ジーヴルの夜
俺達が城に行った次の日、王は王子とエレミーの婚約を近々発表すると重臣達に伝えたようだ。
エーヴェンはダスティンからその話を聞いたらしく、婚約発表迄にエスターヴ家は必ず何かを仕掛けてくると俺達や獅子の鬣のメンバーに注意を促す。
婚約が発表されるとエレミーは正式に王子の婚約者になる、その王子の婚約者にもし何かあれば王家が本格的に介入する理由になるし、王子の婚約者を害した犯人だとバレてしまうと民衆からの信頼を無くし、いくら力ある公爵家といえど当主だけではなくエスターヴ家その物が潰れてしまうはず、エスターヴ家の当主がまだ諦めていないなら民衆に正式に発表される前になんとかするしかないだろうとエーヴェンが教えてくれた。
それならエスターヴ家が動く前に婚約を発表した方がいいんじゃないかと思ったがエーヴェンがダスティンから聞いた話によると、この機会に王もダスティンも先代まで王の側近として仕え力を持ちすぎたエスターヴ家の弱体化を狙っているようだ。
邪魔な勢力の力を排除する為に自分の息子や娘の婚約を利用するというのは俺には理解出来ないが国の為には仕方ないんだろうか。
俺達はその話を聞き、いつも以上に修行に熱を入れる。
「はい、二日後に仕掛けたいと思います。では早速準備を整えて参りますので失礼します」
エスターヴ家の屋敷、書斎から執事のアルヴァが出てくる。
アルヴァはそのまま屋敷を出ると、その足で城下町に消えていった。
王が婚約の事を重臣達に伝えてから二日が過ぎた、今の所何も無く、修行も順調だ。
もしかしたら諦めたのかな、そう考えていたらテオが寄ってきた。
「なぁなぁ兄ちゃん、今日は一緒にリックの家で夕飯食べようぜ、クリスも来るんだぞ。リックの母ちゃんのご飯は凄く暖かくて美味しいんだ、そこに兄ちゃんがいたらもっと暖かくなると思うからさ」
テオはリックの母親にとても可愛がられているようだ、ジーヴルでも奴隷を持たない平民には獣人に対する認識が各々で違うようで、リックの母親はテオが獣人だからと特に気にしていないみたいだ。
「テオ、トーマさんは大事な役割があるから屋敷を離れる事は出来ないよ、今日は僕で我慢してほしいな」
クリスがテオに、感知スキル持ちの俺は屋敷を離れる事が出来ないと説明する、クリスは最近獅子の鬣のメンバーとよく一緒に行動するようになっている、今まではエーヴェンの側を離れなかったが森人の里から帰ってからは仲間と交流を持つようになり大分冒険者らしくなっていた。
「テオ、俺も是非行きたいんだけど今は屋敷から離れる訳にはいかないからな、依頼が終わったらお邪魔しようかな」
婚約の事を伝えた今が一番危険なので俺は屋敷を離れる事が出来ないと説明するとテオは素直に納得してくれた。
「そっか、そうだな。ごめん兄ちゃん、リックの母ちゃんが一度兄ちゃんを見てみたいって言ってたんだ。そうだよな、毎日楽しくて仕事なの忘れてた」
へへっと笑うテオの頭を撫でてやる、毎日の修行とリックの家族と暮らすのが楽しいんだろうな、旅もいいけど俺も早く皆とのんびり暮らしたいな。
その日も修行を終えて獅子の鬣のメンバーと別れる、今はエスターヴ家執事のアルヴァがいつ来ても対処出来るようにリズと半日交代で起きている、庭でエレミーとお茶を楽しんでいたレイナにリズを起こして来るように頼み俺は部屋に戻った。
テオ達は修行を終え、日も沈み薄暗くなってきて、人も疎らな町の中を会話をしながら帰路につく。
「なぁリック、兄ちゃんは仕事が終わったら家に来るんだって、その時にティシールおばさんに紹介しような」
「ああ、お前とバートとリエットが毎日トーマの事を話すから母ちゃんもトーマに会いたいって言ってたな」
テオとリックの会話を聞いてリックの弟のバートと妹のリエットも声を上げる。
「だってトーマ兄ちゃんの修行本当に凄いんだ、テオには敵わないけど俺も強くなったんだ、将来は獅子の鬣のメンバーになってリック兄ちゃんを助けてやるからな」
「私は獅子の鬣じゃなくて兎の前足に入るの、そしてテオ君のお嫁さんになるんだよ」
