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こたつ

作者: アマラ

 コタツというのは非常に人間を駄目にするステキなアイテムなのだが、自分で持つとなると何かと面倒なものである。

 掃除をするのも意外と大変だ。

 汚さないように気を付ける必要もある。

 コタツ布団は意外とかさばるので、しまう場所にも困る。

 忘れがちだが、下に敷く敷布団も案外大きい。

 コンセントの位置も重要だ。

 当然のことだが、電気コタツは電力供給がなければ温かくならない。

 テレビなどの娯楽を享受しつつコタツを堪能しようとした場合、電力源の位置というのは存外大切なのである。

 このように、コタツを持ち、なおかつ楽しもうとした場合、様々なハードルがあるのだ。

 難題であるこれらをクリアするのは、相応の資金力と努力を要する。

 コタツは人類が手に入れることができる楽園の一つではあるが、その楽園を維持するには並々ならぬ努力もまた必要なのだ。

 何もしたくなくなる人間を駄目にするアイテムでありつつ、その維持管理に労力を要する。

 コタツというのは、そういった相反するものを同時に内包する、いわば人類を試すために作られたアイテムなのだ。


 そういったものを一切気にせず、コタツを堪能する方法がある。

 他人のうちのコタツにもぐりこむのだ。

 勿論、まったく知らない人のうちのコタツにもぐりこむのではない。

 そんなことをしたら最悪、不法侵入で捕まってしまう。

 捕まってしまっては、コタツを堪能することができない。

 由々しき事態である。

 そうならないためには、どうすればいいのか。

 知ってる人の家に上がり込み、コタツを楽しめばよいのだ。

 この際、相手とごく親しい間柄であれば、時に気兼ねすることもなくリラックスすることができる。

 ついでにお茶菓子などを要求するに遠慮する必要のない相手であれば、なおよい。


「というわけでお茶を所望いたす」


「なんだよ突然。あなたの中で何があったの」


 突然のさくらの言葉に、隼人は面食らったように言う。

 さくらは今しがたまで、ゲームに集中していたはずである。

 それが突然そんなことを言い出したのだから、驚くのも無理はないだろう。


「なに、ゲームと現実がごっちゃになったの?」


「まだそこまで行けてないんだよなぁー」


「将来的には行く予定なのかぁー」


「むしろ二次元に行きたい」


「二次元に行っても楽できるとは限らないんじゃないの」


 さくらは驚愕の表情を浮かべ、隼人を見つめた。

 何か恐ろしい事実でも突き付けられたような、渾身の顔である。


「なにその顔。村を焼かれたぐらいの衝撃度に見えるけど」


「ねぇ、それよりもお茶」


「それよりもって言っちゃった。自分でやっといて。はいはいはい、もう。お茶ね。粉の奴とティーバックのヤツどっちがいいの」


「ティーバックのヤツ。粉のお茶って回転ずしの時にしか合わない気がする」


「あー。まぁ、粉のお茶を回転ずしぐらいでしか飲まないとそんな感じになるかもな。わかるような」


 隼人はやおら立ち上がると、台所の方へと歩いて行った。

 さくらはそれを見送りながら、再びゲームへと戻る。

 ここは、隼人が持っているアパートだ。

 さくらはここに、週に三日は通っている。

 二人は、いわゆる幼馴染であった。

 生まれる前から両親に交流があったので、付き合いの長さは年齢と同じである。

 子供のころから意識はしあっていたものの、お互いにべつの人と付き合っていた時期もあった。

 結局なんだかんだあって、今は、恋人同士になっている。

 周りからは「今更?」などと言われるので、多少腹立たしくはあるものの。

 正直なところ、自分達でもやっと落ち着くところに落ち着いた、というような思いもあった。


「はいよ、お茶」


「おう、ありがとうー」


 隼人が目の前に置いたお茶を、さくらはずずずっと音を立ててすすった。

 指先が少し冷えていたので、心地よい。

 飲むには少し熱いが、いれたてなのでこんなものだろう。


「何のゲームしてるの」


「街づくり系。ゴブリンの村を大きくしていくの」


「何それ」


「大きくなりすぎると人間とかエルフに襲われるから、そこそこの大きさの村をいくつも作って交易するの。それでも人口が密集しすぎると襲ってきて滅ぼされるけど」


「あ、勝つことはできないんだ」


「そこがゴブリンの悲哀を感じさせていいのよ。どんだけでかくなっても、強くなっても、人間とエルフの軍隊には勝てない。悲しい」


「面白いのかそのゲーム」


「あ、ミカン食いたい。あったよね? 台所に」


「なに突然。あるけど。とってくれば?」


「なんて残酷なことを言うの。この寒いのにコタツから出ろだなんて。ここは素直にとりに行ってくれるべきでしょ」


 何言ってるんだコイツは。

 隼人のそんな意味合いがたっぷりと含まれているであろう視線を受けても、さくらは微動だにしない。

 外ではあまり気の強くないさくらだが、この部屋では圧倒的な面の皮の厚さを見せるのだ。

 内弁慶という奴だろうか。


「やだよ。食べたいなら自分でとってきなさい」


「ええー。じゃんけんにしよ、じゃんけん」


「しませんー」


「いいじゃん! ほら! 出さなきゃ負けよ、じゃんけんぽん!」


 さくらが出したのはチョキ。

 隼人はグー。

 じっとりと見据えてくる隼人に、さくらは笑顔を向けた。


