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ゾンビ  作者: 永谷 園
2/5

第2話 喧嘩

毎日投稿第16弾です。

よろしく。

 保健室で休むと気分はすこし回復した。

 しかし、これからの学校生活がよりいっそう憂鬱になりそうで悲しかった。

 

 それから、二日もしないうちに上田の母がゾンビになった。

 昨日上田が残したオカズをつい食べてしまったらしい。

 家族が二人ともゾンビになってしまったことに父はショックを感じていた。

 

 そのさらに次の日、父もゾンビになった。

 なんだかわからないが、父と母の仲がよくなっているのを感じた。

 上田はすこし安心した。

 しかし、あっという間にゾンビ一家になってしまったことにすこし恐怖も感じていた。

 感染症がこの速度で広まっていったとしたら、日本中がゾンビになるのもそう遠い未来ではないかもしれない。

 

 実際、ウイルスはかなりの勢いで浸透しているようだった。

 ニュースによると、たった1週間でウイルスの感染者は約3000人から約100000人まで増えていた。

 自分の周囲での感染者はまだ少ないものの、別の学年では上田以外にも感染者が現れはじめていた。

 

 

 

 

 クラスでは、より感染者に対する恐怖と迫害が強まっていた。

 上田が教室に入ると、空気が重たくなるのを感じた。

 以前まで一緒に遊んでいた松村と木下も目を伏せて離れて行った。

 上田がなにか話しかけに言っても「ごめん」とだけ言って混ぜてもらえなかった。


 休み時間、クラスの男子たちがドッジボールをしようとしていた。

 しかし上田はあまり気分が乗らなかったので一人で図書室へ行こうと思った。

 その時、輪の中の中心にいた新庄が、教室を出ようとしている上田に大きな声で言った。

「おい上田! お前はぜったいちかよんじゃねぇぞ! ゾンビがうつるからな!」

 カチンときた。

 元からドッジボールに参加しようとは思っていなかったのに、なんだか無性にムカムカして頭に血が上った。

 自分はこんな風に言われるようなことをした覚えはない。

 ただ感染症にかかってしまい、体が腐ってしまっただけだ。

 理不尽だった。

 上田はすこし泣きそうになった。

 

 新庄に噛み付くフリをしてやろうと思った。

 ちょっとだけ怖がらせてみようと思ったのだ。

 そうすれば、簡単に悪口など言えなくなるはずだった。

 上田はまるで本物のゾンビのようにゆっくりと近づきながら、大きく口を開いた。

「う、うわ、なんだお前、や、やめろ!!!!」 


 新庄に思い切り殴られた。

 誰かからこんなに本気で殴られたのは、2年生の時に田中くんの持っていた100レベルのミュウツーを勝手に自分のキャタピーと交換して以来だった。

 上田は痛かったのと驚いたのとで、泣き出してしまった。

 こんなことになるとは思わなかった。それまでの感情が溢れ出した。

 自分はなにをやってもダメなのだった。もう嫌だった。世界の終わりだ。

 殴られた衝撃で頭がぐらついたのと、この間一度取れたせいで緩くなっていたせいだろうか、涙とともにポロっと右目が取れた。

 瞬間、新庄たちが悲鳴をあげた。

「うわあああああ!!! 上田!! 右目が!!!!!」

 さすがに目が取れるところを見ると人は驚くのだった。

 その場にいたクラスメイトたちは顔面蒼白になって、何人かが急いで先生を呼びに行った。

 上田は急いで右目を拾い、元の通りにはめ込んだ。

 グチュグチュという音と共に視界が回復する。

 おかげで、クラスメイトたちの冷たい視線がはっきりと感じられた。

 いつのまにか新庄から殴られた頬の痛みもなくなっていた。

 泣き止みはしたものの、心が不安定だった。


 そのうちに先生がやってきた。

 事態を把握したようで、新庄と二人呼び出しを受けた。

 職員室で個別に話を聞くことになった。

 上田は一連の出来事をなるべく記憶のままに正直に話した。

 先生は、上田が新庄に噛み付こうとしたことを知ると青ざめた顔をした。

 そして上田のことを厳しく注意した。

 いくら酷いことを言われたからといって感染症を広げようとするなど言語道断とのことだった。

 上田は本気で噛むつもりではなかった。

 しかし、もしものことを考えるなら辞めるべきなのだそうだ。

 あのままバカにされたままでいた方がよかったらしい。


 上田と新庄は仲直りの握手をすることになった。

 上田は腐った手を差し出したが、新庄はそれに触れるのがいやで出て行ってしまった。

 すこし寂しかったが、なぜかあまり悲しくなかった。

 先生も感染の危険性について触れたばかりだったのであまり強く言えないようで、そのまま握手せずにクラスへと戻った。

 

 それから上田は保健室で過ごすことが多くなった。

 ゾンビになってしまった以上、どうやら人間と暮らすのは難しいことのようだった。

 その週の土日は家にこもって休んだ。

 事情を察したのか、父と母はなにも言わず腐ったその手で上田の頭を優しく撫でた。

 正直もうあまり外に出たくなかったが、父と母を悲しませたくはなかったので頑張ろうと思った。

  

 

 月曜日、上田が学校へ行くと、クラスに新たな感染者が現れていた。


ここまで読んでいただきありがとうございました。

次回へ続きます。

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