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大規模討伐

 

 翌日からも初日と同じ様にスゥニィの指導を受け訓練は続いていく。俺は敵が少し強めだと身体操作を使い、数が少なかったり弱い敵だと素の体で戦闘をこなして空間把握を使いながらの戦闘に慣らしていく。

 最初から身体操作や身体強化に頼って体を鍛えるよりも素の体を鍛え、経験を積んでからそこに身体操作を上乗せする方が動きも良くなる事を真眼で確認していたからだ。

 それにはスゥニィも同意してくれた。


 そうして日の光、月の導き、火の力、水の癒し、木の温もり、土の恩恵、と日本で言う所の曜日が過ぎて、オーク討伐の日である風の調べの朝、俺達は冒険者ギルドの前、噴水前の広場にいた。


「皆よく集まってくれた。今から大規模なオーク討伐をする為に森の奥に行くが思ったより魔物の数が増えているようだ、なのでオーク以外の討伐も積極的にお願いしたい。それから、言わなくても大丈夫だとは思うが倒した魔物の主張などで揉めない様に頼む」


 大きな声で話すのは中年の男性だ。


「何人かギルドの職員も随行するので何か問題があれば直ぐに報告を頼む。予定では昼に一度休憩を挟むが、それ以外は移動と戦闘の連続になると思うのでかなりキツいとは思うが皆の働きに期待している」


  普段滅多にギルドに顔を出さないスゥニィの代わりで、実質的な責任者になっている副ギルド長ハミルの挨拶が終わると、五十人程の冒険者集団はギルド職員に先導されて町の外に向かう。


 俺達は集団の最後尾の方を歩いていた。

 集団の中だと身動きが取れなくなる、そうなれば空間把握があるとはいえ四方からの攻撃には少なからず対応が遅れるので、魔物やロビンズ達に気を配らないといけない俺達は最初から後方で動く事を決めていたのだ。

 後方は獲物との戦闘が減るので、荒事が好きな冒険者集団ではすんなり位置する事が出来た。


 そうして町の外に出て街道を森に向かう、空間把握でロビンズ達に気を配ってはいるが、ロビンズ達は前の方にいるのか気配が感じられない。

 だが朝の集合ではレーモンがずっと俺達を睨んでいたので確実に機会を待っているはずだ。





 午前中は何事も無く、戦闘も後ろから来る魔物を数回倒した程度で昼になった。そして丁度良い具合に開けた場所が見つかったので一度休憩に入る事になった。


 集団は思い思いの場所に座って倒した魔物の戦果を確認したり傷の治療などをしている。

 バラけてはいるが円に近い形で休憩しているので殆どの顔が見渡せる。半数は何度かギルドで見た事がある顔で、残りの半数は他所から稼ぎに来た冒険者の様だ。

 

 昨日のうちに宿の料理人のノーデンに頼んでいて、今朝ジーナから受け取った弁当をリズやレイナと一緒に美味しいねと食べながら、冒険者の顔を見回していると嫌な顔が近づいて来た。


「よぉ、美味そうなもん食ってるな。兎野郎はオーク討伐に参加するのにピクニック気分か?」


 相変わらずレーモンが小馬鹿にして来る、ルーズが隣でヘラヘラと笑い、ロビンズは二人の後ろで薄笑いを浮かべている。


「味はいいですが普通の弁当ですよ。金級なのに仲間にまともな昼食も食べさせて無いんですか?レイナも貴方のパーティーに行かないで済んで良かったです」


 俺はレーモンを無視し、ロビンズを挑発する。これはロビンズを怒らせて判断力を奪い、奇襲を単純な物にしようという狙いがある。

 昨日の夜に、絡まれたらリーダーであるロビンズを挑発しようと話し合ったのだ。


 俺の挑発を受けレーモンは顔を赤くし、ルーズは真顔になり、ロビンズは薄笑いをやめ目をギラつかせるが、直ぐに薄笑いを浮かべると冷静に言ってくる。


「いやいや、私達は何時も豪華な食事を食べていますよ。ただ冒険者として依頼の最中は何が起きても直ぐに対応出来るように、食事も片手で食べる事が出来る携帯食の方が都合がいいんです」