手を繋ぎ本当の兄妹のように歩く三人を見てリックとクリスは顔を見合わせ苦笑いをする。
「リエットちゃんはまだお嫁さんに行くのは早いんじゃないかな?お母さんが寂しがるよ」
この数日、一緒に修行をした事で子供達とも話すようになったクリスは、もう少しお母さんと一緒にいた方がいいよとリエットの頭を撫でる。
リックの家は早くに父親を亡くしていて、母親とリックの稼ぎで生計を立てている。
母親も仕事、そしてリックが依頼で町を離れると弟妹達は寂しい思いをしていたのだろう、だがここ最近二人はテオと一緒によく笑うようになっている。
「こいつらには今まで寂しい思いをさせてきたからな。今度の森人の依頼、そしてエーヴェンさんの家の警護も公爵様からの正式な依頼になったからな、その報酬でこれからは母ちゃんも仕事に出ないですむはずだ」
「ええ、そうですね。しかも警護という名目ですが毎日の修行で強くなれる、本当にトーマさんには感謝ですね。トーマさんが屋敷にいるならエスターヴ家が何をしても大丈夫でしょう」
クリスの言葉にリックは声を上げて笑う。
「ははっ、それに伯爵家の三男だったお前の事も冒険者にしてくれたしな。お前がこんなに変わるとは思わなかったぜ」
クリスはムッとした顔でリックを睨む。
「それは言わないで下さい、確かに僕は少し高慢な所はありましたが間違っていたとは思いません、ただ貴族には貴族の、冒険者には冒険者の生き方があり、相手の立場を考える事、そして今の僕は冒険者だという事を自覚しただけです」
「悪い悪い、でもお前が変わってエーヴェンさん喜んでたぞ、エーヴェンさんはお前の気持ちもわかるけど冒険者としては心配だって言ってたからな」
エーヴェンの名前を出されてクリスは言葉に詰まる。
「た、確かにエーヴェンさんに心配はかけましたが元々はリックみたいな粗暴な男がサブリーダーをしているのが悪いんです、トーマさんのように素晴らしい人がサブリーダーだったなら僕ももっと早くに冒険者の事を理解出来ていました」
「お前もトーマに惚れ込んだもんだな。悪いな粗暴な男がサブリーダーで、でもそれも気楽でいいもんだろ?前のお前は力が入りすぎて余裕が無かったからな」
リックとクリスは軽く言い合いをしながら子供達の後ろをついて歩く、そして町の中心を走る街灯の並ぶ大通りからリックの家に行く為に横道に入る。
横道に入り街灯の無い薄暗い路地を少し歩くと目の前に突然黒い外套と布で口許を覆い、両手にナイフを持った三人が立ち塞がった。
クリスが直ぐに身構え緊張した声を出す。
「リック、ポルダの宿で襲撃してきた相手と同じ格好です」
「ああ、まさか俺達の所にくるとはな」
後ろにもいつの間にか同じ様な格好で、両手にナイフを構えた三人が立っていた、リックは子供達を庇うように前に出る、そしてクリスは後ろの刺客を警戒する。
すると前に立つ三人の刺客の更に後ろからもう一人同じ格好をした人物が歩いてきた、その人物は布の下にある口からくぐもった声でリックに話かける。
「そこの獣人奴隷を渡して欲しい、そうすればその奴隷にもお前達にも危害は加えないと約束する」
抑揚の無い声で淡々と話す刺客の言葉をリックは即座に否定する。
「はっ、この場に奴隷なんざいねぇよ。それにそんな怪しい格好をした奴の約束なんてあてにならねぇだろ」
リックは男の言葉を鼻で笑い飛ばし、テオに小声で話す。
「テオ、俺が合図をしたら後ろの三人に突っ込むんだ、そして俺達が隙を作るからなんとか抜け出してくれ、バートとリエットを頼む。その後は俺とクリスがコイツらを食い止めるから屋敷に行ってエーヴェンさんに知らせてくれ」
テオはリックの言葉に一瞬戸惑うが自分の手を握るバートとリエットの震えに気付き、リックに頷く。
「どうしても渡すつもりはないか?」
男の言葉にリックは首を振り、大声を出す。
「今だ、走れ!クリス後ろを抜けるぞ」
言うやいなやリックは身体強化をかけ後ろに走り出す、声を受けてクリスも対峙していた三人に向けて走り出す。
