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2-15:フランツからの長い手紙

 親愛なる姉 ジルヴィア・フィッツ様へ


 神の御名において。



 切り裂くような寒さが穏やかになり、すっかり春めいてまいりました。季節の移ろいが早まって感じるのは、今年が少しばかり忙しいからでしょうか。

 フランツィアでは、すでに天日(てんぴ)での製塩を再開しております。

 塩水を陽にさらし、塩を得る製法のことです。

 池の水が空を映すと、まるで街が天に浮かんでいるような見た目になる。清々しい毎日です。


 姉上におかれましては、いかがお過ごしでしょうか?

 緑豊かな湖で、コイやチョウザメなど、多種多様な魚類にせっせと餌をやっていることかと思います。最近では、ニシンやタラの漁獲にも精を出されているそうで。ゴネリア湖の小さな巨人の噂は、この荒野の果てにも届いております。


 まさか結婚について、あなたにご報告しないわけにはまいりますまい。

 宴の食材についてはありがとうございました。


 馬国の姫君サーシャは、人望あり、智謀あり、野望あり。十九歳の黒髪美人でございます。取り上げられた主導権は戻ってくる気配がなく、恐らく遥か草原の彼方で転売されていると思います。

 見かけたらこっそり買い戻して、私まで返送して下さい。時価で買います。


 さて。

 前置きが長くなりましたが、本題に入らせていただきます。

 最近、都市部で塩が買い占められているとのこと。まさかと思って調べましたところ、姉上のお名前を拝見いたしました。

 以降は、乱筆お許し下さい。

 しかし声を大にして言いたい。



 あんた、何考えてるんだ。



 確かに、塩の買い占めに対しては、私も隙がありました。しかしその隙を最適解でつついて殴りにくるのは、およそ可愛げがある行為とは言えません。人間が小さい。

 ことは塩、つまりは生活に必需なものの高騰なのです!

 毎日のパンでさえ、ひとつまみの塩がなければ、ふっくらとは焼けません。パン種にも塩が要るからです。馬国の平らなパンを見て驚きました。あれはあれで美味ですが、恐らく草原で塩を節約する内に、あのようなパンを思いついたのでしょう。


 話がずれました。

 想像して下さい。

 じわじわと商国のパンが薄くなり、スープの味が悪くなる。

 魚の塩漬けは買い占め主犯のあなたが作っているので大丈夫かも知れませんが。食生活が限られては、いかな大人しい民でも暴動を起こします。


 高貴なる義務を思い出して下さい。

 民を思う心。父王に尽くそうとする心。

 私にはないがあなたにはあるはずだ。


 商国第七王子 フランツ・ザルツより




 追伸


 何度も言います。

 これ以上、買うなよ。

 絶対に買うなよ?


 姉弟喧嘩じゃ済まないのです。

 嫁の魔の手があなたに迫っている。


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