「ほら、勝ったんだからとってきてよ」


「なんでだよ。逆でしょ。負けたんだからあきらめなさいよ」


「勝ったらどうの、負けたらどうのって決めてないじゃん!」


「むちゃくちゃ言うなぁ」


「はやく! はやく! はやく!」


「わかったよ、ったく。わがままだねホントに」


 嫌そうな顔をしながらも、隼人は再び立ち上がり台所へ向かった。

 戻ってきたときには、カゴ一杯のミカンを抱えている。


「はいよ」


「ありがとー。っていうか、こんなカゴあったんだ」


「おかし入れたりするのに便利だから」


 さくらはゲームをスリープに設定すると、ミカンを剥き始めた。

 ようやく静かになったさくらにホッとしながら、隼人はコタツに入り本を広げる。

 鳥学の学者が書いた本で、かなり専門的なことも書いてあり、内容はなかなか難しい。

 ただ、書き口がコミカルで軽快な文章であるためだろうか。

 非常に読みやすく、なかなかに面白かった。

 かなり売れている本だというので買ってみたのだが、正解だったようだ。


「ミカンジュースってさぁー。工場で作るとき、皮も絞るのかな?」


 ミカンの皮をむきながら、さくらがそんなことを言い始めた。

 隼人はハタと手を止め、眉間にしわを寄せる。

 そんなどうでもいいことを、と一瞬思ったが、言われてみれば確かに気になった。


「手作りだと、まず間違いなくむくけどな。皮は」


「だよねぇ。でも工場だと大変そうじゃない?」


「手間はかかりそうだと思うけど。機械で剥けるものなのかな」


「缶詰のミカンとかあるじゃん。アレは機械で剥いてるでしょ。たぶんだけど」


 缶詰のミカンは、確かに皮が剥けている。

 薄皮まで剥けているほどだ。


「ミカンジュース作るときって皮むく必要なさそうじゃない? 絞るだけだし。機械だと特にこう、がーってやりそうな気がするし」


「まあ、言わんとすることはわかる気がする」


「でも、ミカンの皮って案外苦いじゃん?」


「案外っていうか、まぁ。え? 食ったことあるの?」


「あるよ」


 奇妙な物を見る目を向けられ、さくらは心外だというように顔をしかめた。」


「だって、ママレードとかって皮煮込んだやつじゃん? なら、ミカンの皮だって食べられるかもしれないって思うでしょ」


「なるほど。そういう考え方もあるか。で、味はどうだったの」


「なんだろう。すごい苦いミカンみたいな味」


「ああ、ミカンの風味はあるんだ」


 皮をむき終え、さくらはミカンを一粒口に入れる。

 酸味と甘さが融合した、柑橘の味わい。


「はい、一個」


 一粒つまみ、隼人の口元にもっていく。


「ん? ああ、ありがとう」


 隼人はそれを咥え取り、咀嚼する。

 美味しい。

 さくらは基本的に我儘だが、おいしいものはほかの人と共有しようという性質を持っている。

 独り占めにしないというのは、さくらの美徳の一つだろう。


「美味しいなぁ、このミカン。もっと買ってくればよかった」


「ダンボールで買ってるのに? 小さいやつだったけど」


「実家に持ってってもいいし。さくらのとこにもっててもいいだろ?」


「うちのおかあちゃんめっちゃミカン食うしね」


「おばさん、昔みかん食べすぎて手が黄色くなったって言ってたよな」


 そこで、隼人はしまったというように顔をしかめた。


「またおばさんって言っちゃったよ。義母さんって呼ぶように気を付けないと」


「いいじゃん、べつに。なんて呼んだって。だいたい、まだ先なんだし」


「今のうちになれとかないと、後々困りそうだしね」


 先に結婚を申し込んだのは、さくらだった。

 まあ、「一生面倒見てくれ」というのが結婚の申し込みになれば、の話だが。

 それもいいか、と思ってしまったのだから、隼人の負けである。


「そうだ。おかあちゃんが、今日は早めに家に来てって」


「なんかあったの?」


「何か、煮物のつくり方教えるとか言ってた」


「ああ。おばさんの煮物旨いからなぁ。うれしいけど。あなたも覚えなさいよ、一緒に」


「ええ。やだ」


「俺がどっかでかける時とかどうするの」


「付いてく」


「仕事とかで」


「隼人と片時でも離れ離れになるなんて、耐えられない」


「食事的な意味で?」


「食事的な意味で。お腹すくのはつらいんだよ」


「自分でも作れなくはないんだから、がんばりなさいよ」


 さくらは口ではなく、顔で反論する。

 両頬を膨らませ、不満げに眉間にしわを寄せた。


「自分で料理作れると、好きなものを好きな時に食えるよ」


「マジで? 最強じゃない?」


 あっさりやる気になったらしい。

 隼人は疲れたように苦笑する。


「何時ごろ出る?」


「んー、もう少しあったまってから」


「はいはい」

なんか勢いで書いたけど、まあいいやのせちゃえって感じでのせました

のんびりとかのほほんっていうと、こんなかんじかな、ってイメージです

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― 新着の感想 ―
[一言] やってることが旦那というよりオカン
[良い点] こたつとミカン。まさに正月という風情。 今日は盆と正月が一挙に来たようなもんだし、ええかぁ。 [一言] のんびりほのぼの、毒にも薬にもならぬ。 だがそれが良いのだ。にんげんだもの。令和元…
[一言] もげろ
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