 冒険者ならそのくらいの慎重さは必要ですよと言ってくるロビンズに、今度はリズが挑発をする。


「金級冒険者なのにご飯を両手で食べるだけで不測の事態に対応が出来なくなる程度の実力なんですね。慎重というより臆病にしか見えませんけど」


 スゥニィからの助言で、ロビンズの様な見栄を張るタイプは肩書を使って挑発した方が効果があると言われていたので金級を強調して挑発する。

 するとをロビンズは小さくため息を吐き、肩を竦めて首を振るとレイナに話し掛けてくる。


「先輩冒険者を敬えないパーティーにいるよりこちらの方が貴女にとってもいいと思いま「思いません」す」


「このガキッ」


 ロビンズの話を途中で遮り、取りつく島もないレイナに、レーモンが掴みかかろうとするがロビンズが制止する。


「レーモンやめなさい。どうやらレイナさんの意志は硬いようです、本人にその気が無いのなら潔く諦めましょう。では午後からのオークの討伐、お互いに頑張りましょうね」


 そう言うと二人を連れて去っていく、リズは全然潔く無いくせにと後ろ姿に叫んでいた。

 俺達のやり取りを途中から面白そうに見ていた視線もロビンズ達が去ると散っていき、残りの休憩を思い思いに寛いでいた。




「皆充分に休憩は出来ただろうか?良い場所が見つかったので、ここを中心にこれから三時間ほど時間をかけて魔物を討伐し、二時間程かけて町に戻る予定だ。戻る前に笛を鳴らすので音が聞こえたらこの場所に戻って来て欲しい。笛を吹いてから三十分程で町に戻るのでそのつもりでいてくれ。笛の音に反応する魔物を減らす為に近場から狩ってもらえると助かる」


 副ギルド長のハミルが冒険者を見回す。


「あぁ、それから午前中に倒した魔物の素材は目印をつけてここに置いていてくれ。今から応援で荷車が来るので、職員が査定してギルドに運んでおくから目印だけは忘れずに頼む」


 随行のギルド職員がそう言うと、みな素材などを纏めてどのパーティーが狩った素材かをわかるように目印をしていく。

 慌ただしくパーティーを組んだので考える時間の無かった俺達は、まだパーティー名が決まってないのでそれを職員に伝えて、今日だけ使うパーティー名として、俺が最近よく言われる兎野郎から思い付いた兎の前足(仮)で申請した。


 すると横で聞いていたレイナに名前の理由を聞かれたので答える。


「俺の故郷では兎の足は幸運を運ぶ御守りになってたんだよ」


「それってとても素敵だと思います!そのまま正式な名前にしましょう!」


 思い付きで決めた名前だが、その理由を聞いたレイナはかなり気に入ったようだ。正式な名前にするかは討伐が終わったら考えようと宥める。


 素材も無事にギルド職員に渡し、冒険者が広場を中心に散っていくので俺達も人の少ない方を森の奥に向け歩いていく。ロビンズ達の視線を感じるが今はまだ仕掛けて来るつもりは無さそうだ。






 オークの振るう棍棒を籠手で逸らす様に受け流し、身体強化で威力をあげた手刀で首の骨を折る。


「レイナ!左に雷だ、リズは右のオークを頼む」


『スタン』


 言いながら左のオークに向き直ると、呪文で発動したレイナの雷魔法に撃たれ腕を振り上げた体勢で動きを止めたオークに、軽く飛び上がりながら首に蹴りを放つ。

 声を掛けずに俺一人でも対応出来るのだが、パーティーとして余裕がある戦闘こそ、確認や連携の意識を保つ為に声掛けは習慣付けろとスゥニィに言われている。


「これでっ終わり!」


 蹴りで確実に倒したのを確認してリズに振り向くが、リズも袈裟斬りにオークを斬り倒し、辺りを一度確認しているところだった。

 リズとレイナも指示待ちや空間把握に頼りきりにならないように、安全を確認するまでは警戒を切るなと言われている。

 

 六体のオークに襲われたが問題なく倒し、魔石だけ剥ぎ取る。肉は数が多いので手に余る、なので二ヶ所に分けて火をつける。


「流石に奥の方に来ると数も増えるね、肉が勿体無いけど仕方ないか」


「そうだね」


 リズの言葉に頷きながら火が燃え尽きるのを待ち、燃え尽きたところで土をかけていく。


「それで向こうはどうですか?」


 レイナがロビンズ達の様子を聞いて来たので答える。


「アイツらも魔物を倒しながら付かず離れずって感じかな」


 空間把握に時折ロビンズ達の気配を感じるが、まだ仕掛けるつもりは無いのか空間把握の外でギリギリ視認出来る距離を保っている。


  そろそろ休憩から二時間程経つので、もう少しで笛が吹かれるはずなのだが、俺達が疲れるのを待っているのかなかなか慎重なようだ。


「挑発は効かなかったのかな」


 レーモンにはかなり効いていた様子だったけどロビンズが抑えているのかもね。

 自分で言うように慎重だねと話ながら他の魔物を捜していく。


 その後も二回オークとの戦闘があったが問題なく倒し、そろそろかと思った頃に遠くから集合の合図の笛の音が聞こえてきた。


「来ないんでしょうか」


 レイナがそう言うが、悪意に慣れている俺には今日必ず来るという直感がある。


「いや、絶対に来る。疲れと、今から帰るという油断の出やすい、この時を狙うはずだ」


 俺がそう言いながら集合場所に向かって歩いていると空間把握にかなり大きな反応が一つと、オークやゴブリンなどの見慣れた反応が現れ、真っ直ぐ俺達のいる方向に向かってきた。

