みんなが新庄を睨みつける。

 新庄はすこし怯んだようだった。

 

 この時から新庄はクラスメイトの中で孤立しはじめた。


ここまで読んでいただきありがとうございました。

次回で完結します。

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