突然向かってきた五人に、後ろを塞いでいた刺客の三人は両手に持っていたナイフの片方を投げつける。
リックとクリスは刺客の投げたナイフを剣で叩き落とし、テオは籠手で受け流す。
「おらっ」
ナイフを弾き、刺客に肉薄するとリックは剣を振り上げ大降りで三人の中央に振り下ろす。
それを横に避ける刺客に更にクリスが鋭い突きを放つ。
大きく踏み込みながら繰り出される三つの突きを体勢を崩しながらもなんとか避けた刺客だが中央に大きな隙間が出来る。
「バート、リエット走れ!テオ、頼んだぞ」
体勢を崩した刺客に更に剣を横薙ぎに払い飛び退かせるとリックが大声を出す、刺客達が飛び退いて出来た隙間をテオ達が抜け出す。
「お前らの相手はこっちだ」
大通りに向かうテオ達を顔で追う刺客だがリックがわざと声を出しながら、子供達を追わせないように更に追撃をする、刺客達はその追撃を避け、テオ達を追うのを諦めるとリック達に向き直る、後ろから四人の刺客も近付いてくるとリックとクリスは囲まれるような形になった。
「クリスすまねぇな」
「いえ、僕も子供達を逃がそうと思っていたので。それにリックならああすると思っていましたよ」
背中を合わせながら会話をする二人にリーダー格の刺客が声をかける。
「妙だな、お前達は大して実力も無い銀級冒険者のはずだが今の動きはなかなかの物だ」
「へへっ、驚いてくれたなら真面目に修行した甲斐があるってもんだな、嬉しいねぇ」
冷や汗を流しながらも軽口を叩くリックに刺客は淡々と話す。
「まあよい、出来れば獣人奴隷の方が良かったがお前達でも少しは使えるだろう」
リーダー格の男がそう言い、手で合図をすると刺客達がリックとクリスに襲いかかった。
部屋でウトウトとしていた俺の空間把握に酷く慌てた様子の気配が近付いて来るのを感じ目が覚める、眠っていても空間把握の感覚は鋭くなるばかりだ、最近は様子の違う気配を感じると直ぐに目が覚めてしまう、そのうちスゥニィの様に夜の野営では眠れなくなるかもな。
ベッドから起き上がり水を飲んでいると部屋のドアが乱暴に叩かれた、直ぐにドアを開けるとテオと泣きそうな顔でリックの弟妹、バートとリエットが立っていた。
「兄ちゃん!大変だ、リックとクリスが!」
酷く慌てた様子のテオから事情を聞き取る、その間にエーヴェンとその後ろからロルドも駆け付けてくる。
「まさか直接ではなくリック達を狙うなんてね、今他のメンバーに声をかけて襲われた場所に行ってもらってる、トーマ君は屋敷の警戒をお願いするよ。俺はリズさんにもこの事を伝えてくる」
エーヴェンが公女の部屋に行ったので俺はロルドに子供達の飲み物をと頼んで部屋に入る。
「兄ちゃん、リック達大丈夫かな。リックとクリスが俺を逃がすために囮になってくれたんだ、向こうは俺を狙ってたんだ」
悔しそうな顔でテオが拳を握る。
テオを狙ってきた?向こうの目的は何だろう、俺が色々と可能性を考えているとロルドが飲み物を持ってきてくれたので震えているバートとリエットに飲ませ、落ち着かせる。
「トーマ兄ちゃん、リック兄ちゃん大丈夫だよな、助けてくれるよな」
「トーマお兄ちゃんお願い、お兄ちゃんを助けて、やっと母さんに楽がさせられるって喜んでたの、それにクリス兄ちゃんも」
泣きそうな顔のバートとリエットに大丈夫だと頷く、二人を落ち着かせていると屋敷の外に大勢の気配を感じる、獅子の鬣のメンバーが集まってきたようだ。
「トーマ様、エーヴェン様が庭に来て欲しいと」
ロルドに言われ、庭に行こうとするとテオ達もついてこようとする。
「テオ、バートとリエットと一緒にここで待ってて欲しい」
だがテオも、バートとリエットも首を強く横に振る。
「兄ちゃん、俺達も行く。リックとクリスの事が心配なんだ」
強い意思を持ったテオの顔に思わず頷き三人を連れて庭に向かう。
庭に出るとエーヴェンが難しい顔をしていた。
「リックとクリスは?」
俺の問いにエーヴェンは小さく首を振ると襲撃場所を見に行った人の話を教えてくれた。
