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4-9:商の王族

 父王との面会は、決まった。

 次は他の家族にも決闘を伝え、根回しせねばならない。

 いずれ劣らぬ俊英ばかりだ。しかし、不思議な才能を持った者もいる。


「星占いですかぁ?」


 いいですよぉ~。

 にこやかに笑うのは、我が二人目の姉上である。

 紫色のガウンを着ている。常時において眠そうで、実際、夜行性だ。彼女は星占いの名手であり、挨拶ついでによい日取りを占うと言ってくれた。


 ギリギリ。ギリギリ。


 耳に残る金属音は、歯車がかみ合うものだ。

 彼女は技師を呼び寄せて、星図を計算する装置をいくつも作らせていた。日付に合わせてツマミを回すと、歯車が動き、台座の星図が動く。


「年明けが、決闘にはいいでしょう」


 つぼみのような唇が、動く。

 暦表を指して、


「この日とこの日は、あなたの星座の後ろに、戦神がつきますねぇ。次の日も同じですけど、戦神のさらに後ろに、大きな大きなサソリが。サソリは騎馬の民の凶兆ですから、避けた方がいいかもですぅ」


 暦が違うので、サーシャの運勢までは分からないらしい。

 去り際、彼女は付け加えた。


「雪をどうにかするつもりですかぁ?」


 どきりとした。慌てて振り向く。


「……なら、うんと日をずらして、年明け七十日目、メディル生誕の月がよいでしょう」

「それは、なぜ」

「冬の星座と春の星座が、丁度、入れ替わるとき。番狂わせが起こりやすい。ついでにですねぇ」


 姉上は、そっと口を寄せた。


「……高原の雪解け、のはずです。今年の気候と、星ならね」


 なぜそこまで言い切れるのか。

 王都の気候と星と雲の形から、そこまで読めるものなのだろうか。

 そしてなぜ俺の思惑まであっさりばれたのか。そういえば気象を予想して、雨の量や漁獲高を推し量っているというが、本当だろうか。


「清めのお塩、ちゃんと次は持ってきてねぇ」


 去り際に、そう言われた。

 宮にはこういう人がうようよいる。やはり辺境の方が気楽であると、決意を新たにした。



     ◆



「お、戦争か?」

「物騒な挨拶はやめてください」


 商国の売り物は、果てしない。塩や魚といったものの他に、人間も売っている。

 この場合は奴隷というわけではなくて、特殊な技能を持った人間。

 傭兵である。


「兄上」


 廊下にて俺が呼び止めたのは、次兄である。長兄アルフレッドの、二つ下だ。

 赤と黄色でローブを塗り分けたこの人は、まさに刹那的な生き様を体現していた。


「久しぶりじゃねぇかよ」


 顔のパーツがいちいちでかい。数々の出先で買ったという、色も柄もさまざまな小物が、動く度に音を立てる。腰に吊った短剣は、無駄に豪奢で、さる国さる一族が奮戦の礼に送ったという噂付きだ。

 戦場では、これに羽をつけた兜を被る。

 でかい体といい、主張する柄といい、視覚的に本当にうるさい。


「馬について、教えて下さい」

「なんだ戦争じゃないのか……」

「しょぼんとしないで。実はお聞きのことと思いますが、私は馬国で決闘を」

「やっぱり戦争じゃないか!」


 声も、でかい。

 廊下にいた人々が振り向いたり、ものを落としたりした。


「静かに!」


 おかしいな。

 宮のなかに猛獣がいる。なんで誰も駆除しないんだ?


「最後まで聞いて下さいっ。馬の足について、お聞きしたいのです」


 決闘に出る以上、勝つ必要がある。

 負けた場合、伯父とテオルに花嫁略奪の根拠を与えるようなものだ。塩の道に敵方を誘う策は、保険でしかない。


「ん? だから俺らを雇えよ。金ならあるんだろ」

「血の雨が降った交易路など願い下げです……! いいですか、馬についてとにかく知りたいのです」


 ザザやサーシャといった、頼りになる馬の名手はもういない。代わりに俺を鍛えてくれる人が必要だ。

 少なくとも一月、出発を延ばせば、さらにもう一月は訓練できる。この人は雪や泥を想定した馬責めをやっているはずだし、遠征経験も頼りになろう。


 父王との面会に備え、俺は五年越しの根回しを続けた。


お読みいただきありがとうございます。


次回は、6月13日(木)投稿予定です。

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