まったく別の話
息が白くなりそうな冬の昼、彼女はここにやって来た。
きびきびと歩く会社員や学生、のそのそと歩く学生の波が定期的に押し寄せる。全員、俺のことをチラチラと見ては足早に去ってゆく。身体がムダに大きいと余計な注目を集めて困る。そんな鬱陶しい人波が過ぎ去った後に彼女は独りで改札をくぐる。
平均的な体のわりに大きなのコートを羽織り、不釣り合いなキャップ帽を被った彼女は小さなスーツケースを引いていた。事前に聞いた特徴と一致している。
「あんたが親父のいってた人か?」出来る限り優しい感じに声をかけたが、内心逃げられるかもなとか思っていた。
降り注ぐ光の線が視界を煩わしく横切り、前髪に隠れた目を焼く。
俺の声に気付いた彼女はゆったりと日向へと足を進める。
…目が合った。
対面した彼女の全体像から得られる漠然としたイメージは、白。周囲の光に溶解けてしまいそうな白だった。
正直驚いた。彼女の容貌は日本人のそれではなかったから。白い肌に落ち着いたブロンド色の髪、不安を宿した瞳は水晶のようにどこか涼しさを感じさせた。そんな顔が俺を見上げていた。
「あなたがマサヨシの息子の、タンケイですか?」意外にも流暢な日本語だった。が
「…親父があえてそう教えたんだろうけど、俺の名前は゛旦″゛景″と書いてアサヒだ。」
「?、アナタはタンケイではないのですか?」
「いや、あんたの言うタンケイは俺だが、俺の名前の読みはアサヒだ。」
「!?、?」
「…スマン。今はとりあえず今はそれでいい。」
彼女との出会いはこんなつまらないものだった。この時は。