 空間把握は範囲の内側程詳しい詳細がわかり、外に行くほど制度が荒くなるのでまだハッキリとはしないが、それでも一つかなり大きな反応がある。


「何か大物が来る、向こうの方だ」


 俺が大きめの反応がする場所を指差し、それからオークやゴブリンなども集まって来るのを伝える。

 数が多いので集合場所に下がりながら戦おうと二人に提案し、集合場所に向かう。だがその前方、魔物が来る方と反対側にロビンズ達の気配が現れる。


「アイツら前で待ち伏せしてる」


 そう声をかけて一旦その場に留まる。

 丁度反対側から来るなんて都合が良すぎる、何かで魔物を誘導しているのかも。

 二人にそう伝えながらどうするかを考える。


 来た道を少し戻ると三十メートル程の、ある程度開けた場所があったのでそこで魔物を纏めて倒すことに決めた。


「魔物の数が多いのでまずは数を減らそう。リズは弓でゴブリンを、俺はオークに突っ込むからレイナは魔法で援護を頼む。大物は動きが遅いから後回しだ」


 そして開けた場所のすぐ手前で待ち、魔物が開けた場所に出て来た所でリズが弓でゴブリンの数を減らして行く。

 リズには遠目と弓矢のスキルがあるのでほぼ一射で一匹を倒して行く。そして十五匹程だったのが三匹に減った所で距離が縮まったので、リズが剣に持ち変えゴブリンに駆けていく。


 まだ大物とは距離があるのでゴブリンはリズ一人で大丈夫そうだ。

 俺は少し遅れて開けた場所に現れたオークに突っ込む。


『フルフォール』


 相手は七体なので呪文を唱え最初から身体操作を使う。オークは前に四体、後ろに三体の二列を作り襲ってきた。

 俺はそこに一直線に駆けていき、オークが俺を迎え撃とうと棍棒を構えた所で右斜め前方に一足飛びに距離を詰め、前列右端にいるオークの心臓を左手の抜き手で突き刺す。

 そのまま体内の肉を掴むように引き倒しながら手を抜き、倒れ込むオークの背中を左足で踏みつけるように地面に蹴倒し、そのまま足場に利用して、オークの死体で丁度良い高さになった隣のオークの首に右足を振り抜く。


 二体倒したところで一旦間合いを取るように下がる、仲間を倒されたオークは仲間の死体を踏みつけながら襲って来た。


「ブゴォォォ」


『ブリーゼ』


 声を上げて襲ってくるオークにレイナが風魔法で土や木葉を舞い上げ牽制する。俺は体勢を整え、レイナの魔法で混乱するオークの列に突っ込み、手で顔を払っているオークの心臓を右の抜き手で貫く。そして先程の焼き直しのように、貫いた手で体の中を掴んで引き倒し右足で踏みつけ、倒したオークの後ろにいた個体の首の骨を左足で折る。


 レイナが風魔法の後に雷魔法を使っていたのは空間把握で感知しているので今度は下がらず、痺れで動きの止まっている左側にいるオークの首を右の手刀で折り、その手で首を掴まえ地面に叩き付け、そのまま踏み込み後ろにいたオークの心臓を左手の抜き手で貫く。漸く痺れが取れた最後のオークもまだ動きが鈍い、俺は最後のオークを右の抜き手で心臓を貫き止めをさした。


 空間把握でリズもレイナも無事に済んでいるのはわかっていたが、ロビンズ達と大物の反応が近づいていたので清浄の魔法をかけながら二人の所に走っていき声をかける。


「来るぞ!先にロビンズ達だ」


 言い終わると同時に攻撃魔法がレイナを狙っているのを感知したのでレイナの前に出る。そして向かってきた炎魔法を魔力解体で威力を弱め身体操作と熱耐性を頼りに体で防ぐ。

 少し服や髪が焦げたが大した事は無かったので二人に魔力は大丈夫か聞く。


「私は全然使ってないから大丈夫」


「私も軽い風と雷を一回だけなので大丈夫です」


 その返事に頷きを返し、ロビンズ達の来る方向を見据える。



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