森での遭遇
「向こうに生えてる分で今日は大丈夫かな」
俺の声を聞いたテオが走り、薬草を傷付けない様にゆっくりと引き抜く。
「これでいいか兄ちゃん」
薬草を持ちながら歩いてくるテオ、笑顔が土で汚れていたので少し飲水で落とし清浄の魔法もかける。
森が楽しいのかテオはとても生き生きとしている、この年頃だと汚れを気にせず遊ぶものだよな、俺も小学生の頃は山に入って虫を探したもんだ、勿論一人で…。
いかんいかん、テオの笑顔が眩しすぎて昔の俺と比べてしまった、思考が暗くなってしまったな。
「ありがとうテオ」
お礼を言って薬草を受け取りながらテオの頭を撫でる、そして少し離れた所でオークを解体していたリズ達を見る。
依頼の薬草は森の浅い場所でも取れるのだが俺達が毎日同じ場所で採取をしていたのでその場所の薬草が少なくなり、今日は森の奥まで足を伸ばして採取をしている、そこにオークが襲ってきたので採取と討伐を同時に出来てしまった、そのおかげでいつもは採取の後にオークを探すのだが今日は少し時間が余っている。
「オークもいい具合に倒せたし、まだ時間も早いから先に肉を宿に持っていきながら早めの昼食にしようか。この時間ならまだ混んでないだろうしね」
そう言うと皆が頷き、昼食と聞いたテオが嬉しそうな声を出す。
オークの肉をギルドに売る分と宿に渡す分、二つにわけてもち、皆で森の外に向かって歩き出す。
と、少し歩いた所で森の奥から空間把握に反応が出た、必死な様子で駆ける四人の魔力、何かから逃げているようだ。
「リズ、人が追われてるから様子を見てくる、ヤバそうなら一緒に逃げてくるから先に森の外で準備を。テオ、セオ、これ預かってて」
素早く話し、来た道を戻る、先程採取をしていた場所まで戻ると奥から人が走ってきた。
「そこの人逃げて!」「オーガだ」
その声を聞くと同時に四人の後ろに反応が出た、反応は全部で五、四人は五体のオーガに追われていたようだ。
「俺が引き付けるのでそのまま真っ直ぐ行って下さい、俺の仲間がいます。俺は大丈夫!早く!」
俺が引き付けると言う言葉に驚いて立ち止まろうとする四人の冒険者、俺は少し強めに声をかけて早く逃げるように促す、オーガなら余程の事が無い限り大丈夫だろう。
その直後最初のオーガが現れた。
オーガ:魔物
魔力強度:53
スキル:[怪力] [再生] [身体強化]
状態:興奮
オーガは鑑定している俺を見つけると威嚇する様に腕を振り回し、木をへし折った。
「グガァァァ」
先程逃げていた冒険者は森の中でも巧みに逃げていた、更に俺が邪魔をしに現れたので苛立っているのかとても興奮しているようだ、それに魔力強度も高い、叫ぶオーガの後ろから来る二体を鑑定すると魔力強度は33と32だ、目の前のオーガがリーダー的な個体なのかもしれない、そしてその後ろにも二体の反応がある、ここは木の間隔が狭いのでこのままオーガと戦えば森に被害が出そうだ、出来れば森の外に出たいな。
色々と思考を巡らせていると目の前のオーガが叫び声をあげながら巨体を揺らして走ってきた。
『氷面鏡』
走って接近したオーガの足元、地面スレスレに氷の鏡を作りだす、狙い通りオーガは足を引っ掻けて転ぶ、この魔法は呪文を跳ね返すという本来の使い方以外でも役に立つ、今更ながらに使い勝手のいい魔法だと思う。
『豪腕』
俺の目の前で転んだオーガの体を避け、倒れたオーガの首に手刀を振り下ろす、が豪腕を使っても断ち切れず、首の半分くらいで止まってしまった、そのオーガがうつ伏せのまま腕を薙ぐようにして足元を払ってきたのでバックステップして避ける。
「本当に皮膚が堅いな」
オーガの皮膚は物理攻撃に耐性があり、かなり堅い、一度魔法でダメージを与えるとその効果も消えるのだが俺が攻撃に使える魔法は炎系が主なので森の中では使えない。
やはり森の外に出たいな、立ち上がるオーガから距離を取りながら少しずつ下がる。
先に逃げた冒険者の反応は大分離れているし、オーガの標的も完全に俺に移っているので大丈夫だろう、俺は木が邪魔にならない様な進路を取りながら森の外に向かう。