「襲撃場所を見に行ったメンバーの話だと争った様子と血溜まりがあったけど誰も残っていなかったようなんだ、リックとクリスの安否もわからない」
血溜まりと聞いてテオ達が強張る、死体が無いという事は連れ去られたのかそれとも既に殺されているのかもわからない。
「今メンバーの半分を町の捜索に向かわせているんだけどね、もし二人を連れているなら簡単に町を抜ける事は出来ないはずなんだ」
既に町の門は閉じられている、町を抜けるなら門以外、壁を越えてという事になるので二人を連れて町を抜けるのは大変だろう、公爵の家に二人を連れていくというのも発見された時に危険があるのでしないはずだ、だから町の何処かに潜んでいるのでは無いかとエーヴェンが言う。
公爵程の家だ、外に通じる抜け道のような物は無いのか聞くと、大きな町では外と町の中を繋ぐ抜け道を作るのは相当な重罪らしい、建物を建てる時は厳しい検査があるらしく、大きな町では身元の確認が出来ない人を町に入れないように、門以外からは入れないようにしているようだ。
魔物や犯罪者等もそうだがこの世界では魔族もいるし抜け道を魔族に利用される可能性があるからだろうな。
だから町からは出ていないだろうということで獅子の鬣のメンバーは半数が町で捜索をし、残りの半数が屋敷の警護だ、捜索にあたっているメンバーが戻って来ないとどうしようもないので、心配そうにオロオロとしているテオとバートとリエットをとにかく落ち着かせ、まだ情報が足りないからと屋敷の中で待つように説得する。
「兄ちゃん、ティシールおばさん…、リックの母ちゃんなんだけど家で俺達を待ってると思うんだ、だから誰かティシールおばさんに帰りが遅くなるって知らせに行けないかな?」
テオがバートに大丈夫と言いながら頭を撫でたり、リエットの手を握りしめたりと二人を気遣うようにしながら誰かリックの家に知らせに行ってくれと言う、確かにもう暗くなっているのに家に帰らないと心配するだろうな、俺はテオにわかったと返事をしてエーヴェンに獅子の鬣のメンバーを数人リックの家に向かわせて欲しいと頼む。
エーヴェンは直ぐに了承し三人のメンバーに声をかけてリックの家に知らせに行くように指示を出す、リックが襲われた事は伏せてハンプニー家に泊まるかもしれないと言わせるようだ、それを見てテオ達はようやく屋敷の中に入っていった。
それから数時間、何回か町に出ているメンバーが戻って来たりしていたが手掛かりも無く、もしかして町を出たのかと思い始めた頃に捜索をしていたメンバーの一人が慌てて庭に駆け込んで来た。
「エーヴェンさん!これを」
そのメンバーは手に持っていた黒い背負い袋をエーヴェンに渡す。
エーヴェンが袋の口を下にして中を庭に出す、すると中から見覚えのある大人の右腕が出てきた、太めの腕に無数の傷、あれはリックの右腕だ。
エーヴェンはその腕を見て袋を持ってきたメンバーにこの袋はどこで、リックはどこだと詰め寄る、俺はリックの右腕に驚き声を失ってしまう、袋を持ってきたメンバーはエーヴェンに詰め寄られるままに黒い外套を羽織った男から袋を渡されたと伝える。
「俺が貧民街に入ろうとしたら入り口で黒い外套を羽織った男達に囲まれて、それで袋を渡されました。そしてトーマ一人だけで来るようにと場所を教えられました。そこにリックとクリスもいると、今はまだ生きているとも言っていました。時間は今から一時間後、来なければ一時間毎にリックやクリスの四肢を送ると」
ジーヴルの貧民街はこの広い町の外れにある、そこは孤児や解放奴隷、または表に出る事が出来ない者が集まって暮らす場所だ、ラザやリストルには貧民街は無かったが大きな町には付き物らしい。
特に奴隷を多く扱う町では解放された奴隷が他の仕事につけず貧民街に身を落とすようだ、子供の頃から奴隷として買われると奴隷以外の事が出来ないとリズが言っていた。
メンバーから話を聞いたエーヴェンは俺に向かって苦しそうな顔で話す。
「トーマ君、敵は君を屋敷から誘き寄せ、その後で屋敷を襲撃する気かもしれない。君がいなくなると敵がいつどこから襲ってくるかわからなくなるからね、そうなると今度はエレミーが危険になる」
