スゥニィの指摘
森に入り、少し歩くと空間把握によく見る形の魔力が引っ掛かったので皆に伝える。
「右斜め前に魔物が二匹いる、多分ゴブリンだ」
それを聞いてリズとレイナは戦闘の準備をするが、スゥニィが待ったをかける。
「リズ、レイナ少し待て。取り敢えずトーマ一人で戦って見せてほしい」
ゴブリン二匹なら特に問題は無い。俺達に指導をする前にまずは一人一人の動きを見たいのかと思い頷く。
木の陰を利用しながらゆっくりと歩き、充分な距離まで近づいてから空間把握を切り、一気に飛び出す。
「ギャギャ」
奥にいる一匹が気づくが、手前のもう一匹が振り向く前に速攻で踏み込み手刀で首の骨を折る、そのまま二匹目に突っ込み棍棒の振り下ろしを避け、蹴りで首の骨を折る。
二匹が死んだのを確認すると空間把握を使い、近くに魔物がいないのを確認してから二匹の魔石を剥ぎ取る。
ナイフで魔石を剥ぎ取っていると、後ろで様子を見ていた三人が歩いてきた。
剥ぎ取りが終わり、木や草に飛び火しない場所を選びゴブリンの死体に火を着ける。
ゴブリンを燃やしている時に、フードを取り顔を出しながらスゥニィが話かけてきた。
「ふぅ、 これで楽になったな。町中では顔を出すと周りがうるさいのが面倒だな。それよりもトーマ、お前の戦い方はいつもこんな感じなのか?」
フードを取りながら息を吐くスゥニィに、森人は珍しいみたいだし日本で言うと芸能人が街を歩く様なものかなと思いながら、問われた事に答える。
「そうですね、俺は剣を使うと壊してしまうし弓もリズ程には上手じゃないので」
そう答えるとスゥニィは首を振る。
「そうじゃない、どうして空間把握を使わずに戦うのだと聞いているのだ」
そう聞かれ、さっき説明したのにと思いながら答える。
「空間把握を使うとそれに意識が取られてしまうので思うように戦えなくなるんです」
するとスゥニィがため息を吐きながら説明してくれる。
「ふぅ、いいか?空間把握を使いながら思うように戦えないのは経験が足りないからだ。慣れれば魔力探知を使いながらでも戦闘は出来る、お前の空間把握は魔力感知よりも少し情報が多いようだが、それなら尚更戦闘でも使えるようにするべきだ」
そう言われて軽く衝撃を受ける。確かに今まで空間把握を戦闘で使えるように練習した事は無かった。空間把握は戦闘前の準備というか、相手に気付かれる前に先手を取る事や、不意打ちに対するスキルだと思っていたのだ。
そう考えていると更にスゥニィの指導が続く。
「いいかトーマ?魔力探知を戦闘中に使いこなせば敵の位置や味方の位置、そして探知の範囲内の魔法発動に合わせて戦う事が出来る。そしてお前の空間把握はもっと詳しい情報を知る事が出来るのだろう?」
スゥニィはそこで俺を見て、横にいるリズとレイナにも目を向ける。
「トーマが主に徒手、リズが剣と弓、レイナが魔法ならパーティのバランスも良い。そこにお前が魔眼と空間把握で的確な指示を出せるようになればこのパーティーは強くなるぞ」
話を聞いていたリズとレイナ、そして俺は魔眼と言われ、何故という顔をする。それを見てスゥニィがニヤッと笑って説明してくる。
「右目に魔力が多く、色も赤だからな。魔力の色は赤だ、魔石も純度が高いほど赤くなるだろう?それに空間把握を使う時に右目に魔力が集まるからな。あぁ、それとその髪も魔力が混じって少し赤くなっているな、空間把握もそこら辺に関係あるのかもな」
それでも見てわかるのは私くらいだと笑うスゥニィ。
スゥニィには魔力に関する事は隠し事など出来そうにもないなと思い、真眼の事も説明し、怪しい人以外には使ってない事を話す。