俺とオーガが十分に通れる幅のある場所を選んで逃げたので皆とは少し離れた場所に出た。
そしてオーガも外に出てきた、木を薙ぎ倒しながらだ、その後ろから更に二体のオーガも出てきた。
離れた場所にいるレイナが来るのを待ってもよかったが、無駄に木を薙ぎ倒して現れたオーガに少し頭に来ている。
「何本も木を倒しやがって、木は大事にしろよな」
そう呟きながら呪文を唱える。
『疾風迅雷』『活性化』
疾風迅雷で纏った魔力を活性化で増幅させ、雷を帯びた風を右手の先に集める、硬い鱗を持つワイバーンも簡単に解体出来たのでオーガも大丈夫だろう、叫びながら走ってくるオーガに向かって俺も駆け出す、先に逃げていた四人が離れた場所から必死に叫んで俺を止めているがまずはオーガだ。
「ガァッ」
俺の接近に合わせて右手を降り下ろそうとするオーガ、だが遅い、腕を降り下ろす前に懐に入り、飛び上がりながら右手を振り抜き首を撥ねる。
「おらっ」
先程と違い呆気なく首を無くしたオーガの巨体を、その後ろから来ていたオーガに向かって空中で蹴り飛ばす、直ぐそこまで走ってきていた二体のオーガが俺が蹴り飛ばしたオーガの死体に足を取られ一体は派手に転び、もう一体は膝をつく。
死体を蹴飛ばして着地した後、直ぐに駆け出していた俺は膝をついたまま俺を迎撃しようと横に薙いだオーガの左腕を迎え撃つ様に、腕を振りおろしながら二の腕の部分を風の刃で斬り飛ばし、そのまま無防備になった首筋にも返す刀で右手を振るい撥ね飛ばす。
派手に転んでいたもう一体のオーガがその間に立ち上がろうとするが、立ち上がる前に素早く駆け寄り足を蹴り飛ばしてもう一度転がし、倒れたオーガの首を撥ねる。
『拍車』
そこに遅れて追い付いて来た一体のオーガが俺の背中側からガッチリと組んだ両手を思いきり降り降ろす、俺はそれを右上に飛んで避け、拍車を使い右足で宙を蹴って振り向きながらオーガの首を撥ね飛ばす。
「グラァッ」
最後の一体が宙に浮いたままの俺目掛けて右足を振り抜くが、俺は左足に残っていた拍車を使いその場で軽く上に飛んで唸りをあげて迫ってくる足を避ける。
思いきり振り抜いた自分の蹴りの勢いで半回転し、俺に背中を見せたオーガの首を後ろから撥ねた。
「ふぅ」
一息ついてからオーガの死体を集める。
「す、凄い動き。オーガ五体をまるで子供扱いなんて」
俺がオーガの死体を集めていると離れた場所にいた皆が集まってきた、声の方に振り向くと、オーガに追われていた四人の冒険者がヒッと小さく悲鳴をあげて後ずさる、その後ろからレイナが声をかけてきた。
「トーマさん、全身血だらけですよ」
レイナが俺を見て体を指差す。
返り血は魔石を取ってから洗い流そうと思ったのだが、確かに自分で見てもなかな凄惨な見た目だ、取り合えず飲水の魔法で軽く血を洗い流す。
四人の冒険者をレイナに任せて俺達は後処理をする、オーガの死体から魔石を取り、防具に使える背中側の皮膚を取り、残りは燃やす。
処理を終えた後で町に向かいながら四人と少し話をする、そのついでに鑑定もかける、俺が目線を向けると少し怯えた顔をするのが辛い、というかこの四人には見覚えがあるな、よく見ると俺達がラザに到着した日にオッサン冒険者に兎野郎と言われて絡まれていた四人だ。
ロイド:19
人間:冒険者
魔力強度:24
スキル:[採取] [剣術]
栗色の髪を耳にかかるくらいまで伸ばした少し、いやかなり整った顔の男性、モヒカンの冒険者から女性メンバーを庇っていた人だな、この人がリーダーのようだ。
ザイル:18
人間:冒険者
魔力強度:22
スキル:[採取] [斧術]
黒い短髪に顎髭を生やした少し老け顔で大きめの斧を持った男性、軽そうな革鎧を着たロイドと違いガチガチに固めた重そうな革鎧だ。
ミーヤ:20
獣人:冒険者
魔力強度:26
スキル:[採取] [弓術]