ジーヴルに戻ってからエーヴェンも他の感知系スキル持ちを探していたが感知系スキルは感覚に寄る部分も大きく、野生に住む魔物や、より自然に近い田舎で活動する冒険者だとスキルを持つ者も結構いるがジーヴルの様な都会で生まれ活動する冒険者では感知系スキルは育ちにくくなかなか見つからないのだ、最初の襲撃で殺された獅子の鬣の感知系スキル持ちの三人も依頼で田舎に出た時に見つけたらしい。
なので今も感知系スキルを持つのは俺一人、その俺が屋敷を離れると襲撃や忍び込む者がいても気付けないかもしれない。
だから俺はここを離れる訳にはいかないとエーヴェンは言う、他のメンバーも肩を落とす。
「じゃあリックとクリスは…」
「残念だけど彼等も冒険者だ、自分達より依頼が優先されるのはわかっていると思う」
血が流れる程に拳を握り締め辛そうに喋るエーヴェン、冒険者の命は軽く、また依頼が最優先なのもわかる、だけど俺はテオにリックとクリスは大丈夫だと言ったんだよな。
それにリックはテオの面倒も見てくれたし俺では出来ない考え方の部分をテオに教えてくれた、クリスも最初の出会いはどうあれジーヴルに戻ってからはよく話しかけて来たり休憩中に飲み物を持って来てくれたりと年下の俺を慕ってくれた。
エレミーもリズやレイナ、セオに良くしてくれているようだ、俺はどっちも守りたい。
「エーヴェンさんも出来る事ならリックとクリスの二人を助けたいですよね?」
「それはそうだ!だけどトーマ君が離れるとなると…」
大きな声を上げ、そして再び肩を落とすエーヴェン。
リックとクリスはエーヴェンが獅子の鬣を結成した時の最初のメンバーだ、サブリーダーとしてパーティーを支え、エーヴェンに冒険者としての考えを教えたのもリックだ。
クリスは小さい頃からハンプニー家に仕え、またエーヴェンが冒険者になると言った時に不満を感じながらもエーヴェンと一緒に冒険者になった。
エーヴェンも人間だ、この二人には他のメンバーよりも思い入れがあるだろう、俺だってリズ達が人質に取られたら依頼なんて放り出して助けに行くはずだ。
妹と大事な仲間、その間で揺れる苦しそうなエーヴェン、だから俺はエーヴェンに一つの提案をする。
「俺も出来るならリックとクリスを助けたい。それで、リックとクリスを確実に助ける為にはリズの力も必要です」
「なっ、トーマ君に合わせてリズさんまで屋敷を離れたら」
俺の話に驚くエーヴェンを手で制し話を続ける。
「俺の考えでは何とかなると思います、怖いのはアルヴァがここの襲撃に加わる事ですがそれもエーヴェンさんなら勝てないまでも時間を稼ぐ事は出来るはずです。俺の考えが上手くいけばリックとクリスを助けて直ぐに戻れるはずです」
向こうは人質を盾に俺を屋敷から誘き寄せ時間を稼ぎ、その間に屋敷を襲撃するつもりだろう、流石に俺の命を取ろうとするなら俺も本気で抵抗するしリックとクリスは助けられないかもしれないがそれは無いはずだ…と思う、正直不安定な賭けだが可能性は高いはずだ。
俺は俺の考えをエーヴェンに話す、少し迷っていたエーヴェンだが最終的には頷いた。
それからは屋敷が少し壊れるかもしれないとダスティンに話し、リズ達にも話を通す、そしてテオとバートとリエットを呼び、今からリック達を助けてくる、ここが襲われるからしっかり守っててくれと伝えた、リックとクリスをお願いしますと縋りついてきたバートとリエットの頭を撫でてテオにも頷く。
そろそろ準備が出来そうだ、向こうは形振り構わないやり方で来ている、屋敷から避難させるとその時に拐われてしまう可能性もあるので屋敷で働く人には一ヶ所に集まってもらい、若い使用人の女性には本人に確認して許可を得た人にはエレミーから服を借りて着てもらう、相手を惑わせる為だ、必要無いとは思うが少しでも出来る事はやっておかないとな。
町に出ていた獅子の鬣のメンバーも全員集まり、準備も出来たので俺はリックの腕が入った袋を持ってきたメンバーから詳しい場所を聞き貧民街に向かった。