するとスゥニィは先程のニヤッとした顔ではなく、普通の、優しい笑顔を見せた。スゥニィと会ってからこれまで、何処か硬い雰囲気だったが普通に笑うと確かに見とれてしまう美しさがあった。
「トーマは優しいんだな。異邦人ってのは皆そうなのか?それともトーマの世界がそうなのかな」
そう聞かれた俺は曖昧に首を振る。それを見てスゥニィは優しい顔から真面目な顔になる。
「人の情報を勝手に見る事に対して悪い気がするというのは貴重な考えだとは思うが、ハッキリ言ってその考えはこの世界では甘さになる。道行く人に使えとは言わんがせめて自分に近づく者は鑑定しないといつか危険な目に会うぞ」
そう言われ頷く。
それを見て満足したのかスゥニィが話を締める。
「ゴブリンも片付いたし次に行くぞ。トーマは空間把握を切らさないように、トーマが慣れるまでリズは剣で、レイナは魔法でフォローだ」
指示をされた俺達は、先を歩き出したスゥニィの後をついていく。
そしてスゥニィに言われたのでコッソリ鑑定してみる。鑑定された事にスゥニィが気づいたのか気づいていないのかはわからなかったが凄い数値が出た。
スゥニィ:フゥド:318歳
森人:祖:ギルド長
魔力強度:287
スキル:[魔力操作:極] [魔力感知:極] [魔力回復] [魔力吸収] [弓矢:極] [精霊魔法:極] [身体強化] [森林調和:極]
300歳越えの年齢に俺の十倍の魔力強度、それにスキルの多さ、更にスキルを半分以上極めている。というか極って初めて見た、千年以上生きる種族ってのは流石だ。
スキル欄にある精霊魔法や森林調和も気になる。あとは、多分魔力感知で俺の空間把握も認識したのだろうな、俺が鑑定した事にも気づいてそうだ。
これは護衛も要らないんじゃないか?
そう考え、数値の高さに驚きながら慌てて三人を追いかけた。
「トーマさん危ない!」
俺が正面のオークの動きに気を取られ、横にいたオークの攻撃に反応出来ないでいるとレイナが雷魔法を使ってオークの動きを止める。
「レイナ偉い!任せて」
リズが言いながらオークの首を切り飛ばす、俺はその間に何とか目の前のオークを倒した。
「レイナは判断がいいな。その雷魔法は威力はあまり無いが発動が早く、敵の動きを止める事が出来る。援護には最適だな」
スゥニィがレイナの雷魔法での援護を褒める。
「トーマさんの世界では女性が襲われた時に、小さな雷魔法を出す板で相手を怯ませ身を守るそうです」
その話からイメージしましたと嬉しそうに笑うレイナ。スゥニィはその返事に満足そうに頷き、リズに目を向ける。
「リズは少し視野が狭いが反応が良いな。それと身体強化の扱いも上手い」
身体強化に自信のあったリズは、そこを憧れの森人の祖に褒められ、だらしない顔をしている。
「えへへ、ありがとうございます。トーマの真眼で指摘されながら、身体強化は大まで鍛えましたから」
そしてスゥニィは俺を見る。
「なるほど、トーマの知識とスキルで二人を鍛えたと。それでトーマ本人はこの様か」
スゥニィに指摘され、うっと詰まる。
「トーマは戦闘を覚えて三ヶ月か。その歳まで戦闘をして来なかったから思考がまだ戦闘向きになってないんだな。だがオークの討伐は来週だ、それまでに戦闘中の空間把握を扱えないと話にならんぞ」
とにかく慣れろ、考えろと言うスゥニィの言葉に頷く。
魔石や肉の剥ぎ取りはリズとレイナが終えていたので、俺は空間把握に意識を向けて更に敵を探していく。
そうしてスゥニィの指導を受けながら昼まで魔物を倒していくと、四人の背負い袋が一杯になったので昼食を兼ねて町に戻る。