愛嬌のある顔に、触ってみたくなるピョコンとした二つの耳が特徴的な、茶色い髪に茶色い瞳の猫の獣人だ、四人の中では一番魔力強度が高いな、矢筒を背負っているんだけど、その、矢筒の紐が、胸の谷間に食い込んで存在感を、ご、ごめんリズ、鑑定してるだけだからそんなに睨まないで。
スーヤ:19
人間:冒険者
魔力強度:22
スキル:[採取] [風魔法] [土魔法]
肩まで伸びた黒髪に黒い瞳の、女の子と言ってもいい程に幼い顔立ち、黒いローブに短杖を持った黒一色のこれぞ魔法使いって感じの風体だ、尖り帽子があれば完璧だったな、元々色白だと思うが今は青白くなっている、四人の中で一番疲れた顔をしているな、魔力も殆ど残ってないし辛そうだけど大丈夫かな。
リズとレイナが四人から色々と話を聞いている間に門についた、タインさんにカードを見せると肩を組んでくる。
「おいトーマ、町で噂になってるぞ。ギルドでやらかしたんだって?まさかお前がなぁ。最初に町に来た時は頼りなかったけど随分と冒険者らしくなったな」
ニヤニヤと話すタイン、仕事で見に行けないのが残念だと言っていた、大分噂も広まったようだ。
そのままロイド達も誘って宿に向かう。
「頑張れよトーマ」「マナーの悪い連中を町から叩き出してくれ」「テオちゃん、セオちゃん前は手伝いありがと、またおやつ準備するから遊びに来てね」「ロイド、お前らもトーマ達と仲良くなったのか?」
大分広まっているのかすれ違う町の人に色々と声をかけられる。
「流石ですね、町の人にこんなに好かれてる。有名になるってこういう事なんですね」
隣を歩いていたロイドが俺に声をかける、俺に対する怯えは消えたようだ、それよりもリズ達から話を聞いてロイドとザイルは俺を尊敬するような目で見てくる。
彼等も俺達の噂を聞いてラザに来たらしいが、俺らの顔は知らなかったらしく、リズから俺達が兎の前足だと聞いて驚いていた、オーガとの戦いを見た後だったので若い見た目でもすぐに信じられたようだ。
でも彼等の方が年上だしなんだかくすぐったいので敬語は使わないでいいよと話ながら宿についた。
宿でジーナに肉を渡すとジーナもタインと同じ様にニヤニヤとしながら肉を受け取る。
「毎日ありがとよ、それにしても随分と大事になってるじゃないかい、あんまりやり過ぎるんじゃないよ」
口ではそう言っているがかなり楽しそうだ、ジーナもタインもこういう事が好きそうだなと思いながら苦笑いを返す。
「程々にしますよ、それよりジーナさん、人数分の定食をお願いします」
俺はロイド達の分まで注文をして食堂に行く、まだ昼の鐘は鳴っていないので客も半分程度だ、二つのテーブルをくっつけて座り、料理が来るまでに軽く話を聞く。
ロイド達は元々はラザの北にある少し大きな村の幼馴染み同士で、村で採取と狩りをして、腕も上がったしそろそろ冒険者になろうかと思っていた所で俺達の噂を聞いて、近くにそんな凄い冒険者がいるならその町で冒険者になろうと思って村を出てきたようだ、だがラザで冒険者になったのはいいけどラザには俺達はいないし、他の冒険者、特にあのオッサン冒険者達に絡まれるしで村に帰ろうかと思い始めていたようだ。
「でも、村に帰っても冒険者の仕事はあまり無いんです。だから依頼に出る時間を朝早くにして絡まれないようにしてたんだけど昨日の依頼帰りにまたアイツらに絡まれて」
それで売り言葉に買い言葉でオーガを倒してくると言ってしまい、今日のような事になったようだ。
「わた、私のせいなの。だからロイドを責めないで欲しいの、森で巻き込んでしまった事は謝ります、すいませんでした」
ミーヤが頭を下げて謝ると他の三人も巻き込んでしまってすいませんと謝る。
どうやらあのオッサン冒険者達に女性二人、特にミーヤがモヒカンの冒険者に気に入られているらしくしつこく絡まれているみたいだ。
イケメンでリーダー、村の幼馴染み同士、町に出て冒険者になる、そして先輩冒険者に女の事で絡まれる、こういう話を物語でよく見るけど本当にロイドの様な事があるんだな、リズとレイナも可愛いし、たまに女性としても見られたりはするけどあまりしつこくは絡まれないよな、なんでだろうな、やっぱり…。