町につき、門番のタインにカードを見せる。
本来、この町のギルド長であるスゥニィは顔パスで通れるのだが、わざわざタインの前に並びカードを出すスゥニィに、カードを提示されたタインは苦笑いをしていた。
だが提示したカードの色は半透明で銀色に光っている、初めて見る白銀級のカードに俺も、リズとレイナも興味津々である。
「スゥニィさん白銀級だったんですね。冒険者になって二年、白銀なんて噂でも聞いた事ないですよ」
人の目を気にしながらリズがそう言うと、スゥニィは自慢気な顔で答える。
「このカードを提示すると騒がれ、更に森人という事でも騒がれて大変だったんだ。だから本来はあまり好きなカードでは無いがお前らに見せたくてな。白銀級の冒険者は現役では五人しかいないが目標にしてほしいな」
そう言われてリズはハイと頷き、レイナは善処しますと控えめに、俺はわかりましたと冷静に、三者三様に答えた。
町に入った俺達は、スゥニィがギルドに行くと目立つからと、まずは宿まで行きスゥニィと別れてからギルドに向かう。
ギルドに着くと素材倉庫に行き、四人分の背負い袋から素材と魔石を出して査定してもらう。職員のバリィに査定をお願いしてカウンターに戻り、少し待つ。査定の終わったバリィがカウンターに来て査定額をセラに伝え、倉庫に戻った所でセラと話をする。
「何時もより査定額が高いですがギルド長との訓練はどうでしたか?」
セラが周りに聞こえないように声を落として聞いてくる。
「何時もより戦闘は増えましたが教えてくれる人がいるとやっぱり違いますね。色々と気づかされる事ばかりです」
俺が笑いながら言うと、セラもそれなら安心しましたと笑顔で答える。
「ギルド長は知識や実力は凄いのですが、気難しい人なので気にしてたんです。三人とも気に入られたみたいですね」
だと良いですけど、俺がそう答えていると横から声をかけられた。
「おいおい、兎野郎は暇なんだな。こんな早い時間から受付穣とお喋りか」
声の方を見るとレーモンとルーズ、そしてロビンズが立っていた。
俺はレーモンの声を聞いて感情が高ぶるが、すぐに深呼吸をして気持ちを落ち着ける。
「今は査定を終えて昼休みに来ただけです。そっちこそこんな早い時間から兎野郎に絡むなんて、金下級冒険者って結構暇なんですね」
冷静になりながらも挑発するように、そして声を掛けてきたレーモンを無視して後ろにいるロビンズに声をかける。
「てめぇっ!無視してんじゃねぇ」
無視されたレーモンが俺に掴みかかろうとするが、ロビンズがそれを止める。
「レーモンやめなさい。それよりお嬢さん、レイナさんでしたか、どうです?私達のパーティーに入りませんか?」
レイナはそう言われて迷わず答える。
「嫌です」
レイナの態度にレーモンがまた何か言いそうになるが、カウンターにいたセラが先に、レーモンを遮るように声をだす。
「レイナは昨日正式に冒険者になり、この三人はパーティーを組みました。これ以上の勧誘は強引な勧誘とみなしますよ。それにこのパーティーはギルド長が正式に認めたので引き抜きをしたいのならギルド長に話を通してからにして下さい。それ以外の勧誘は、例え本人が認めても無効になります」
ギルド長が認めるとは、ギルド長が正式に、このパーティーがギルドに必要だと宣言したようなものなので、そのパーティーを抜けるなり解散するような事は、全てギルド長に話を通さなければならないのだ。
そのセラの言葉を聞き、レーモンとルーズはロビンズを見る。
ロビンズは苦い顔をしながら二人に声をかけギルドを出ていく、レーモンは悔しそうに俺を睨みながら出ていった。