「トーマ?」「話を進めて下さい」
リズとレイナから感情の無い声と感情の無い目が向けられた、背中を冷や汗が伝う、俺は姿勢を正し、ミーヤの胸に向けていた視線を戻す、何故そこまで惹き付けられるのか、胸の大きい人は他にも見たけどそこまで気にならなかった、あの胸を強調する紐のせいなのかという疑問は残るが、二人がとても怖いので今は話を続ける。
「四人の事情はわかった、それで四人は村に帰るの?」
すると俺の言葉に四人は俯く、多分村には帰りたくは無いんだろう、だけど今のラザは採取を中心にする冒険者にはあまり居心地もよくないだろうし、俺達に迷惑をかけた負い目もあるんだろう、弱気になってしまっている四人に少しだけ俺達の事を話す。
「採取も町の手伝いも立派な冒険者の仕事だと思うけど四人は嫌なの?俺は採取も町の手伝いも好きだよ。さっきロイドが町の人に好かれてるって言ったけど、それも採取や町の手伝いをしたおかげで町の人と仲良くなれたからで、四人が聞いてる俺達の噂は関係ないよ」
俺の言葉にロイドが驚く、町の人に声をかけられたのは俺達が有名になったからだと思っているようだ。
「ほら、俺達のパーティー名は兎の前足でしょ?俺達も最初は兎野郎って言われてたんだよ、だけど俺は町の人と仲良くなれる採取や町の手伝いが好きだったからね、だから兎の前足って名前にしたんだ。それに今でも採取と町の手伝いをしてるし」
そう言って今日採取してきた薬草を見せる、すると四人は顔を見合わせる。
「ロイドだって町の人に名前を呼ばれてたでしょ、ちゃんと依頼をしているから町の人も感謝してるんだよ」
俯いていた顔が少し上がってきた、もう少しだ。
「だからもう少し頑張ってみない?それに、一時的なものかもしれないけど今日からは少し過ごしやすくなると思うよ」
俺がそう言うとロイドは完全に顔を上げて尋ねてくる。
「そういえば町の様子が少し変でしたね、これから何かあるんですか?」
何度言っても敬語をやめてくれないロイド、それは後回しにして今日の朝ギルドであった事を話す、それを聞いて声を上げて驚く四人にラザで冒険者を続けてみないかと話す。
「俺は採取も町の手伝いも好きって言ったでしょ、だからそれを兎野郎って馬鹿にされるのは嫌なんだ。ロイド達もさ、もう少しこの町で冒険者をしてみない?」
四人全員が顔を上げた、ここで少し嫌な事も話す。
「勿論今日の件でロイド達は少し信用を落とすかもしれないけど、それでもロイド達が周りに乗せられずにちゃんと依頼をこなせばいい冒険者になれると思うんだ」
ロイド達は銅級冒険者でもうすぐ銀下級に上がれそうだったらしい、だけど今日、依頼も受けずに森の奥に行き、無謀にもオーガに挑んだあげくに他の人を巻き込んだ、俺達がオーガを倒せる冒険者だったからよかったけどこれが同じ銅級や銀下級の冒険者だったなら全員死んでいたかもしれない、だからこの件はギルドに伝える、そうするとロイド達の昇級は当分無くなるだろう。
それでも俺は四人に残ってほしい、四人全員が採取のスキルを持ってるし、村で狩りをしていたせいなのか体の動きもよかった、オーガから逃げる時の森の中での動きも慣れていたし、なにより兎野郎と馬鹿にされたロイド達なら同じ事を他の冒険者にはしないのではと思う。
「俺達でも立派な冒険者になれると思いますか?」
四人が真剣な顔で聞いてきたので真剣に答える。
「俺はそう思ってる、けど俺もまだ人に言える程には立派な冒険者じゃないからね、だから色々と言ったけど、町に残って冒険者を続けるかは最後は四人で相談して決めてほしい」
俺がそう言った時にジーナが料理を運んできた。
「トーマの言う通りだよ、冒険者なんだから自分の事は自分で考えな。他人に流されるんじゃなくて自分の目で見て自分で決めなきゃ冒険者になった意味が無いだろう。さぁさぁこれでも食って午後からのトーマを見てからゆっくりと考えてみな」
ジーナに促され、そして俺達も食べ始めたのでロイド達もゆっくりと食事に手をつけ始めた。




